「私のターンよ、ドロー」
…私は私のリズムでデュエルを進めましょうか。
この手札なら……まあ勝てるわね、多分。
「さてさて、それじゃあ盛り上げていこうかしらー。私、『ソン シェレン』なりの『エンタメデュエル』をッ」
スイゴの方を向く、彼は私のことをじっと見ている。いやん、そんなんじゃ照れるわ。柚子や遊矢もまた心配そうに見ている。
シェレンは口の端をつり上げて、笑う。
《こんなんじゃ、つまらないわよね》
私が柚子とやったデュエルはもっと楽しかった、ただ一方的に押し付けるわけじゃない最高のステージだった。借りにもう一度出来るかと問われれば、それは怪しい。
一瞬一瞬を大切にしたデュエルだからこそ、その結晶たるストーリーは美しく人を魅了するのだ。
《悪いけど、ノウンって子のデュエルは好きじゃないわ》
相手の可能性を奪うノウンのデュエルは、勝つには正しいかもしれないがエンタメとしてはいただけない。
そして、だからこそ、シェレンは勝たなければいけない。自身の正しさを証明するために。
「ノウン、貴女に見せてあげるわ。本当のエンタメデュエルを!」
「何を仰るかしら、デュエルにエンタメは関係ないでしょう」
「さっきから貴女ずっとそこにいるわね。……もしかして、カナヅチかしら」
「余計なお世話よッ!」
「さあーて、行くわよー」
彼女は、既に見つけてあったアクションカードを取りに走りだす。
「あったわね、行くわよ。私はアクションマジック『目眩ましの影』を発動。トリシェーラを選択よ」
黒い残像がモンスターの周囲を包み、動けなくした。トリシェーラはまるで、あらぬ方向を見ており、フラフラとしている。
「まずは無粋なカードから、破壊させてもらうわ。手札から速攻魔法『船上の偽装工作』を発動」
船上の偽装工作
速攻魔法
自分の墓地に、『呉』と名のつくカードが三枚以上あるときに発動できる。墓地からランダムに三枚カードをデッキに戻しシャッフルすることで、相手フィールド上の魔法・罠カードを2枚まで破壊できる。この効果を発動したターン、自分は特殊召喚をおこなえない。
「はあっ!?」
「貴女の伏せたカードは破壊よ」
使用されることもなく、ノウンのインフェルニティ・ブレイクが破壊される。
「腹正しい真似をっ」
《まだまだ、ここからが本番よ》
「私は手札から、『呉国の追撃兵』を召喚よ」
呉国の追撃兵
レベル4
戦士族/効果
このカードが相手モンスターを破壊したときに発動できる。このカードは一度のバトルフェイズ中に二度攻撃することができる。このカードが相手モンスターを破壊したとき、このモンスターの攻撃力が破壊したモンスターの守備力の数値を上回っていればその差分戦闘ダメージを相手に与える。
AT1800 /DF1000
馬に跨がる身軽な兵士は、シェレンを後ろに乗せて走り出した。一歩走り出す度に、彼女の感情が、フィールが高まる。
「さあ、あなたも動きなさーい」
「ワタクシは絶ッ対に動きませんわ」
その姿はまさに不動のごとし。
《てこでも動かないようね。なら、動くようにさせてあげるわ》
挑発するように、シェレンは周囲をグルグルと回る。
「そして私はアクションマジック『黒い間欠泉』発動」
黒い間欠泉
相手フィールド上のモンスターのモンスター二体の守備力は500ポイントダウンする。
「私は、トリシェーラとインフェルニティ・デーモンを選択よ」
二体は派手に足場に躓き、膝をつく。その仕草は中々にコミカルだが。
「ほっておくと、ドンドンやるわよー♪」
「ワタクシの有利に、揺らぎはありませんわっ!」
足場に再び、カードを見つける。今度こそは、ノウンも動くに違いないだろうカードをだ。
「私は手札からアクションマジック『暗がりの落岩』発動よ!その効果で、貴女のトリシェーラは守備力が1000ポイントダウンッ」
巨大な石の固まりがモンスターに降り注ぎ、着実にモンスターを弱めた。
「ねえ、ノウンちゃん。もしも、もう一度同じカードを引いたらこの状況をひっくり返せるって言ったら、貴女は動いてくれるかしら?」
「そんなわけ…………あるかも」
何かに気づいたように辺りを見渡し出すノウン。しかし、周囲にアクションカードは落ちていない。
フィールドは暗く、足場を見るのもやっとだ。ずっと探していたシェレンと違い、自分のカード運びだけを考えていたノウンにそんな余裕があったはずない。
シェレンはそんな彼女の後ろから、落ちていたアクションカードを拾いとる。
「私はアクションマジック『暗幕の礫』を発動して、貴女のモンスター全ての守備力を500ポイントダウンよ」
暗幕の礫
このターン、相手フィールド上のモンスターの守備力は500ダウンする。
「残念、時間切れよ。私は手札から戦場の旗印 呉 を発動し、呉国の追撃兵の攻撃力をアップ!」
その数値は2300。
「バトルよ、私は呉国の追撃兵でインフェルニティ・デーモンを攻撃っ」
手負いの魔道士は、兵士の一撃を受けて撃沈する。そして、その差分2300のダメージが主人を襲った。
「くぅぅぅぅっ」
ノウン
LP1700
しかし、彼女は倒れない。それは、自分の可能性を信じようとするためだ。
「私は呉国の追撃兵の効果で、もう一度、トリシェーラを攻撃!」
シェレンがモンスターに近づいてゆくが、だがノウンは諦めずに走り回る。モンスターもまた懸命に逃げる。
「ありました、アクションカード!」
シェレンとの距離が後一歩に詰まり、ノウンは体ごと身を投げてそのアクションカードに飛び付く。
そして、カードを発動した!
《アクションマジック『黒い間欠泉』》
「へ」
《まあ、そう簡単にはいかないわよね》
「ウッソおーーーー」
ノウン
LP0
奇跡とは、一朝一夕では起こらないものだ。
「ねえ、大丈夫」
シェレンは目の前でうちひしがれる女性にそう尋ねる。
「…ひどいですわ、あんなに人のことを煽ったクセに」
「私も敗けられなかったからね。ギリギリの演出だったと思わないかしら」
「納得出来ませんわッ!」
噛みつく口調のノウンを飄々と宥めつつ、私達は観客席へと向かった。席では、どこか苦笑いをした遊矢や柚子、呆れたような顔をしたスイゴがいた。
「シェレン、いくら作戦とは言え、あれは酷くないか」
「はあ?……作戦っ!?」
「あらら、気づいてたのスイゴ」
私も本気でデュエルを盛り上げようとしていたわよ。……でもま、彼女は頑固そうだしこっちが押して行けば上手く動くかも、くらいには思ってたけどねん。
「シェレン~、あなたって人は~…」
ついに涙目で、こちらを睨みつけてきた。可哀想なんだけど、少しだけ可愛らしいと思ってしまったわ。
「シェレン、おれはもう行くぞ」
彼は、私の横をすり抜けてデュエルリングへと向かう。
「スイゴ」
でも、これだけは言っとかないとね。
『勝ちなさい!』
その言葉に僅かに微笑み、彼は姿を消した。敗けの可能性の言葉はいらない、私は彼を信じているから。
「まったく、気楽に言うよな」
おれはシェレンの言葉に含まれる意図を知っている。だから、敗けるかもなんて言えない。
思考を中断し、目の前の相手を見る。紫色の髪をした青年。年の頃は、ちょうどおれと変わらないくらいか。
「君が、俺の対戦相手だね」
その顔立ちは整っており、優男な雰囲気をもったイケメンだ。しかし、その目は真剣そのものでこちらを見ている。
「おれは『スイゴ』、お前に勝つために来た」
「そうかい、俺の名前は『桜樹 ユウ』。全力で相手をさせてもらうよ」
前年度、舞網チャンピオンシップジュニアユースクラスの優勝者がそこにいた。
まさか、固定ガチャ?