ふ、と微睡から覚めて目を開ける。
最初に見えたのは、つい最近も見た天井。
視線を移せば明るい日差しが窓から注いでいる。
さぞ外は暑いことだろう。
今度は窓と逆側に視線を移す。
ベットの傍に少年が1人、椅子に座って本を読んでいた。
「……無事だったのですね、と御坂は安堵の息を吐きます。」
「ん?起きたか。気分はどう?麻酔が効いてるから痛みはないと思うけど。」
「はい、問題ありません、と御坂は報告します。」
本を置き、こちらへ向き直る彼の姿に少し納得がいきません。
何故、無傷なのでしょう?
御坂は
それなのに彼は無傷。
怪我がないのは良いことです。
ですが理不尽だとも感じます。
この差は何だというのでしょう。
お姉さまが助けに行ったから?
お姉さまはそれほど強いのでしょうか?
……そう言えば、お姉さまの姿が見えません。
「―――お見舞いはあなただけですか?と御坂は気落ちしながら問いかけます。」
「ああ、キミのお姉ちゃんは今、
「…………は?」
実験施設を襲う?
お姉さまが
……ダメです。さっぱり意味が分かりません。
「何をどうしたらそうなのですか?と御坂は疑問を口にします。」
「みこっちゃんに実験のことをれーたに補足してもらいながら説明したら、
『ぶっ潰す』って息巻きながら行っちゃったんだよ。」
「……れーた、というのはまさか、と御坂は推測を口にするのを憚ります。」
「
呆れました。
短絡的なお姉さまもお姉さまですが、この人は第一位に対して馴れ馴れし過ぎるでしょう。
アレですか。殴り合えば友達ですか。
それともただの馬鹿なのでしょうか。
「ひとまず呼び名のことは置いておきましょう。
それよりも
「いや、どっちかと言うと新しい力を試してみたいって感じかなぁ。」
「新しい、力?と御坂は更に疑問を呈します。」
「そう。魔術って言われてる力。
れーたのヤツ、ちょっと使って見せただけで、とっかかりを掴んだみたいでさ。
実践するのに丁度いいとか言って、みこっちゃんについて行ったんだよ。」
……急に話がオカルトに飛んでしまい御坂にはついていけそうにありません。
そんな訳の分からない力をすぐに使えるようになる
唯一の常識人である御坂が頑張らないといけない、ということでしょう。
「いくら
研究者たち、ひいては学園都市そのものに手を出して大丈夫なのですか?と御坂は心配を口にします。」
「ああ、大丈夫大丈夫。その辺りは偉い人と話がついてるから。」
「偉い人、ですか?と御坂は胡散臭いものを見るように見つめます。」
「そ、偉い人。この学園都市で一番ね。」
「……どうやって統括理事長と連絡を取ったのですか?と御坂は純粋に聞きます。」
「便利だよね~、ここ。
「???」
何を言っているのでしょうか、この人は。
ですが、どうやら嘘という訳ではなさそうです。
何をどうしたのかは言うつもりはないようですし、聞くだけ無駄でしょう。
―――御坂は、御坂たちは“助かった”のでしょう。
ほんの数日前までは死ぬのが当然だったのに。
それが存在意義だとすら思っていたのに。
今では生きていたいと思っている。
生きて、もっと楽しいことを経験してみたい。
この人と街を歩いたように、お姉さまとも歩いてみたい。
ひょっとしたら他の姉妹たちとも一緒に歩けるだろうか。
周りを同じ顔の女の子に囲まれたら、お姉さまはどんな顔をするだろうか。
猫という動物にも触ってみたい。
御坂たちは電磁波のせいで嫌われてしまうだろうけど、一度くらいは撫でてみたい。
……次々にやってみたいことが浮かび上がる。
考えるだけで楽しいと感じてしまう。
御坂がこんなことを考えるようになるなんて、どうやらこの人の楽観主義がうつってしまったようです。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
シスターズが病院で目を覚ます数時間前。
美琴と
というのも2人とも話が終わった途端に飛び出して行ってしまったからだ。
実験施設を襲うと息巻いていたが、静馬は特に心配はしていない。
なにせレベル5の第一位と第三位が揃っているのだ。
実験施設の10や20は一晩で瓦礫の山に変えるのは簡単だ。
しかし、後処理のために“上”に話を通しておく必要はあるだろう。
そう考えた静馬は、人気のない路地裏へと入っていく。
そして徐に空中に向かって話しかけた。
「聞いているんだろ、アレイスター・クロウリー。
こっちにも聞こえる方法で連絡してくれないか?」
一般人が見ていたら首を傾げていただろう。
静馬の周りには誰も居らず、視線の先にも何もないのだから。
しかし静馬には確信があった。
アレイスターが今、静馬を監視していると。
自分の能力が学園都市側にバレていたのだ。
<prr……prr……>
「……俺の携帯。番号を調べるなんて簡単ってか。」
<pi>
『やあ、君から声をかけてくれるとは嬉しいよ。上条静馬。』
「……白々しいお世辞をアリガトウ。学園都市統括理事長にして『世界最高の魔術師』さん。」
『ふふふ、『神の子』に知ってもらえているとは、私もまだまだ捨てたものではないな。』
男にも女にも、子供にも老人にも、清らかにも濁っても聞こえる不思議な声。
かつて世界最高と称された魔術師は、
この都市においてアレイスターの権力の及ばないところはない。
「アンタほど力のある『人間』はいないと思うけどな。
……それより頼みがあるんだけどいいか?」
『ほう、頼み?それを聞いてあげたとして、私に何かメリットはあるのかな?』
「一度手を貸してやる。」
『…………これはまた、シンプルだね。』
「あ、もちろん俺に不利益になることは対象外だから。」
仮にも学園都市のトップである人物に、静馬はズケズケと物を言う。
しかし無礼は咎められることはない。
礼儀なんてものはアレイスターにとって、アレイスターの『プラン』にとって、何の役にも立たないからだ。
それに比べれば『神の子』の力は重要だ。
大なり小なり使えるだろう。
『では、頼みとは何かな?」
「『量産型能力者計画』を始めとする『絶対能力進化計画』の完全廃止。
それと今暴れてる2人のことは目をつぶってくれ。」
『おや2つも要求があるのか?それはフェアとは言えないな。』
「どうせ廃棄した計画だろ?
だが、お前が廃棄したとしても下っ端どもが諦めるとは思わないんでな。
要するに手下の手綱はしっかり握れと言ってるだけさ。こんなもの要求とは言えないだろう?」
『……なるほど、もっともだ。
では今回の
それでいいかな?』
「ああ、それでいい。手が必要になったら連絡をくれ。じゃあな。」
<pi>
一方的に携帯を切る静馬。
しかし静馬は気にしない。
どうせアレイスターは会話を楽しむようなタイプではないだろうし、静馬もアレイスターと話していても気疲れするだけだからだ。
静馬は携帯をポケットに戻し、ぐっと背伸びをする。
そしてゆっくりと病院へ向けて歩き出す。
これからどうなるのか。
これからどうするのか。
何も決まっていなかったが、それでも静馬の顔は楽しそうに笑っていた。
静馬&御坂妹「「おかえり~(と御坂は出迎えます)。」」
一方「……何でテメェらが俺の部屋に居やがる。」
静馬「いや~、この子さ行くとこないらしいんだよ。」
御坂妹「あなたとお姉さまが壊してしまいましたので、御坂は家なき子なのです(´Д⊂グスン、と御坂は泣き真似をしてみます。」
一方「だったらオリジナルのとこへ行けばイイだろォが!」
静馬「みこっちゃんは寮暮らしでダメだった。」
御坂妹「この人(静馬を指差し)の部屋はワンルームで狭すぎました。」
静馬&御坂妹「「そして、れーた(あなた)はとても広い部屋に住んでいた、というのが全ての答えだ(です、と御坂は説明します)。」」
一方「どンな屁理屈だ、そりゃア!つーか、誰がれーただ!?」