「いやー、見事だった!良いデュエルだったよ」
さっぱりしたような表情でそう語る修造。
「うん!俺もスイゴのデュエルを見て、スッゴいワクワクした」
それに同意する遊矢。
「ああ、おれもあんな楽しいデュエルは初めてだ。正直、今でもまだ興奮してるんだ」
「あらん、スイゴ。もしかして、アクションデュエルにハマっちゃったりしてるー?」
維持の悪そうな笑みを浮かべるのは、幼馴染みのシェレンだ。
「別にいいだろ。お前だって、昨日夢中になってたじゃないか」
「ええ、そうね。私も前々から普通のデュエルは体を全然つかわないから、少し力をもて余してたのよ」
「アクションデュエルは本当に身体をつかうみたいだからな」
「君達は、アクションデュエルが初めてなのに随分体力があったね。……なにか、やってのかい?」
塾長は不思議そうに尋ねる。
「まあ……、少しは……」
「体力に……、自信はありますから……」
段々と二人の声が小さくなる。どこか遠くを見て、彼らはそう話す。スイゴとシェレンは、自分達の置かれていた環境によるものが、今日この時に役立っていることに心中複雑だった。
《まさか、『カード回収!50キロマラソン』が役に立つとは……》
《まさか、『激闘!滝を泳ぎながらの水中デュエル』が役に立つなんて!》
彼らは日常的に行われていたこのことを思いだし、憂鬱になった。シェレンの母親の教育方針は意外な所で彼らを救ったが、同時に、彼らから大切な青春の日々と大事な何かを奪ってしまったのかもしれない。
「にしても、お父さん!いつの間に、エクシーズ召喚なんか覚えていたの!?」
「偶々、身近なカードショップにカードが入荷されててな!つい、気になったから買ってしまった!」
「いったい、どこにそんなお金があったのよ」
「まあ、気にするな柚子!シェレンちゃんから臨時収入もあったことだし、食うのには困らないさ」
「そのお金をもっと、塾の経営のために使いなさいって言ってるのよっーーー!」
ハリセンを手にバシバシと父親の頭に、怒りをぶつける柚子。それを宥める遊矢や子供達の構図は、どこか世の世知辛さを感じさせる。
そんな、子供達を遠巻きにスイゴとシェレンはこっそりと話をしていた。
“なぜか、デュエルの記録が有効なものとされているんだが”
“私もよ。柚子ちゃんはジュニアユースなのに、なぜか三連勝扱いになってるわ”
“きっと、赤馬って奴の仕業だな”
“間違いなくそうね”
二人にとっては、赤馬という人物のもつ謎の多さがより増えただけに終わった。
「ねえ、スイゴさんとシェレンさん」
ふと、一人の少年が話しかけてきた。水色の髪を持つその少年は、『紫雲院 素良』と言った。
「確か、儀式召喚だったけ。二人はどこで、そんな召喚法を覚えたの?」
修造とスイゴがアクションデュエルをしている中、二階の観客席にデュエルの途中から彼らのデュエルを見た。何か気になることがあるのか、二人のことに興味津々だ。
「おれらは前にいた学園で……」
「そう!LDSで教わったのよねん。ねえ、スイゴ?」
《グホッ》
話を言い終えるよりも前に、シェレンは無理やり彼らの話に割り込む。ご丁寧に少年に見えない位置で、スイゴに肘内を当ててまでだ。
「……へえ、LDSって儀式召喚も扱ってたんだ」
「そうなのか?君達は前はそんなこと言って無かったじゃないか」
「私達は、海外から来た生徒なのよ。両親とのやむを得ぬ事情で、この町にきたんだけどねん。成績が良かったから、特別に赤馬社長から厚遇してもらってるわけなの」
素良は考えるような表情を浮かべつつ、二人の話に頷く。
修造はまだ得心がいってないように首をひねるが、シェレンはそう押し通す。
「そうか、じゃあ、やっぱり君達は遊勝塾に入ってもらうわけにはいかないかぁ~」
「ええ、一応所属はLDSですから」
スイゴはよくもまあ、こんなスラスラ嘘を話せると感心した。彼女の迫真の演技には、自分も真っ青だ。
「まあいいか!約束通り、君達は俺と遊矢の家に泊まってくれて構わない」
「ありがとうございます、塾長さん。私もスイゴもそのことには、感謝しています」
シェレンは丁寧に社交辞令を返した。彼女は破天荒な性格の持ち主だが同時に生まれ育った家庭のおかげで、人一倍上品な作法や心構えも身に付けている。
「俺もスイゴ達と話せて、うれしいよ。よし、今度はおれのペンデュラム召喚をスイゴ達に見せるよ」
遊矢は嬉しそうに話し、自分の腕を彼らに見てもらいたそうにいった。
「ああ、もし遊矢が試合する日になったら教えてくれ」
スイゴも楽しみを待つように返事し返した。
「それじゃあ、私と遊矢は塾で子供達に授業をするんだけど二人はどうする?」
柚子は彼らに、行動を尋ねる。儀式召喚について、彼女も彼女なりに気になっているようだ。
「私とスイゴは、これからLDSに行く用事があるから失礼するわん。それにスイゴとデートもしたいし、夜までには帰るわよ」
「あっ、お二人ってやっぱりそんな関係なんですか!へえー!」
柚子は何かを期待するような目でこちらを見てくる。実に年頃の少女らしい反応だ。
「いや、シェレンのいうデートは一般的なものとは少し違うから。まあ、用事はあるからおれ達は行くよ。また夜な、遊矢」
「うん!迷うなよ、スイゴ」
そう言葉を交わして、二人は彼らから別れた。
「で、どうして話をさえぎったんだよ、シェレン」
「この世界に来て、知らない人しかいないとは言え出来る限り情報は抑えるべきだとおもったのよねー」
「それだけか」
「…………素良って子いたじゃない?あの子から、何かイヤな予感がしたのよ」
「また、勘か?」
不吉な物言いに、眉をひそめる。
「うん。なんか……よくわかんないんだけど、他の人とは違うっていうか」
「まあ、確かにませてる感じの少年だったけど。せいぜい、不思議な子くらいじゃないか」
「そうだったら良いんだけど。……一応よ、一応」
「あんまり気にし過ぎも良くないさ。大会の前に体調を崩すぞ?」
どこか心ここに有らずな顔をするシェレンだが、おれには彼女の心中を読むことはできない。ただ、おれに出来ることは彼女を不安にさせないように話かけるだけだ。
次のテーマは『満足』