意図せず世界を手中に収めよう   作:マーズ

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オータムのお話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある高層マンションの一室。

下を見下ろすと人が豆粒のように小さく見えるほどの高さで、まさに勝ち組の見られる景色である。

 

ここは『亡国機業(ファントム・タスク)』の実働部隊であるモノクローム・アバターの世界中に点在しているアジトの一つである。

そのアジトに、一人の女性がいた。

 

「つ、ついに手に入れちまった……」

 

長くて豊かな茶色の髪を持つ女性。

顔は端正に整っており、衣服に包まれながらも豊満な肢体を思わせる線を描く身体つきをしている。

 

見るからに大人の女性といった雰囲気で、まさに美女というにふさわしい。

そんな彼女はタラリと汗を流していた。

さらに何故か頬は紅潮していて、綺麗というより可愛らしさが前面に押し出されていた。

 

「あら、オータム。今日はここにいたのね」

「おぉっ!スコール!」

 

扉を開けて、アジトの中に入ってきた女性。

豊かな金髪を持ち、豊満なスタイルをしているスコールであった。

 

そんな彼女は少し驚いたかのように、目を見開いて茶髪の美女―――オータムを見やった。

この実働部隊でも一番働かされているのが、このオータムである。

 

エムもまた優秀なテロリストで使い勝手もいいのだが、たまに院長を求めて暴走してしまうことがあるため、ツンデレ全開のオータムに任せられているのである。

彼女も暴走しそうになるときはあるが、素直になることができないので任務を優先させてしまうのである。

 

まあその際彼女の怒りの吐け口となったものは、人や構造物に限らずめちゃくちゃに壊されているのだが。

ちなみにスコールと一緒にエムも入室しているのだが、オータムは彼女のことを見ようともしない。

 

エムもまた同じである。

二人とも気が強く、一部の人間以外は全て敵だと認識しているが故である。

 

「あら、あなた、携帯電話を持っていたの?」

「いや、最近買ったんだ。あ、ちゃんと脚を取られないように改造してっから、大丈夫だぞ」

 

スコールはオータムが持っている携帯通信機器を見て驚く。

彼女がこれまで持っていなかったはずの物だからだ。

 

そもそも彼女たちに携帯電話はあまり必要ではない。

仲間同士の通信は自身の専用機で回線を飛ばせば事足りることだし、組織上層部からの命令は人を送らせるか始末できる文書で送らせている。

上層部たちも、まだ会話ができるスコールであればいいのだが、バリバリ敵意と殺意をぶつけてくるオータムやエムと会話なんてしたくもないので、ほとんどが文書での命令である。

 

「なあ、スコール。電話番号とメアド?ってやつを教えてくれよ。私の恋人なんだからな!」

「ふふふ、ええ、いいわよ」

 

キラキラと目を輝かせてグッと顔を近づけてくるオータム。

その反応にスコールは、自身の恋人の可愛らしい姿に思わず笑顔がもれる。

 

ちなみにエムはもはや二人のことを完全に意識の外に出していた。

今はこの前の院長の寝顔を収めた写真を見て、息を荒くしている。

 

「あなたの携帯の電話帳、最初の名前は私かしら?」

「えっ!?も、ももも勿論だぜっ!?」

 

スコールが自身の携帯を慣れた様子で操作しながら聞くと、機械のことがいまいちわからなくてボーっとしていたオータムが盛大にキョドる。

男よりも男らしい豪快な性格の彼女が慌てているのを見て、またスコールは美しく微笑む。

彼女の電話帳に最初に刻まれているのは、当然ながら自分ではないことを分かっている。

 

「彼とのメールは楽しい?」

「ああっ!……た、たた楽しくねえしっ!!」

 

ニッコリと微笑んで尋ねるスコールに、オータムは元気に返事してしまう。

もういくら取り繕ったとしても無駄であった。

 

そう、彼女の電話帳の最初の名前欄には、しっかりと院長と記されていた。

この機会に名前を聞こうとしたのだが、うやむやとなってしまっていた。

ただオータム的には満足しているのでそれでいいだろう。

 

「もう、そんなツンツンしていたら、彼だって嫌がるわよ?」

「や、やっぱりか?私の態度、やっぱりマズイか?」

 

ちょっと意地悪を言ってやれば、縋り付いてくるオータム。

うるうると涙目になっている彼女の姿を見て、嗜虐心が刺激されるスコール。

自身の恋人の可愛らしさに熱いため息をつく。

 

「うふふ、冗談よ。彼があなたのことを嫌うわけないじゃない」

「そ、そうか?スコールが言うんだったら、そうなんだよな」

 

スコールに弄ばれるオータム。

これが恋人である彼女と院長以外なら、地面に落ちたザクロのようになっていただろう。

 

うんうんと何度も頷いて元気を取り戻すオータム。

そんな彼女にスコールは助言を送る。

 

「直接会って話すのはまだ難しいのだったら、メールならどうなの?」

「メールか?もう送ったぞ。い、一応私の中では頑張ったつもりだ……」

「あら、そうなの」

 

照れた様子で告げてくるオータム。

まあそれもそうかとスコールは一人で納得する。

 

最初に電話帳に登録したのだったら、もうすでに連絡をとっていてもおかしくない。

いや、院長にデレデレな彼女なら、すぐにでもするだろう。

 

「じゃあ見せてくれないかしら?」

「え、ええ……いくらスコールでも流石に……」

 

突っ込んでくるスコールに恥ずかしさを隠せないオータム。

頬を赤らめて照れている姿は、今時の女の子のようだ。

しかしいつまでたっても携帯を見せようとしないので、スコールは強硬策にうってでる。

 

「エム」

「ああ、私も院長と会話できるそれには興味がある。よこせ」

「―――――お呼びじゃねえんだよ、クソガキが!!」

 

スコールが名前を呼ぶと、オータムの背後から襲い掛かるエム。

いつの間にやら写真は大切にしまっていて、彼女の好奇心は携帯電話に向けられていた。

 

オータムは奇襲を受けたとはいえ、流石は『亡国機業(ファントム・タスク)』トップクラスの戦闘員。

背後からの攻撃を転がって避け、猛然と牙をむく。

 

とてつもない殺気が部屋中を駆け巡る。

敵意ではなくて殺意なところが、彼女たちの関係性を表している。

 

もし院長という橋がなくなった時点で、彼女たちの間の繋がりは何一つ残りはしない。

一般人どころか訓練を受けた軍人でも気絶しそうなほど濃密な殺気の立つ空間の中、スコールはどこ吹く風とばかりに携帯を取り上げる。

 

「あぁっ!?いつのまに……!?」

「ええっと、どれかしら……」

 

ガンッと衝撃を受けるオータムをしり目に、スコールは慣れた手つきで携帯を操作する。

この中で一番お年を召されている妙齢の美女が、一番恋愛ごとに興味を持っていらっしゃった。

 

そんなことをふと思うエムだが、ばれたらガチの戦闘に発展しかねないので自重する。

彼女も院長とクソ女がどのような会話をしているのか気になったので、スコールの横から携帯を覗き込む。

もし気に食わないことが書かれてあれば、ISを装着して襲い掛かる腹積もりである。

 

「これかしら?」

 

スコールが一つの送信されたメールを見る。

 

『おっはよ♪あなたはもう起きてるかな?起きてないならこのメールで起きてね!目覚ましコールだよー!やっぱり健康的な生活を送るためには、早寝早起きは必須だよね!私はあなたに長生きしてほしいから、こんなことするんだよ?きゃっ、恥ずかしい☆それでね、今日は私お仕事なんだ。これもあなたのために頑張るねっ☆じゃあいってきまーす!あなたの一日に、幸運が満ちていますようにっ☆』

 

「…………」

「…………」

 

空気が凍る。

先ほどまでほのぼのとしたものだったり、殺気が凄まじいものであったりとした空気が、一切音を立てなくなった。

 

スコールは自身の恋人のあまりの変容にたらりと一筋の汗を垂らしている。

対して恥ずかしいメール内容を覗かれたオータムは、顔を真っ赤にしてお目目グルグル状態である。

 

「……メールでは随分、その……正直なのね」

「―――――~~~~~っ!?」

 

何とか感想を言い述べるスコール。

冷静に即断する決断力を持つ彼女が、ここまで言葉に躓いたのは初めてではないだろうか。

 

そしてその優しさがオータムの心を切り刻む。

スコールの横で携帯を覗き込んでいたエムが、今まで閉じていた口を開いた。

 

「ふっ、酷いな」

 

ビシリ……と音を立てて固まる空気。

ここまで気の利かない発言をするとは思っていなかったスコールは、目を見開いて彼女を見る。

 

こんな表情を見たのはオータムも初めてである。

普段であれば新しい表情を見られたと喜んだかもしれないが、今はスコールのことはまったく頭の中にはなかった。

 

「酷ぇのはテメエの料理の方だろうがぁぁぁぁっ!!」

「……なんだと?」

 

とうとう爆発したオータム火山。

周囲への被害は計り知れない。

 

ついでに誘爆してしまったエム火山。

二人は互いに武装を呼び出して向けあう。

 

毎度おなじみの光景にため息をつくスコール。

そんな彼女が持つ携帯が、揺れ動きながらメロディを奏でる。

 

「誰かしら?オータ―――――」

 

エムと激しい近接格闘戦を繰り広げているオータムに、親切心から声をかける。

ただ彼女はエムといるとすぐに我を忘れて冷静さをかなぐり捨ててしまうので、返事は期待していなかった。

 

しかしここでもオータムはスコールの予想を飛び越える。

彼女の名前を呼び終えるよりも前に、オータムはスコールの手から携帯を奪い取った。

 

まるで野生の獣のように俊敏な動きに、実力者であるスコールの目も追いつかなかった。

ふと戦地を見ると、エムが顎を抑えながら地面を転げまわっていた。

 

どうやら一瞬でエムをのしてから来たらしい。

実力はほぼ互角であるのに、このメロディを聞いた途端ドーピングでもされたかのような急激な戦闘力上昇である。

 

「いきなり何だよ?あ?別に忙しいとかじゃねえって」

「……はあ。メールばっかになんのは仕方ねえだろ。私だって働いているんだ」

「……ああ、わかったって。また帰るから」

 

そのような会話をして電話を切るオータム。

スッと顔を伏せているため、表情が分からない。

 

恐る恐るといった様子でスコールが彼女の顔を覗き見ようとする。

しかしその前にオータムがバッと素早く顔を上げたおかげで、彼女の顔を見ることができた。

顔は真っ赤に紅潮し、口角を限界まで釣り上げて笑っていた。つまり満面の笑みである。

 

「スコール!あいつがメールばかりじゃなくて電話もしろってさ!それに帰ってくるのを待ってるって!」

「ええ……それは良かったわね」

「かぁ~!仕方ねえやつだなっ、本当に!仕事片したらちょっと顔だしてやるかっ!」

 

頭をガシガシとかいて笑うオータム。

口で言っていることと表情に出ている感情がまったくかみ合っていない。

 

スコールは恋人のいじらしさに微笑ましさを感じるのと同時に、そんな幸せなことを自分に言わない院長に軽く拗ねる。

今度会った時にはいつも以上に連れまわすことを決意したスコール。

 

「んじゃ、さっさと仕事行ってくるわ!」

「ええ、早く彼の元に行きたくて仕方ないのね」

「そんなんじゃねえって!じゃあな!」

 

アジトから出て行こうとするオータムをからかうスコールであったが、彼女の求める反応は帰ってこなかった。

普段なら顔を真っ赤にして大きく否定するのであるが、今はニッコニコした満面の笑顔であった。

 

一応口では否定しているのだが、だらしなく緩めた顔はまったく否定していなかった。

スコールは何となく面白くない。

騒がしいオータムが去ったあとにアジトに残ったのは、憮然とした表情のスコールと顎を抑えながら殺気を撒き散らすエムだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふー、ふんふふふん」

 

オータムは非常にご機嫌だった。

久しぶりに院長と会話することができ、しかも帰ってくることをお願いまでされた。

 

これでツンツンが中々治らないオータムも、孤児院に帰る大義名分を得ることができたのだ。

どうせ鬱陶しいクロシロコンビが妨害してくるだろうが、まあ今の良い気分ならば許容範囲だ。

度を越した妨害をしてこなければ、見逃してやることにする。

 

「ふふふんー、ふふんー」

 

オータムの鼻声が、血だらけの研究室に響き渡る。

彼女の鼻歌は非常に上手で、聞いている者を穏やかな気持ちにさせる。

 

しかし今ココに彼女の鼻歌を聞くことができる人間はいない。

皆地面に倒れ伏していた。

 

白衣を着た研究者だった人間もいれば、銃器を身に着けた軍人だった人間もいる。

それらは皆身体から血を溢れさせていた。

 

「んふー、今日の仕事も終わりっと。結構集まってきたんじゃねえか?」

 

鼻歌を歌い終えたオータムは、手の中にある待機状態のISを見る。

彼女の任務は、この研究室で開発されていた新型ISの奪取であった。

 

いつも通り人も物も破壊しつくして任務を完遂させたオータム。

さっさと自身が装着しているISを解除しようとする。

 

「ぅ……ぁ……」

「あん?」

 

しかし、自分以外の声が聞こえたことに解除を踏みとどまる。

確かに皆殺しにしたはずなんだが……。

 

そう思って首を傾げるオータム。

蜘蛛を連想させる彼女のIS、アラクネを声の元へと動かす。

 

そこには一人の血だらけの女性が倒れていた。

どうやら意識はないようで、小さなうめき声だけ漏らしていた。

 

「お、こいつは中々骨があったやつじゃねえか。そうか、まだ生きていたのか」

 

オータムはポンと手を叩いて思い出す。

今回の襲撃の際、地面に倒れ伏している彼女は果敢にも自身に立ち向かってきた軍人だ。

 

量産型のISも装備していて、オータムとIS戦闘を繰り広げた。

彼女も中々の力量を持つIS操縦者だったが、相手が悪かった。

 

亡国機業(ファントム・タスク)』の実働部隊の中でも一、二を争うほどの戦闘力を誇るオータムである。

その実力は国家代表生にも匹敵するほどだ。

 

「あー、悪いな。スコールだったらお前を拉致して私たちの仲間にするんだろうが、私はこれ以上仲間ってやつは欲しくなくてな」

 

オータムは彼女の頸を掴んで持ち上げる。

悲鳴は上がらない。

 

意識はもうないのだから。

オータムは八本ある装甲脚に突き刺さっていた人間を無造作に放り投げ、その血に濡れた脚を彼女に近づける。

 

「本当は私とスコール、そんで……まあ、あいつ……だけでいいんだよ、新しい世界の支配者は。クロもシロも、そんでもってあいつらも皆いらねえ。私たち三人が上に立つべきなんだ。まあ今あいつらとやり合ったら私もただじゃすまねえし、一応我慢しているけどな。……意識のないテメエに言ったってわかんねえか。じゃあな、スコールとかあいつじゃなくて、私と戦った自分を恨みな」

 

そこまで言うと、オータムは装甲脚を彼女の腹部に突き入れた。

最後に残っていた命も、ここで潰えるのであった。

 

 

 

 





オータムがこんな性格だったら、幼馴染にほしいです。
原作のオータム?別にいいです……。

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