不審者と異世界
「おい、大丈夫かシェレン」
デュエルを終えたスイゴはシェレンにかけよった。幸いにも、彼女は全身に軽い火傷を追っている程度で血も既に止まっているようだ。何より、顔にはほぼ全く火傷がない。息もあるようだ。
「…………ん、スイゴ」
「大丈夫そうか」
「ええまだ体は少し痛いけどね。どうやらその様子だと、あの男は倒したようね」
《よかった、無事で。……というか、もし顔が傷ついてたらいったいどうなってたんだ》
自分の想像に思わず、冷汗が流れる。女性は程度の差こそあれ、自分の顔を一番気にすると言う。聖フランチェスカ学園は人工比率でいうと、どちらかというと男子よりも女子があきらかに多い。そのため、この学園に通う内に女が怒るポイントも既に知っている。いや、分からされたと言うべきか。
もし仮に彼女の顔に傷の一本でもあれば、彼女は傷つけた者を絶対に許さないだろう。
「…つーか、クラスメイトのが怖えよ。特にメイリンとか、リアンとか、リアンとかっ」
「ねえ?スイゴ」
「何だよ」
「あの変な……、仮面の男はどうしたの」
「あ」
スイゴは慌てて、後ろを向く。仮面の男は既にいなくなっていた。
二人はひたすら、森の中を探し歩いていた。
「もー、スイゴのバカ。ちゃんと見張っておきなさいっ」
「仕方ないだろ、お前を起こすのに忙しかったんだから」
仮面の男を探して30分くらい、二人はずっとこの不毛な会話をしていた。
「話の通りなら、その仮面の男はデュエリストをカードにするということね」
「ああ、もしかしたら他に仲間がいたのかもしれない」
どちらにしても、早くあの男を見つけなければ話にならない。詳しい話を聞くにしても、仲間をカードから戻すにしてもだ。
「に、しても。そう簡単には見つかるかしら」
「あんな目立つ奴とは言え、今はデュエル大会中だからな。下手すると一般人をおそって……」
『バトルだっ!!レイド・ラプターズ・ライズ・ファルコンッ』
突如、人の声が響く。一拍遅れて、何かを砕くような破砕音が続いた。
「!声が聞こえるわ」
「もしかして、そこにいるのか」
二人は慌てて、声のした方向を目指す。
そこには、先程スイゴが倒したような奇妙な仮面をつけた男達が数人倒れている姿があった。周りの木々は何かによって、なぎ倒されているようだ。その中で、一人悠然と佇む者がいた。赤いマフラーで顔を覆うその人物は、ゆっくりと仮面の男達に近づいてく。
「……何だ、これは」
「っ、何者だっ‼」
こちらに気づいたのか、マフラーの人物は警戒するようにスイゴとシェレンの方を見た。声の調子とその体型から、男であることが分かる。
「まって、私は争いたいわけじゃない。そこに倒れている男達に用があるのよ」
「貴様…、まさか融合次元の者か」
「融合?何のことかわからないけど、私達は…」
「ならばっ、俺とデュエルしろォォォォッ」
「人の話を聞きなさいっ」
シェレンと男の言い争いは収まるどころか、どんどん加熱していく。スイゴはこの会話だけで、目前の男を謎のマフラーから不審者に認定した。今日は変な奴等にばかり出会う。泣きたくなる。
「くくく、敵から目を離しているとは言い度胸だ」
挑発するかのような声が聞こえ、先程、不審者に倒されていた仮面の男達が起き上がる。流石に、シェレンも不審者も争いをやめてそちらの方を向く。
「フン、まだ起き上がる気力があったか」
「確かに、貴様は儀式次元の者達とは違うようだ。こちらも部が悪い、一時撤退させてもらおう」
「っ‼逃がさん、お前達には聞きたいことがある」
「生憎、俺達には無い」
不審者が焦ったように、仮面の男達の動きを止めにかかる。しかし、追いつくよりも早く男達は彼らのデュエルディスクに触れると同時に消えてしまった。
「くそっ。奴等が消えたということは、ここは『アカデミア』ではないのかっ!?」
消えた男に続くかのように、彼もまたデュエルディスクに手をかける。
「待ちなさいっ‼あなたにはまだ聞きたいことがあるのよっ」
「そうだ、アイツらが何者なのか答えろっ‼」
おれとシェレンは同時に、男の肩を掴む。瞬間、デュエルディスクが眩しいばかりの光を放つ。徐々に体に浮遊感が増し、なぜという疑問を持つ暇もなく三人はその場から姿を消した。
学園の者は、皆デュエル大会に熱狂で気付く者はいない。スイゴとシェレンは誰にも気づかれることなくこの世界からいなくなってしまった。
気がつくと、私達はどこかの町のなかにいた。周囲にはビルが乱立し、空に浮かぶようにある道路と派手な宣伝広告の数々が知らない場所であることを教えてくれた。なぜか追いかけていたはずの男の姿はなく、スイゴと私だけがそこにいた。スイゴとも、下手にはぐれるよりは良かった。
「どこだ、ここは。おれ達はたしか、あの不審者を追いかけて」
「少なくとも、聖フランチェスカ学園ではないわね。数年、学園内を見てきたけどこんな発達した町はなかったもの」
「そもそも、基本は森しかないところだからな」
スイゴの意見に私も同意する。つまり、私達は学園とは違う別の場所に跳ばされてしまったことになる。
「そういえば、あの変な仮面の連中が言ってたわね。融合次元がどうとか」
「次元って、まさか。それなら、ここは異世界か?あり得ない」
下らないという風に、考えを否定する。
「分からないじゃない、私はこの場所を全く知らないもの」
「おれも分からないがだからと言って、それは話が飛躍しすぎだろ」
日頃、私の非常識な行動に振り回されているせいか彼の私に対する信用は低い。
《……この前、授業日数足りなくて生徒会の仕事を手伝わせちゃったからねー。一週間、徹夜でやらされればそりゃ恨むか》
「で、根拠はそれだけか」
「…んーとね、実はもう一つあるのよ」
本当はこれが最大の理由なのよね。聞きなさい、私の仮説を裏付ける外れることの無い絶対にして、究極の根拠。それはッ!
「カ・ン」
「……」
「だからー、勘よ勘。私の勘が、ここは私達の世界と違うって言ってるのよ」
「カンカン言うな。止めろよ、お前が言うと冗談ですまないんだよ」
「ふふふっ、分かってるわよ。私の勘が働くときは決まって、スイゴも事件に巻き込まれるもの」
イヤな予感は当たるって言うしねん。自慢じゃないけど、マイナスな方面への勘の的中率は100%よ
「……信じるしかないか、それでこれからどうするよ」
「取り敢えずは情報を集めましょう。どのみち、すぐに帰れるとは限らないのよ」
正直、この格好で町を彷徨きたくないんだけどね。こんなボロボロじゃ痴女に間違えられないし、まず必要なのは服よね服。