私達は半日近くこの町で情報を集め、それによりいくつかのことがわかった。
まず、この町は『舞網シティ』というらしいこと。
次に、持っているお金が使えないこと。ここでは円じゃなくて、Dがお金代わりだ。Dって何よ。
…最後に、この世界は私達の世界じゃないこと。デュエルに関する技術や知名度が圧倒的に私の知っているものと違いすぎる。
「やっぱり、違うかー。『LDS』なんて私聞いたことも無いわね」
「俺達の世界では、『シンクロ召喚』や『エクシーズ召喚』なんて聞いたこともないからな」
お金が使えないためにスイゴから制服の上着だけ借りることになった。あのままの格好じゃ、人の注目を集めてばっかりだったし。この制服がジャージみたいなものでホント良かったわ。
「にしても、このちょっとキツイわ~」
ちら。
「言っとくが帰ってもその制服返さなくていいからな。絶ッ対返すなよ」
「あらん、本当はちょっと気になるじゃないの」
「…………いや」
「バレるウソは良くないわ」
顔を反らしているけど、私にはわかる。その顔は、きっと、真っ赤になっているに違いない!
「なあ、空も暗くなって来たしこのままじゃ野宿だな」
「はいはい。うーん、確かにどこか安心して眠れる場所が欲しいわね」
町の治安は良さそうなんだけど、それとこれとは話が別だ。お腹も空いてきたし、どこかで仕事を見つけないと。……まあ、それは置いとくとして。
「付けられてるわね」
「ああ、30分位前からずっとな」
学生の私達に気づかれるようじゃ大したことないけどね。面倒だしこのまま撒こうかしら。いや、その必要はないか……。
「おいおい、そこのネエチャン。随分発育いいじゃねぅか」
「胸がデケェな、そんな男のそばに置いとくのは勿体無いぜ」
振り向いた先には、スキンヘッドの男組がいた。二人とも凶悪な面をしていて、まともな社会人の類いとは思えない。この世界の社会常識など、私にはわからないけど。先程自分の言ったセリフを訂正したいわね。
《服装もダサいし、何よりあの太ったお腹。明らかに、運動不足ね。20・30代くらいみたいだけど、あれはダメね。生理的に受けつけないわ》
「あらん、男は間に合ってるわよ。横にいるのが見えないかしらー?」
「お呼びじゃないとさ、どっか行けよ」
シェレンは見せびらかすように、色目を使う。意図がわかったスイゴもまた彼女に肩を貸してやる。このあからさまな挑発する態度が堪にさわったのか、男達は目に見えて不機嫌になった。
「ハアァァ、舐めとんのかクソガキ」
「調子乗んなよ、あったま来たわ。少しは優しくしてやろうと思ったが、もう勘弁せん。ぶっ飛ばして、ひいひい泣かしたるわ」
なんてキモい。シェレンは男達の話す内容の下劣さに思わず顔をしかめた。スイゴもまたイライラしている様子だ。正直、この場でノリノリなのは男の2人組だけだ。
「上等だっ、ぶっ倒してやるよっ。オレらが勝ったら、その女寄こせや」
「オレらと、デュエルで決着つけろぉ」
もはや、短い忍耐力すらきれたのか乱暴さを隠そうともしない。男達はデュエルディスクを構え、勝負を挑んでくる。
「デュエルなら、逃げる訳にいかないわね」
「返り討ちにするか」
私達もお互いにデュエルディスクを構える。デュエルディスクはこの世界でも、無事に機能するようだ。
「「「「デュエル」」」」
異世界における、初めてのデュエルが今幕を開けた。
シェレン&スイゴvs不良の男「十影」&不良の男「九暮」
LP8000vsLP8000
「いくぜぇ、オレの先行。オレは手札から『ガガギゴ』を召喚」
十影のフィールドに、青い皮膚のモンスターが出現する。胴体は人に似ていながら、顔はトカゲのようなつくりをしたアンバランスな姿のモンスターだ。
「さらにオレは永続魔法『 絶対魔法禁止区域』を発動っ、これでオレのモンスターはお前らの魔法効果を受けないぜ。カードを一枚セットして、ターンエンドだ。」
次はスイゴの番ね。
「おれのターン、モンスターカードをセットして、カードを二枚伏せターンエンドだ」
流石に、警戒しているようね。相手がどんな召喚法を使うかわからない以上、ここは様子見が正しい気がするわ。
「へっ、ビビってモンスター出すのを怖がってら。既に格づけは決まったものじゃねーか」
スイゴの顔が微妙に強ばる。表情は無表情だが、時々頬がピクピクしているのを見ると腹は立っているようだ。
《いや、アンタが挑発に乗ってどうするのよ》
一見すると落ちついた性格のような彼だが、その実非常ケンカっぱやい部分もある。勝負事から逃げるのが嫌いな、所謂、負けず嫌いなのだ。その性格のせいで、彼がデュエルで損することも少なくないのにね。
「チッ」
「いい面になったじゃねーか。オレのターンだ。手札から、ダーク・グレファーを攻撃表示で召喚するぜ」
黒き剣を持った、厳つい風貌のモンスターが出現する。その目は真っ赤に染まり、表情もどこか狂ったような笑いを張り付けている。
「このモンスターの効果を発動、手札から闇属性モンスター一枚を捨てることでデッキから闇属性モンスター一体を墓地に置く。さらに、オレはカードを一枚セットして、ターンエンドォ」
一瞬、九暮という男がこちらをみた。男は鼻の下をのばしているように見えた。品定めでもしていたのだろうか、…………ダメだ鳥肌がたつ。
《なんか、色々と負けちゃダメな気がしてきたわん》
「私のターンっ、手札から、『呉国の兵士』を召喚よ」
呉国の兵士
レベル4
戦士族/効果
このカードは一ターンに一度、カード効果によって破壊されない。このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時に発動できる。このカードは守備表示になる。
AT1800/DF1900
「さらに、手札から装備魔法『戦場の旗印 呉 』を発動。このカードを呉国の兵士に装備し、カードを一枚伏せてターンエンドよ」
戦場の旗印 呉
装備魔法
このカードは『呉』と名のつく戦士族モンスターにのみ、装備可能。このカードを装備したモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。また、自分フィールド上にこのカード以外のモンスターカードが存在するときに発動する。相手はこのカード以外に攻撃宣言を行えない。
一ターン目は、お互いに攻撃もドローもできない。つまり、ここからが本番ね。
「オレのターン、ドローだ。……へへっ、いいカードがきたぜ。九暮、お前らのカード使わせてもらうぜぇ」
「おうよ!」
「オレはフィールドのガガギゴとダーク・グレファーをリリースして、手札から『ゴギガ・ガガギゴ』をアドバンス召喚」
生け贄に捧げ出てきたモンスターはガガギゴに似ていた。しかし、身体は鎧で武装して顔もまたどこか凶暴さを増した外見になった。攻撃力も2950とかなり高い。
「バトルだ。オレはゴギガ・ガガギゴで呉国の兵士を攻撃」
凶暴な戦士の放った一撃は、シェレンの場のモンスターをあっさり破壊した。
シェレン&スイゴ
LP7350
「オレはこれでターンエンドだ」
「おれのターン、ドロー。おれはモンスターカードを一体セットしてターンエンド」
なんとなく、スイゴの意図は読めたわ。けど、もし裏守備のままカード破壊とかされちゃったら話にならないわよ。シェレンは内心、スイゴの戦術に不安を感じた。
「オレのターンだっ、ドロー。いくぜ、オレは墓地の闇属性モンスターが三体揃っていることからこのカードを特殊召喚できる。現れろぉ、おれの切り札『ダーク・アームド・ドラゴン』」
禍々しいオーラを放ちながら、黒き竜はフィールドに現れた。このモンスターもまた、どこか正気じゃないような雰囲気を出している。九暮という男が自信有り気な様子からも、このモンスターに対する自信のほどが伺える。
「そして、手札からダーク・グレファーを召喚。効果を使い、闇属性モンスター一体を墓地に置く。さらに、ダーク・アームド・ドラゴンの効果発動ォ」
なんかスッゴい、イヤな予感するんだけどっ‼
「このカードは、墓地の闇属性モンスターを一体除外するごとに相手フィールドのカードを一枚破壊できるぜ」
「なんだとっ!?」
《しまった、これで私達の場ががら空きになっちゃう》
「オレは墓地の闇属性モンスターカード五体をゲームから、除外する。これで、野郎と女のカードは全滅ッ」
敵のいう通り、スイゴのフィールドのモンスターと伏せカードは発動もせずにはかいされた。けど、私はそうはいかないわ!
「罠カード発動。『呉の増員要請』」
呉の増員要請
通常罠
このカードは、一ターンに一度発動できる。デッキから、「呉」と名のつくレベル4以下の戦士族モンスター一体を自分フィールド上に特殊召喚できる。
「私は、デッキから呉国の従者を守備表示で召喚」
「女の方は、一枚ムダになったか。だが、男の方は別だっ。オレはダーク・アームド・ドラゴンでダイレクトアタックゥ」
黒竜の炎が吐き出され、私達のライフを容赦なく削った。
シェレン&スイゴ
LP4550
「さらに、ダーク・グレファーで女のモンスターを破壊ィ」
凶戦士の一撃が、私のモンスターを切り裂いた。
「呉国の従者の効果発動。私はデッキから恋姫-呉王・孫策を手札に加えるわ」
「これで、オレはターンエンドォ」
《もしかして、コイツら意外とできるのかしら》
シェレンとスイゴは、異世界のデュエリストの強さを肌で実感していた。