閣下が生きるハイスクールな世界   作:佐竹 リン

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先日、ちょっと早めの蚊に刺され、夏の始まりを感じたわけなんですが、その時ふと考えてしまったことがあります。

グロンギの血はジャラジやダグバのシーンから考えて赤。アンデッドは言わずとも知れた緑。オルフェノクは人の進化系ということで恐らく赤。ドーパントやゾディアーツは人が変身した姿だからこちらも恐らく赤。

他の怪人たちの血は何色なんでしょうかね。
僕的には人間の姿がベースとなった改造人間系の怪人は基本的に赤なんじゃないかなと考えてます。グロンギも古代人が魔石の力で変貌した姿で、一種の改造人間ですし。

ただそれでいくと、一番不思議なのはロイミュードなんですよね。チェイスやハート様など、劇中何回か怪我されていた時に赤い血を流していましたが、機械生命体なのに血が流れているとはこれいかに。
まあ血を流す時は決まって人の姿を模している時ですし、アンデッドを例外として怪人たちが人の姿でいる時の血は赤いのかな。

あれが実はオイルでした! ってなったら面白いですが(笑)

最近では流血シーンなんて放送しにくいでしょうし、そこまで細かくは設定されてないのかな。ちっちゃいことは気にすんな。ワカチコ。


五十四話目

 

決してそこに油断はなかった。

 

自分には、何もない。パワーはある方だと自負しているが、木場やゼノヴィア、リアスや朱乃、少しずつだが確実に成長してきている兵藤と比べると、自分の力は大したものではないことを自覚していた。

更にはギャスパーやアーシアのような特殊な能力を備えていない彼女は、自分が一番平凡で、一番弱いことを承知していたのだった。

 

ただひとつ、彼女には特別な力が眠っているのだが、彼女はそれをとある理由から使いたがらない。そのために、その力を使わずとも戦えるように努力をしてきたつもりだった。

 

…だが、此度の戦いは、それで戦い抜けるほど甘いものではなかったのだ。

 

敵のグロンギが、一番弱く、一番平凡な自分に目がけて突進してくる。当然だ。戦場でより早く敵の戦力をそぎ落とすには、一番仕留めやすい標的を狙うのが手っ取り早い。ならばあのグロンギが、自分を狙うのも必然というわけだ。

 

だからこそ、最大まで警戒していた。例のグロンギが味方しているおかげで、その矛先が全て自分に向くことはなく、油断さえしていなければこのまま倒されることはないと断言できた。

 

…例のグロンギが、突然力なく倒れなければ。

 

敵は既に目前まで迫ってきていた。仲間たちが必死に敵を止めようとしてくれているが、とても間に合わないだろう。

 

自分一人で応戦できる相手ではなく、あの爪がこの身体を貫く未来が容易に想像できた。

 

 

 

 

 

 

「小猫ぉぉおおおっ!!」

 

 

 

 

 

あまり聞き覚えのない声で、誰かが自分の名を叫んだのが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオマの腕が小猫の身体を貫く直前。上空から無数の魔力弾の雨が、ゴオマ目掛けて放たれた。

激しい音とともに、小猫の前方を爆炎が覆う。ゴオマがすんでのところで身を躱したことで、再び小猫との距離が離れることになった。

 

「お兄さま!」

 

「遅くなってすまない、皆」

 

空から、サーゼクスが校庭に降り立つ。見れば他の首脳陣も集まっていた。

 

突然の妨害によって獲物を仕留め損ねたことに苛立ち、魔力弾を放ったのであろうサーゼクスを睨むゴオマ。

 

「いいところで、邪魔を…! 殺す! 貴様らも絶対に殺してやる!」

 

「やってみるといい。だが私も、全力で相手をさせてもらおう。皆を傷つけたお前を、決して許しはしない」

 

ゴオマの恫喝にも応じず、ただただ標的を見据える。流石にこの世界における実力者たちをまとめて相手にするのは分が悪いと感じるのか、ゴオマもいきなりは仕掛けてこない。

 

攻めず、仕掛けず。校庭にひと時の静寂が訪れる…。

 

 

 

そこに、ゴオマと悪魔たちの間を阻むように灰色のオーロラが出現した。

 

 

 

オーロラの中から、やや筋肉質でバンダナを頭に巻きつけた男が現れる。その男の姿を見て、ゴオマが明らかに不愉快そうな表情を見せた。

 

「バベル…!」

 

バベルと呼ばれたその男は、呆れた様子でゴオマに声をかける。

 

「好き放題暴れすぎだ。十分満足しただろ? 帰るぞ」

 

「いや、まだだ…。俺は、まだ、ガドルを殺していない…」

 

「そいつを殺して何になるってんだ。そいつは俺たちの知っているアイツとは違う。まさかお前、ザギバスゲゲルにでも挑んでるつもりだったのか? ゲゲルの参加権すら剥奪されたくせに」

 

「うるさい…! 俺は、奴らを殺す! 邪魔をするな…!」

 

ばつが悪そうに言葉を紡ぎ、なお引き下がろうとしないゴオマに悪態をつき、鋭い眼光でゴオマを睨みつける。その視線に怯んだゴオマを、なんの躊躇いもなく殴りつけた。

戦闘形態ではない、人の姿での拳。ガドルがこれまで幾度となく攻撃をし続けて、なお倒れなかったはずのゴオマが、その一撃だけで無様な声を上げて飛ばされた。

 

殴りつけられたことに憤りを感じ、仕返しを仕掛けようと顔を上げたゴオマを再び睨みつける。その眼に宿る怒気は、その視線の先のゴオマは当然ながら、その先にいないはずの部員たちや、ガドルですら身震いさせた。

 

「先に言っておくが、俺はバルバに『何としてもゴオマを連れ戻せ。何なら殺しても構わん』と言われている。お前の力程度で、この俺とまともに殺しあえるなんて思ってんのか?」

 

バベルの言葉に、最初こそ悔しそうな様子を見せていたが、観念したように立ち上がり、バベルの隣に立つゴオマ。

 

「…行くぞ」

 

灰色のオーロラが現れる。バベルが先にゴオマを叩き込んだ後、背後のガドルに振り返る。

 

「じゃ、またな。俺の番になった時、また殺し合おうぜ」

 

そう言って満足そうな笑みを浮かべると、バベルもまたゆっくりとオーロラの中に姿を消した。

二人が姿を消した時、二人を包んだオーロラも徐々に薄くなり、消えていった。

 

突然現れた異常な出来事は、はたまた突然現れた異常によって、急に終結を迎えることとなった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

脅威が過ぎ去り、平穏が訪れる校庭。だがそこにいた面々は、安心したというより、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。ゴオマとバベルが放っていた威圧は、それほどまでに重かったのだ。

 

「小猫…無事でよかった…!」

 

命の危険が払拭され、地面に座り込む小猫を優しく抱き締めるリアス。安心して涙を浮かべる彼女の姿を、ガドルは居た堪れない様子で眺めていた。

 

(…ひとまず、ここを離れるか…)

 

人の姿に戻るためにも、一旦校庭を離れる必要がある。ところが結界はすでに補修されており、外に出るのはままならなくなっていた。

サーゼクスたちが駆けつけて来る前に貼り直したものだろう。どうしたものかと考える。

 

「すまない、少し待ってもらっても良いだろうか」

 

そんな彼を、サーゼクスが呼び止めた。声に応じて振り返ると、サーゼクスのみならず、他の首脳陣もガドルに対し視線を合わせていた。

 

「君が報告に上がっている、カブト虫の怪人だね。コカビエルを倒したこと。及び今回と合わせて二度も妹たちを守ってくれたことに、まずは感謝をしたい」

 

静かに述べるその目は優しく、敵意はない。心の底から感謝の意を示しているのだろう。

だが、彼にも棟梁としての立場がある。表情を変え、ガドルを見据える。

 

「だが、同時に君の素性について尋ねたい。君は一体、何者なんだ?」

 

サーゼクスの問いに、口を閉ざすガドル。

答えによっては、ここで戦うことになる。そのことが読めていたが故に、返答に慎重になっているのだろう。

 

両者の間にいっときの沈黙が流れる。やがて、ガドルは重い口をそっと開く。

 

「…私は、グロンギだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

ただ単に、そう答えた。

サーゼクスはその後も変わらず険しい顔を浮かべ、ガドルの様子を伺っていたが、ふっと軽い笑みを浮かべた。

 

「分かった。わざわざ呼び止めてしまってすまなかったね」

 

サーゼクスが結界に手を向ける。結界の一部が薄れ、一人分が通れるくらいの大きさの枠が出来上がった。

結界の外では、学園に侵入せんとしたゴオマと交戦した天使、堕天使、悪魔の軍勢が一人残らず倒れ伏せていた。その様子に顔をしかめながらも、倒れた者の間を通り抜け、学園から離れていくガドル。

 

その背中を見届けた後、サーゼクスは戦闘後の処理を行うため、そして傷ついた部下たちを治療するための追加の軍を要請する。そんな彼の元に、リアスがそっと近づいた。

 

「お兄様。彼は、あの…」

 

「ああ、分かっているよ。これまで何度も助けてくれたのだろう? 無下にはしないさ」

 

不安げな様子で語りかけるリアスに微笑みかける。

だがその本心は、リアスに向けた穏やかな表情とは異なり、張り詰めたものだった。

 

彼の頭にあるのは、この一日で出会ったグロンギという種族の実態。外で待機していた軍勢を相手した上に、首脳陣が貼った結界を一人で破壊してみせたゴオマ。それと互角以上の攻防を繰り広げてみせたガドル。ゴオマを上回る実力があるのが確かとなったバベル。

今の間だけでも、それだけの危険因子と遭遇したのだった。

 

(…油断できないな。あれが、グロンギという種族か…

 

 

 

決して、味方とは思わないようにしなくては…)

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

校庭で激戦が繰り広げられていた時、堕天使総督であるアザゼルはノンビリと校舎の中を歩いていた。

あまり校舎の中身を覚えていないのか、あちこち歩き回っては何度も扉をあけて回る。それも、ある一室を探し求めるためであった。

 

そして、目当ての部屋にたどり着く。扉を開けて部屋の中に入り、中にいた一人の男に話しかけた。

 

「よう。動けるようになっていたんだな、八神」

 

「…アザゼルか。何しに来た?」

 

八神は不審者にでも話しかけられたかのように、露骨に嫌な表情を浮かべる。

 

「いきなりそんな顔を向けられるとは。嫌われてるんだな、俺」

 

「当たり前だ。うちのバカに変なこと吹き込みやがって。後であいつにも天誅だが、正直あんたにも同じことしてやりたい気分だからな」

 

「……あ、そっちか? てっきり堕天使だから云々だとか、そんなところかと思ってたんだが」

 

「堕天使だからって嫌う理由なんてねぇよ。堕天使も悪いやつばかりじゃないって分かったからな。で、何かようか?」

 

表情を崩さず、アザゼルの言葉に返す。

 

「いやなに。ちょっとばかり個人的に聞きたいことがあってな。サーゼクスたちが離れた今が訊きだす好機だと思ってな。

俺が訊きたいのは三つだ。まず一つ目は…『グロンギは一体いつ頃活動していた種族なのか?』だ。

俺は他の連中とは違って大昔から堕天使総督という地位に立っている。人間じゃ想像もつかない大昔からな。だが、グロンギなんて名前は聞いたことも見たこともない。だからこそちょっと気になってよ」

 

アザゼルの質問に対する返答を考える八神。

実際彼自身、グロンギが以前活動していた年代というのは分からないからだ。

 

「悪いけど、いつ頃かとか具体的な年代はオレも知らねえんだ。完全な推測でよければ答えるが、それでもいいか?」

 

「それでもいい。答えてくれ」

 

「恐らくだが、その時代は日本で言うところの縄文時代と同じか、それより前だ。グロンギにせよその時代の人間にせよ、今じゃ完全に廃れた文明の元であいつらは生きていた。言語は形も影も残ってねえし、当時の生活が推測される石器のようなものも、住処すら見つかってない。気が遠くなるほどの年月が経っていると言える。

当時の時代を印象付けるものが何一つ残っていない時代だ。となればその辺が一番納得しやすいだろ?」

 

八神からの答えに唸りを上げるアザゼル。理解半分、疑惑半分といったところだ。

縄文前後といえば、一万年近くは前の話ということになる。実感が湧きにくいのだった。

 

そして、疑惑が半分あるのはまた別の理由もあった。

 

「まあ、それはわかった。そこまで前の話になれば俺も知らない話も出てくるだろ。それに、ずっと人間界に注意していたわけでもねえしな。それはいい。

…なら、二つ目だ。『なぜ、お前がそのことを知っている?』」

 

それは、彼がなぜそんな昔の話を知っているのか、といったことからだった。

 

「分かるだろ? 数千年生きてる俺ですら知らねえことを、まだ10年近くしか生きていないお前がなぜ知っているんだ?」

 

アザゼルは八神を疑わしく感じていた。

そもそも、あくまでただの人間でしかない彼が、魔王の妹であるリアスが頼りにするほどの実力を有しているというのも理解しづらい話だ。それは偶に存在する例もあり、ひとまず置いておくにしても、魔王や天使、堕天使総督である自分が知らない話を彼が知っているというのは不思議な話でしかない。

 

実は裏で繋がっているのではないか。何か隠し事があるのではないかと疑いの目を向けていたのだった。

 

「…ま、その質問も出てくるかなと思ってたからさ。しっかりと準備してるぜ」

 

一方の八神は、割と突き詰められた質問であるにもかかわらず、対した動揺を見せることもなく懐から一枚の紙を取り出した。会談に向かう前に準備していた書類だった。

 

「それは?」

 

「さっきは当時の時代を印象付けるものが何一つ残っていないといった。けど、強いて言うならひとつだけ残っていたものがある。それがこれだ。とある遺跡に残されていた当時の人間が残したと思われる文字。今じゃその遺跡も瓦礫の下だが、そこに書かれていた文はここに書き出している。

グロンギという種族。そいつらが行うゲゲルという名の殺戮。そしてそれに対抗した一人の戦士の存在。そこに書かれた文には大体そんな内容が記載されている。オレはそれを解読して、グロンギの存在を知ったんだ」

 

「解読ねぇ…。随分アッサリと言うが、そんな簡単な作業じゃなさそうだけどな」

 

「一文字あたりの意味はひとつしかない単調なものだからな。例えばその文字列の最初の文字は戦士を意味してる。それさえ分かれば解読は難しくねえよ。ご希望なら全訳も渡してやろうか?」

 

「いや、いい。そこまで連中に深い興味があるわけじゃないし、お前がそうやって知識を得たって言うならそれでいい」

 

話を切り上げ、部屋を出ようと立ち上がるアザゼル。

完全に納得したわけではないし、説明も綺麗に筋が通っているとも言えない。だが、疑うだけの根拠もなくなったのは確かだ。彼が友好的である限り、わざわざ敵対する必要もないだろう。

 

「さ、外行こうぜ。全員集まってるからよ」

 

「そりゃ構わねえけど…三つ目は?」

 

「お前の神器、なかなかに珍しいものだったからな。今度じっくり見せてくれ」

 

そう告げて、アザゼルは先に部屋を出ていった。

 

部屋に残された八神は、一度息をつく。

ポケットに腕を差し込み、中に入っているものを取り出した。

 

それは、小さな種のようなものだ。五粒ほどの種を見下ろし、八神は一人呟く。

 

 

「……やってやるよ。オレは、強くなる。オレ自身のために。皆のために…」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

数分前の出来事だ。

 

戦いも終わり、なんとか緊迫した状況から解放されたばかりのガドルは、校庭を出てしばらく離れたところで呆然と立ち尽くしていた。

 

自然な流れで校舎を追い出されたのは良いものの、戻ることがやや困難になってしまった。

あれだけのトラブルが発生し、本題も終わった状態で彼の発表の機会が訪れるかどうかは怪しいところだが、さっきまでいた人物がいなくなったというのはおかしな話だ。

何とかして中に戻りたいのだが、すでに結界はまた補修されている。入る事すらままならない状態だ。

 

(…どうやって中に戻ろうか)

 

地下、あるいは空に穴でも開いてないだろうか。さまざまなことを考え、結界を眺めるガドル。

 

「何をされてるんですか、ガドルさん?」

 

そこに声をかける男が現れた。

 

背後から声をかけられた形になり、それが誰なのかを確認していない。だが、ガドルはそこに立つ者が何者なのか、分かっていた。

 

「…何故貴様がここにいる。神よ」

 

背後に立つのは、彼をこの世界に転生させた神だった。

 

「その喋り方違和感すごいんで、ひとまず元の姿に戻ってください。今ならもう戻れるはずですよ?」

 

「む、そうなのか? さっきは全く戻れなかったのだが…」

 

人間態に変わろうと、力を抜く。するとどうだろうか。先ほどまでは人の姿に戻ろうとするたびに激痛が走っていたのが、全く痛みを感じなくなっており、案外簡単に人の姿に戻ることができたのだった。

 

「…戻れた」

 

「恐らくですが、先ほどまでのあの現象はあなたの腹部に眠る魔石ゲブロンの意思によるものだと思います。あの時はギャスパー・ヴラディの神器が発動しており、魔石ゲブロンがその効果を拒絶しようと前に出張ってきた。ゲブロンが前に出張ってきたため、あなたの腹部に痛みが走り、グロンギの姿から戻れなくなった。そんなところかと。

ですから、ギャスパー・ヴラディの神器が発動しなくなってからはいつでも戻れたのではないでしょうか」

 

「なるほど…って、そんな事あるか? 前までこの魔石はグロンギの力を秘めた石で、戦いだと壊されちゃいけないだけのあってないようなもんだったぞ? そんな効果あったらとっくに気がついてると思うんだが…」

 

「実感ないのかもしれませんが、グロンギの力は全てその石が起因しているものなんです。モーフィングパワーも再生能力も。変身だってその石なくてはできない事なんですよ。

…恐らく今回のあれは、石が進化したことによる新しい能力ではないでしょうか。さしずめ“神器の力の影響を受けなくする”といったものでしょうか…」

 

「ちょっと待ってくれ。石が進化? どういうことだよ。放っといたら勝手に進化するものなのか、コレ?」

 

「…その話はまた今度にしましょう。取り敢えず中に入りたいのですよね?」

 

何もない空間に手を伸ばす。するとその一帯が光に包まれる。覗いてみると、その内部は通路のようになっており、向こう側には見慣れた教室の風景が広がっていた。

 

「これを通れば、貴方が固まっていると思われている部屋に繋がります。…それから、これを」

 

差し出されたものを受け取る。小さな種のようなものが五粒ほどだ。

 

「何だこれ。種?」

 

「それはどこかしらの地面にまくことで、その地点と私のいる神界を繋ぐ門を生成するものなんです。

…貴方がこちらに来る用事が出来た時にでも使ってください。無くなった時はまた補充しますから」

 

「いやちょっと、何でそんなものをくれるんだよ。あんたに話がある時はいつも通り夢で会えるわけだし、いらねえだろ」

 

「それだとあくまでこちらに来るのは精神のみ。肉体がこちらに来る必要がある時は、夢の中での話ではどうしようもないんです」

 

「…何が言いたいんだ?」

 

ここにきて、八神は僅かながらも違和感を覚えた。先程からどうも、神の歯切りが悪い。何か口にしづらいことでもあるのだろうか。

真剣な面持ちで神に問う。

 

「…そうですね。不安にさせるようなことを言うのも気が引けたのですが、あまり隠していても意味ないでしょう」

 

息を吐き、八神と視線を合わせる。その顔はどこか神妙で、八神もまたただ事ではないことを察する。

その表情のまま、神は口を開いた。

 

 

 

 

「ハッキリ言わせていただきますと、貴方の中の魔石、ゲブロンは進化しています。それも急激に。

…そしていずれ、進化しきったゲブロンは貴方の体を支配しようと動きだすでしょう」

 

 

 

 

「な……嘘だろ? ど、どういうことなんだよ……」

 

突然の申告に狼狽する八神。これまでずっと、なんの異常もなかった魔石に現れた変化。そして、その変化が起因となり、彼の身体を支配せんとする。それは、今の彼にとって受け入れがたい事態であった。

 

「そしてこれも酷な情報になりますが、その進化の原因は姫島さんの雷です。より正確に言えば、電撃体の力を手にするために取り込んだ雷の力というべきでしょうか。

貴方は雷の力を吸収し、電撃体という新たな力を得た。それはかなり強力で、貴方も驚いたことでしょう。ですが同時に、疑問に思いませんでしたか? たかが雷を吸収しただけで、あそこまでの急激な変化が訪れたことに」

 

「それは…そう言われてみれば、確かに……」

 

言われ、思い出す。何より強烈的だったのは、ケルベロスを一度殴りつけただけで沈めてしまったこと。

あの時は人の姿だった。それまで人間態でいるときは、神器の力で敵を追い詰めることはあっても、自分の拳で敵を殴り倒すなどということはあまりなかった。しかもその時の相手は、家より大きなケルベロス。冷静になって考えてみれば、そのようなことが人力で可能になるだろうか。

 

グロンギの姿の時でも、急激な力の成長には驚かされていた。神が言うように、雷を吸収した程度でそれだけの変化が訪れるとは考えづらい。

 

…では、あの変化の正体は何なのだろうか。

 

 

「単純な話です。あれは単に雷のエネルギーを取り込んだだけの力ではない。あの力は、雷の力で魔石が進化したことで発現した、究極の力の一部なんです」

 

 

続いて打ち明けられた真実に、再び閉口する。

究極の力と言えば、思い出すのは前世での出来事。一瞬にして数えきれない人間を葬ってみせた、あの力。

その力を、一部とは言え目覚めさせてしまった。彼が何も知らず使っていたあの力は、彼にとっての恐怖そのものとも言えるものだった。

 

「ゲブロンは雷の力を取り込み、進化を遂げた。それによって強力な究極の力の一部を電撃体として扱えるようになった。そこまでは良かった。

…ですが貴方の状況においては、ゲブロンが進化してしまったことは問題でしかないのです。貴方が、人であろうとする限り」

 

「そんな……。じゃあ、オレがやったことは……」

 

強くなりたい。仲間を守るために行った行為は、想定外の現象を引き起こし、望まぬ結果へと進み始めていた。そんな事実を知ってしまった八神は、悲しげな様子を見せた。

そんな彼に、神は表情を穏やかなものに変えて優しく語りかける。

 

「とは言え、安心してください。今すぐどうなるという事はありませんから。その辺の詳しいお話はまた後日させていただきますが、魔石の力が増大したのなら、その分だけ貴方自身も進化し、その力に支配されないようにすればいい。

貴方がご自分を進化させることができた時こそ、本当に強くなったと言うことができるのです」

 

目を見開く。軽く絶望していた彼の表情に、再び光が宿る。

 

「オレが…オレ自身が強くなればいいのか?」

 

「はい。先ほどの種は、そのためにお渡ししたものです。

ご自分でも特訓されることとは思いますが、一人でやることにも限界はあるでしょう。こちらに来ていただければ、お手伝いすることはできますから」

 

手のひらの種を見下ろす。

魔石の進化に追いつくために、己を鍛える。そうすれば八神自身も魔石に囚われる心配も軽減される。

 

そして、自分自身が強くなれば。今回みたいに仲間が狙われた時、間に合わないということになる確率を下げることができる。仲間の危険を、少しでも排除できるようになる。

 

ならばこそ、答えは一つだった。

 

 

「…ああ、わかった。やってやるよ。修行でも何でも。オレは…オレ自身を強くしてみせる!」

 

答えを聞き届け、神は安堵した表情をみせる。

 

「その言葉を聞いて安心しました。近いうちに修行できる期間が訪れます。その時、こちらに来てください。貴方自身を進化させられるように、我々も全力でバックアップしますから」

 

「ああ。ありがとな、何から何まで」

 

「お気になさらず。ほら、早く行かなければ皆さまを不安にさせてしまいますよ?」

 

神との話を済ませ、八神は光の通路に侵入した。

通路奥の教室に向かう八神の背中を見届け、神もまた自分の世界に変えるための門を生成する。

 

「…彼を魔石の支配下に置かせるわけには行かない。なんとしても…」

 

決意を固め、呟く。

 

神の力で観測した“最悪の未来”が、実現してしまうのを防ぐために……。

 

 

 




少し時間軸がわかりにくくなった気がしますので、少し解説をば。


ガドル、サーゼクスによって学園から追い出される



学園外で神と会い、校舎に送り届けてもらう



校舎でアザゼルに遭遇し、問い質される



こんな順番でことが起きています。
丁寧に表現できていればよかったのですが、表現力が乏しい僕には無理でした。ゴメンね。
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