意図せず世界を手中に収めよう 作:マーズ
「(面倒だなぁ)」
シャルロットは千冬に指名されて、心の底でそう毒づいた。
ISの実技訓練なんて、シャルロットはもうする必要なんてほとんどない。
それが、初心者に教えるような授業であるならばなおさらだ。
「(織斑くんとかオルコットさんがいるんだから、二人にしてもらえばいいのに)」
しかし、千冬の指名は三人だ。
シャルロットも専用機持ちなので、前に出て見本を見せなければならない。
ここにいる生徒たちにとって、専用機持ちは文字通り天の上の存在である。
そんな彼女たちを前に、専用機持ちが「面倒だからやりませーん」なんて言えるわけがない。
「頑張れ~、シャルルん~」
「あはは……」
手をふりふりと可愛らしく揺らしながら応援してくる本音。
シャルロットはそれに苦笑しながらも手を振りかえす。
本音は良い子だ。
性格が穏やかで人懐こく、誰とでも仲良くなれる。
シャルロットも【表向きは】似たような性格であるから、彼女とは仲良くやれるだろう。
「(本音が普通の子だったらね……)」
残念なことに、シャルロットは本音と心の底から通じ合うことはできない。
本音は、何かとこちらを嗅ぎまわっている更識家の従者である。
シャルロット自身だけならまだしも、その上の存在をも調べようとしているのは許しがたい。
とはいえ、本音はシャルロットだけのことを監視している。
シャルロットは、更識家当主のことは敵視しつつも、本音のことはそれほど嫌いではなかった。
だから、【事を起こすまでは】仲良くやるつもりでいる。
「(というか、僕だけじゃなくてクロも本当ならするべきなのになぁ)」
ぷくっと頬を膨らませて、不公平だとクロを見る。
とうのクロはシャルロットの視線に気づき、コテンと首を傾げている。
シャルロットはクロが専用機を保有していることを知っている。
だが、IS学園にはそのことを報告していない。
まあ、それもそうだろう。
シャルロットは【一応】フランス人としているし、専用機を持っていても何ら不思議はない。
しかし、クロの本当の出身国はほとんど政府が機能していなかったあの国である。
そんな国がISを保有しているとはいいがたい。
だから、束はクロをねじ込むときに出身国を変えない代わりに、専用機のことを隠したのであろう。
それでも、ズルいなぁと思わずにはいられないシャルロットであった。
「(それに、あのスタイルも……)」
どうやらシャルロットが嫉妬しているのは、スタイルのことも含まれているようだ。
シャルロットとほとんど変わらない低身長であるのにもかかわらず、真耶にも匹敵する乳房。
最早巨乳の枠を越えて爆乳と言えるのではないだろうか。
さらに、それでもスタイルは滑稽とならずに美しく整っている。
豊満な乳房に括れた腰、安産型のお尻に肉付きが良い脚。
シャルロットは羨ましくて仕方がない。
とはいえ、そう言うシャルロットもかなりのスタイルの良さである。
乳房はクロや真耶には劣るものの、Eカップという申し分のない大きさである。
鍛えられたお腹周りは引き締まっているし、肉付きの良いお尻は柔らかくも張りがある。
そんなシャルロットの肢体に、一夏の視線がチラチラといっていることからして、他の女子生徒たちに比べて魅力的なのは明らかであった。
「飛べ」
千冬がISを展開した三人に向かってそう告げる。
シャルロットは指示されることに若干ムカつきながらも、従って上空に飛ぶ。
上空に浮かんでいると、他の2人もやって来た。
この二人は、少し前に決闘をしたとは思えないほど仲が良い。
今も二人で話しているのを、愛想笑いを浮かべながら相槌を打っていたシャルロット。
「っ!!」
しかし、とある視線を感じて顔をバッと上げる。
シャルロットはよく視線を感じる。
彼女の容姿は群を抜いて美しいし、スタイルだって抜群だ。
街を出れば、異性だけでなく同性の視線も独り占めにする。
ほとんどが女子で構成されているIS学園であるが、中性的な容姿をしているシャルロットはそっち系の女子の視線も感じるほどだ。
しかも、今は実技訓練ということでISスーツを着ている。
豊満で男好きのする魅惑的な肢体が浮き出ているシャルロットに、視線が集まるのは当然かもしれない。
実際、一夏もチラチラと身体を見てきていることは知っていた。
しかし、この視線を受けた感じはこれまでのものと大きく違っていた。
一夏や他の女子生徒から視線を受けても、鳥肌が立ったり不快に思ったり気持ち悪く思ったりするだけである。
だが、今回の視線を受けたら、何だか心の底から安心できるものに包み込まれたような感じがするのだ。
シャルロットは、こんな暖かな視線を向けてくれる人物を知っていた。
「(院長!)」
シャルロットが目を瞑る。
すると、向けられる視線が細長い布のようなものに変わる。
綺麗な白い布は本音のものである。
この薄汚れた布は……一夏である。どうやらまたシャルロットの身体をちら見していたようだ。
シャルロットはイライラしながらも、今は先にやることがあるので見逃してやる。
そして、一つ真っ赤な布が見つかる。
それを掴むと、暖かい気持ちが伝わってくる。
院長以外には冷え切っていた心さえも、温かくとかしてくるようだ。
「(見つけたっ!)」
シャルロットは目をグワッと開く。
彼女を見ていた本音がビビるほど、目はギラギラとしていた。
視線の先は、アリーナの全貌を臨める特別観戦室であった。
防弾、防刃など様々な特殊加工が施された超硬度のガラスの先には、シャルロットの望む人物がこちらを見ていた。
「(院長だっ♡)」
全身からブワッとピンク色の瘴気が溢れ出す……ような幻覚を本音は見た。
遥か下からシャルロットを見上げる本音は気づかなかったが、彼女の瞳の中にはハートが散りばめられていた。
それも仕方がないかもしれない。
院長至上主義を掲げるシャルロットは、IS学園に入学して以来好きな時に院長に逢いにいくことができないからだ。
確かに、理事長に頻繁に女子生徒が逢いに行けば、何かよからぬことをしているのではないかと勘繰られるだろう。
とくに、院長は今年から理事長に就任しており、男でもある。
男を良く思わない女尊男卑の思想に染まった生徒や教員は少なからずいるだろうし、今隙を見せるわけにはいかない。
「(僕としては、そういったスキャンダルになってもいいんだけど……)」
シャルロットは自分が理事長室に入り浸って彼の女になることに、何のためらいもない。
うるさいやつは皆殺しにすればいいし、デュノア社からの上納金の一部は彼との逃避行のための資金として確保している。
この世界から逃げ出して、二人だけの楽園を創るのも悪くない。
そこで、退廃的な生活を送ることを想像すると、豊満な胸の奥がドキドキとする。
「(でも、そうすると他の子たちがなぁ)」
シャルロットがその案を実行に移さないのは、孤児院の幹部メンバーが気がかりだからだ。
もし、彼女が作戦を実行したとして、彼女たちが黙って見ているだろうか?
絶対に見ていない。何かしらの攻撃は絶対に加えられる。
シャルロットは確信していた。だって、自分もそうするだろうし。
彼女は相手が幹部メンバーであろうと、簡単に負けるつもりはない。
しかも、院長との楽園ラブラブ生活が懸かっているのとなれば、通常の何倍もの力を発揮するだろう。
だが、院長が取られるということがかかっている幹部メンバーは、文字通り死ぬ気で襲撃してくるだろう。
流石に、自分以外の9人と正面からぶつかって生きていられるとは思わない。
というか、生きていられるならさっさと実行している。
「(多分、僕以外の皆も一度は考えたことがあるだろうな)」
シャルロットの読みは正解である。
それどころか、シロは数日前にそれを考えていた。
だが、孤児院幹部会はお互いが抑止力となっているのである。
これが、院長という一人の存在の上に成り立っている危険な孤児院の全貌である。
「(院長~♡)」
手をふりふりと振ると、院長はニッコリと笑って振りかえしてくれる。
それだけでシャルロットは幸福感に包まれる。
さらに、院長に見られているという事実が彼女を興奮させる。
普段から彼の視線を集めるために、スカートをかなり短くして生脚をふんだんに見せつけたりしているシャルロット。
だが、今の彼女はそれよりも露出度の高いISスーツを着用している。
そのことが、彼女を昂らせる。
「(他の人だと気持ち悪いだけなのに……院長のは違う……)」
身体にぴったりと吸い付いたISスーツを見られることは、身体そのものが見られていると言っていい。
普通であれば何らかの負の感情を抱くシャルロットであるが、院長に向けられたものだと別である。
乳房の先端にある突起が硬く尖り始め、ISスーツを押し上げる。
下腹部がキュンと疼き、じんわりと湿りを帯びる。
「(ふー、我慢我慢……)」
今すぐラファール・リヴァイヴ・カスタムIIをかっ飛ばして彼に抱き着き、匂いをくんくんと堪能しながら火照った身体をこすり付けたい。
そして、それ以上のことも妄想してしまうシャルロット。
だが、院長に害を及ぼさないためにはそんなことをして注意を引き付けてしまってはいけない。
自制心(笑)のあるシャルロットは、それを抑え込む。
そうしていると、千冬から降下指示が伝えられる。
院長以外からの命令にまたもやイラッとしながらも、湿った下半身を乾かすために最初に実施する。
ちなみに、院長に命令された場合はゾクゾクと背筋を強張らせてなんでも遂行するだろう。
その後、シャルロットは内心の発情を周りに一切気取らせることなく、見事に授業をやり遂げる。
授業終了後、院長に猛ダッシュで逢いに行ったのは余談である。
この小説は一か月に一回更新でしたっけ?(すっとぼけ)