辺りはすっかり真っ暗になっており、電灯の光だけがそこにいる人々を照らしていた。
「さて、何かおれ達に言うことはあるか?」
「「「「「ずぴまぜんでした」」」」」
男達の顔は酷く腫れ上がり、その体はズタボロ。最早、無事な所を探すほうが難しい有り様だ。そんな男達は傷にムチ打つかのように正座させられていた。
そして、そんな彼らとは対称的に無傷でこの場に立っている二人組の男女。
片方の男は灰色の髪をして、額には細くしたバンダナらしきものを付けて髪を上げている少年。もう片方の女は、桃色の腰までかかる長い髪を持ったスタイルの良い少女。
二人は仁王立ちで、眼下の男共を見下ろしていた。年下の少年、少女が年上らしき男達を見下ろすその姿は、第三者が見ればはっきり言ってシュール極まりない光景だろう。
「ったく、ケンカ売るなら相手を見て売れ。特にデュエルに敗けた腹いせに直接的暴力に訴えるなんて、デュエリストが一番やっちゃだめだろ」
「そうよ。貴方達を殴ったコイツや私が言えた義理じゃないけど、こーゆうのは良くないわよ」
「「「「「ぼっしゃるどおりです」」」」」
灰色の髪の男ことスイゴは、手に付いた薄い赤いしみらしきモノをぬぐうように手をズボンに擦り付けていた。女ことシェレンの方も服に付いた埃を手で払っていた。そもそも、なぜこんな珍妙な光景が出来上がったのか。理由は2・3時間前に遡る。
「私達の勝ちよ。約束通り、付きまとうのは止めて欲しいわね」
仰向けに倒れる男二人に対して、シェレンが見下すように言い放つ。スイゴも同意するように相手を睨み付ける。
「んだよ……、……デュエルですらオレ達はこんな恵まれた野郎に負けるのかよ」
「なんだよ、こんなの……クダらねぇ」
「お前達が挑んだデュエルだろうが、それを何言ってやがる」
スイゴは男達のセリフに腹がたった。まるでそれでは、デュエル自体をバカにしたような発言ではないか、と感じたためだ。シェレンも同様なのか、怒りが表情に出てきている。今はデュエル中に、男達のデュエルレベルが高いと考えた自分達を恥じている。
「ちっ、こんなのガキのオモチャだろうが!約束、何のことだぁ?」
「何マジになってんだよ。バッカじゃねぇのォ!」
スイゴは拳を握りしめ、込み上げる感情を必死で抑える。自分の沸点の低さは自覚しているが、にしても、これは言い過ぎだ。
《ヤベェ……、コイツらのことムチャクチャ殴りてぇ》
我慢だ我慢という風に堪える姿が、男達にはどう見えたかわからないが煽りはドンドン酷さを増す。
「はっ、デュエルなんざこの際どうでもいい。女だけ、手に入れればなぁ‼」
「てめえみたいな野郎はどうせ、他にも勝手に寄ってくる女がいるんだろォ。そんな単純な女ばかりの中から、一人ぐらい貰ったって対したこと無いだろォが‼」
シェレンの笑顔が固まった。表情はいつも以上ににこやかだが、うっすら開けた目の奥だけは明らかに笑ってないように見える。普段の飄々とした彼女からは考えられない冷え冷えした姿。背中からは、オーラと形容するような凄まじいナニかがあると錯覚するほどだ。
《《ナニ言ってんのかなコイツら》》
スイゴとシェレンの考えは、奇しくも一致していた。
しかし、男達にそんな二人の心情を読みとる能力などない。薬じゃなく、火薬を持ってくるようなことを平然と言えるのだ。
「おーーーいィ、お前らこいやぁーーーーー‼‼」
「まとめて、このクソガキ共シメてやろうぜェ‼‼」
男組が叫んだ瞬間、彼らの後ろやスイゴ達の後ろからもぞろぞろと多数の人影が現れた。それはいかにも柄の悪い、表情も鋭い人達だ。さすがに今度は全員がスキンヘッドではないが不良然としている、という印象だけは一致していた。
「こんな大人数引き連れて、何するつもりかしら?」
ざっと、30人ばかりいる男達を見て、シェレンはそう聞いた。平然とした様子で、彼女は立っている。スイゴもまた同様だ。
「へぇー、度胸あるじゃねぇか。けど、これから起こるが分かっても同じこと言えんのかよ」
「どうするつもりだ」
一瞬、十影の顔がニヤつく。
「もちろん」
「「「「「若いクソガキへの躾だよォォォォォォ」」」」」
男達は、一斉に二人に襲いかかってきた。デュエルに敗けたからといって、暴力に訴える彼等は紛れもないリアリストに違いない。
ただ、一つだけ男達が勘違いしていることがある。この場には、腕っぷしの良いリアリスト達をも越える二人のリアリストが揃っていたことだ。つまり、スイゴとシェレンである。
「もう殴っていいか、シェレン?」
「ええ、隠れている奴らを含めて思ーーいきりっ、ぶっ飛ばしましょう♪」
それから後の出来事を一言で語るなら、『死屍累々』。たった二人の男女が何倍もの男達を相手をその素手のみで渡り合う姿。それはまるで、ゴブリン達の群れの中に二匹の青眼の白龍を放ったかのようだった。数で勝る暴力を理不尽な力で一掃し、隠れている奴らを含めて総勢50人ちかくを地に這いつくばらせ正座させた。
そして、スッキリしたような満足気な表情をしながら二人は男達を相手に延々と説教を繰り返した。
「そうねー、土下座もしてもらったし。もういいかしらね」
「こんなことしてもしょうがないしな。おい、お前ら」
男達の背中が瞬間揃ってビクリと揺れる。年上への敬意など微塵もない様子で、スイゴが話かける。男達ももうそれに逆らう気力すら起きないのか、黙って頷くばかりだ。
「お前らどうしてこんなことした。ただ、女が欲しいだけでこんな面倒くさいことしたのかよ」
おれは一番ちかくにいる。…………確か、十影って名前だった奴にそう尋ねる。
「……ええ、とですね。実は別にそんなことはなくて……」
「だから、その理由背景含め纏めて全部洗いざらい話せってんだよ」
もはや、どちらが恐喝していた立場かわからない。今のスイゴは紛れもなく、不良まがいのそれに違いなかった。
「オレ達……、昔はこんなんでもデュエルスクールに通ってたんすよ」
散々脅したかいがあったのか、十影はすこしづつ話始めた。
「他の奴らとは通っていたとこは別だったけど、みんな成績はそこそこよかったんすよ。勉強とデュエルができりゃ、周りの連中はみんな誉めてくれた。こんな面の奴ばかりだから、モテこそしなかったけど」
どこか、遠くを見るような目で話を語る。
「でも、そんなのも何時までも続かなくて……。……いよいよ、オレ達がデュエルスクールを卒業してプロデュエリストになれるかどうかの瀬戸際に立たされた時です。プロになれば、金も入るし両親も困らない。オレ達は懸命に練習しました」
そこで、男は一旦言葉を切った。
「けど、世の中そんなに上手くいかないものでここにいる奴等はみんな落ちました。当たり前ですよ、オレ達はみんな本当にプロデュエリストになりたかったわけじゃない…………ッ」
「話せ」
スイゴは口を塞ぐ十影に、あえて睨み付けて話を促す。
「周りの期待に応えたくて、親のプレッシャーが嫌でデュエルを続けたオレ達が本気でそれを好きだったヤツラに勝てるはずがなかっ…たんだぁ」
口調はだんだん弱々しくなる。
「……そのことに気づいたときには、もうオレ達は手遅れの時でした。親には見捨てられ、録でなしのレッテルを貼られ、勘当された仲間もいます」
後ろにいる数人が泣き出した。
「結局、オレ達は才能もない。努力も中途半端な負け犬に成り下がりました。ははっ、本当は生まれた時からクソ以下だったのかもな」
「シェレンにはどうして、手を出した」
「……ムカついたんですよ。オレ達はこんなに毎日腐った生活してるのに、あんた達はオレ達の学生時代よりも随分と幸せそうじゃないですか。オレ達だってっ!学生の時にもっと信頼できる友人さえいればっ!!彼女さえいれば、もっとマシになれたんじゃないのか!!!」
あんたみたいな容姿だけのような男に引かれる女のことも許せなくて、と十影は最後に付け加えた