IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜   作:ドラーグEX

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集い始めるツワモノたち 〜または素直になれない間柄〜

楯無たちと合流し、ゴーレムを倒したマドカは、瑛斗より先に補給ポイントへ到着していた。

もちろん先刻出発したばかりのマドカが楯無たちを引き連れてとんぼ返りしてきたことに驚く自衛隊の者もいたが、特に追求されることもなく作業を再開していた。

「桐野のやつ、遅いな」

「全然来る気配がないっすね」

ダリルとフォルテが海の方を双眼鏡で覗いているがそれらしいものは見えていない。

その近くで、マドカは楯無にこれまで見聞きしたことを話していた。

「分断されたことまでは知っていたけれど、亡国機業まで動いてたのね」

「はい。でも、私と瑛斗を助けてくれました」

「連中は何を考えているのかしら……」

「私は、博士が何を考えてるのかのほうがわかりません」

「それは多分この世界中の人がそう思っているわ」

苦笑する楯無はその傍で椅子に座っている簪に目を向けた。

「……簪ちゃん。大丈夫よ、瑛斗くんはきっと来るから」

「うん……」

瑛斗の声はさっき聞いた。しかし簪はまだ瑛斗の姿を見ていない。

「瑛斗……大丈夫、だよね………」

一分でも、一秒でも早く瑛斗に会いたかった。

そこに━━━━。

「おーい! 簪ー、マドカー」

瑛斗がやって来た。しかし、前方の海からではなく、ISを展開しておらず後ろの車道から走りでだった。

「あ、来た! 瑛斗だ!」

「元気みたいっすね」

「完全に海の方見ちまってたぜ」

「久しぶりですねダリル先輩。ハウンドの調子はどうですか?」

「ああ、バッチリだ」

「瑛斗!」

瑛斗が現れた瞬間、抑えきれなかった簪は瑛斗に抱き着いた。

「か、簪……?」

「よかった……! 瑛斗、会えた……!」

ぎゅうっと抱きしめて顔を胸にうずめてくる簪の頭を、瑛斗は軽く撫でた。

「心配かけたな。ごめんな」

「ううん……。瑛斗が無事なら、それで……!」

「瑛斗くん、無事で何よりだわ。早速質問なんだけど、なんで後ろから?」

「え、あー………実は」

瑛斗はそこで声のトーンを下げた。

「《セフィロト》を使って急いでこっちに来たんです。色々面倒になる前にちょっと回り道してきました」

「《G-soul》はどうしたの?」

「戦闘で大分損傷しちゃって……」

「そんなに強かったの? あの白くて小さいの」

マドカも瑛斗と楯無の会話に参加する。

 

「ああ。まさか相手がくーだとは思わなかったぜ」

「くーって、あの機械義肢(サイボーグ)!?」

「驚いた。胸にISのコアが埋め込まれてやがるんだもんな」

「機械義肢?」

「なんのことっすか?」

「詳しくは説明できませんけど、篠ノ之博士が連れてる女の子が機械義肢なんです。G-spiritでも結構押されちゃって。でも戦闘は向こうが勝手にどっか行ったから途中で中断です。そっからここに直で来ました」

「そう。G-soulは動きそう?」

「なんとか。でも装甲がボロボロです」

「じゃあエネルギーだけでも補給してもらって来て。武器は使える?」

「は、はい」

「これからは私たち六人で行動するわ。無人機の数が増えた今、単独行動は自殺行為よ」

テキパキと指示をする楯無。ふと、瑛斗はこの場で一番の年長者のダリルを見た。

「ん? なんだ?」

「あ、いえ、別に……」

そこで、瑛斗の心中を察したフォルテが瑛斗へ耳打ち。

「桐野、仕方ないっすよ。先輩は指示とかそういうのは出す側じゃなくって破る側っす。今回だって勝手に……」

「聞こえてんぞ」

ゴッ!

「だっ!?」

ダリルの拳骨がフォルテの頭に落下した。

「い、痛いっす!」

「自業自得だ、バカ」

「は、はは、お変わりないようで」

「さてと、それじゃあ桐野くんの補給が終わったらここを出発するわよ」

「はい。簪、いいかな?」

「え、あ……うん」

ぴったりと横に立っていた簪に離れてもらい、瑛斗は無人展開されたISが並べられている補給装置の前に急いだ。

 

「隊長! 撃滅用パッケージ《フェーゲフォイアー・シュトゥルム》搭載完了しました!」

瑛斗たちとは別の補給ポイントで、張り上げられた声が響いた。

「ご苦労クラリッサ」

「はっ!」

敬礼しながらいかにも軍人らしい返事をしたのはクラリッサ・ハルフォーフ。階級は大尉。ドイツ軍特殊部隊『黒ウサギ隊』またの名を『シュヴァルツェ・ハーゼ』の副隊長である。

そしてその前にいるのはその黒ウサギ隊隊長のラウラだった。

「ドイツ軍からの増援はどれ程のものだ」

「はっ! 自国防衛に四機を残し、六機のISが増援に来ています。三機編成の二小隊で行動していました。この補給ポイントから数百メートル先で、同じく黒ウサギ隊の隊員二名が哨戒にあたっています」

「よし。時間が惜しい。弾薬とエネルギーの補給が終わり次第ここを発つ。お前は元の小隊に戻って戦闘行動を再開してくれ」

「了解っ!」

「すごいなぁ、ラウラ……」

それを後ろの方で見ていたシャルロットは感嘆の声を上げる。

「ドイツ軍特殊部隊……ブリュンヒルデが教官をやっていたわね」

「ラウラちゃん、立派なものね」

自分の機体の状態の確認を終えたナターシャとエリナがシャルロットの横で言った。

「はい。なんだかいつもと違ってカッコいいです。でも……」

「でも?」

「僕は可愛いラウラの方がいいな」

「うふふ、そうね」

「……しかし、隊長にお会いできて良かったです。上層部を説得してパッケージを持って出向して来た甲斐がありました」

「ああ。私たちも偶然このポイントに来たのだが、合流できて幸運だったぞ」

「……ところで隊長」

「なんだ?」

「つかぬことをお伺いしますが、隊長の嫁はどちらに?」

「む、瑛斗か。瑛斗とは無人機の策略で分断されてしまった。ISのコアネットワークが機能していないから連絡も取れずにいる」

「そうですか………心配ですね」

「フッ、心配いらん。瑛斗は私の嫁だからな」

「そうですね! あの者は隊長の嫁です! きっと無事ですよ!」

「うむ、当然だ」

「……………………」

「……………………」

シャルロットとエリナとナターシャはドイツ軍人二人の『嫁』連呼会話に呆気にとられていた。

「……ねえ? シャルロットちゃん」

「は、はい?」

「瑛斗と、あの子、いったいどういう関係? なんか、嫁って………」

「もしかして、未来誓い合っちゃってるとか?」

「あ、あはは……。気にしないでください。日本の文化らしいですから」

「そ、そう……」

「不思議ね。お堅いことで有名なドイツ軍人があんな風に。どんな日本文化かしら」

そんな会話をしていると、クラリッサがこちらに駆け寄ってきた。

「シャルロット・デュノアどの……ですね?」

「え、あ、僕? は、はい。そうですけど」

 

ドイツ軍人から声をかけられてシャルロットはピンと背筋を伸ばした。

「クラリッサ・ハルフォーフ大尉です。隊長からよくお話しを伺っております」

「ど、どうも。あの、ぼ……私になにかご用ですか?」

「いえ、特には。隊長がいつも楽しそうにお話しなさるので、どのような方なのか、お顔を拝見したく」

「は、はぁ」

「かけがえのない存在だと、隊長は仰っていました」

「わ、私も、ラウラはとっても大切な親友です。ううん、親友以上です」

「親友以上……………そうですか」

クラリッサは小さく笑ってから、シャルロットの耳の傍に顔を近づけて囁いた。

「私も、可愛い隊長が大好きです……」

「え……! き、聞こえてました?」

「これからも、隊長のことをよろしくお願いします」

言い終えるとクラリッサは笑顔を浮かべた。その目は母親のような優しさを宿している。

「あ、こ、こちらこそ!」

見惚れて返事をやや遅らせてしまったシャルロット。

「では、私はこれで」

クラリッサはもう一度敬礼すると自機である《シュヴァルツェア・ツヴァイク》を展開して遠くに見える2機の黒い機体に飛んで行った。

「……いい人ね」

「そうね。さしずめあの子のお母さんってところかしら」

エリナとナターシャもクラリッサに良い印象を持った。そこにラウラが近づいてきた。

「こちらの用は済みました。エリナどの、そちらは?」

「ええ。私たち全員エネルギーも弾薬も補給完了よ。いつでも出れるわ」

「了解した。では行きましょう」

ラウラの言葉を受けて全員がISを装着する。

「ラウラのそのパッケージ、初めて見るよ」

シールドの接続具合を確かめたシャルロットはラウラの展開する《シュヴァルツェア・レーゲン》の姿を見た。

「ああ。本国でシュヴァルツェア・レーゲン用に開発された新型パッケージだ。遠近両方の攻撃ができる」

増設されたブースター、左肩の装甲にマウントされた大型実体剣、そして固定武装のものと別に背中で二つ折りにされた長銃身レールカノンがラウラのその言葉を肯定している。

「この4人で小隊を組むわ。みんな離れちゃダメよ」

「しっかりね、隊長さん♪」

エリスの指示をナターシャが茶化す。

「ナタル……あなた一応軍人なんだから、あなたがやったらどうなの」

「嫌よ。それにエリーがやった方がしっくり来るわ。いつかみたいに」

「もう。━━━━それじゃあ行くわよ!」

全員同時に空へと飛ぶ。

「シャルロット」

「どうしたの?」

「さっきクラリッサと何を話していたのだ?」

「………………」

「?」

目をぱちくりさせるラウラに、シャルロットはクラリッサの言葉を思い出した。

「……なんでもないよ。ただ、これからもラウラのことをよろしくって」

「? そうか。では、よろしく頼む」

「うんっ」

「二人とも、楽しそうなところ悪いんだけど」

いつの間にか止まっていたエリナが声をかけた。

「おいでなすったみたいね」

ナターシャもその翼を広げて戦闘態勢に入る。

前方には無人機。その数は四

「四機か」

「さっきの追加の機体かな」

「この際どっちでもいいわ。倒すことに変わりないもの。ナタル、私の獲物取っちゃダメよ?」

「しつこいわね。安心して。危なそうだった時だけ助けてあげる」

「はいはい。そうなったら頼むわよ!」

エリナの言葉を皮切りに、戦闘が始まった。

 

 

瑛斗たちともラウラたちとも違う補給ポイントに鈴とセシリアは到着した。しかし鈴の表情はあまり浮かばない。

「やっと補給ポイントに着けたのはいいんだけどさぁ。どーして真っ先にアンタと鉢合わせなのよ」

「出会いがしらに文句言わないでくださいよ」

「何よ」

「なんですか」

鈴とメンチを切り合っているのは言わずもがなであるが、蘭であった。

「よかったですわ。顔見知りな方と合流できて」

「……無事でなにより」

そんな二人をよそにセシリアと梢は水分補給パックに口をつけていた。

「それにしてもあの二人、こんな状況なのに変わりませんわね」

「……喧嘩するほど、です」

「ま、どちらでも構いませんわ。わたくしたちは先生たちの指示でこちらのグループと行動を共にしますが、よろしくて?」

「……」

梢はコクリと頷く。セシリアははじめのうちはこの梢の無口っぷりに苦戦したが、今ではすっかり慣れて、コミュニケーションは問題なく取れている。

視線を戻すとまだ鈴と蘭は口喧嘩していた

「さっき先生から無人機を3機倒したって聞いたけど、アンタちゃんと戦ったわけ?」

「し、失礼なこと言わないでください! 私だって頑張りました!」

「どうだか。アンタに聞いても怪しいわ。梢!」

鈴は梢に話を振った。

「……はい」

「どうだったの? 蘭はちゃんとやってた?」

「……はい。先生たちよりも、活躍してました」

「なぁっ!?」

その言葉に鈴はオーバーリアクション気味に一歩たじろぐ。

「そうだよ梢ちゃん! もっと言っちゃって!」

「……それはもう、鬼神のような暴れっぷりで、バッタバッタと」

「梢ちゃんそれは盛り過ぎ!」

「……冗談はこれくらいで。でも蘭はちゃんと戦ってました。私が保証します」

「ぐ、ぐぬぬ……!」

「どうですか鈴さん。私だってやる時はやるんです!」

どこかの誰かにも引けを取らないドヤ顔で鈴を見る蘭。

「な、何言ってんの! ISのおかげでしょ! 瑛斗が修理して改造したそのISの!」

奥の方で補給されている赤と青の装甲の機体を鈴は力強く指差した。

《フォルニアス》と《フォルヴァニス》。

瑛斗が『暴走していたとはいえ、俺が壊したんだ。いろいろ調べ……じゃなかった。修理してやるよ』とお詫びと私欲半々で改修したその機体は、合体システムを見直した他、全体的にも性能が向上していた。

「確かにそれもありますけど、私の実力でもありますよ」

「でも━━━━」

「鈴さん、みっともないですわよ」

セシリアが鈴を諌める。

「よろしいじゃないですの。後輩の頑張りを認めてあげなさいな。先輩として恥ずかしくないんですの?」

「蘭だから癪に触んのよ!」

「横暴ですよそれは!」

「何よ!」

「なんですか!」

メンチの切り合いを再開する二人を見てセシリアは額に手を当てた。

「やれやれですわ……」

「……喧嘩するほど、です」

「四人ともー! 来てー!」

そこに一年一組担任のミレイスが呼びかけてきた。

「ほら鈴さん、先生がお呼びですわ」

「……蘭、行くよ」

「「……ふんっ!」」

睨み合っていた二人はそっぽを向いて歩き出した。

「もうすぐオルコットさんと凰さんのISの補給が終わります。織斑先生からの連絡で、あなたたち二人は私たちと一緒に行動するよう指示が出ました。いいですね?」

「はい」

「わたくしたちもそのつもりでしたわ」

「それでこれからの行動だけど、私たちはこの補給ポイントを起点として戦闘を続行します。私たち教師が4人、専用機持ちが4人。2つの班に分けたいところだけど向こうの数が増えた今の状況でそれは下策。全員で行動します」

ミレイスが説明していると、別の教師がミレイスに近づいて耳打ちした。

「……なんですって!?」

「どうしました?」

「偵察に出てる戦闘機がこの近くの海で無人機を数機発見したそうよ。方向的に見てこっちに向かってきてるらしいわ」

「敵が、こっちに来るんですか………!?」

「上等よ。探す手間が省けたわ!」

鈴は拳を手のひらに打ち付けた。

「すぐに出撃するわ。みんな準備して」

周囲が一気に慌ただしくなった。

「倒しても倒しても出てくるなんて………これじゃあキリがないよ」

「……でも、やるしかない」

「う、うん……」

梢はともかく、蘭はまだ学園に来て半年も経っていない。体力的にもまだまだ未熟である。

「……………」

甲龍を展開した鈴は蘭に近づいた。

「鈴さん? ちょっと」

セシリアが声をかけたときには、鈴は腕組みをして蘭を見下ろしていた。

「何よ蘭、もしかしてへばってんの?」

「な……そ、そんなことありませんよ」

鈴の手前、蘭は見栄を張った。

「ぜ、全然大丈夫です!」

「あらそう? せいぜい足手まといにならないことね」

「誰が━━━━!」

「危ないと思ったらいつでも頼んなさい。助けてあげてもいいわよ」

「……………」

「ほら、準備しなさい。さっさと終わらせなくちゃなんないんだから」

「あ………は、はい」

蘭はやや遅れ気味に準備を始める。

「ふふ……素直に心配してるって言えばよろしいのに、鈴さんたら」

セシリアは少し可笑しそうに笑う。梢もその横で静かに笑った。

「……喧嘩するほど、です」

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