シェレン達のアクションデュエルは更なる佳境へと移る。シェレンが、手札を生け贄に儀式召喚を決めたのだ。
「あれは、『ミエル』と同じっ。スイゴ達も使えたのかよ!?」
「ああ。おれと違ってアイツのは年季が入ってるからな、見て損はないぞ」
あまり手の内を晒したくはないが、遊矢達はジュニアユースだし問題ないだろ。
「凄いな……。俺も大会の事がなかったら、デュエルしたいんだけど」
「まあ、大会が終われば何時でもできるさ」
スイゴは彼にそう言う。『その時まで、おれ達がいるとは限らないけどな』という言葉は隠したが。
「しかし、なるほど儀式召喚か。君たちがもしもウチの塾に入ってくれるなら、新たに『儀式部門』を立ち上げたいと思ったんだが」
修造は自分の中で、新たな塾の経営方針についてのアイディアを考えているようだった。
「少しなら、教えられるよ。泊めて貰う以上は、何か恩を返したいしな」
「スイゴ、それは本当かっ!?」
今度は塾長ではなく、遊矢が食いついた。彼もまたこの不思議な召喚法に興味があるのかもしれない。
「ああ、分かった。……じゃあそろそろ、おれは下に行くよ」
「え?まだ、柚子とのデュエルは終わってないだろ」
「一つ言っておくぞ。シェレンがあのモンスターを召喚するときはいつも勝つんだ」
おれと戦ったオベリスク・フォースとの死闘を含めてもな。
「お疲れ様だ、シェレン」
「もー、声が聞こえないから本当に見てるのか疑っちゃったじゃない」
「二階は観戦するためだけに有るみたいだからな。応援なんかできないさ」
「……ホントに最後までキッチリ見てたのかしら」
うっ、鋭い。彼女の勘は、どうしてこう見透かしたかのような考えを出せるのか。
「それでシェレン。話は変わるが、今日はお前は塾長さんの家に泊まってもらうぞ」
「えっ?どうして、そんなことになっているのかしら。スイゴも一緒よね」
「あー、いや。おれは遊矢ん家に泊まるよ」
「え、スイゴは一緒じゃないの!?どうして、私と違う所にしたの」
ひどく驚いたように、シェレンはおれに尋ねた。
「シェレンも女どうしのほうが話易いだろ。あ、柚子って女の子には手を出すなよ。あの子は遊矢に興味が有りそうだったし」
「出さないわよ。貴方はどんな目で私をみているのかしら。私はただ、あの柚子って子が可愛らしいと思っただけよ」
少なくとも、お前にだけは常識という言葉は似合わないことは確かだ。用心しとくに越したことはない。
「スイゴ、私は普通に男が好きよ」
「そうか。日頃のメイリン達へのスキンシップが過剰だから、てっきりな」
「そこに座りなさい」
言い方は悪かったとは思うが、全部事実だ。おれは謝らないぞ。
「まあいいわよ。それで、次はスイゴの番ね」
「ああ。…けど、今日はもう遅いから試合は明日だってさ」
「明後日も試合はあるのよ。連戦して大丈夫かしら?」
「何とかなるだろ」
シェレンは呆れたようにため息をついた。スイゴがきっと根拠もなく言っているだろうことが分かったからだ。ブーメラン発言とは、このことを言うのだろう。
翌日、無事に遊矢の家に泊まれたスイゴは久々によく眠れたような気分になった。この世界についてから、それほど時間は経ってないがそれでも度重なる濃い出来事が彼自身を疲労困憊させていたのだ。
《分かってる。遊矢達とは、いずれ分かれることになる》
それでも、遊矢との記憶は消えるわけじゃない。この一瞬一瞬を大切にしたい、と、彼は思った。少し経ち、遊矢の母親に呼ばれた彼はさっぱりした気持ちで食卓に出向いた。
「いやー、助かるわよ。今月、ちょっと食費が厳しかったから」
そう言って、自分のデュエルディスクに振り込まれたDを見て喜ぶ女性。彼女の名は『榊 洋子』遊矢の母親だ。
「母さん……、恥ずかしいからそんなこと言うのは止めてくれよ」
そんな母親の姿を見て、遊矢は頭が痛くなる思いだった。
「なにいってるの遊矢。『ソラ』くんのこともあるし、遊矢が夕食の余りを食べなくて済むのはスイゴくんのおかげよ」
「別に気にしなくていいです」
「あ、スイゴくんはドンドン食べて良いからね。ママも作るの張り切っちゃうから」
「いや、本当に気にしなくていいんで」
息子の遊矢とスイゴとの間で性格が豹変する彼女を見て、少しゲンナリしたのだ。スイゴは、正直、昨日の塾長や彼女のことが苦手だった。とても優しくて、世話好きなのだが彼にはその好意が重いと感じるのだ。
「それで、スイゴ。今日は塾長とデュエルするんだよな」
「ああ、もう行かないと時間に間に合わないな」
そう言って、スイゴは席を立つ。
「なら、紹介したい子達がいるんだ。俺達の塾の後輩なんだけど、とてもいい子達なんだ」
「わかった。その子達にあったら、挨拶するさ」
遊矢に連れられ、スイゴは遊勝塾に着く。門の前では、シェレンや柚子達と知らない子供達がいた。
「へえー、逃げなかったんだ、スイゴ」
「シェレン、お前怒ってないか」
「そんなことないわよー。私を放り投げたスイゴと違って、泊めてくれた恩人だからね。柊親子には贔屓したくなるじゃない」
いや、それでも逆だろ。絶対、彼女はおれが全て勝手に約束を取り付けたことに腹をたててる。その証拠に、シェレンの顔は笑顔だが額には青筋がたっている。
《まったく、せっかくスイゴと一緒に寝れるチャンスだったのに》
彼女は内心そう、思っていた。
“シェレン、お前何か変なことされたのか”
“いや、別にそんなことはないわよ。柚子って子と一緒に寝たわ”
“お前……”
“だから、変なことしてないから”
「お兄さん達、だれ」
おれ達が小声で話あってる中、横にいた太った子供が話しかけてきた。他に二人知らない男の子と女の子もこちらをじっと見ている。
「あっ、私の名前はシェレンよ。よろしくね」
「おれはスイゴだ。今日はこの塾の塾長とデュエルするために来たんだ」
シェレンもおれと同じように子供達を知らない様子だ。おれたちはなるべく、怖がらせないように話しかける。
「えーー、塾長なの?てっきり、遊矢お兄ちゃんとだと思った」
「俺もだよ~。てっきり、遊矢兄ちゃんの対戦相手だとばかり」
黄色の髪の太った少年は、赤い髪の女の子とそう話していた。ただ一人黙っていた、青い髪の男の子だけがこちらに声をかけた。
「僕は『山城 タツヤ』と言います。遊勝塾の生徒の一人です」
とても礼儀正しい少年だ。身なりからもその育ちのよさがうかがえる。
「俺は『原田 フトシ』」
「私は『鮎川 アユ』。こちらこそよろしくね、お兄さんとお姉さん」
子供二人は、交互に自己紹介をしてくれた。二人共遊矢の言った通り、元気そうないかにもな少年と少女だ。
「スイゴお兄さんとシェレンお姉さんは舞網チャンピオンシップに出るの」
「ええ、私達はユースクラスで出るつもりよ」
「ユースクラス、てことは遊矢お兄ちゃんや柚子お姉ちゃんよりも強いの!?」
子供達にそう聞かれたが、おれはどう答えていいか分からなかった。赤馬が勝手に決めたことだから、実際に実力がどうとかは知らないんだ。
「遊矢くんの実力のことは、知らないけど。柚子ちゃんなら、昨日勝ったわよん♪」
「えーーっ!柚子お姉ちゃんに!?お姉ちゃんは遊矢お兄ちゃんと同じくらい強いんだよ!」
「柚子お姉ちゃんはもう大会出場を決めてるし、ひょっとしたら、遊矢お兄ちゃんよりも強いかも知れないのに」
そう言われて、おれはちらりと遊矢を見る。彼はただ苦笑いしているだけだ。強ち、嘘でもないのかもしれない。
「柚子ちゃんは私に敗けても、出場には問題ないって昨夜話してくれたわよ♪」
「ええ、私もシェレンさんのような強いデュエリストと練習出来て良かったです!」
二人は、一晩で随分と仲が良くなったようだ。シェレンも柚子も互いに打ち解けて、話しているようだ。
「じゃあ、きっとお兄さんも強いんだ」
「おれはシェレン程じゃない。彼女には、ほとんど勝ったことないしな」
この言葉を聞いて、子供達はシェレンに尊敬の眼差しを送った。シェレンもまた悪くない気分の様子だ。
「おおーい、スイゴくんじゃないか。デュエルの準備は出来たかい」
適当に子供や遊矢達と雑談をしていると建物の中から、修造塾長が現れた。
「大丈夫です。いつでも、デュエル出来ます」
スイゴはそう言って、デュエルディスクを構える。
「よし、それなら俺と勝負だ!熱い戦いにしよう。熱血だーーー!」
塾長とおれは、決戦の舞台へ足を進めた。