「なんだ。入塾希望者じゃないのかー」
「ごめんなさい」
「いやいや、良いって。ペンデュラム召喚の登場以来、物珍しさでくるそういう人は多いからこっちも慣れてるよ」
男はそう言って、気さくにスイゴとシェレンに話しかけてくれた。
オレンジ色の髪をした筋肉のついた男性で、着ているスポーツジャージがよく似合っている。男の名は『柊 修造』と言い、この塾の塾長をしてるらしい。少し暑苦しいけど、明るい性格の人ね。
「それで、そのー。噂のペンデュラム召喚を見せて欲しいんですけど」
私は今度はなるべく丁寧に頼むことにした。相手が塾長である以上は、こちらも誠意を持って大人に対応するべきと考えたためだ。
「うーん。見せるのは構わないかもしれないが、デュエルはお断りするよ」
「えっ、どうしてですか」
いきなりの拒否に、私とスイゴは目を丸くする。
「遊矢がさ、…あっウチの塾の生徒なんだけどね。今度、出場する大会のためにデュエルの相手を選んで、戦ってる最中なんだ」
「舞網チャンピオンシップですか」
「そうなんだよ。君達も出場するのかい?」
「今は、デュエルの相手を待っているんだ」
「そうかー、この時期は誰もデュエルしたがらないだろう。大変だね」
塾長のその発言に驚く。詳しく知るために、私は質問を重ねた。
「それはどうしてですか」
「君達もデュエリストなら、わかるだろう。この時期になると、大会に出場できるデュエリストとそうじゃないデュエリストが大体わかってくる。敗けが続いてたり、勝率が微妙な人は熱心になる」
「けど、勝ちが専攻する人はデュエルに消極的なんだよ」
その言葉には、どこか残念な気持ちが含まれているような気がした。
「そうだ、君は『柚子』とデュエルしないか」
修造は、シェレンにそう話しかけた。誰かは分からないが、おそらく、塾の生徒の一人に違いないと考えた。
「柚子さん、誰でしょうか」
「彼女は俺の娘だ。とっても、かわいいぞ」
親バカね、チラリとスイゴのほうを見ると彼も同じように見返してきた。
「彼女は強いんですか?」
「あったり前だ!俺の娘だぞ!大会にも出場するんだ」
そこには自信ありげな塾長の姿があった。その目には炎のような、赤いなにかが燃えているような気がした。
「なら、やります。こちらこそ、お願いします。強い相手と戦うのは、楽しみですから」
この世界における大会出場者のレベルをしれるかもしれない、貴重な機会だわっ。これで勝負を受けなかったら、ソン家の名が廃るってものよ。
「いいだろう、是非やろう!そこの君は私とやるので構わないかねっ!」
「えっ、いやそのだな」
「男なら、ハッキリしろ!熱血だッ。うお~熱血だ!」
男の背後にメラメラと炎が燃え上がる。いや、まるで燃えているかのように見えると錯覚させるほどの熱気を放っている。
「やりなさい、スイゴ。ここは勝負をうけるべきよ」
「シェレン、おれ達はペンデュラム召喚を見に来たんだ。目的を間違えるな」
「分からないの?ここで逃げたら、どうせ、大会でも勝てないわよ。私達は、彼らと違って経験も少ないのよ」
私はそう言うと、塾長の方を向いた。さっきまでの落ちいた雰囲気がウソのように、今度は騒がしい熱い性格の人になってしまった。
「デュエルは、アクションデュエルですか」
「もちろんだ。アクションデュエルこそ、『エンタメデュエル』の醍醐味!デュエルの最強進化計だァー!」
炎どころか火山が噴火したような勢いだ。
『おと~さん~』
ふと、急にさっきまでの暑苦しさが消えた気がした。代わりになぜだか、首もとが冷えるような感覚がした。塾長が後ろを向くと、そこにはハリセンを片手に仁王立ちする愛娘の姿があった。
「私に黙って、勝手になにしてんのよー」
彼女の鋭いツッコミが、修造の頭を叩きつけた。彼女はピンク色の髪をして、顔は童顔だ。全身から、こう、元気そうな雰囲気があふれてる。彼女こそが修造の娘『柊 柚子』だ。
「痛いぞ、柚子。お前に黙って、話を進めたのは悪いと思っているが」
「当たり前でしょ!私だって、色々と準備かあるんだからそんなにデュエルなんか出来ないわよ」
「どうしても駄目か」
「くどい!」
「遊矢はどうした」
「まだかかるって!」
次々に繰り出される漫才のような話し合いに、シェレンは感心してしまった。なるほど、このノリの良さがエンタメデュエルの根幹だと言われても、不思議じゃないと思える。
「第一、この人本当にジュニアユースのクラスなの!?大人じゃない」
「えっ、君は高校生くらいじゃないのかい?」
「えっ、ええ。私は高校二年生よ」
「うっそぉーーー」
柚子と呼ばれる少女は、ビックリしたように目を開いた。
《そんな呆然とした顔までされると、少し悲しいわね》
大人びているのは、自覚しているが、この世界の人達には老けてみえるのだろうか。ふと、さっきからずっと黙っているスイゴのほうを見ると、彼はさも面白そうに笑っていた。
「シェレンは身長も高いし、性格以外は大人っぽいもんな」
「ちょっとー、それはちょっと失礼じゃないの」
大人に間違えられたのは、今日が初めてよ。
“胸も大きいし”
「え?」
一瞬、小声で何か言われた気がする。聞こえた方向にいる柚子は、ただ黙って、こちらを見るだけだ。というか、睨まれてないかしら。
「えっとね、私とスイゴはユースに出場するつもりなの」
「ユースだって!?それは大変だ!ユースクラスの場合、相手は同じくユースかプロでないと、いけない」
「つまり、戦ってもカウントはされないのね」
「スマーーーンッ!!!」
塾長が、全力で頭を下げてきた。余りにも必死なその姿に、シェレンは口をつぐんだ。
わざとじゃないのだろうけど、勘違いで暴走しそうな人ね。
……ま、いいか。
「ねえ、貴女私とデュエルしないかしら」
「え、でもデュエルしても勝率は上がりませんよ」
明らかに動揺したようにこちらに尋ねる。私もまた、彼女の方を見る。
「構わないわ。この塾の塾長が強いっていうなら、純粋にデュエリストとして、興味があるわ」
「戦闘狂」
「スイゴは黙ってなさいっ」
ピシャリ、と文句を切った。
《今日は随分と辛口ね。》
「……わかりました、私もデュエリストです。その勝負を受けます」
「ええ、それじゃよろしくお願いね」
お互いに握手を交わしあう。
「塾長さんも、スイゴとデュエルして、いただけないかしら」
「へっ?俺はかまわないが、君はいいかね」
「乗り掛かった船だし、おれもデュエルします。よろしくお願いします、修造さん」
彼もまた、密かに戦うのを楽しみにしていたのかもしれない。そうでもなければ、大会に関係ないこんなデュエルうけるはずない。
「おーーーーし、それなら親子二人で熱血だーーーー!!」
「お父さん、うるさい!」
再び柚子によるハリセンの一撃が、こんどこそ修造をノックアウトした。