「……ああ。終わりだったよッ!」
スイゴは急に走り出し、辺りに落ちている壁の残骸の元に向かう。
「…いったい何を!?」
またもや突飛な行動をするスイゴにリンドウは動揺する。
「……何で無いのか、その答えはこれだ。アクションマジック『奇跡』発動ッ!」
強烈な究極龍の咆哮から、不可思議な力がスイゴのモンスターを護った。
「ぐうぅぅぅッ!!」
しかし、攻撃によるダメージはスイゴを襲った。
スイゴ
LP450
「危機一髪だったなッ!」
「…どうして!?アクションカードは無かった筈なのにっ!」
「……ここは大昔の戦いの跡地だ。目に見えるお宝は全部敵が持って行っちまう。……だがもし残ってるとすれば、当然目に見えない場所に決まってるッ」
おれは瓦礫の下を指差した。
「…わたしはカードを一枚伏せて、ターンエンド」
そう言いつつ、彼女は悔しそうな表情を浮かべる。
「なら、おれのターンだッ。ドローッ!」
「さらに、おれは墓地の無名の商人の効果を発動。墓地の『無名の剣客』、『無名の聖女』、『無名の盗賊』をデッキに戻しカードを一枚ドローする」
カードを引いたスイゴは、会心の笑みを浮かべた。
「おれは手札から無名の隊長を召喚ッ。さらに、無名の剣 剛を発動して無名の傭兵長の攻撃力を4200にアップだッ!」
「…どうしてさっきのターンで……?」
「……どの道、あのままじゃ敗けていたからな」
それはスイゴ自身の紛れもない事実だった。
それにもし仮に彼女がフィールドの魔法カードを破壊するカードを引き当ててたら罠カードではなく、そちらを狙われる可能性もあっただろう。
「…でも、青眼の究極龍の攻撃力は4500。届いてないっ!」
「だから届かせるさ。おれは手札から、速攻魔法『帰路なき戦闘』を発動ッ!」
帰路なき戦闘
速攻魔法
自分フィールド上の『無名』と名のつく戦士族モンスター一体を選択して、発動する。選択したモンスターの攻撃力を2000ポイントアップする。このカードを使ったターンエンドフェイズ時、このカードの効果で選択したモンスターの攻撃力を0にする。このカードの効果は、『穢れなき決闘』を発動するターンには使用出来ない。 このカードは、相手のライフが2000以下の時は使用できない。このカードはゲーム中に一度しか使用出来ない。
「…攻撃力6200!?」
「バトルだッ!!無名の傭兵長で青眼の究極龍を攻撃ッ!!!」
「…わたしは、伏せカード『聖なるバリア-ミラーフォース-』発動っ!これで、無名の傭兵長を破壊!」
《危なッ》
「おれは無名の隊長の効果で、ミラーフォースの発動を無効にするッ!」
「…っ!!竜魂の城の効果を発動!墓地の青眼の白龍をゲームから除外して、青眼の究極龍の攻撃力を700ポイントアップする」
互いにその力を上昇させ、最強と謳われる龍と名も無き剣士がぶつかり合う。幾ばくかの均衡を見せて激闘を制したのは……無名の傭兵長だった。
「キャアァァァ」
リンドウ
LP1500
強力な一撃によるダメージを受け、リンドウは思わず膝をつく。…………しかし、彼女の眼はまだ死んでいなかった。
「…暴風竜の防人の効果。このカードを墓地に送って、青眼の究極龍の破壊を無効にする」
《…このターンが終われば彼の無名の傭兵長の攻撃力は0になる。そうすれば、今度こそわたしの勝ち……!》
彼女は自分自身の勝利を確信した。
「ああ、そうだな」
「…!?」
「言った筈だ、 『あのままじゃ敗けていた』と。おれはカウンター罠『名もなき襲撃者』発動ッ!無名の傭兵長の攻撃力を1000ポイント上げてこのターン、戦闘によって破壊出来なかったモンスターにもう一度攻撃出来るッ」
「…ウソ……!」
つまり、リンドウはスイゴの挙動に惑わされ自ら勝利を逃してしまったのだ。実力では間違いなく劣っていた。しかし、彼の行動によって、諦めない気持ちにより、この結果が生まれた。故に……。
「バトルッ!無名の傭兵長で青眼の究極龍を攻撃ッ!!!」
「…アクションカードは!?」
「無駄だ、さっき周りのアクションカードはおれが全て使った!」
攻撃力7200を誇るその一撃が再度究極龍に迫り、今度こそその首を掻き切った。
「…わたしの敗け…………ね」
リンドウ
LP0
その勝利は必然でもあった。
おれは床に膝をついている彼女に話しかける。
「大丈夫か」
「…うん」
しかし、デュエルに敗けた筈のリンドウは、なぜかとても清々しい顔をしている。一息置き、彼女は自力で立ち上がった。
「…最初に、見た時に分かった。君は他のデュエリストとは目が違ったから」
「目って……」
その言葉に、思わず首を傾げた。
「…何かを護ろうとしてる。大切な人の為に強くなれるような……そんな目」
「!」
「…そんな君は格好いい。……本当に、好きになったよ!」
花が咲くような笑顔をおれに向け、リンドウは観客席へと行った。おれはそんな彼女を見て不覚にも『ドキリ』としてしまった。
観客席に帰った来たスイゴを私は黙って睨み付ける。
「随分と仲が良さそうだったじゃない?」
彼は私のその質問に、きまり悪そうな表情をしている。
《まるで、浮気をしてる男みたいね》
自分とスイゴはそんな関係では無い。……かと言って、彼が他の女性にばかり気を向けるのも腹は立つ。リンドウはもうどこかに行ってしまったと云うのに。
「……別にそんなことはない」
「彼女なら『また、舞網チャンピオンシップで一緒に闘いましょう』って、言ってたわよ」
そのことを話すと、彼は驚いたような顔をした。そして、ただ『分かった』と言った。そんな反応も私にはどこか苛立たしく思える。
「まあ、いいわ。……私はもう行くから」
こんな色事でいちいち落ち込むのはらしくないわ。早くデュエルフィールドに行って、何時もの私に戻らないとね。
「シェレンッ」
彼から声が聞こえた気がするので、私は振り向いた。
「……『一緒』に舞網チャンピオンシップに出ようなッ!」
彼はそう言って笑って見せた。上手く笑顔を作れておらず、どこかぎこちないのだが私はそんな仕草に思わず苦笑する。
《え~?そんなに、怖い顔してたかしら》
きっと緊張してこうなったとでも思ってるのだろうがその言葉に気が緩んだのも確かだ。さっきまで感じていた胸のイライラが吹き飛んでしまった気がする。
《まったく、こんな簡単に許せちゃうなんて…………ズルいわよ♪》
スイゴらしい励まし方だ。そして、そんな何気ない方法が一番私には効くのだ。
「あったり前よ~♪…ありがとね、スイゴ」
《さーて気分も軽くなったことだし、ちゃっちゃとデュエルを終わらせて来ましょうか》
足取りも軽く、私はデュエルフィールドへと向かった。
しかし、この時私は知らなかった。これから起こるデュエルには思わぬ『落とし穴』が待ち構えていたことを。