「話はわかったわ。その上で言わせてもらうけどね」
彼女は一拍置いた。
「甘ったれてんじゃっないわよ、このバカタレがっーーーー!!!!」
シェレンのケリが容赦なく、十影の顔をぶっ飛ばした。ついでに、2・3人くらい同じように吹き飛んでいったが。
「さっきから、言い訳ばっか聞かされてっ。貴方達の事情なんか、知ったことじゃないわ。そもそも、私達は貴方達とは何の関係もないでしょ」
その通り、オレ達はおそらくこことは別世界の人間だから完璧に無関係だ。
「それに見下すって、何よ。私達はあんた達がストーカーするまで全然気づかなかったし、興味もなかったわ。自意識過剰よっ!!それに本当にマシな奴なら、あんた達のことなんか見ないはずよっ!自分のことで精一杯だもの!自分を良くしようともせず、他人の顔色伺って、何も出来ないような連中と一緒にされたくないわっ‼」
シェレンは男の胸ぐらを掴みながら、文句をたれる。顔が二重で青くなってるように見えるのは、見間違えじゃないはずだ。
「……それじゃっ!オレ達はどうすればよかったんだよ」
心から吐き出すような、心痛なる問が男からもれた。
「簡単よ。逃げなきゃいいの」
さすがだ、シェレン。一番難しいことを言ってのける。
「目の前の現実からも、出来なかったという過去からも、やらなきゃいけないことが解る今からも。全部投げ出さずに、やり遂げなさい。それが、やるべきことを捨てた貴方達が一番やるべきことよ。やるべきことをやってれば、余計なこと考える暇なんてないわよ。それが一番なんだもの、周りの目なんか気になんないわ」
彼女に冗談の様子はない。普段のふざけた雰囲気はなく、その目はただ真剣に相手を見続ける。男達も黙って、それに聞き入る。シェレンの持つカリスマが、周囲の人に他のことを言わせる余裕をなくしてるのだ。
まあ、おれもシェレンにばかり言わせる気はないけどな。
「シェレン、変われ」
「ええ♪いいわよ」
おれが話しかけると、たちまちいつもの彼女に戻ってしまった。本当に掴めない性格だ。
「お前さ、女が入ればって言ってたよな。でもさ、それは逆だよ。話をしていて心地良いと、安心するって感じる奴だから、女は寄ってくるんだよ」
これは説教じゃない、ただの愚痴だ。思い出すのは、おれの同級生のホンゴウ カズトという男のこと。
おれが中二のときに引っ越してきたアイツは、一月も経たない内にハーレムと呼べるような数の女友達を作っていた。当時は、恋愛のことに疎かったアイツは本当にただの友人として接していたようだった。俄には信じ難いが、よく話すおれとシェレンの勘がそういうのだからまちがいないだろう。デュエルの大会で優勝して以降は、より何倍もカズトに惚れるやつが増えた。なんてことはない、優勝したからモテるのではなく、元々のアイツの魅力を理解する機会が多くなったゆえの必然的な結果だ。
ヤツに恋愛相談のことを話される度に、おれやツチダ、サジ、カンウンが何回コイツを殴りたくなったか数えるのもめんどくさい。つーか、三回に一回くらいは殴ったな。
それでも、ヤツは女を泣かせるようなことをしなかった。気持ち悪いほどの絶妙のタイミングで、女達へのフォローを欠かさなかった。
玉に半殺しになっていたのは……、まあ、きにしなくていいか!アレはアレなりに苦労しているのも知っているし。だから、おれはあいつがモテるのを納得はしてないが、認めている。話が逸れた。
「そんなことしてたって、いつまで経ってもモテねーよ。女が近づくとしたら、金かそいつ自身が下らない奴かのどっちかだ」
それに……、と言葉を続ける。
「仲間はいつも、ココにいるだろ」
そう言って、おれはおれのデッキを指差す。
「カードが……?」
「そうだ、信じれば応えてくれる。いつでも会えて、いつもおれ達を支えてくれるヤツらだ。負けるのは、カードのことを知らないからだよ」
おれはデッキを見る。昔はなかったカードもあるし、子供の頃から使い続けたカードもある。それら全てにおれが一喜一憂した記録が、記憶が刻みこまれている。
「だから、おれは一人じゃない。……言いづらいけど、おれを信じてくれるコイツらに恥じない自分になりたい」
「カードに恥じない自分……」
「そして、このおれと闘ってくれるヤツラ。シェレンやカズト達に恥じない、自分でいたい。デュエリストでいたいんだ」
一瞬だけ、シェレンの方を見る。彼女はいつも通りにニコニコしている。
「お前達の前には、デュエリストがいる。横には共に考える知り合いがいる。お前の手にはカードがある。それで、充分だろ!?ふざけるなっ!!」
お前達がどんな事情で、一緒にいるかなんて知らない。けど、似た傷を持って何となくでも理解できるなら、傷の舐めあいでも良い、それはもう仲間だ。
「前に進む方法もデュエルの勝ち方も自分で考えるから、価値がある。だから、もう一回言う」
好き勝手に、言ってやる。
「おれの仲間はいつもココにいるんだ」
言いきって、スッキリした。もう一度はめんどくさいけどな。シェレンは小さく、『よくやった』、と言ってくれた。後ろに『元不良』の言葉は余計だけどなっ!
「名演説、ありがとう」
おれ達の後ろから、手を叩く音が聞こえた。
「私自分も多いに参考になった。中々、興味深い話だったよ」
シェレンと後ろを向くと、そこには赤いマフラーを着けた少年が立っていた。銀色の髪をして、メガネをつけた理知的な容貌の男だ。そして、その男の後ろにはスーツ姿の人間が何十人もいた。そいつらは、完全に逃げ道を塞いでいる。下手したら、100人はくらいいそうだ。
「私の名は、『赤馬 零児』。『LEO Duel School』の社長だ」
レオ……、どっかで聞いたことがある気がするな。
「確か、ここら辺で一番有名なデュエルスクールだったわね」
「ほう、もう既に知っているとは光栄だ。君達が此処に来て、まだ対して時間も経っていないはずだが」
「どういう意味かしら」
「それは、君達が一番わかっているだろう」
シェレンと赤馬という男の会話に、おれは内心動揺した。確かに、そうだ。だか、まだおれたちがここに来て一日も経っていない。誰にも話していない筈なのに、なぜ、コイツはその事を知っている!?
「まあいい、ここで話すのはなんだ。私にとっても、君達にしても」
赤馬は地面に座ったままの男達を見て、そう言った。
「断る、といったらどうなるのかしら」
「暴行、恐喝、無断侵入、猥褻容疑などや他多数……といえば、分かるかな」
「穏やかじゃないわね」
完全に脅しに来てるな。おれとシェレンは腹が立つのを表に出さないよう、努力した。
「それに私についてくれば、もしかしたら、君達が知りたいことも解るかもしれない」
おれ達はその質問に、ただ頷くことしか出来なかった。
「来たまえ」
赤馬と名乗る男の後ろをスーツ姿の大人達に囲まれながら、おれ達はついていく。おれは、その男に一つ質問をする。
「あそこに倒れている男達はどうする」
「何もしない。君達が大人しくついてくるならば、態度次第で厳重注意に留めておこう」
「そうか、わかった」
ならば、もう言うことはない。あの男達のことは忘れ、おれ達が知るべきことを知りに行くだけだ。
何が起こるか解らない、という不安を抱えながらもスイゴとシェレンは赤馬 零児が促す『LDS』へと足を進めた。
今宵の夜明けは、まだ遠い。