五戦目のデュエルの翌日、スイゴはシェレンを起こしに修造塾長の家まで来ていた。部屋に引きこもり出てこない彼女を引っ張り出す為だ。
「……シェレン、いい加減きりかえろ」
「あんな風に怒るのなんか、昔からよくあっただろ」
「『レイハ』さんとかは、お前とよくケンカしてたもんな」
「つーか、レイハさんも今回の相手も向こうが一方的に仕掛けて来てただけだ」
「気にすることは……」
「…………そうじゃないわよぉ」
弱々しくだが、ようやく彼女の声が扉越しに聞こえた。ここで、半日ちかく話しかけ続けたかいがあったものだ。正直、本当はいないんじゃないかと思ってたので内心ホッとした。
「違うのか?なら、子供達のことか。確かにアレには引いてたな」
「やっぱり~~~…」
「まあ、人に『暴走するな』と言っといて、自分はしたのにはおれも呆れたが」
「うん、まあ分かってるわよ」
「シェレン………………もう、機嫌直ってるだろ?」
「あ、分かる♪」
その言葉で話を切って、扉から彼女はいつも通り陽気に現れた。
「……はあ、何時から戻ってたんだ」
「ん~、…最初の三時間くらいね」
「おい本気でふざけんな」
つまり、残りの九時間は全くの無駄じゃないか。
「いや~、スイゴがずっと扉越しに話しかけてくれるのが面白くてね。つい」
「取りあえずおれに謝れ」
明るい様子でおれの文句を受け流しているのを見ると、本当に大丈夫そうだ。
おれが精神的にダメージを負ったが。
「で、シェレン。子供達のことはどうする?遊矢と柚子は、もう其程気にして無いみたいだが」
「あら意外ね。最初、わたしのあの姿を視た人は大概距離を置くんだけど」
「アイツらも、ああいうのには馴れてんだと」
あのシェレンを見て、トラウマにならないんだから大したもんだ。そう、感心する。
「……実は子供達とはもう和解してるのよねん」
「やっぱり、脱走してたのかッ!!」
恐らく窓から出たに違いないが、それにしても中の様子の変化に全く気がつかないとは。
「まだまだよね」
「もう本当に黙ってくれ」
シェレンに悪態を吐きつつ、内心はよかったとは思っている。中学生の時も、『レイハ』さんに同じ様なことをしてクラスメイトに引かれていたことがあった。彼女は普段気まぐれな性格でストレスなど微塵も無いようだが。その実、精神的に繊細な部分もあり人のことも思いやることができる。
その結果が、引きこもりだ。……まあ、立ち直るのも速いから不安過ぎることは無いけどな。
「それじゃ、話はここまで。気分転換に活きましょうか」
「何時もガス抜きしてるくせにな」
ネトゲの大会のために、わざわざ学校を休んで行ったこともあったな。もっとその行動力は他で使え。
「いやん、さっさと行くわよ」
「行くって何処にだ?」
「決まってるわ。デートよ、デート♪」
そう言って彼女はおれを引っ張り、ひろばにある公園に連れてきた。確かに、デートスポットには適しているが………絶対そのままの意味で来たわけではない。
「それで、昨日のことの他に話したいことでも有るのか。ここなら、遊矢達はいないしな」
「ねえ、スイゴ。最後のデュエルの相手はわたしとしないかしら」
「ッ!」
「昨日の試合を見て強くそう思ったわ。たった数日で、学園の頃とは実力が大違いだもの」
「焦ってるのか、お前らしくない」
おれは声をきちんと出せているだろうか、平静を装えているだろうか。
「スイゴもそう思ってたでしょ」
確かにそうだ。シェレンとは学園でデュエルした時には殆ど勝ててなかった。儀式召喚も使えなかった。今のおれがどこまで彼女に通用するのか知りたい思いはあった。
「ああ…………確かにな」
「なら、いいでしょ。戦いましょうよ」
獰猛な笑みを向けてきた。いつもの彼女とは違う、本気で倒したいと思った時にだけする表情。
それを見て、心の底から戦いたいと思う。互いに大会出場をかけてのデュエルだ。六戦目の相手としてはこれ以上無いくらいに真剣に戦うことになる。
「戦いたい…………けど、駄目だ」
「どうしてよ」
「シェレン。おれらは権現坂達とは違う、目的がそもそも別だ」
「分かってるわよ」
「この世界の住人だったら、それでも良い。でもおれ達にはやることがある」
「……ええ、そうね」
他にも言いたいことがあっただろうが、それ以上は口を開かなかった。
シェレンはおれよりも頭が良い、興味本意から来る感情と元の世界に戻る可能性のどちらを選ぶべきかなんて本当は解っている筈だ。
「…………やっぱり、ダメかしら?」
「駄目だろ」
「そっかー、じゃあ仕方無いわね。LDSから連絡来るまで待つしかないわね」
スッキリとした顔で彼女はそう言い切る。結局、おれに諦めさせて欲しかっただけなんだろ。
「シェレンとは『舞網チャンピオンシップ本選』で戦う」
「……あら?良いのそんな簡単に言っても」
「戦いたいのは一緒だ。元の世界までお預けする必要も無いだろ」
「そうね、わたしとしたことが不覚だったわ」
お互いに顔を見合い、一瞬だけニヤリと笑う。二人共戦うことが好きな事には違いない。ならば、決着は然る舞台でだ。
「それでこれからどうする、シェレン」
「んー、わたしとしてはもうすることもないし。帰ろうか?」
「良いのか。普段なら、もっと……」
「多分だけど、もうその必要は無い気がするの」
それはどういう意味だ、と尋ねそうになった時だ。デュエルディスクから、とある電子音が聴こえた。ユウやリンドウの時にもあった音だ。
おれたちは慌て、自分のそれを見ると…。
「…どうやら、本当に必要無さそうだな」
「そうみたいね」
[六戦目のデュエルの相手が決まりました。至急、LDS本社まで来てください。今回に限り同行者の同伴を禁止します]
大会への出場を賭けた最後のデュエルは、今、始まろうとしていた。
おれたちは二人同時にデュエルフィールドの舞台に来た。今回の相手だけは、二人一辺にデュエルをしろという条件付きだったために。そのことに疑問はあったが、スイゴとシェレンは大人しくこの場に来る事にした。
そして、その場にいたのは男がただ一人。
「どういうつもりかしら。早く対戦相手に会わせて欲しいのだけど?」
「おれも同じだ」
二人は目の前の男に疑問を投げかける。しかし、追及をしても男は微動だにしない。ただ静かに黙しているだけだ。
「その必要はない」
目の前の男はそう口にする。
「なるほどね、それで相手はどこかしら?」
シェレンにはもう解っているのだろう。いやおれにだって、もう解る
「君達の相手は、目の前にいる」
赤きマフラーをたなびかせ、超然とした態度で立ち此方を見る瞳は深く。
「私がデュエルの相手をしよう」
『LDS』のトップにして、恐らくおれ達が知る中で一番強いであろう存在。
『赤馬 零児』が其処にいた。
「……それは、お前がおれ達二人と戦うということか」
「その通りだ。この世界で培った君達の力を私に見せてみろ」
そう言い残し、デュエルディスクを構える赤馬。つまり、この男の話に嘘は無いことになる。
「……スイゴ、全力で相手しなさい」
「当たり前だッ、コイツ相手に手加減はしない」
遊矢から聞かされた話だ。赤馬は四つの召喚法を繰り出すデュエリストだと。
『融合召喚』、『シンクロ召喚』、『エクシーズ召喚』、『ペンデュラム召喚』…………つまり、おれたちの『儀式召喚』を除く全てを持つことになる。それだけの召喚法を自在に使えるだけで、その者の力は容易にわかる。
「君達が自らの世界に帰りたければ、この私を乗り越えるしかない」
おれとシェレンも同時に、デュエルディスクを構える。
「「上等だ」」
「「上等よ」」
お互いに声を響かせあう。この男に勝ち、おれたちは元の世界に戻る手がかりを得る。そのために。
《《アクションフィールドセット、『魔王の墓場』》》
フィールドの天井は深い曇天の空へと変わり、地面には無数の骨が風化したようなモノがある。所々に、建物の壁の一部らしき物体が落ちている。ここでは、数多の人々やモンスターが本当に命を落としたのではないかと錯覚させる光景だ。
『戦いの殿堂に集いしデュエリスト達がッ!』
『モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!』
『フィールド内を駆け巡るッ!』
『見なさい!』
『『これぞデュエルの最強進化形、アクション!!』』
『デュエル』
スイゴ&シェレンvs赤馬
LP8000/LP8000
戦いの幕は、今、切って落とされた。
【『試合のルール』】
【三人共に開始手札は5枚づつ】
【スイゴとシェレンのフィールドは共有】
【スイゴとシェレンのライフも共有】
【一ターン目は誰もドロー出来ない】
【順番はスイゴ、赤馬、シェレン、赤馬、スイゴ、……の順に回していく】