<prr……prr……>
電話のコール音を聞きながら、ドキドキうるさい胸を押さえる。
本当にこの電話はつながるのか?
つながったとして、何から話せばいいんだ?
もう随分長い間話してない。
俺はもう子供じゃない。
背は伸びたし、声だって変わった。
喧嘩できるようになったし、気の合う友達もできた。
こんな俺を、俺だとちゃんと気づいてくれるのか?
<prr……p!>
っ!つ、つながった!
「も、もしもし、兄ちゃん?」
「おー、当麻か? 昼過ぎには起きるって聞いてたけど遅かったな。
ひょっとして腕以外にも怪我してたのか? 大丈夫か?」
ビビッてるのが丸分かりの問いかけに、ゆったりとした声が返ってきた。
あの夜と同じ声。
昔とは変わってしまった低い声。
昔と変わらない優しい声。
やっぱり遅くなって心配かけちまったな。
「ああ。大丈夫。怪我も大したことないから気にしないでくれ
(連絡が遅くなったのはインデックスが忘れてたからだし)」
あいつは後でもう1回、きっちり叱っておこう。
「そっか。……それにしても、当麻も高校生になったんだなぁ。」
「は?何だよ突然。」
「喋り方さ。昔はもっと可愛い喋り方だったろ?」
ぶっ!?
「しょ、小学生の時の話だろ、そりゃあ!?
……俺だって成長するんだし、喋り方くらい変わるさ。
いや!そんなことより!!
その―――会って話したいことがあるんだ。」
そう、『あの日』のことを謝るんだ。
こんな電話越しじゃなく、兄ちゃんに直接!
「俺も、話したいことがあるよ。……何せ5年ぶりだからな。
けど、今日はもう遅い。明日にしよう。
時間と場所は当麻が決めてくれ。」
「……分かった。じゃあ明日の朝また電話する。」
仕方ない、か。
でも、大丈夫だ。『あの日』とは違う。
“つながり”が切れる訳じゃない。
「了解。―――おやすみ、当麻。」
「―――おやすみ、兄ちゃん。」
ああ……随分久しぶりの“おやすみ”だなぁ。
「あ、そうだ父さんたちにも兄ちゃんが見つかったって連絡してやらないと!」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
あっれー、おっかしぃなー……。
当麻の指定したファミレスに、この学園都市に居ないはずの2人が見えるぅ……。
「静馬っ!」
「静馬さんっ!」
こっちに駆け寄ってくるのは、刀夜さんに詩菜さんじゃないかかかか!!?
「ど、どうして、2人がここに……?」
「行方不明の息子が見つかったと知って飛んでこない親がいるか!」
「そうですよ、静馬さん!
―――ああ、よく無事で……っ!」
きゃあああぁぁぁ、詩菜さんヤメテぇえええ!?
むぎゅって柔らかいモノがぁあああ!!?
………………。
…………。
……。
詩菜さんに抱きしめらるなんて、いつ振りだろう……?
小学校に上がってからは滅多に無くなったからなぁ。
この
この
でも、詩菜さんは静馬と当麻の母親だけど、『俺』のじゃない。
確かに『
『静馬』を産んでくれたのに。
『静馬』を育ててくれたのに。
『静馬』に愛を注いでくれたのに。
『俺』は―――この気持ちを抑えられない。
「
ぎゅっと抱きしめ、首元でささやいた。
「あらあら、静馬さんたら相変わらず甘えん坊ね。
体はこんなに大きくなったのに。」
「母様は変わらないね。―――綺麗なままだ。」
「あらあら、静馬さんたらお上手ね。」
笑顔を返してくれる若いままの『
ゆっくりと唇を近づけ―――
「って、させるかぁあああ!!
静馬!まぁだそのマザコンは直ってなかったか!
今日こそ親父様の鉄槌で目を覚ましてやる!!」
がばっと割り込んできた刀夜さんが、唾を飛ばしながらファイティングポーズを向けてくる。
―――ちっ。
「うぉおおおぃい!?
お前、今、舌打ちしただろう!!?」
「うっるせぇぞ、くそ親父!
昔っから母様の周りをちょろちょろしやがって!
今度こそ返り討ちにしてやらぁ!!」
「あらあら。」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
やれやれ、また始まったよ。
どうして父さんと兄ちゃんは、いっつも喧嘩するんだ?
いや、母さんを巡ってのバトルだってのは分かる。
けど、どうして母さんを取り合いになるのかが分からないっていうか……。
そりゃ母さんと兄ちゃんは仲良いけど、子供に嫉妬する父親ってどうなんですかねぇ。
でも、だけど、父さんと兄ちゃんが喧嘩している。
いつものように。
いつだってそうだったように。
……っ。
駄目だ!このままじゃ皆に心配かけちまう。
「来い、当麻!!ダブルストリームアタックだ!!」
「っ!! おう!!」
「なっ!? ま、待て2人がかりとは卑怯だぞ!!?」
撹乱するように父さんの左右から2人で飛び付いて倒すと、そのままW腕ひしぎをかける。
ははっ、こんな昔の技、まだ覚えてたのかよ―――兄ちゃん。
また、
バタバタと足を振り回す父さんは、タップもできずに悲鳴を上げてるけど、
俺と兄ちゃんは技をかけたまま笑いあった。
確かな絆を感じて。
空いてしまった月日を埋める何かを感じて。
そんな俺たちを、母さんはやっぱり「あらあら」と優しく見てくれていた。