静馬「ただいま~。」
御坂妹「おかえりなさい、と御坂はいい子に出迎えます。」
一方「―――待て、待ちやがれ。何を当然のように俺の部屋に来てやがる?
テメェもテメェで何を自然に迎え入れてンだ!?」
静馬「だって、れーたの部屋の方が広いし、居心地がいいからついw」
御坂妹「何を今更、と御坂は鼻で笑います。
それに御坂たちがいなければ、この部屋は不審者たちに荒らされ放題でした、
と御坂は反論します。」
一方「知るかッ!!放っとけよクソがッ!!」
静馬「おいおい、俺たちが家事してて助かってるだろ?」
一方「―――チッ!」
静馬は頻繁に、御坂妹は常に
―――この夏の始まりからずっとだ。
既に日付は8月の終わりを示しており、流石の
珍しく静馬が自分の家に帰った日の翌日、朝。
何が楽しいのか、御坂妹はレンジの中でグルグル回る朝食を見ながら鼻歌を歌っている。
そこには、如何にも平和な朝が広がっていた。
思わず悪態をつきたくなるが、言ってもどうせ御坂妹は聞きはしないだろう。
だから
「―――オイ、何を呑気に鼻歌なンぞ歌ってやがる。
今アイツは傍に居ねェンだぞ。いつ俺にブッ殺されてもおかくねェッてのによォ。」
御坂妹はチラリと
そしてレンジから朝食を取り出し、テーブルに置くと
特に
そしてまた次を口に―――
「オイ。」
「―――今更です、と御坂は不満も露わに答えます。」
やれやれとでも言いたげに首を振りながら答えた御坂妹に、
「どォいう意味だ?」
「2人きりになることなど何度もありましたが、貴方は今まで御坂を殺していません。
それに実験が破綻した以上、御坂を殺しても何の意味もないでしょう、
と御坂は平然と告げます。」
ぱくり、と続きを食べる御坂妹。
何の気負いもない様子に、
「どうして俺を怖がらねェ?どうして平然と話しかけてきやがる?
俺ァお前らを楽しく虐殺しまくったンだぞ。」
被害者が加害者を目の前にして、平然としているのが分からない。
今まで何度も脳裏に浮かんだ苛立ちを、
御坂妹は手を止め、
「貴方は楽しんでなどいませんでした、と御坂は断定します。」
「―――ハァ?」
変な電波でも受信したかと
しかしそこにはいつもの無表情があるばかり。
異常らしい異常が見つけられず、どうしたものかと
御坂妹は再び話し始めた。
「貴方はいつも戦闘前に御坂たちに話しかけてきました。
内容は口汚い、脅かすようなものばかりでしたが、話しかけずに殺すことはありませんでした、
と御坂は事実だけを述べます。」
「それがどうしたってンだ?」
厳しい顔で問い返す
「―――貴方は、御坂たちに逃げて欲しかったのではありませんか?
と御坂は推測を口にします。」
表情も浮かべないくせに、御坂妹の瞳は
貴方は優しい人だと。
貴方の気持ちに気付かず申し訳ないと。
そのまっすぐで真摯な瞳から、
そして否定も肯定もせず、いつもの悪態もつかず、
何も言わない
いつもの御坂妹なら、こんな
しかし今回は何も言ってこない。
空気を読んだつもりなのか、それとも食事に集中したいだけなのか。
そんな御坂妹をチラリと見た後、
「フン……(9900回以上も繰り返してやっとかよ。どンだけバカなンだッつーの。)」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「くそっ!くそっ!!ちくしょうっっ!!!」
暗い研究所の一室で、男が1人暴れていた。
周囲には研究資料と思われる紙束や分厚い本、記録媒体が散乱している。
それらを薙ぎ払ったのか、机の上には何も乗っていない。
その机に手を叩きつけ男はなおも喚きたてる。
「くそったれが!
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてだッ!!?
上手くいっていた筈だ!全ては順調だったのにどうして!?」
再び叩きつけられる掌。
かなりの音がしたにも関わらず、誰かが様子を見に来ることはない。
何故なら研究は失敗に終わり、この研究所は閉鎖されたからだ。
既に終わった場所だからだ。
その全てが終わった場所で、男――天井亜雄は立ち尽くしていた。
「俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない。
俺は何も失敗していない。俺は完璧だった。
そうさ!俺は何も間違っちゃいない!!悪いのはあのガキだッ!!!
あの
だから失敗したんだ!」
電気もつかない研究室で、天井はブツブツと呟き続ける。
絶対能力進化計画が破綻したため、シスターズの量産も中止。
製造できていたシスターズは15000体ほどだったため、
独自の計画として進めていたミサカネットワークも不完全。
何より上位命令を出させる筈の最終個体が製造できていない。
天井の企みは全て失敗に終わっていた。
それだけではない。
研究所の閉鎖に伴い、多額の負債を抱えることになった。
研究の失敗に伴い、三流のレッテルを張られることになった。
天井には突きつけられた現実を受け入れられなかった。
「俺は優秀だ俺は優秀だ俺は優秀だ俺は優秀だ俺は優秀だ。
あのガキが悪いんだ俺が悪いんじゃないんだ俺は優秀なんだ。
こんなところで終わっていい人間じゃないんだ。
俺はエリートで一流の科学者なんだ。
だからだからだからだからだから俺は失敗なんてしない。
失敗なんてあっちゃいけないんだ。
俺は優秀なんだから。
失敗なんてしない。
俺は優秀なんだから。
失敗なんて無かったことにできる。
失敗の原因を排除すれば成功するんだから。
―――そうだ成功だ!成功するんだ!!
なんだ簡単なことじゃないか!
は、ははは、ははははははっ!!!!」
暗闇の中、ただ哄笑だけが響く。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
昼過ぎ。
病院へと身体の調整に向かった御坂妹と入れ違いに、静馬が
「ただいま~。」
「―――ココは俺ン家だっつてンだろォが。」
ソファーに転がったまま
どうせ静馬も話を聞きはしないのだから。
そして
持ってきたコンビニの袋から缶コーヒーを取り出し
何も言わずもう1つ取り出し、自分でも飲み始める静馬。
ハァ、と1度ため息をつき、
「―――でェ、今日は何の用なンですかァ?」
「ん。それがさぁ、例の実験の研究者が1人怪しい動きをしてるらしいんだよ。」
「怪しい動きだァ?」
「そ。だいたいの研究者連中は他の研究所に拾われたみたいなんだけど、
1人だけあぶれた奴がいるんだと。
で、ソイツ、スキルアウトと接触して銃を買ったらしい。」
互いにコーヒーを飲みながら、どうでもよさそうに話し合う。
彼らにとっては終わった話で、彼らにとってはその他大勢がどうなろうと関係なかったから。
しかし、それなら静馬はどうしてその話を
いや、そもそも―――
「―――どうしてテメェがそンなことを知ってやがる?」
<コン>と軽い音を立てて缶が置かれる。
さっきの情報は明らかに後ろ暗い連中からの物だろう。
それを知っているということは、静馬が学園都市の暗部と関りがあるということだ。
ひょっとしたら静馬自身が暗部という可能性すらある。
置いた缶を見つめながら、
いや、見たくなかった。
もしそうだとしたら、今まで
ただ監視をしていたということになる。
これまでのトモダチのような振る舞いは全て演技だということに―――
「俺、統括理事長とメル友なんだ♪」
1秒にも満たない時間で考えていた
「―――ハ、ハァア?何言ってやがンだテメェ?
学園都市の能力者でもないテメェが、統括理事長とメル友だァ?」
「そうそう。―――ほらコレ。」
差出人の名前は『アレイスター・クロウリー』。
これだけならいくらでも偽装できるし、差出人が統括理事長である保証はない。
そもそも静馬が相手を統括理事長だと思っているだけで、騙されている可能性だってある。
疑い出せばキリがない。
しかし、それでもきっと静馬は嘘はついていないのだろう。
例え静馬が暗部だったとしても、例え静馬が統括理事長のメル友だったとしても、
これまで
静馬を見て、
「―――で、何だってこンなメールが届いたンだ?」
「最後のとこを見てくれよ。」
「ァン?」
『なお天井亜雄に関しては好きにしてくれて構わない。』
「ンだこりゃ?」
要領を得ない文章に
捕まえろ、始末しろなどの命令ならまだ分かる。
または銃を持った危険人物がいるから気を付けろでもいいだろう。
しかしこれではまるで、静馬が天井とやらに接触するのが前提のようではないか。
「……なあ、れーた。御坂妹はどこに居るんだ?」
「アイツならいつもの病院に―――クソッ、そォいうことかよ!」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
どこにでもありそうな建物の裏。
フェンスと塀に挟まれた道に天井亜雄は居た。
天井の目の前には1人の少女。
天井の手には一丁の拳銃。
誰が見ても少女が襲われていると答えるだろうその場面で、
緊張しているのは―――天井だけだった。
「いったいどうするつもりですか?と御坂は問いかけます。」
「お前は人質だ!動くな!能力も使うんじゃない!!
ただ黙って大人しくついて来い。いいな!?」
カチャカチャと震える銃口。
開ききって焦点の合わない瞳孔。
―――明らかに正気を失っている。
御坂妹が天井と出会ったのは、病院の帰り。
身体の調整を終え、いつも通り猫を探して裏道に入った時だった。
いきなり銃口を突きつけてきた白衣の男に、御坂妹は見覚えがあった。
確か研究所で
だが、今の状況にさっぱり理解が追い付かず問いかけたのだが、
返ってきた喚きに更に分からなくなる。
いったい自分を誰に対する人質にするつもりなのか。
それ以前に、拳銃ごときで
「……どこへ行くのですか?と御坂は再び尋ねます。」
「黙れ!黙れだまれダマレッ!!黙れといったら黙れぇえええ!!」
<パンッ>と比較的軽い音とともに銃弾が発射される。
しかし、不安定な天井の状態ではかすらせることもできず、銃弾はあさっての方へ飛んで行った。
あるいは威嚇射撃のつもりだったのかもしれないが。
ともあれ天井の銃が本物であることは証明された。
天井の情緒不安定さとともに。
「これで分かっただろう!分かったら大人しく―――」
「お、居た居た。無事かー御坂妹ー?」
天井の声を遮る呑気な声。
いつの間に現れたのか、静馬と
その足取りは声と同じくのんびりとした物で、現在の状況とは合っているとは言い難い。
「ききき貴様きさま貴様らぁああああ!!」
そんな2人に御坂妹よりも早く天井が反応した。
口から泡を吹きだす勢いで興奮し、
近くに居た御坂妹へと襲い掛かり、背後から左腕で首を絞めて銃を頭に突きつけた。
「う、動くな!動くなよ!!動いたらこのクローンを殺すっ!!」
「……きゃー、助けてー、と御坂は囚われのお姫様を演じます。」
犯行に及んでいる天井とは裏腹に、囚われた御坂妹には変わらず緊張感はない。
それどころか、いつもの無表情のまま演技をしていると言い張る余裕すらある。
思わず静馬と
『どうするあの
『俺が知るか。』
苦笑する静馬と、うなじを撫でながら今にも帰りそうな
当然、その様子にキレる天井。
「ななな舐めやがってぇええ!
貴様らこのクローンが能力を使ってすぐ逃げられるとでも思ってやがるんだろう!?
ええ、おい!
優秀な俺が何の対策もしてない訳がないだろうが!
この白衣は絶縁仕様だ!たかがレベル3程度の電撃なんぞ通さん!
貴様らの命は今俺が握っているんだ!分かったかこのガキどもがぁあああああ!!!」
完全に血走った目の天井を見て、次に未だに囚われのお姫様を演じているらしい御坂妹を見て、
「―――で?何がしたいンだよテメェは?」
「貴様らを排除してやり直すんだ!
貴様らさえ居なければ俺の成功は間違いなかったんだからなぁ!!」
元々
最早前後の話の整合性すら分かっていないらしい。
そんな狂態をさらす天井に、
「じゃあヤレよ。グダグダ喋ってる暇があンなら、とっとと撃ってきやがれ。」
「くっ、このガキがぁあ!いいか
分かったか!?」
「イヤだね。」
「―――……な、何?今、何て言った?」
「イヤだと言ったンだ、この三下野郎が。
どうして俺様がソイツのためにくたばンねェといけねェンだ?
ヤリたきゃヤレよ、クソッタレ。」
ポケットに両手を突っ込んだまま、如何にも不愉快だと言いたげに見下す
隣に立つ静馬も何故か
理解できない状況に天井が絶句していると、人質の方から非難の声が上がった。
「御坂を見捨てるなんて、れーたの極悪人!と御坂は非難を浴びせます。」
「黙れバカ。簡単に捕まってンじゃねェよバカ。演技もワザとらしいンだよバカ。」
立て続けに3度もバカ呼ばわりされうなだれる御坂妹。
そして―――
「―――帰るぞ、このバカ。」
とだけ告げた。
振り返らず、足を止めることもない
「了解しました、と御坂は返事をします。」
そして<バチッ>と1度だけ能力を発動する。
「っ!?電撃は効かないと<ゴキン>がっ―――。」
天井の頭にめり込んだのは金属製の排水管。
傍にある建物の壁から剥がされた排水管が、まるで吸い寄せられるように命中していた。
より正確に言うなら、御坂妹と排水管の間に天井は挟まれていた。
糸の切れた人形のように倒れる天井に、御坂妹は告げる。
「お姉さまほど自在にとはいきませんが、
引き寄せる程度の磁力なら
と御坂は説明してあげます。」
それっきり倒れた天井には目をくれず、御坂妹は
その場にはぴくりとも動かない天井だけ―――いや、もう1人残っている人物が居た。
いつでも動けるように構えながらも、結局動く必要がなかった静馬。
「やれやれ」と1度だけため息をつき、
静馬は天井の首根っこを掴んで、ずるずると引きずりながら歩き出す―――
「それじゃあ『好き』にさせてもらうとしようか。」
学園都市の外に向かって。
静馬「ただいま~。」
御坂妹「おかえりなさい。遅かったですね、と御坂はいい子に出迎えます。」
一方「―――もうツッコまねェぞ。」
静馬「ありゃ、残念。」
御坂妹「どこに行っていたのですか?と御坂は質問します。」
静馬「ん?―――ちょっと『ゴミ捨て』にね。」