「あっぶなーい、わね」
……かに、思えたが。
シェレン
LP100
「間一髪って、とこかしらね。本当にアクションカードって、スリル一杯よ」
「掴んでいたの!?」
そう、彼女はギリギリの逃亡の最中にあるカードを掴んでいた。
【私はアクションマジック『毒の矢じり』を発動】
毒の矢じり
相手モンスター一体の攻撃力を300ポイントダウンさせる。
モンスターに突き刺さった矢の毒が、相手の攻撃を弱めたのだ。
《……何故かわからないけど、このカードに助けられたのはひどく屈辱だわ》
「はあー、倒しきれなかったかー」
融合召喚による初勝利を核心していたためか、柚子はひどくガッカリした様子だ。
「仕方ない!私は、手札から永続魔法『スローテンポ』を発動。これで、ターンエンドよ」
「さてと、こっちもお返ししないとねん」
一瞬、確かにだがシェレンは好戦的な笑みを浮かべる。彼女はやられっぱなしは、嫌いなのだ。王の器量をもつ者だからこそ、勝負には人一倍貪欲でなければならなかった。
「私のターン、ドローーーッ」
このままでは、終われない。相手を何も驚かせられないままでは、そもそもデュエルした意味すらシェレンにとっては無くなる。何より彼女は最高の充実感こそ、デュエルに求めるのだ。
《来た》
「私は、手札から『恋姫の君臨』を発動」
恋姫の君臨
儀式魔法
このカードは手札から発動または手札を一枚捨て、墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。自分の手札・フィールドから、レベル8以上になるようにモンスターをリリースし、 手札から『恋姫-呉王・孫策』を儀式召喚する。
「私は、手札の『呉国の騎馬兵』と『呉国の見習い兵士』を生け贄にするわ。 これにより、手札の『恋姫-呉王・孫策』の儀式償還を執り行うことが可能になる」
「儀式召喚ですって!?」
柚子は儀式召喚の相手とは、まだ一度も戦ったことはない。元々、使い手が少なく、カード自体も貴重なためだ。
『民は思いを託し、兵は忠誠を捧げよ!そして国を統べし王は全ての願いを背負い、戦えっ‼敵を打ち砕けっ‼!』
『儀式召喚』
「天下万民こそ、我望み。呉王・孫策」
複雑な術式を編み、その中央にかのモンスターは出現した。
「これが、儀式召喚……」
初めて見る召喚法に柚子も興奮を隠せない様子。その証拠に、頬は紅潮している。
「かわいいわ、すっごく!その顔!」
「え」
《あれぇ、この人もしかして少し危ない人なのかな》
「けど悪いわね、勝負では別の話よ。私は、手札から装備魔法を発動。王家の剣-南海覇王を呉王・孫策に装備。これにより、攻撃力は3300ッ。」
呉王・孫策は特殊召喚モンスターなので、『スローテンポ』の効果を受けない。
「……けど、 ブルーム・ディーヴァは戦闘では破壊されないわ」
しかし、柚子にも焦りはない。自分のエースモンスターに対する自信はその程度では揺らがない。
…ゆえに、勝負を決めるのは気持ち以上の何かだ。
「ちちち、甘いわよ。南海覇王は一ターンに一度、モンスターカードに対する効果で無効にし破壊できるわ。呉王・孫策で、ブルーム・ディーヴァを攻撃ッ!」
光輝く剣が、敵の威光を弾き反した。シェレンのモンスターが敵を切り裂く。
「……ッ、ぅうう」
モンスターを倒した余波に煽られ、柚子のライフが削られる。
柚子
LP0
これで、このデュエルの勝者が決した。観戦していたスイゴがこちらに歩いて来るのを見た。嬉しそうに笑ってくれている姿を見ると、彼女は自然に笑顔になれる。シェレンは彼に、おおげさな仕草でピースして応えた。
一方で、ここは二階の控え室に話は移る。シェレン達のデュエルは一階で行われており、控え室からはそのデュエルの様子が観戦できるように設計されている。スイゴはそこで、塾長の柊 修造と数人の少年少女と話をしていた。
「へえー、じゃあ君はソンさんの幼なじみなんだ!俺と一緒だね」
「シェレンって、呼んでいいと思うぞ。アイツは礼儀さえ忘れないなら、気安く接して欲しいみたいだからな」
二人は、さっきから30分程この会話を続けていた。一人は灰色の髪にバンダナもどきを身につける少年『スイゴ』、もう一人は頭にゴーグルをつけた赤と緑に分かれた鮮やかな髪を持つ少年『榊 遊矢』。二人とも似たような共通点が多いためか、中々話が噛み合っていた。
《ああ、これが普通の会話だよな。普段、シェレンと話してるせいか、感覚がマヒしてるな》
言うよりも行動、常識外れで規格外な少女シェレン。彼女に日常的に振り回される彼は、シェレンの親友同様に既に道を半分程踏み外しているかもしれない。
試合を観戦しながらも会話が弾む中、二人の後ろにいた男性が話に割り込んできた。
「ちょっといいかな。スイゴくんとシェレンちゃんは話を聴くに、どうやら住む家が無いようにきこえるんだが」
「ええ、まあ。……おれは両親がいなくて、シェレンも実家から逃げてきたから今日は住む所が無くて」
ちなみに、この話の半分以上がスイゴの捏造で出来ている。シェレンが母親の元から、逃げ出すことは絶対に有り得ない。
《 イェンレンさん相手じゃ、逃げたくても、無理だよな…》
もはや、これはスイゴとシェレンが共有する絶対的な真実である。
しかし、嘘とは知らない男性こと修造はこの話を聞いた時に、感傷的になってしまった。元々、人一倍情に厚い性格の彼は子供達のことをとても大切に思っている。話す内に彼らの人間像が好ましいと分かったなら、なおさらだ
「スイゴっくんっ!」
「はっはい。何ですか」
ただでさえ暑苦しい彼が、感情を剥き出しにスイゴに近づく。その熱気やら迫力だかに気圧され、ついつい彼は受け身にまわってしまった。
「君たちっ、ウチの家に来ないかねっ」
「はい?どうしてですか」
「君達に帰る場所がないなら、オレがお前達の面倒を見てやるっ!熱血だっーーー」
《熱血は関係ないだろ……》
これまで話していて、修造さんが嘘のつけなそうな、悪い人ではないとは思えた。
確かにおれはともかくシェレンはあれでも一応女性だ。どこかもわからない場所より、少しでも見知った場所で生活するほうが彼女のためかもしれない。
それにスイゴが泊まるのはまずい気がする、世間的に。
「おれは別に泊まらなくていいです。代わりに、シェレンのことはお願いできませんか」
「いやいや、君だけほっといてどうするんだい。スイゴくんも、泊まりなさい」
修造はそんなことは呑めないと、首をふらない。正に、下心のないお人好しの手本みたいな人間だ。しかし、スイゴにとってはこれはよろしくない。スイゴと修造による、激しい討論が繰り返される。
その二人の話を聞く内に、遊矢と呼ばれる少年は何かを思ったかのような表情になった。そして、自分の心中で決心を固めたのか二人の方を向く。
「塾長。なら、スイゴは俺の家に泊めてください」
その提案に、驚いたように二人は遊矢を見た。
「遊矢、お前はいいかもしれないが親御さんはどうする。『洋子』さんは納得してくれるのか」
「それならっ、俺が説得する。聞けば、スイゴは両親がいないらしいじゃないか。……そんなの放っておけないよ!」
遊矢…………あんまり言われると罪悪感で胃がキリキリするんだが。
「う~ん、まあ、確かにそのほうが良さそうな気もするが。……だめだ、だめだっ!」
「どうしてだよ、塾長っ」
「そういう事は、大人の事情も絡んでくるんだ。遊矢、お前はスイゴくんに同情してるのかもしれないが、それだけで簡単に人の世話を焼いてはいけないんだ。……それに、金とかだな」
「お金なら、一応有りますよ。まあ、足りるかは分からないですけど」
スイゴは、そう言ってデュエルディスクに入ったDの数字を見せる。このデュエルディスクは赤羽が特別に用意したもので、おれたちの世界のモノは彼に預けてしまった。これを見せ、シェレンもまた同じくらいだと教えた。
「0が五つ……、スイゴくんっ!君たちはお金持ちだったのかね!?凄い金額じゃないかっ、どうして君たちがこんな額のDを持っているんだいっ」
「いや、そうじゃなくて。…実は、ある人物に貰ったというか…」
「誰だい、それは」
「確か、赤馬零児って名乗ってたような」
「赤馬がっ!?」
塾長だけでなく、遊矢までも食いつくとなるとやはり其れほどの人物らしい。
「どうして、スイゴが赤馬と知り合いなんだよっ」
「色々あってな…………。まあそのことは置いとこうか。おっ、あれが融合召喚か」
遊矢の追及を強引にかわし、再びデュエルを観戦する。今は、確か柚子と呼ばれていた少女が融合召喚を決めたところだ。
「遊矢、おれはお前の家に泊めてもらうことにするよ。その代わりに後でなら、少しだけ事情を話せる。」
「……分かった。俺もアイツのことが知りたいんだ」
まさか、個人的な知り合いだったのか。スイゴは遊矢と赤馬の因縁について思いを巡らせたが、途中で考えるのを止める。
《まあ、おれはバカだからな。あんまり深く、考えても分からないだろ》
スイゴは、あっさり割り切ることを決めた。
「そうだぞ、遊矢。赤馬のことは、あまり思い詰めるな」
「…そして、スイゴくん。君たちの事情はもう聞かないことにする。今はデュエルに熱中しよう。うおー、柚子ー、熱血だっーーー」
塾長は何かを察したように話題を切り上げ、娘達の試合に集中した。