閣下が生きるハイスクールな世界   作:佐竹 リン

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今後の展開とか考えて、これまでのお話の中でいくつか訂正を加えた箇所がございます(2018年4月16日訂正となってるものがそれです)
大した変化ってほどでもありませんが、もし気になるという方がおられましたら、よろしければどうぞ。

不気味感出したくて頑張ってみました今回のお話。お楽しみいただければ幸いです


五十三話目

ゴオマを包んだ闇が晴れる。

闇の中から現れたゴオマは、別段見た目が変わったわけではない。特徴的な牙も、翼も、髪も同じだ。側から見れば、今ゴオマを包んだ闇は何だったのかと問い詰めたくなるような、そんな変化のないものであった。

 

だが、そんなゴオマと面と向かうガドルは、ゴオマに発生したわずかな違いを本能的に察知していた。

 

「なんだ…それは…」

 

震える声でゴオマに問う。最初にゴオマが学園に侵入した時にも気配を感じたのだが、今度感じたものは先のものと比べて違うものだった。

前世にて感じた、グロンギの王の力。実際に近づいてよく観察してみると、完全にその力と等しいのかと尋ねられれば、それは違うと言える。力の強大さではグロンギの王の力が上回っているし、何より先のゴオマの力と大差ない。では、何が異なっているのか。

 

それは、邪悪な気だ。ただのグロンギが放つものとは違い、真っ黒で、先が見えない恐怖。通常ならば誰にでも感じうる僅かな心が、微塵とも感じられない。ただ言えることは、目の前の敵は、おぞましく危険な存在だということだった。

 

ゴオマはゆらゆらと不気味に揺れながら、ガドルに正面を合わせる。ゴオマが何の前触れも見せず攻撃を仕掛けて来るのは、最初の攻撃の間で読み取ることができた。ゆえに、ガドルは油断も隙もなくゴオマと相対する。

思わぬタイミングで飛び出して来ることがある。それを念頭に置き、ゴオマが仕掛けてきたらどう対処するのが良いか、ガドルはある程度の対策を練ることができた。

 

「…イく、ゾ」

 

ゴオマが仕掛ける。足の跳躍を利用して素早くガドルの元へ距離を詰め、その鋭い爪を突き立てた。

その腕を弾き、ゴオマの身体にめがけてカウンターを繰り出す。その一撃は見事に、ゴオマの胸部に炸裂した。

 

それなりに力を込め、多少ダメージを期待できそうな一撃をくわえたのだが…

 

「ハッハァッ!!」

 

ゴオマは物ともせず、蹴りを繰り出した。

驚きながらもその蹴りを受け止め、更なる追撃を与えていくガドル。拳を大きく振りかぶり、ゴオマの顔面を捉えた。

 

ところがその一撃は、ゴオマの顔で止まった。ゴオマは自身の顔で、ガドルの拳を止めてみせたのだった。

 

「なんだとっ!?」

 

流石に動揺が隠せなかったガドルの肩をつかみ、そのまま遥か上空まで飛び上がった。

 

上空で、ガドルを地面へ向けて投げつける。先ほど自身がやられた攻撃の仕返しのつもりなのだろうが、ガドルにはその類の攻撃を得意とするグロンギと戦った経験もあり、難なく空中で身体を立て直して着地する。

 

地上から、未だ空中で羽を広げるゴオマを見上げる。奴が闇に包まれてから、実に妙だ。その前までは全然攻撃も通じたし、こちらに分があるようにも感じ取れていた。だがどういうことだろうか。今では攻撃が通じてるようには見えない。容赦なく叩き込む攻撃は、今のゴオマに通用していないのか。

 

(…いや、多分そうじゃねぇ)

 

もし、ゴオマの見た目に変化が生じていれば、ガドル自身が剛力体に変身して防御力を上げるように、ゴオマの防御力が上がったと考えることができる。だが実際には、ゴオマは見た目もさることながら、能力に変化が現れたようには感じられない。いわば実力は先のゴオマと同等であるはずなのだ。

では、一体何が変わったのだろうか。

 

(…試してみるか)

 

ガドルは右手をスッとあげ、その先を空中のゴオマに向ける。あいも変わらず不気味な笑みを浮かべるゴオマに向けて、強く指を弾いた。

 

ドゴォッ! という爆発音とともに、ゴオマが爆炎に包まれる。通常ならそれで倒すまではいかなくとも、確実なダメージを期待できるものであった。

 

「…? ナン、だ? 今のは…」

 

爆煙の中から、ゴオマの声がする。

身体には火傷の跡がいくらか見受けられた。だというのに、ゴオマはただ首を傾げるだけで、ダメージを受けたようなそぶりが全くない。

 

今ので、確信した。

 

「…貴様、痛覚をなくしたな?」

 

ガドルの問いに、ゴオマからの返答はない。

 

しかし、もしそうならば、納得できる。これまで通用していた攻撃が通用しなくなったのは、攻撃が通用しなくなったのではなく、自分の身体に攻撃を通用させなくしたのだった。

どういう原理で痛覚がなくなるのか。はっきりとした答えは見えないが、何となくの予測はできる。

 

少なくとも、先ほどの闇が関係してるのは間違いない。闇に包まれてからというもの、ゴオマの様子は目に見えて変だ。

これまでと比べて一層気が狂ったようになったゴオマは、ドーピングどころか危ない薬でも服薬したのかと思えてくる。本人の見た目の不気味さも相まって、悍ましいことこの上ない。

 

「キキ…キハハ…」

 

地上に降り立ち、狂ったような笑みをあげながら、一歩一歩ガドルに接近する。反射的に離れようとする足を抑え、ガドルは迎え撃とうと構えを取る。

 

「ギャハハハハハハハハッッ!!!!!」

 

再び飛びかかるゴオマ。ガドルはゴオマの攻撃を一つ一ついなし、反撃のチャンスがあるたびに重い一撃をぶつけるが、痛みがなければそんなこと御構い無しだ。

いくら反撃しても途切れることのないゴオマの追撃。さらにタチが悪いのが、ゴオマの一撃はその全てが鋭い爪やら牙やらを突き立ててこちらを殺しにかかっていることだ。

一発でも食らえば致命傷。故にガドルは一瞬も気を抜けず、流れは完全にゴオマのものとなりつつあった。

 

(…ホントは疲れるからやりたくなかったんだが、やるしかねぇ!)

 

ガドルがある事を心に決めた途端、身体が宙に浮かぶ感覚を覚えた。

ゴオマの膝蹴りが思った以上に重く、僅かながら身体が宙に浮かぶ。

 

「ヒャアァッハァァァァァッッ!!」

 

宙に浮かんだガドルの身体めがけ、ゴオマが渾身の蹴りを叩き込む。ギリギリのところでその一撃を受け止めるも、その体は森の外まで弾き飛ばされた。

弾き飛ばされはしたが、防御が間に合ったおかげでダメージはない。ムクリと体を起こし、一呼吸した。

 

「…体力の衰えすら見せない、か。流石に厄介だな」

 

ガドルは、今のゴオマが持つもうひとつの強みに感づいていた。ゴオマは、一撃一撃の全てが鋭く、こちらの命を奪いにかかって来ている。故に攻撃が大振りで、本来それだけ大振りならば著しくスタミナを消費し、疲労が溜まるものだ。このような攻撃を繰り返していれば、勝手にあちらがスタミナ切れで隙を見せてくれる。そうなればあとはこちらの番となり、一方的な展開を期待できるようになる。

ゴオマの攻撃をいなすことは容易であるため、俄然こちらが有利であると考えるのが普通だ。ところが、そうとも言い切れない状況だった。

 

なぜなら、ゴオマは一切の疲労を見せないからだ。

膨大な体力を備えているわけではない。攻撃が効かなくなったのと同様に、ゴオマは疲れを感じない身体にしているようだ。

 

疲労を感じなくなったゴオマは、大きくスタミナを消費する攻撃を連続で放っても、スタミナ切れによる動きが鈍ることがなくなってしまったのだ。

当然ながら蓄積されたダメージとともに、身体には確実な疲労も溜まっているため、危険が伴う諸刃の剣と言えるだろう。

 

「最早ゾンビだな。一体何が貴様をそのような姿に変質させたのだ?」

 

吹き飛ばされた森から歩いてくるゴオマを睨み、ガドルは立ち上がる。

 

「出た! やっぱお前か!」

 

そこに、聞き覚えのある声が届いた。驚きに目を見開き、声の届いた方に目を向ける。

そこには、兵藤一誠を始めとしたオカルト研究部の面々が揃っていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

学園を囲む結界が破壊された。その事実に驚愕し、その場にいた者は唖然とした様子で学園の外を眺める。

テロリストの内の何者かの仕業なのかと考えられたが、そのテロリストのメンバーであるヴァーリまでもが結界から視線を離さない様子からして、その可能性はやや薄くなる。

 

戦場に流れる一時の沈黙。そこに人影がひとつ、月をバックにして舞い降りた。

 

「ヴァーリ、迎えに来たぜぃ」

 

三国志に現れる武将たちが身に付けるような鎧を身に纏った、爽やかな顔つきの青年が気軽そうにヴァーリに話しかける。

 

「美猴か。何をしに来た?」

 

「何をしに来た、じゃねぇだろぅ? 北の田舎神族と一戦交えるから、任務に失敗したならさっさと帰って来いっていう本部からの指示だぜぃ。帰りの陣も用意してある。今後の顛末も気になるところだが、俺たちはさっさとお暇しようぜぃ」

 

「…そうか、もう時間か」

 

いくつかの言葉を交わし、戦場から踵を返したヴァーリ。そんな彼の背中を、赤い鎧を身につけた兵藤が追う。

 

「待ちやがれ!」

 

しかし、その鎧はあと少しでヴァーリを捕らえられるというところで解除されてしまう。指輪も崩れ、指輪の力によって成り立っていた禁手状態が解除されてしまったのだ。

 

「兵藤 一誠。君とまた合間見える日を、楽しみにしている」

 

その言葉を最後に、ヴァーリと美猴の二名は姿を消した。本部というところに戻って行ったのだろう。

すんでのところで取り逃がしたことに、苦い表情を浮かべる兵藤。そんな彼をなだめるように、アザゼルが呟いた。

 

「ヴァーリを取り逃がしたのは残念だが、ひとまずはあっちの問題に取り掛からねぇとな。ヴァーリが何の関心も示さずに帰っていったってことは、あれはテロリストどもとは無関係だとみて間違いねぇだろう。ってことは、前から聞いていたグロンギとかいう連中の可能性があるんじゃねぇのか?」

 

その言葉を聞き、押し黙る。その可能性は大いにある。寧ろそうでなければ納得がつかない。魔王クラスの面々が貼った結界が、そこらの敵に破壊できるとは思えない。破壊したと言われて納得できるのは、未だ力量が未知数なグロンギを除くと、そう多くないからだ。

 

「部長!」

 

「朱乃! 小猫とアーシアも! 動けるようになったのね!」

 

「はい。魔王様から大体のことはお伺いさせて頂きました。…先ほど結界を破壊し、侵入して来たのは…」

 

「…ええ。グロンギである可能性が高いわ。あの時流れ込んで来た気配から考えても間違いないでしょうね」

 

校庭に姿を現した姫島と言葉を交わす。ギャスパーの救出に成功したことで時間停止の能力も収まり、停止させられていた彼女らもこうして姿を見せることが可能となっていた。

となれば、彼もまた同様に姿を見せるだろう。そう考えていた兵藤は、彼がこの場にいないことに疑問を感じ、近くに駆け寄って来てくれたアーシアに尋ねる。

 

「なあ、アーシア。シュウはどこにいるんだ? あいつも一緒に動けなくなっていなかったか?」

 

「え? いえ、私たちが動けるようになった時、シュウさんは既に居られませんでした。てっきり皆さんと一緒にこちらにいらっしゃってるかと思ってたんですが…」

 

アーシアからの答えを聞き、更に疑問符が浮かぶ。あの時彼は確かに、ギャスパーの神器の影響を受けていた。恐らくあの後、彼女らと同じく停止させられていたはずだ。別室に移動していたとはいえ、神器の影響から回復したアーシアが彼の姿を見なかったということは考えにくい。

 

(…先に動けるようになったとか? いや、それは流石に…)

 

兵藤の頭に、一つの予測が浮かぶ。可能性は非常に薄いものだ。だが、もしそうだとしたら後に動き出したアーシアたちが見ていないというのも納得できる。彼の性格上、自由になったならば真っ先に戦場へ飛び出しそうなものだ。

そしてその予測は、次のアザゼルの言葉によって確信に近いものとなった。

 

「いない奴の話をしたって仕方ねぇ。んなことより、さっきからこの結界を破壊した張本人が姿を見せねぇのは何故だ? この内部には興味がねぇのか、それとも何かしらの妨害を受けているのか…」

 

もし彼が先に動けるようになったならば、グロンギの気配を感じて動き出さないはずがない。恐らく真っ先にその場所へ向かうだろう。

つまり、今現れたグロンギの足止めをしているのは…?

 

「まさか…部長!」

 

「ええ、行ってみましょう!」

 

リアスもまた同様の答えに辿り着いたのか、兵藤の発言に頷き、現場に飛び出した。そんな二人に他の部員たちもついていく。

 

その場に取り残されたアザゼルは、そんな彼らの背中を深刻な表情で見送る。

 

 

 

「さあ…真実はどうなんだろうかね…?」

 

 

 

アザゼルの独り言は、誰の耳にも届かない…。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「お前、なんでまたこんなとこにいんだよ!?」

 

驚いた様相で、兵藤がガドルに詰め寄る。

マズイことになった。ゴオマとの戦いに集中して気がつかないうちに、皆の前に転がり出てしまっていたようだ。

 

「すまんが、それを話してやる余裕はない。それより貴様らは離れていろ」

 

「離れていろって…っ!? まさかあいつが!」

 

「…あの結界を破壊したのは奴だ。奴はこれまでのグロンギどもとは格が違う。

すぐに学園外に連れ出す。奴と私が外に出た瞬間に、再び結界を貼り直してくれ」

 

簡潔にまとめ、再びゴオマに視線を合わせる。部員たちは今の言葉で、ガドルは結界を破壊して学園に侵入したゴオマを止めに来たのかと考え、納得する。

 

「少しだけ聞かせて。ここに、男の子が来なかったかしら? 少し目つきが悪い子で、私たちの仲間なんだけど」

 

リアスがやや警戒した様子を込めて尋ねる。ここには居ると思われていた彼の姿がなく、代わりにいたのはこの怪人だ。考えたくない予測が浮かび、慎重な面持ちになる。

だが、返ってきた答えは案外親切なものだった。

 

「…知らんな。先ほど妙な力が働いたのを感じたが、それは時間停止の能力なのだろう? 奴は動けていたのか?」

 

「いや、最初はちょっとだけ動けていたんだけど、ずっと気分悪そうだった。多分その後、動けなくなったんじゃないかと思う」

 

「なら、まだ停止しているのではないか? 効力が現れるのが遅かったならば、切れるのも遅くなったとしても不思議ではない」

 

あ、という声が漏れる。むしろそっちの方が可能性は高い。

少し冷静さが欠けていたようだ。思わず咳払いをする。

 

「そ、それもそうね。良かった。てっきり貴方に倒されてしまったのかと思った」

 

「ふん。グロンギに立ち向かおうとする男が、そんな軟弱なはずがあるまい」

 

そんな彼らの元に、ゴオマが歩み寄る。ゴオマは相変わらずガドルのみを睨んでいるが、その視線から外れているにもかかわらず、兵藤は形容しがたい恐怖を覚えた。

 

「…なんなんだよ、あいつ。これまでも色んなグロンギってのを見てきたけど、あいつはなんか違うだろ…」

 

「そうだ。やつは実力面ではともかく、厄介さでは他を軽く凌駕している。とにかく早くしろ。ここにいては危険だ」

 

「…お前、あいつに勝てるのか? あれ、コカビエルと同格くらいあるんじゃ…」

 

「その程度ならいくらか楽だったかもな。正直、私でも苦戦するかも知れん」

 

短いやり取りの中で、兵藤にわずかな不安が訪れる。常に強気で、大抵の事態に難なく対応していた男が、今初めて弱音を吐くのを聞いた。

その弱音が気持ちの問題から来ているわけではなく、事実から来ていることを何となく理解でき、目の前の脅威がこの男にそこまで言わしめるものなのかと感じたからである。

 

「…なら、俺もやる! お前には借りを作ってばかりなんだ、手伝わせてくれ!」

 

「馬鹿を言うな! 奴の危険度合いは、貴様らが想定するものより遥かに上だ。命を落とすことも考えられるんだぞ!」

 

「一人でやるよりかはマシだ! 命をかけた戦いなら、もうすでに経験してる!!」

 

兵藤の提案に驚き、拒否の声をあげるもその後に返ってきた言葉に再び驚く。感情的で、声を張りあげることこそ少なくなかったものの、その声を自分に向けられたことはない。珍しく、兵藤が己の意思を曲げることなく、自分に叩きつけたのだった。

 

「…あ、いや、まあ最後にはあんたに助けられたんだけどな…。けど大丈夫だ。あんたがメインで、それを俺たちがサポートする。

俺たちだって強くならなきゃいけない。今回の戦いで分かったんだ。俺はまだ弱い。もっと強くならなきゃいけないんだって。…けど俺は今のところ、命がけの大切な戦いは、あんたやもう一人の仲間に任せっきりになってる気がするんだ。それじゃ、成長できない。だから今後はせめて、あんたの後ろで戦いたいんだ」

 

兵藤の言葉に閉口するガドル。

彼の言葉が理解できないのではない。十二分に理解しているし、できることならば彼が強くなろうとすることは応援したくもある。また事実、一人で戦うにはゴオマはやりにくい相手であり、部員たちの力を借りれば少しでも流れをこちらのものにするのも可能だろう。だが、彼らを戦場に出すこと、それ自体に躊躇いがあった。

 

「…そうね。私もそれは感じていたの。もっと力をつけなきゃいけない。いつまでもあの子に無理はさせられないわ。…ねぇ、グロンギさん。私たちにもこの戦い、手伝わせてもらえないかしら?」

 

リアスが兵藤に同意の意を示す。見れば、彼女だけでなく、他のメンバーも同じように感じ取ったようだ。

 

可能ならば、彼らを危険に晒したくない。本音を言えばコカビエル戦も、自分一人で解決してしまいたくなったほどに。この戦いに至っては、緊急時に皆を守れる自信がなく、ゴオマの前に皆の姿を見せることすら不安だったのだ…。

 

「…分かった。だが、危険を感じたらすぐに離脱しろ。呼べばいつでもフォローに回る。奴の気を引きつけるだけでも十分だ。それでいいな?」

 

「ああ!」

 

腕に神器を発動させて、兵藤が構える。彼の後ろでも、部員たちがそれぞれの獲物を手にしていた。

ガドルは、ここにいる全員を守り、戦わなければならない。そう思うと、無意識のうちに力が入る。

 

 

 

身体にパチパチと電気が迸る。瞳が金色に輝き、その姿が少しずつ変化を遂げた。

 

 

 

ゴ・ガドル・バ〝電撃体〟。今のガドルの、最強の力だ。

 

 

 

「奴は痛みを捨てている。攻撃を当てたからといって気を抜かないことだ。その瞬間奴はこちらを仕留めにくるぞ」

 

「おおっ! …って、痛みを捨ててるってどういうことだ?」

 

「言葉の通りだ。…行くぞ」

 

その一言とともに、ゴオマとオカルト研究部の戦いが始まった。

ガドルが主となってゴオマに相対し、付け入れそうな場面があればそこを木場やゼノヴィアがつき、更に明らかな隙があれば小猫による強力な一撃がお見舞いされる。

戦場からやや離れた位置ではアーシアが戦いを見守り、それを兵藤が側について彼女を守る。更にそんな彼らの傍には、魔力による遠距離攻撃を得手とするリアスや姫島が彼らを援助する。

今こそガドルがその場にいるが、これは研究部が最も得意とする布陣だった。

 

ガドルが飛び出す。爆発的な跳躍で一瞬にしてゴオマの元にたどり着き、その腹部に重い一撃をかます。

腹部から身体全体に衝撃が走るも、痛みを感じないゴオマは構わず、己の腹部を殴りつけたばかりのガドルに向けて鋭い爪を突き立てる。

 

その腕を掴む。そのままゴオマの身体を背負い込み、地面に叩きつけた。

顔面を押さえつけ、思い切り拳を叩き込む。すんでのところで躱され、ゴオマの拳が大地を叩く。激しい爆発音とともに、校庭にクレーターができた。

 

その二撃でガドルの力量の変化に本能的に感づいたのか、ゴオマが距離を開けて様子見に移る。

そこに、騎士特有のスピードで木場が斬りかかる。騎士の瞬間速度はガドル俊敏体のそれに引けをとっておらず、またゴオマのスピードは決して速いとは言えない。木場の剣先がゴオマを捉え、わずかな切り傷を残す。

 

彼の攻撃を煩わしく思ったのか、木場を追い払おうとゴオマが翼をバタつかせる。風を纏いながら接近するゴオマに、木場は慌てることなく次の策に移る。

“魔剣創造”の能力を用いてゴオマの足元に魔剣を生成し、針山のごとく貫く。突然身体を貫いた無数の剣に驚きつつ、それでも木場から視線を外さない。

 

「痛みを捨ててるとはそういうことか。これでは動きが止まらない!」

 

「ならば、これならどうだ!」

 

そこに、デュランダルを構えたゼノヴィアが飛びかかる。絶対破壊の一撃を秘めた聖剣を、ゴオマに向けて力一杯に振り下ろす。

危機を察したのか、その一撃をすんでのところで躱す。デュランダルはゴオマに当たることなく、校庭を叩き割った。

 

その破壊力は流石にゴオマも看過できず、ゼノヴィアに対し僅かな警戒を向ける。

そこを見逃すガドルではない。すかさずゴオマのもとにたどり着き、頭部めがけて回し蹴りを放つ。

 

それを受け止めたゴオマだが、受け止めた腕から何かがヒビ入るような音がする。すかさず身を屈めて回し蹴りの軌道から外れ、ガラ空きとなったガドルの身体に爪を伸ばす。

 

難なくかわされる。間も無く新たな追撃を加えるも、ガドルはそれを淡々といなしていき、ゴオマに僅かながらも苛立ちを感じさせた。

 

そんな彼の背中に、ズドンと強烈な振動が伝わる。前方によろめき、ガラ空きとなったゴオマの顔面をガドルの膝が捉えた。激しい衝撃が頭部を襲い、ヨロヨロと後ずさる。背後には誰がいたのかと確かめたゴオマの視界に、小猫の姿が映った。あの時の振動は、彼女が持ち前のパワーで殴りつけた際のものらしい。

 

目の前にいるガドルから目を逸らすまいと、前方に向き直るゴオマ。しかし当のガドルはと言うと、ゴオマの間合いから外れ、一定の距離を離していた。

ガドルの性格上、この場面でわざわざ距離を置くことはない。それを何となく理解していたために、彼の行動に対して疑問符を浮かべていたゴオマを、強烈な爆撃が覆った。

 

空から援護するリアスと姫島だ。魔力を溜め、全力の一撃を発射できるように準備しつつ、それを放つタイミングを待っていた彼女らにとって、今の間は絶好の好機と言えただろう。

ゴオマの身体を雷と黒い魔力が襲う。それらを放つ彼女らは、微かな違和感を抱いていた。

 

「あのグロンギ…まるで私たちの砲撃準備が整うタイミングが分かっていたみたいね…」

 

「ええ。私と部長、両方にとって完璧な合わせ方でしたわ。これも彼のなせる技なのかしら…」

 

「…気になるけど、それは後にしましょう。今はあいつに集中するわよ!」

 

翼を広げ、空の二名にむけて飛び上がろうとするゴオマを、ガドルがその進路の先に立つことで妨害する。焦点を空に合わせていたゴオマを殴りつけ、吹き飛ばす。

 

起き上がり、ムキになったゴオマが連続して追撃を仕掛けていく。先ほどまでゴオマの止まない猛攻を躱し続けることに苦戦していたガドルだが、電撃体になり反応速度もあがったことで、難なくその全てを防ぐ。むしろ若干の余裕があるのか、大ぶりの攻撃によって生じる隙という隙に的確なカウンターを当てていく。

 

幾度となくその状況を繰り返していくうちに、ラチがあかないと感じたのかゴオマが一瞬距離を開け、ガドルの心臓めがけて腕を突き出した。

 

それを捉え、引っ張る。前傾姿勢となり、突き出されたゴオマの腕にめがけ、肘を振り下ろした。

 

 

 

嫌な音が響く。ゴオマの腕の骨に異常が現れた音だった。

 

 

 

ゴオマがガドルを振り払い、距離を取る。ゴオマが完全に離れたタイミングで、自然と部員たちも集まる。

 

「…案外容赦ないんだな、お前」

 

「これまではここまでする必要がなかったからな。油断ができない相手に情けをかける余裕はない。奴はその分類に入る。見ろ、現に今もああして笑っているだろう?」

 

「本当に不気味ね。グロンギって皆ああなのかしら?」

 

「…ノーコメントだ」

 

腕の骨が折れたにも関わらず、不敵に笑うゴオマは気が狂っているとしか言いようがない。

 

しかし、いくら痛みを感じず、疲れが訪れないとはいえ、折れた腕を動かすことはままならないようだ。力なくダラリと下がった腕は、今後しばらくの脅威にはなり得ないだろう。

 

 

 

…そう、思っていた。

 

 

 

《ゴキゴキッ メキメキッ》

 

 

 

奇妙な音が響き、ゴオマの腕が有り得ない蠢きを見せる。

 

 

 

「うげっ!? 何してんだあれ!!」

 

兵藤が声を上げるが、兵藤だけでなく、他の部員たちも流石にそれぞれの反応を示していた。

その中でガドルは、冷静にゴオマの行動を観察する。

 

(再生するつもりか? …いや、にしては何か妙だな)

 

グロンギには、確かに再生能力が備わっている。通常のグロンギは受けた銃弾を弾き返し、かつ受けて傷ついた肉体を治す程度のもの。つい最近戦ったガベリなどはその再生能力が優れていたと言っており、その言葉の通りこちらの攻撃がすぐに再生されて、なかなか厄介だった。

だが、ゴオマはその能力は通常のグロンギのそれと同様で、折れた腕を瞬時に治すだけの効果はないはずだ。

 

(…まさか、あの野郎)

 

ゴオマの腕の蠢きが止まる。するとどうだろうか。折れたはずのゴオマの腕が、ゴオマの意思に沿って再び動き始めたのだった。

 

「何故…動くの?」

 

「恐らくだが、折れた骨を無理やりくっつけたのか、問答無用で動かしているのかのどちらかだろうな」

 

「無茶苦茶とかいうレベルを超えているな…」

 

痛みを感じないがゆえの力任せな解決策だ。

当然後遺症的なものが残るだろうが、それを判断するだけの知能がなくなっているのかもしれない。

 

だが、この場においてこの予想外の展開は、ガドルを困惑させるのに十分な効果を発揮した。痛みや疲れで止まることがないならば、強引に四肢の動きを封じてやろうという彼の作戦が、まるで通用しないことが判明したのだから。

 

(こうなったら無理にでも動けなくなるくらいダメージを蓄積させてやるしかねぇか…。気が遠くなる戦法かもしれねぇけど)

 

次の方針を決め、未だ腕の動きを確認しているゴオマを睨む。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、同時にゴオマもまた、今の間に次の策をある程度練っていたのだった。

 

 

ゴオマは、ガドルとの戦いの最中で気が狂ったようになったとは言え、その思考そのものも完全に狂ったわけではない。そうなったように見せかけて戦いつつ、持ち前のズル賢さで、どうやったら確実にガドルを殺せるか。そればかりを考えていた。

 

 

 

 

 

 

…普通に戦っていては、あの金色のガドルは倒すのに一苦労だ。むしろこのままだとこちらがやられることも考えられる。

更にあの途中参加の連中のおかげで、思うように戦うことができない。ガドルがリントと手を組んでいるのは何故か気になるところだが、そんなことはどうでも良い。奴らはガドルを殺す上で、邪魔でしかない。

 

 

ひとまず奴らを排除しようか。いや、わざわざそうしなくとも、ガドルは先程から奴らを守るように動いている。奴らを排除しようとすれば、ガドルはまず間違いなく、奴らを守りに来る。

 

 

ならば、そこを突くだけで、倒すまでは行かずともガドルに致命傷を与えることはできる。何かを守ることに必死になった奴は、決まって自分の守りが疎かになる。そこを確実についてやれば、ガドルといえど殺せるチャンスは訪れる。

 

 

では、どうやって奴らを排除しようか。奴らは妙に連携を取り合って、うまくこちらの注意を分散させて来る。ガドルの相手をしつつ、全員を相手取るのは中々に骨が折れる。

 

 

ならば、まずは一人狙うことにしよう。ガドル相手とて、いつか隙が現れる時が来る。ガドルに隙が現れれば、まず一人、誰かを殺しにいけばいい。奴らのうち一人を仕留めに行くのは容易なことだ。

 

 

そこでそいつを殺せれば、それはそれでいい。そうやって一人ずつ殺し、最終的に全員が排除できれば、また先程のように一対一に持ち込める。そうなればまた後の話だ。

 

 

そこでガドルが守りにきたならば…。先ほどのように確実に仕留めてやろう。そのためにも、まずは誰を狙えばいいかを定める必要がある。

 

 

では誰を狙おうか。

 

 

一番近くをチョロチョロしてる金髪の男、青髪の女はどうだろう。金髪の男は動きが素早く、振り逃げられる可能性がある。また奴の能力なのか、地面から剣が生えるあの技も厄介だ。確実に仕留められる相手が好ましいから、奴はない。

青髪の女は、持っている剣が厄介すぎる。あの破壊力は侮れない。またスピードも、金髪の男とそう大差がなく、こちらもまた仕留めきれないことが考えられる。こいつも除外だ。

 

 

先程まで空にいた、あの二人組はどうだ。あの二人は単純に、こちらの知らない技を使う。雷を放ったり黒い何かを放ったり、正直よく分からない。先程の剣士二人組ほどではないが、こちらも不適当だ。

 

 

離れた位置にいる金髪の女や、変な鎧をつけたあの男はどうだ。その二人は空にいた二人組の女が周囲に立っており、奴らを狙う場合はその二人を掻い潜って行く必要がある。更に金髪の女は非戦闘員なのか、守りが固い。

また、あの鎧からは常にみょうな音声が聞こえてくる。油断できない。あれも不適当だ。

 

 

 

では、どうしようか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奴は、他の連中と比べて特別厄介なものは持ち合わせていない。

 

 

精々ガドルの半分にも満たない力を備えているだけだ。

 

 

狙うなら、奴だろう。

 

 

後は、どのタイミングで狙うか、だ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いに策が出来上がり、攻防を続けること数十分。

 

相変わらずゴオマはガドルと部員たちの連携の前に苦戦を強いられ、喰らった攻撃は軽く百を超えた。

 

身体が耐え切れるダメージ量もそろそろオーバーしそうになっているというのに、未だ好機は訪れない。

 

拳を腹部に受ける。斬撃が体に傷をつける。激しい魔力が襲いかかる。

 

痛みを感じない身体もそろそろ限界だ。

 

 

 

 

まだか………

 

 

 

 

デュランダルが身体を切り裂いた。とうとう右腕が動かなくなった。

 

 

 

 

まだか……………!

 

 

 

魔力の雨が降り注ぐ。激しい疲労がのしかかってきたのが分かる。

 

 

 

 

まだか…………………っ!!

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁっっ!!」

 

ガドルが飛び上がる。足元に電撃を纏わせ、飛び蹴りを放つ。

それは、ゴオマの身体に深くめり込んだ。

 

コカビエルを葬った、ガドルが放つ最強の技だ。

 

吹き飛ばされ、校庭に無様に転がる。何とか立ち上がるが、最早立っているのがギリギリだ。

あと一回だけ全力での跳躍が可能だが、それを逃せば後はない。それどころか、これ以上の攻撃を受けることさえ許されない。

 

「まだ、倒れんか…! いい加減しつこいぞ…!」

 

ガドルが苛立ち、もう一度同じ技を仕掛けようと構えた。

 

 

 

 

 

まだか………………………っっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガクン…ッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、ガドルが膝から崩れ落ちた。

 

 

何が起きたと驚愕する面々。

 

 

見れば、ガドルの姿は金色のそれから、元の通常の姿に戻っていた。

 

 

電撃体が、切れた……。

 

 

 

 

 

 

絶好の、好機だった。

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハハハハハハハハハッッッッ!!!!」

 

 

ゴオマが飛び出す。最後の力を振り絞った全力の跳躍。

 

 

その先にいるのは、ガドルではない。今の隙は相当に大きなものだが、それでも最後の力を使い、確実に仕留められる補償がない。

確実に、仕留める。それが最優先だ。

 

 

剣士二人組を無視し、魔力を使う二人組の術を避け、戦場から離れた奴らには目もくれず、ある一点を目指して駆け出す。

 

 

その先にいたのは……小猫だった。

 

 

 

 

「殺す…コロスコロスコロスゥゥゥッッ!!」

 

 

「しまったっ!!」

 

 

「小猫っ!!」

 

 

「小猫ちゃんっ!!」

 

 

それぞれが彼女のフォローに向かおうとするも、間に合わない。ゴオマの速度は今の小猫の反応速度を超えており、ゴオマの爪先が小猫を貫く未来を変え得るのは、ここには誰もいない…。

 




雑談ショー with木場

ガ「ズ・ゴオマ・グ…。あれは本当にあのゴオマなのか? 私の知っているあいつとはかなり別物だ…」

木「あなたの知っている、ゴオマ? とはどんな人物だったのですか?」

ガ「グロンギの中でもさらに残虐さや非道さに秀でた奴ではあった。ゲゲルを行いたいが為に順番を無視し、我一番にと殺人を行った。結果ゲゲルの参加権を剥奪されるに至ったのだが」

木「至ったけれど?」

ガ「その後もコソコソと力を蓄え、ゲゲルに参加してやろうと目論んでいた。その為ならば同胞殺しすら平気で行おうとするくらい歪んだ性格の持ち主だった」

木「…聞いてる限りでは、あのグロンギとは別物とは思えないのですが」

ガ「同時に小物臭も凄まじい奴だったぞ。一番最初にゲゲルを行おうとした結果、それを引き止めんとする戦士に敗れた。力を蓄える最中も他グロンギに奴隷のように振り回され、最後はグロンギの王に貴様調子に乗るな的な感じでアッサリ殺されたからな」

木「…なるほど。別人としか思えない」
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