町は賑わいを見せていた。人々は皆、もうすぐ開催されるとあるイベントに夢中のようだ。道路や学校では、至るところで戦い合うデュエリスト達がいた。そんな中、周囲の盛り上がる空気とは関係なく、町中を散歩する一組の男女がいた。
「それで、結局、戦い方はどうするよ。シングルか、それとも、タッグか」
「うーん、難しいわよね。シングルだと回数が多くなるし、タッグだと経験値が不足するし」
先程から、二時間ちかく二人はこの会話をしていた。互いに意見を出しあうも中々に良い、折衷案が見つからないのだ。
「あの赤馬って、男がいってたな。シンクロ召喚やエクシーズ召喚のデュエリストを紹介してくれるって」
「融合もね。後、ペンデュラム召喚も気になるのだけど使い手が少ないわね」
「たった一人だもんな。少ないって、レベルじゃないって」
「「それに、なんといってもこの『アクションデュエル』」」
二人ことスイゴとシェレンは同時に溜め息をついた。これこそが、彼らを悩ましていた最大の問題だった。
『アクションデュエル』とは、通常のただ立ったままで行うデュエルとは違う。発達した最先端の『リアル・ソリット・ビジョン・システム』が特定の場所に専用のヴァーチャルフィールド『アクションフィールド』を造りだし、そこでデュエルし合うということだ。質量すら持ったそのフィールドは、様々な景色を生み出すことができる。海や空のフィールドですらも造り出せる。文字通り、画期的な技術だ。そして、『アクションフィールド』内ではデュエル中に勝手に拾い、使用できる『アクションカード』が存在する。『アクションカード』は魔法・罠カードの二種類存在し、通常のデュエルモンスターズカードには存在しないもので構成されている。これにより、デュエルにスリルと興奮を持ちこむことができるようになったのが『アクションデュエル』だ。
「って、普段なら、ワクワクしてしょうがない筈なのにねー。状況が状況だから、全く笑えないのよ」
「けど、『舞網チャンピオンシップ』じゃ全てが『アクションデュエル』で行われるらしいし、練習に越したことはないよな。こっちのデュエリストのレベルがはっきりわかってない以上は、少しでも勝負を重ねるしかない」
思い出されるのは、オベリスク・フォースとのデュエル。あの時は二人がかりでなんとかなったが、次も、同じとは限らない。もしも自分達より多い敵を相手にする機会で勝てませんじゃ、話にもならない。おれ達自身がデュエリストとしてのレベルアップする必要性は感じている。
「それでー、どうするかしらん。デュエルは明後日の予定だけど」
「今日は休みたい所なんだけどな。とりあえず、唯一無二の召喚と呼ばれるペンデュラム召喚を見に行こう」
目的地を定めた二人は、特に焦る様子もなく軽い足どりで向かうのであった。
「で、目的地の『遊勝塾』を目指しているハズなんだが」
「迷ったわね」
「お前が服なんか、買いたいって言うからだろうがーーーッ」
おれ達は今、何処かも分からない大型ショッピングセンターの中にいた。地図の道理に進んでいたのに、シェレンがちょっと買い物行きたいからって回り道した結果がこれだよ。わかっていたのに、シェレンの言うこと聞いたらダメだって、わかっていたのにやってしまった。
「まあまあ、きっと何とかなるわよ。お金はあの赤馬って人から、たくさん貰ったじゃない」
「今度という今度は、お前の勘も異世界では通用しないんじゃないか。そもそも、ここの現金の価値がおれ達はわかってないだろ」
この世界のデュエル技術は発達しているのか、デュエルディスクに直接現金の代わりとなる電子マネーが入れてあり、それが一般的だ。むき出しのお金を持つものは、ほとんどいないらしい。
「この『D』の前につく、『1000000』って数字が恐ろしいんだが」
「しかも、二人共に入ってるしねん。社長さん、太っ腹ー♪」
そうこう話す内におれ達は目的地……ではなく、服屋らしき店の前についた。店に入ったおれ達に店員はにこやかな笑みを送ってくれたがシェレンを見ると、すぐにその顔を赤くした。ここにくる最中も、同様な視線を向けられた。
…なんていうか、彼女の格好は扇情的なのだ。おれがあげた上着は男物のためかチャックが途中までしか、上がらなくなっている。そのせいで微妙に胸が見えてるし、スカートは細い線が入ったような傷が無数にあり、ボロボロ。僅かに見える太ももが、セクシーさを際立たせている。正直なところ、こんな格好の彼女を見て普通に話せる赤馬の精神の強さは並みじゃない、と思った。
「スイゴはこの格好のままのほうが、いいかしらねん」
「お前の何時もの私服は、もっと酷いだろ。この程度、大したことねーよ」
この言葉に、店員は引いたのかおれ達から少し距離を置いた。いや、そんな趣味ないから本当に。
「ねえねえ♪スイゴ、この服はどうかしら」
いつの間にか、複数の服を試着室に持っていってたシェレンは着飾った自分の姿を見せ感想を求めた。
「ジャージで、よくないか」
「このバカは」
おれの適当な感想にシェレンは頭にきている様子。スイゴは素知らぬ振りで彼女を見る。お世辞にも、女性の服に関するセンスはそれほど良くない。結局、彼女自身に任せたほうがセンスもいいし、早く済むのだ。
《家だと、そもそもジャージ姿だしな》
世の男達の幻想がぶち壊されそうな事実だ。この次元の男達は、どうなのだろう。
「まあわかってたんだけどね。私が選んだ方が早いもんね-」
「よくわかってるな」
「こうなったら、スイゴの反応を見ながら買う服を決めようかしらっ」
「やめろォッ」
そんなことしたら、おれの後ろでおれ達を見てニヤニヤしている店員達の餌食だ。
結局、一人で服を決めて買った彼女はついでにおれの服も選んで買っていた。正直、自分としては異世界の男の服装に興味があったが。シェレンの『この服を着ないなら、ランジェリー・ショップに一緒にきてもらうわよ』という言葉を聞いて、あっさり着ることを決めた。さすが女王様、自分のしたいことには手段を選ばんらしい。
「いやーやっぱり、新しい服はいいわね。着心地が全然違うわ」
「そうだな。何だかんだ、制服は普段着に向かない」
どこぞのファストフード店で食事を終え、おれ達は今カードショップにいた。
「…にしても、カードの種類は全然ちがうわね」
「モンスターの絵も見たこと無いな」
当たり前だが、おれ達の世界にはないカードばかりだ。この世界のカードパックは、おれ達の世界よりも遥かにシリーズが多い。そして、高い。
「とりあえず幾つか買ってみようかしら。運が良ければ、使えるカードも手に入るかもだし」
「だな。選ぶのはシェレンに任せるけど、いいか」
「えーー、スイゴそれはないんじゃない。外れても知らないわよ」
「おれが選ぶよりは確実だろ」
シェレンの勘は、こういう時にも役に立つ。
「うん、まあ中々のカードねん」
良いカードを引き当て、レアカードも手に入れた彼女は上機嫌だ。いつもはしない、スキップまでしている。
「なんか、使いどころが難しいな。良いカードなんだろうけど」
スイゴの方はシェレンに選んで貰ったパックを開けたのだが、個性的なカードばかりを引き当てた印象だ。レアカードもあるが、使い方を考えるのがめんどくさい。
「それじゃあ、そろそろ遊勝塾に向かおうかしら~」
「もう夕方なんだ。迷惑だと思うが」
「時間がないし、仕方ないわ」
「仕方ない、行くか」
そうして、ようやく着いた遊勝塾。看板には大きく、『遊勝塾』と書かれているから間違いないだろう。
「にしても、人の気配が全然しないわね。新しい召喚法を発祥した塾だから、もう少し混んでると思ったけど」
「まだ、世の中には普及してないのかもな。門外不出のようなカードなら、別に不思議ではないな」
おれ達は普通に門を開け、中に入ることにした。
「お邪魔しまーす」
『待っていたよ、君達。遊勝塾へようこそっ!』
《《はい?》》
目前の男は、ニコニコした顔で派手なリアクションでおれ達を出迎えてくれた。スイゴとシェレンは、突然現れた謎の男の勧誘にはたまた首を傾げることになった。