『舞網チャンピオンシップ』は初日から盛り上がりをみせる。そこでは様々なデュエリスト達が入り乱れ、その実力を互いにぶつけ合うことで観客達を大いに魅了した。
そして、今日はその大会の二日目。
「昨日は凄いデュエルだったな、シェレン」
「ふふふっ、ありがとう。もっと誉めてもいいわよん」
「すごいすごい」
「えー、棒読みじゃない」
今、おれとシェレンは観客席で昨日の彼女のデュエルについて話し合っていた。
「まあ、何だ。……勝ったな、シェレン」
「ええ、次はスイゴの番よ」
その言葉はおれにプレッシャーがかかる。昨日の試合を観て改めて思ったのだが、この大会は本当にレベルが高い。
「不安なの?」
「……別に」
戦う相手は大会を勝つごとにもっと強くなる。それに敗けないためには、おれがおれ自身のデュエルスタイルを貫くしかないだろう。
「ところで遊矢達はどうしたんだ」
「さあ、柚子ちゃん達準備が遅れているみたいだったからわたし一人で出てきたのよ」
「今なら誰か来てるかもしれないな。よし、遊矢達の様子を見てくる」
「一緒に行こうかしら」
その言葉を『どうせ時間もかからないから一人で行く』と断る。シェレンには観客席の場所取りをしていて貰うためだ。席を離れるおれになぜか彼女が忠告してくれた。『何かイヤな予感がする』と。おれには、試合のことよりもその言葉の方が不安に感じる。
「アイツが言うと冗談じゃなくなるって……」
独り言を呟きながらも、遊矢達が待ち合わせの約束をしている場所へ足は止めない。目印である大型のモニターが見えてきて、その下には遊矢のみ仁王立ちで立っていた。どうやら、塾長達はまだ来てないみたいだ。
「あれ?スイゴは先に行って、席取りをしてなかったけ」
「シェレンに場所を確保して貰うように頼んだから大丈夫だ」
「そっか、柚子達はまだ来ないんだ」
それで一人ここに立っていたわけか。時間が時間だけにそろそろ試合も始まる。
「まあ、いいか。それじゃあ、おれは先に席に戻ってるよ」
「俺は皆が来るまで待ってるよ」
その言葉を最後に二人は別れる。おれは席に戻ろうと歩き始めるが、ふと一つ用事を思い出した。
「……しまった。遊矢に場所を言うの忘れてた」
面倒だが仕方ないと思い直し、おれは再び遊矢の立つ場所へ向かう。今度は先程と違い、塾長達は揃っていたが遊矢だけが居なかった。彼らに聞いた話によると、なんでも人を追っかけて会場の外に走っていったらしい。
「仕方ない、おれが遊矢を探してくる」
「良いのかい。君も今日は試合があるんだろ」
「おれの試合は素良と時間が被ってるから、まだ余裕があるし問題ないです」
神出鬼没の幼馴染みを持つスイゴにとっては人探しは日常茶飯事だ。
「すいません。私からも遊矢の事をお願いします」
柚子からも頼まれた。彼女も遊矢の事を心配しているようだった。
「分かった。さっさと引っ張って帰ってくる」
そう言って、スイゴは会場を出る。外に出て町の様子を見ると数日前とは違い、ほとんど人がいなかった。これなら人も探し易いと思い足早に町の中をまわっていく。
《にしても、何か変だな》
遊矢は大会に参加することを楽しみにしているようだった。そんなアイツが関係ないことに首を突っ込んで、試合に間に合わなくなるリスクを犯すだろうか。それに、シェレンが言っていた言葉も気になる。
「……まさか、アイツ。面倒事に巻き込まれてないよな」
自身の考えに不吉なものを感じたこともあり、急いで彼のことを探すことにした。もしかしたら、人目につかない所にいる可能性も考えて森や路地裏、公園など様々な場所に行ったがどこにもいない。もう既に会場に戻ってるんじゃないかと思い始めた時だ。
「……何やってんだ、あの人」
偶々通りかかった橋の上で、一人ただ立っている女性。普段なら別に気にせずに通りすぎてしまうのだろうが、今はひどく気になった。ずっと見ていると、向こうも流石に気づいたのかこちらの方を向いた。
「何ですか」
「悪い、何か他意がある訳じゃない。なんかぼーっとしてるようだったから」
「見ていたと」
「……ああ」
緑色の髪を持つ女性は、何か勘に障ったのか警戒するような目でこちらを見てきた。おれ自身初対面の相手に失礼なことをしていたこともあり、その話に黙って頷く。
「本当に悪かったよ、おれもこれから大会に行かなきゃ行けないしもう行く」
「…………大会…」
おれの言っていたことに目の前の女性は首をかしげた。
「あれ、知らないのか。今はこの町で『舞網チャンピオンシップ』っていう大規模なデュエルの大会が開かれているんだが」
「デュエルの大会……そうか、だから町には人がいなかったのか」
「そうだ」
「そうですか」
もしかしてこの町に来たばかりなのではと疑問に思う。それにしても、町全体を巻き込む程の大会を知らないのは変な話だが。
「……もしかして『あいつ』もそこに……」
「?」
彼女の言うことが少しだけ気になったが、あえて無視した。人のことに首を突っ込みたがるような奴はあの幼馴染み一人で十分だ。
「…………」
おれが余計なことを思っている間も、目の前の女性は口に手を当てて何かを考え込んでしまっている。
「……だが、『不用意な感情』だ……」
一人で七面相しながらブツブツ言っている姿はひどく不気味だ。おれは彼女のことなんか放って置いて、もう会場に戻ろうかと思ってしまう。すると、何か考えをまとめたのかこちらへ向いて口を開いた。
「そのデュエル大会には、今から参加は出来ないのですか」
「大会は既に始まってるから無理だな」
「…………そう」
おれの言葉に目に見えて落ち込んでしまう。もしかして……。
「デュエルバカか」
「いきなり、失礼じゃないですか?」
しまった。話しやすくてつい、思ったことが口に出てしまった。所轄うっかりと言うやつだ。彼女も口の端をヒクつかせている。
「……まあいいですが。それよりあなたは大会に参加するのですか」
「ああ、これから会場に戻る所なんだ。知り合いを探していたが見つからなくてな」
「なら、丁度いい。わたしもそこへ案内してくれないか」
「別にいいが……ちょっと待ってくれ」
そう彼女に言うと、おれはデュエルディスクに内蔵されている時計で時間を確認した。
《…………あれ?》
一瞬見たものが信じられなくて、目を疑ってしまった。どうやら彼女とは思ったより長く話をしていたみたいでもう権現坂の試合が終わる予定時刻だ。そして、遊矢の試合までの時間も殆ど余裕はない。
「どうした」
横の女性が不審な様子を尋ねてきたが、それに説明している暇はない。
「どうやらもう時間がヤバそうなんだ。申し訳ないが、走るからそれを追って来てくれ」
「はあ!?」
何か文句を言っていた気がするがそれを無視して走り出す。このままだと、遊矢の試合を観戦する所か自分の試合に間に合わなくなる為だ。
結局、おれ達が会場についたのは遊矢の試合が始まって少し経ってからになった。
「はあっ、良かった。遊矢はもう来てたのか……」
「あら、遅かったわね。どこに行ってたのかしら」
息絶え絶えなおれにシェレンが話かけてきた。そういえば、彼女のことを放ったままだったのを忘れていた。
「悪かったよ。まあ、色々あってな」
「へぇー、それは後ろの人に関係あるの」
「ん?」
後ろを向くと、おれ以上に苦しそうに呼吸する女性の姿。
「ああ、町であったんだけどさ。大会を観たそうだったから案内したんだよ」
「…………ふざけるなよお前……」
苛立つような声が聞こえた。
「………勝手に走り出しておいて、何を勝手なことを言っている…」
「スイゴ、それは案内って言わないわよ」
二人の女性から猛批判されてしまった。まあ、事実だが。
「悪かったよ……それで、試合はどうなってるんだ」
二人には軽蔑するような視線を向けられたが気がつかないフリをする。おれが遊矢のデュエルの様子を見ると、丁度対戦相手の『沢渡 シンゴ』がフィールドにモンスターを召喚した所だった。
『《ペンデュラム召喚!……出でよ、『魔妖仙獣 大刃禍是』》』
鳥居似のモンスター二体に囲まれる中に、荒々しい風を吹かせる一体の大型モンスターが出現した。
「あれは、遊矢の……。赤馬以外にも使える奴がいたのか」
「そうみたいよ。どうやら、あの召喚法はもう彼だけの特別なものじゃ無いみたいね」
シェレンのその言葉に横にいる柚子や塾長も顔を暗くする。遊矢本人はどう思ってるのだろうか……。
「何…だ………あの召喚法は!?」
横で試合を見ていた女性はこの光景にひどく動揺したようだ。おそらく、彼女は初見だったに違いない。
試合は進み遊矢は益々追い詰められていく。沢渡の行ったカードコンボによってアイツのフィールドはがら空きになり、手札も殆ど無くなってしまった。
「どうなっちゃうの、遊矢お兄ちゃん……」
子供たちは不安気な顔を浮かべている。
「遊矢、あきらめるなっ!」
塾長は必死に声援を送る。
「男を見せんかっ!」
親友たちもまた彼を励ます。
…………だが。
「待って!…………遊矢、笑ってる……」
アイツの表情から笑みは消えない。まるでこの状況を楽しむかのように沢渡のことを見据えている。
「すごいな…………アイツ」
おれはそんな遊矢の姿に衝撃を受けた。
昨日の柚子やシェレンもそうだったが、不利な状況でも試合を諦めずに、自分を見失わずに戦っている。
「敗けられないな」
思わずこの言葉が口に出てしまった。遊矢があんな風に自分らしいデュエルする様を見て、燃えない筈がない。
『《お前のアクションカードの効果を逆手に取らせてもらったよ》』
再び試合を観ると今度は遊矢が沢渡のカードの効果を逆手にとって、反撃したようだった。
片方がデュエルで魅せれば、もう片方はそれ以上の手を使い人々を魅了する。
おれは理解する。彼らのこの姿こそが『遊矢』や彼の父親『遊勝』の目指す『アクションデュエル』のあるべき姿だと。
『《俺は新しい可能性を見つけた。だから、楽しくて仕方ない!》』
アイツが言う可能性とは、ペンデュラムの『その先』のことだろう。遊矢が自分を信じ続けたからこそ見えた境地。
「…………おれにだって………あるッ!」
魔導使いのユウとの試合で使った召喚法。その正体は、未だよく分かっていない。
……が、アレを使いこなせるようになれば自分はデュエルでより上のレベルを目指すことが出来る。
「そうだ、まだまだ強くなってやる」
赤馬のデュエルでは、確かにおれは届かなかった。それは奴の言う通り、己の実力が足りなかったからだ。遊矢のデュエルがそれに気づかせてくれた。
「遊矢……なんかこのデュエルでまた進化してる感じがする」
柚子たちは二人のデュエルを讃えている。
スイゴもそれに頷く。
彼には悩んでいる暇なんかないのだ。そんなことしてる間に皆に置いてかれるに違いない。力が無いなら、この大会でつければ良いと思える。
「儀式の『その先』を……おれは完成させてみせるッ!」
「……スイゴ」
シェレンはそんな彼の姿を見て微笑んでいる。おれもそんな彼女に笑って返事する。
「シェレン、おれは絶対にやるよ」
「ええ、楽しみにしてるわよ」
おれ達が話す間に会場の観客は遊矢のペンデュラム召喚を期待して、応援し始める。柚子や子供たちも同じように声を出す。二人もそれに乗っかる。そして……。
『《見事引きこめましたら、ご喝采!》』
それからの試合はまさに圧巻だった。手札がない状態からの遊矢の奇跡的なドロー。その後のペンデュラム召喚から融合召喚を決めた。
『《出でよ、野獣の眼光りし獰猛なる竜!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』》』
相手とのアクションカードの取り合いも制す。それによって、ついに彼は勝利を収めた。
「これが、アクションデュエル……か」
隣の女性もその光景にどこか茫然としている気がした。
「ああ、そうだッ!」
「そうね♪」
スイゴとシェレンはそれに答える。二人は、この光景を生涯絶対に忘れないことを胸に誓った。
観客達全員が遊矢達に拍手をおくる中でスイゴは会場を一人後にする。そして、彼は強い覚悟と共に自身の『決戦の場』へその足を進めた。