閣下が生きるハイスクールな世界   作:佐竹 リン

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ジオウが終わり、ゼロワンが始まる。
時代の流れをまたもや実感し、令和の始まりを感じました。

さて、ジオウの最終話。ご覧になりましたか? 僕も最終話をしっかりと見たのですが、それについての感想を少々…。


エボルト倒した! ビルド、 完 結 !!!


…はい(笑)

いつか申したと思いますが、ラスボスの扱いって非常に難しいものと思います。あまりホイホイ出して、その度にアッサリ倒されてはラスボスの格が落ちると言うもの。アークオルフェノクが陰で泣いてるよ? なんてことにしてはいけないと思ってます。

まあそれでいくと、オーマジオウってライダーの中で最強論争を終わらせるほどのチート性能。スペックを知れば知るほど、どうやって倒すのこいつってなるレベルの強さです。
敵側も、ダグバエボルトゲムデウスと錚々たる面子でしたが、オーマジオウ相手ならやられても仕方ないかなぁ、当然かなぁなんて思います。なので格落ちはしてないかな? と。

…まあそれでも、一応まだ完全に倒しきれてないエボルトは出したらダメじゃん、と突っ込みたくなりましたけど(笑)。今後もしあいつが地球に現れて、どんな暗躍を見せたとしても霞んでしまいそうで…。

ま、フェーズワンだったから全然本気じゃなかったってことで。完全体ならこうはいかんぞってことでしょう!



五十九話目

グレモリー邸のバカでかい城門を通り、はたまたバカでかい庭に入った。今日ここで、修行を終えた皆と再集合を果たすのだ。

 

…ああ、あれから何日が経過したことだろう。

 

いや多分、部長たちの授業が終わる頃に合わせて下界に降りてきたわけだし? せいぜい十数日くらいの月日しか経っていないはずなんだけども。正直、オレの中では数ヶ月くらい長い時間を過ごしたような気分になる。ああ、久しぶりに“平和”というものを噛みしめている。空気ってこんなに美味しかったんだな。清々しい気分だぜ。

 

どうやらオレが一番乗りらしく、まだ誰も集まってはいない。まあここで修行してる人も何人かいるらしいし、外に出てる連中も間も無く一人、追って次々に到着するだろう。久しぶりの全員集合だ。

 

「おおーーい! シューーウーー!!」

 

このでっかい叫び声は、間違いなくイッセーの声だ。ふふ、残念だったなイッセー。お前は二着目だ、と自信満々に振り返ったオレの目に届いたのは…。

 

空を覆う、グレモリー本邸よりも大きい超絶巨大な影だった。

 

「…………………!!??!?!!?!?」

 

「じゃあな、タンニーンのおっさん! パーティでまた!」

 

『世話になったな。また会おう』

 

「ああ、オレも楽しかった。あのドライグに協力したのだからな。長生きはするものだ。そうだ、オレの背に乗ってパーティ入りするか?」

 

「マジ!? いいのか!?」

 

「ああ、問題ない。俺の眷属を連れて開催日にここへ来よう。詳しくは後でグレモリーに連絡を入れる。では、さらばだ!」

 

でっかい影、改め巨大ドラゴンははたまた巨大な翼をブワサァッ! と広げて空へ飛び上がっていった…。

 

『フッ、甘い龍王だ』

 

「いいヒトだと思うぜ。あった時は怖かったけどさ。やっぱドラゴンってかっこいいよなぁ…」

 

「…いや待て待て待て待て待てぇぇぇ!!」

 

狼狽しまくりのオレを完全無視して世間話に入るドラゴン組! 色々と説明しろよ! 無視しないで!?

 

「いや、え!? お前、あれなんなんだよ!!」

 

「何って、見たまんまだぜ? ドラゴン」

 

「分かってるわ! そうじゃなくてお前、何であれに乗ってたんだ!?」

 

「いやぁ、色々あって仲良くなっちゃってさ! 気持ちよかったぜ、あの背中!」

 

だ、ダメだ。今のこいつについていける気がしない…。あのクソ馬鹿デカイドラゴンと仲良くなって、その背中に乗せてもらってただと…? ダメだ。オレの理解の幅を超えている。

 

「なんか…頼もしくなったなぁ、お前…」

 

「へへっ、そうか? お前に言われるとなんか嬉しいな」

 

頼もしくなったのはメンタルだけかと思ったら、そういうことはない。要所要所の筋肉ががっちりとついていて、フィジカル面でもしっかりと鍛えてあるらしい。

本当に暫く見ないうちに逞しくなっちまってまあ…。

 

「やあ、イッセーくん。シュウくん」

 

「相変わらずだな、二人とも」

 

さらに聞き覚えのある男女の声。この声は、我らがグレモリー眷属の頼れる騎士。ユウトとゼノヴィアの声だ。二人揃って帰ってきたらしい。

 

「おう、久しぶりだな。ユウト、ゼノヴィ…ア……?」

 

「うん、私だ」

 

ユウトは変わらず、爽やかな笑顔で立っていた。ユウトもなかなか厳しい生活を送っていたようで、身体もやや引き締まり、これまた強くなっていることが目に見えてわかる。ボロボロのジャージ姿だが、そんなことは問題ではない。

 

…問題はゼノヴィア。お前だ。

 

「なんだよその格好。ミイラ女か」

 

ゼノヴィアは身体中をグルグルと包帯で巻いていた。格好はボロボロだが、ただそれだけ。まさにミイラ。これこそミイラ。

 

「失敬な。私は永久保存されるつもりはない」

 

「まっすぐ受け止めんな。皮肉じゃ皮肉」

 

相変わらず頓珍漢なやつだが、身にまとう雰囲気からわかる。以前よりも静かで、厚みに溢れている。これはまた強力になって帰ってきてんなぁ。前から凄いやつだったが、一段と頼りになりそうだ。

 

「イッセーさん! 木場さん、ゼノヴィアさん、シュウさんも!」

 

「あら、外出組は皆帰ってきたみたいね」

 

城門から、邸内組が迎え入れてくれた。僧侶服に袖を通したアーシアが真っ先にイッセーのもとに駆け寄る。

 

「皆さん、お疲れ様でした」

 

奥から朱乃先輩。それから、小猫が姿を見せた。よかった、どうやらすっかり回復しているらしい。

 

「小猫、元気にしてたか?」

 

「……はい」

 

小猫は静かに頷いた。まだ完全復帰ってわけにゃいかないらしいが、それでもいい。修行と同じように、あんまり焦っても仕方ないからさ。

 

「皆、積もる話はまた後で。シャワーを浴びて着替えたら、報告会に入りましょう」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

さて、時間にして実に何週間ぶりの再会になったのか。皆の成長を肌で感じる報告会が始まった。

外出組で部長の近くにいなかったイッセー、祐斗、ゼノヴィアの三人はそれぞれ大変な生活を送っていたそうだが…。

 

いやなんとも、イッセーの内容が頭一つ抜けて酷かった。

 

「こちとらあのお山でドラゴンに丸一日追っかけ回されて過ごしてたんだぞぉぉ!! 何度死にかけたことか!! うわぁぁぁぁっっ!!」

 

あーあ、泣いちゃった。

外出組でない連中はグレモリー邸で。外出組もそれぞれ山小屋かなんかで過ごしていて、衣食住に不便はない生活を送っていた。

 

一方、イッセーは山にこもり、家もなけりゃ食事もない。動植物を狩ってさばいて食べ、水は掬った濁水を殺菌して飲み、布団は葉っぱ一枚という過酷な自給自足。しかもその中でドラゴンと地獄のランデブー。

アザゼル曰く途中で逃げ出すと思ってたら最後までやり遂げられ、想定外だったんだとか。オレもそんな生活送れないだろうし、送りたくもない。

 

「うう…部長に会いたくて、毎晩部長の温もりだけを思い出しながら葉っぱにくるまって寝てたんだ…辛かったんだぞ、あの生活…。ドラゴンのおっさん容赦しねえし、寝てる時も襲ってくるし、岩が吹き飛び山が燃え…あんな生活こりごりだぁ、逃げなきゃ死ぬぅ……」

 

「可哀想なイッセー…よく耐えたわね。ああ、こんなにもたくましくなって…。あの山には名前がなかったけれど、イッセー山と名付けることにするわ」

 

「それでも、かなり体力は向上したようだ。これでいざ禁手に至っても、鎧を着ていられる時間がそこそこあるだろうさ」

 

メソメソと泣き声をあげるイッセーを、部長とアザゼルが慰めて……っていや、ちょい待ち。今、これでいざ禁手に至っても〜と仰いました? それってつまり…。

 

「なあイッセー、結局禁手には至れなかったのか?」

 

「うわぁぁぁぁっっ!! ちくしょおぉぉぉぉぉっ!!」

 

更に号泣。禁手に至るというイッセーの修行の目的、達成できなかったらしい。

 

「ま、至れない可能性は予想していた範囲でもある。ショックを受けることもないさ、イッセー。禁手ってのはそれほど劇的変化がないと無理ってことだからな。サバイバル生活とドラゴンの接触で何かしら変化があればと思ったんだが、時間が足りなかったか。せめて、あと一ヶ月…」

 

あと一ヶ月なんて無理! と喚き、イッセーは部長のもとにすがりついたまま離れない。かすかに首を横に振って行う明確な意思表示。本当に辛い日々だったようだ。

 

「お前は! お前はどうなんだよ、シュウ!」

 

不意に顔を上げたイッセーが、ビシッ! とこちらを指差して叫ぶ。イッセーの言葉に同調するように、部長はそう言えばと続けた。

 

「確か、シュウは私たちより一足先に始めてしまったものね。アザゼルからの課題も聞かされてないし」

 

「あ〜そういやそうだった。オレは…」

 

「まあ、お前らにはいずれ言うことか」

 

オレの言葉を遮ったアザゼルはゆっくりと立ち上がり、なにやら真剣な面持ちを見せた。つられ、皆の表情も自然と曇っていく。

…え、ちょっと。オレの身の上話をそんな怖い顔でするんです?

 

「そもそも俺は、こいつには特に課題を与えてねえ。こいつは既に独自の方法で上級悪魔に匹敵するほどの実力を備えてきている。それで俺がわざわざ言ってやらなきゃならんことがなかったってのが一つだ」

 

「ひとつ…?」

 

ユウトがかすかに疑問を抱き、アザゼルが頷く。

修行を始める一日前。温泉に入る前に個人的な呼び出しを食らったオレは、アザゼルからこう告げられた。

 

『俺がお前に提示できる課題はなにもない』

 

その言葉の理由は主に二つ。ひとつ目はアザゼルが言っていたようなことだ。

本来この修行は、後日控えたレーティングゲームに向けての強化訓練だ。ところがゲームに参加しないオレはあくまでついでという扱い。なにかしら課題みたいなものがあればとは思っていたんだが、不参加のオレはゲームの対策を練る必要はない上に、皆と違って具体的な目標もなく、能力向上という至極単純な課題しか提示できなかった。それがひとつ目の理由だ。

 

そして、もうひとつは…。

 

「もうひとつ。俺が唯一、八神の力に関することでアドバイスできそうな要素っつったら神器の力くらいなもんだったんだが…はっきり言おう。俺はこいつの神器を知らねえ」

 

そう、こういうこと。……ってか、アザゼルさん、なんでそんな怖い顔してんの? 皆もなんか空気重たいし、なにごと?

 

「先生が、知らない神器……?」

 

「いや、正確にはこいつの神器“真理の扉”については知っている。だが俺の知る限りでは、その神器は精々化学反応式に表されるようなごく一般的な変化に影響を及ぼすものであって、物質の形状を根本から変えちまうような力はなかったはずなんだ。

これでも神器についての知識は誰より詳しい自信があったんだが、初めて顔を合わせた時にゃ驚かされたもんだ。いきなり目の前で俺の知らない力が現れたんだからな」

 

アザゼルは、変わらない表情のままここまで告げて、タバコに火をつけた。

冥界にタバコなんてものもあるんだ、なんて言える空気ではない。皆、何か聞いてはいけないことを聞いたのでは? とも言いたげな表情だ。

 

その後、何人かは不安そうにオレの顔を眺めて……オレが普通の、いや強いていうなら若干呆れただけの様子でいることに困惑してた。

 

いや全く。いたずら心も大概にしていただきたいものだ。

 

「おい、なにをそんなシリアスっぽく締めようとしてんだ。前に話した時はもっと単純なもんだっただろうが」

 

呆気にとられた皆の様子を、ククッと肩を揺らして笑うアザゼル。うん、そんな大ごとにする話題じゃないんだなこれが。

 

「これまでの“真理の扉”の所有者は揃いも揃って科学にしか興味ない、戦いとは微塵とも縁がないような学者ばかりだったからな。偶々こいつが、これまでの所有者が思いもしなかった使用法を編み出しちまったってだけだろう。それに、思わぬ進化を遂げるのも神器の性質の一つだ。何回か調査してみたが、何も心配することはない。

まあそういうわけで、俺は神器についても何も伝えられず、八神には自由に修行するよう言ってあったんだ」

 

「も、もう。不安にさせるようなことをしないで頂戴…」

 

皆安心したのか、フッと息をついた。まあ正直オレもこのケースについては若干不安になったんで、持ち帰って神さんにも聞いてみたんだが…。

 

『転生において特典を与える際は、矛盾が生じないよう元の世界にも存在する範囲で力を与える、というしきたりがあってですね。私もそれに従い、その世界に元から存在する“神器の扉”という力を貴方に持たせました。なので、貴方の力が他の誰かにとって認知されないものである、なんてことがあるはずはないんです。そのアザゼルというものが言うように、偶然の産物だと思いますよ』

 

とかなんとか。なんで、誰も知らないというこの力は何も問題ないものらしい。

 

「で、どんな修行をしたんだ?」

 

ポロっと口にされたイッセーの言葉。

 

 

 

…修行? オレの修行か……オレの修行は……

 

 

 

「まあ……今こうして生きてる、ということがどれだけ幸せなことかを実感できたぜ……?」

 

「…何言ってんだ?」

 

理解されなくとも良い。今、こうして皆と話し、笑い、美味しい空気を吸っていられることの幸せは何より儚いものだ。うん。もう思い出したくないのでこれでいい。

 

「ま、そういうわけで報告会は終了、明日はパーティだ。今日はもう解散するぞ」

 

アザゼルの言葉を最後に、報告会は終わった。

明日はパーティがある、とのことだが…。

 

…まあ、これは一波乱あるな。修行の成果、早速披露することになりそうだ。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

次の日の夕暮れ時。皆、それぞれがパーティに向けての準備を進めている。

 

曰く、このパーティとは各御家の連中が行う交流会のようなものらしく、定期的に行われるものらしい。お偉いさん方が集まって、楽しくお酒を飲みながら楽しむ場として利用し、そのまま四次会五次会と入っていくそうな。

その中のおまけとして、若手悪魔の交流なんかも含まれていたり、くらいのものなんだとか。人間も悪魔も、交流と銘打って飲みに回りたいなんて感覚は同じくあるものらしい。

 

眷属の皆様方にとっては他の家に対してのご挨拶こそあれど、あとは単純に楽しめばいいもの。オレなんかは本当にフリーなんで、難しい準備をすることはない。まあ最低限のマナーは守んなきゃだが。

 

というわけで、格好としては基本的に学生服と、グレモリー家の紋様付きの腕章さえつけてれば良し、なんだとか。オレもその格好で客間に出た。

 

「俺たちの夢を叶えるためにも、俺たちは今度のゲーム、絶対にお前たちに勝つ」

 

「いや、ダメだ。俺たちが勝つさ!」

 

客間に出たら、オレたちと一緒に会場入りする会長に付いてきた匙が、イッセー相手に火花を散らしあっている。知らないうちにいいライバル関係になったらしく、二人して今度のゲームに対する熱い想いを語っていた。

 

行ってないからよく分からんが、前の若手悪魔の集まりでちょっとした出来事があったとかで、それ以来会長たちは部長たちに絶対勝つと闘志を燃やしている。匙の言葉にあった、夢を叶えるってのがキーワードになっていそうだ。

 

今の部長たちと会長たちとでは、圧倒的なまでの力量差がある。赤龍帝に禁手の使い手、聖剣、時間を止めるチート能力。見下すわけではないが、はっきり言って会長たちに勝てる算段は見えてこない。

…だが、だからこそ怖いんだ。圧倒的な力量差は、弱者である側の勢い次第でアッサリと覆ってしまう。部長たちが油断するとは思えんが、この布陣で大どんでん返しなんか喰らおうもんなら…なんて考えるとな…。

 

 

 

「ところで、匙」

 

「なんだ?」

 

「女性の乳をつつくとブザーになるらしいぜ」

 

「…な、なんだよそれ!」

 

一瞬でいかがわしい話題が始まったのはスルーしておこう。

 

 

 

「イッセー、シュウ、お待たせ。あら、匙くん来ていたのね」

 

客間に、着替えに出ていた女性陣が帰ってきた。女性陣は皆、ドレスに着替えてきたらしい。

 

「すっげぇぇぇぇっっ!! 皆、お化粧してドレス着て髪も結ってる! お姫様みたいだぁぁぁぁっっ!!」

 

うん、らしいね。

 

全部言われたから割愛しますけども、皆綺麗に着飾ってきていた。なんだか皆、バッチリと決まってる。なんでかギャスパーもドレス姿でいるのは、着てみたかったとかそんなところに決まってる。

 

…そんな中、チョコチョコと小猫が歩み寄ってきた。何かを期待してるかの様子だ。

 

まあ、うん…前まで元気なかった小猫がしっかりと着飾ってきたんだ。…こ、ここは、オレが一発頑張らなきゃなるまい。

 

「ああ。よく似合ってるよ、小猫」

 

頭を撫でながら言ってみると、小猫ははにかんだような小さく柔らかい笑顔を見せた。よ、よし。頑張った甲斐あったか。よかった。

 

いやぁぁ後ろで朱乃先輩が怖いオーラ放ってるぅぅ。ここは堪忍してください先輩、貴女も十分よく似合っておりますので…。

 

「皆さま、タンニーンさまとその後眷属の方々がいらっしゃいました」

 

執事さんの言葉につられ、庭に出る。その先に広がる光景は、なんとも圧巻だった。

 

以前の巨大なドラゴンが十体ぐらい? 庭を埋め尽くしていた。この庭もスンゲェデカイってのに、それを埋め尽くすほどの数のドラゴンたち。ほんとここに来てから、大きさの基準が分からなくなりそうだ…いやもうわかんねぇわ。

 

「約束通りきたぞ、兵藤一誠」

 

「うん! ありがとうおっさん!」

 

前見たドラゴン…多分タンニーン? それとイッセーが親しげに会話する。これをおっさんと言ってのけるイッセーは、将来大物確定だわ。もうホントに頼もしい。

 

「お前たちが背に乗ってる間、特殊な結界を背中に発生させる。それで空中でも髪や衣装やらが乱れることはないだろう。女は、その辺大事だからな」

 

「ありがとうタンニーン。会場まで頼むわ。シトリーの者と、人間が一人いるのだけど、大丈夫かしら」

 

「おお、リアス嬢。嬉しい限りだ。そちらの件は任せてくれ」

 

非常に紳士的な対応を見せるタンニーンさんのお陰で、皆それぞれドラゴンの背に乗る。改めて乗ると…マジでけえ。それしか出てこねぇ。

 

「それでは、ゆくぞ!」

 

タンニーンさんの言葉とともに、ドラゴンたちが次々に飛び上がる。オレが乗っていたドラゴンも翼を広げ、大空に羽ばたいた。

 

…ああ、ユウスケ。かつての友よ。オレは今、ドラゴンに乗ってます……。

 

 

パーティ会場となるのは、超高層高級ホテルという人間界にもありそうな施設だった。いやスケールが段違いだが。駒王町が丸々入っちまいそうなくらい大規模で、そろそろ頭がおかしくなりそうだ。

そこから少し離れた競技場っぽいところに、ドラゴンたちは降り立った。上空に差し当たったあたりで下からナイター用のライトがドラゴンを照らすから、さながら怪獣映画のような雰囲気だった。

 

地上に降りて、ドラゴンと別れ、さあ会場へ向かおう!…というオレたちを、また大きなリムジンが迎えに来たんだなこれが。もう頭がおかしくなった。

 

リムジンの中で各々が言葉を交わすうちに到着したホテルは、近くまで来て改めてその大きさに驚かされる。……頭が痛くなってきた。

 

「はぁ……」

 

「どうかされましたか? シュウくん」

 

思わずこぼしたため息に、朱乃先輩がいち早く反応してくれた。

 

「いえ、流石に冥界の規模のデカさに疲れてきただけなんで…」

 

実は部屋の大きさにも落ち着かなくて、毎晩あまり寝れてなかったり。だってあのベッドの大きさは明らかに異常でしょうと。

 

思えばイッセーが平気そうなのが一番の驚きだ。こいつの器のデカさが故なのかなんなのか。アーシアやゼノヴィアも疲れた様子がねえし、緊張しきってんのって、もしかしてオレだけ?

 

「そうね…どこかで休憩させてあげられればいいんだけど…」

 

「大丈夫っすよ。皆、挨拶なんかもあるんでしょ? どっかで休んでますんで、行ってください」

 

「それでは、ソファがある場所までご案内しましょう。こちらに」

 

素早い対応をしてくれた従業員さんの後を追うべく、エレベーターに乗って会場入りする皆を見送った後、移動する。案内された先には、またまたおっきなソファが……?

 

「あれ、ちっちゃい」

 

「人間の方がお見えになるとのことで、馴染みあるであろうものをご用意させていただきました」

 

すげえ、なんともスムーズで的確なご対応! 実はオレみたいなパターンも少なくないってことなんだろうか。礼を告げたが、従業員さんは硬い表情を変えず、綺麗な一礼をした。

 

「それでは、ごゆるりと」

 

去っていく従業員さん。…いやあ、流石に疲れた。ここにきて驚きの連続だったもんな。今すぐにでもソファに腰掛けたいところなんだが…。

 

後にしとくか。先に片付けておきたいことができた。一回座ったら、もう立ち上がれねぇ気がするし。

 

一旦外に出よう。出ないと何も始まらねえ。クルリと振り返ったオレの視界には、相変わらずデカイ会場にざわめく人々で埋め尽くされていた。

 

中には知り合いの一人や二人…もいないかね。ここは冥界で、学校関係はほとんどが若手悪魔のメンバーだからここにはいない。他の知り合いもだいたい魔王の関係者だから、なおのことだ。

 

好都合だ。あまり大ごとにしたくないんで、誰にも気づかれないようにそっと外にでて…って、あれ?

 

「……どこだここ」

 

…ヤバい。デカ過ぎてどこがどこなのかさっぱりだ。周りにいる人は誰もが知らない人物だし、何というか初めて入ったショッピングモールで迷子になった頃を思い出す。この規模だと、新宿で迷子になったって言った方が近いか。

 

しまったな…従業員さんに言っても不審がられたら面倒だし…せめて会場の地図だけでも貰ってくるか…?

 

「お、お久しぶりですわね、人間」

 

突如、声をかけられた。

妙だ。オレには悪魔の知り合いなんて、若手かお偉いさんかのどちらかで、他にはいないと思ってたんだが…しかも久しぶり? 会ったことあんの?

 

振り返った先に見えたのは、はたまた綺麗なドレスと、特徴的な縦ロールの金髪。明らかに良い家庭のお嬢さまって感じの女の子だった。

 

…いや誰だよこの子。オレにこんな知り合いいねぇよ。しつこく言うが、オレが悪魔の中で知ってるっつったら……って、そう言えば。

 

「お前…あの焼き鳥ホストんとこの」

 

「レイヴェル・フェニックスです! 焼き鳥はやめてくださいませ!」

 

あ、思い出した。そうだそうだ、フェニックスがいたっけな。上流階級なのは間違いないながら、若手でもない、魔王関係者でもないと言えばこの家があった。

 

レイヴェル・フェニックスと言えば、かつてレーティングゲームで戦ったライザーんとこの眷属の一人だ。フェニックスの名を持つところから分かるように、ライザーの妹だったりする。

 

「悪かったよ。ライザー、だったか? あいつは元気にしてんのか?」

 

「ええ。少々塞ぎ込んでしまった時期もありましたが、かつて軽んじていた貴方に助けられたという事実を受け止め、今では力をつけるべく日々励んでおりますわ。あの日のお礼を、改めてさせてくださいませ」

 

助けられた…。多分ジャラジの魔の手から救った、なんて思っての言葉なんだろうが、それは違う。

 

「礼を言われることでもねぇよ。あの時、オレがもっとスムーズに奴を倒していられれば、あんな目に合わせることもなかった。…むしろこっちが謝んなきゃって思ってた」

 

あの日…オレがジャラジを倒しきれず、隙を与えてしまったばっかりに、不必要な苦しみを与えることになってしまったんだ。

針を脳に植え付けられ、死ねない身体で何度も針で突き刺される痛みと苦しみ。それを味あわせるきっかけを作ったのは、間違いなくオレなんだ。

 

「いえ。それでも、私たちが手も足も出なかったかの敵に、貴方がお一人で立ち向かい、打倒したのは事実ですわ。…本当に、命を救われたと感じております。感謝いたしますわ」

 

オメー、さては引かないタイプだな?

 

…まあ、それでもこう言ってくれるのはありがたいものだ。あの戦いで一番心残りだったことだから、少し気分が楽になる。

 

「…そうか。んなら、素直に受け取っておこう。ありがとな」

 

「ご迷惑でなければ、何かお返しを差し上げたいところなのですが…何かお困りでしたご様子。私でよければ、お力になりますわ」

 

「お、そりゃ助かる。わけあって一旦外に出たいんだが、あまりにバカ広くて迷ってたんだ。案内してくれるか?」

 

「は、はい! お任せください!」

 

ずいっと寄せられた顔に、キラキラと輝く瞳。さっきは良い家庭生まれのお嬢さまと言ったが、それに加えて歳相応の少女らしさもある。小猫とは違う意味で可愛らしい人物像で、今まで出会ったことのないタイプだ。

…そしてやっぱり、オレの苦手なタイプである。

 

こちらに付いてきてくださいと、レイヴェルは進み出す。何だかとても嫌な予感がするんだが、気にしないことにし、彼女の後を追う。

 

「と、ところで…えっと……」

 

途中、レイヴェルがゴモゴモと何かを口にし始めた。そう言えばちゃんとした形の自己紹介もしていなかった。多分オレの名前は既に知ってはいるんだろうが、いい機会だし簡単に名乗っておくとしよう。

 

「八神 柊ってんだ。まあ、好きなように呼んでくれ。皆もシュウって気軽に呼んでくれてるからさ」

 

「お名前で呼んでもよろしいのですか!?」

 

「お、おう…いいけど…?」

 

ものすごく食いついてきた。釣り針を垂らした直後に食いつく魚のごとし。

 

「コ、コホン。それでは、遠慮なく、シュウさまと呼んで差し上げてよ」

 

堅苦しい呼び方とともに、どこか満足げなレイヴェルはスキップ混じりに歩を進める。

…ああ、うん。楽しそうだ。楽しそうなのは何よりだ。

 

楽しそうにしてる理由は……取り敢えず、気にしないことにしよう。

 

「こちらですわ。ここの扉から外に出られます」

 

…気がつくと、目の前にどデカイ扉が佇む大広間に着いていた。結局ボーッとしすぎてて道を覚えてねぇし、帰りにまた迷うことになるんだろうな。何やってんだよオレほんと…。

 

「ああ。サンキューな、レイヴェル」

 

「ーーーーっっ!!」

 

ともあれ、礼を言わなきゃと。素直に礼を言ってみたところ、みるみるレイヴェルの顔が紅く染まっていった。

 

「え、ええ! まったく、ぜんっぜん構いませんことよ! また、お気軽にお呼びくださいね!」

 

ピューッと、駆け足でどこかへ去っていく。その足はとても素早く、あっという間にレイヴェルの姿はオレの視界から消えてしまった。

 

「…よし、要件を済まそう」

 

頭を一旦切り替え、扉を開けて外に出る。そう、ちゃんと切り替えた。取り敢えずレイヴェルのことは考えないことにした。

 

さっきドラゴンに乗ってこっちに来た時から、なんとなく外の様子は眺めてた。少し離れた位置に森があることを確認している。

 

これから向かう目的地は、そこだ。誰かが付けてきてないかを確認し、森に向かって穂を進める。

 

…何をしに向かうのか。それは、非常に簡単なことだ。

 

神さんとの修行の中で、オレは最低限、魔力というものを探知する力を身につけた。オレ自身が魔力を使うことができなくても、誰かの持つ力を探知できることは役に立つと思ったからだ。

 

その力は、敵の力量をなんとなく推察するという、オレが以前から直感で行なってきたことを応用する形で習得できた。なんか神さんが魔力使いに慣れていたことも功を成したと思う。あの人がニッコニコで大地を抉る魔力弾プッパしてきた時は冷や汗をかいたという思い出。

 

そのお陰で、なんとなくしか測れなかった皆の悪魔としての力を、より深く理解することができた。

 

まあ、それはこの際置いておくとして、だ。

 

この会場に到着した時…微かながら、懐かしい力を感じたんだ。

優しい力では決してない。慣れ親しんだ力ってわけでもないんだが…誰かに久しぶりに出会ったような、そんな感覚に近かった。

 

だがその力は、本当に微量だった。魔力に長けた部長たちどころか、他の悪魔たちがほとんど気がつかないくらい僅かなもの。正直オレは気がつけたと言っても、その力そのものを感じたわけではない。美味そうな匂いにつられ、匂いのもとを辿った先に見た宝物。つまりオレが最初に気がついたのは別のもので、近くにあったこの力を探知したってこと。つまり、本当に偶然によるものだった。

 

力を辿り、森に入る。話を続けるが、そんな誰も気づかないような微量な力に、なぜ懐かしさなんかを感じたのか。

 

そもそも魔力を探知する力は修行の成果によるもので、それ以前に会ってきた人たちの力がどんなものなんかは知らない。例えば、いつか出会ったセラフォルーさんとかその他の魔王がめっちゃ強いのは直感で推察してる。更には冥界内部に、いくつか超強力な魔力を感じるんでそのうちのどれかが魔王の一人一人なんだろうってのも予測できる。ただ完全には一致しないんだ。

力を察しても、それが誰のものなのかは一回会ってみなきゃ分からない。『なんだ! この強大な気は!?』ってなるやつと『この強大な気は、フ◯ーザ!!』ってなるやつの違いみたいなもんだ。

 

今回のこれは明らかに前者の反応になるべき筈だった。オレが知っている人の誰にも当てはまらない力は、すなわちオレの知らない力ってことになるはずだから。…だというのに、オレはなんとなくこの力を知っているんだ。

この力が、オレの知っている人物の一人とよく似ていることも理由のひとつなんだろう。その人物も少し特殊な力のようで、素人目でも結構分かりやすい。それに酷似してるってだけでも、この力に親しみを感じることはあるだろうが、なにより…。

 

これまで、何となくでしか感じられなかった違和感に似てるんだ。

 

「一緒に住んでたんだから嫌でも分かる。…いるんだろ? 出てこいよ、クロ」

 

森全体に聞こえるよう、はっきりと告げた。

 

森は静まり返っていた。あわよくばやり過ごそうって魂胆からなのかどうなのかは知らんが、生憎オレは確信を持って来てるわけだし、あっちが無視したとしても別の要件もある。その時はこっちから押しかけるだけだ。

 

やがて、森の奥から人影が現れた。

 

「…それがお前の本当の姿…か……?」

 

現れたのは…はだけた着物を身に纏い、女性特有の…きょ、胸部を、さらけ出し、あまつさえ、脚部を、見せつけるような…そんな服装の…女性だった。

 

「貴方に会いに来たわけじゃないんだけどにゃ〜。まあでも、久しぶりね、ご主人様♡」

 

クロ(仮称)は、ウインクとともに、気を抜けさせる挨拶なんかして来やがった。

 

…だがな。ひとつだけ言わせろ。元飼い主としても、健全男子としても!!

 

 

 

「不埒だ!!」

 

 

 




雑談ショー withゼノヴィア

ゼ「しかし、まさか八神が疲労でダウンとはね」

八「うっせ。あんなスケール違いの中で平然としてられるお前らの方が意外だわ」

ゼ「平然とはしてないよ。私も驚きの連続だ」

八「そうか? 昨晩もなんか落ち着けなくて、一睡もできなかったんだが。ゼノヴィアはどうだったんだ?」

ゼ「ああ、私も昨夜は落ち着かなくて眠れなかった」

八「やっぱそうか。あのデカさのベッドじゃ落ち着かなくてさ」

ゼ「アーシアも緊張して眠れなかったそうだから、二人でイッセーの部屋に移ったんだ」

八「……え」

ゼ「三人で使えば眠れるかと思っていたんだが、男と寝るのは緊張してな。中々寝付けなかったよ。イッセーやアーシアはすぐに眠ってたが、流石だな」

八「…あ、はい、そうすか。そっちでしたか」

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