これは、聖フランチェスカ学園で起こった本編の前の物語。とある幼馴染み達のお話。
「「「「「「ホンゴウ カズトォォォォォ~~~~ッッッ!!!」」」」」」
一人の少年が、複数の少年に必死の形相で追いかけ回されている姿を見たら、第三者からはどう見えるだろう。いじめか、はたまた復讐か、あるいは自業自得か。彼はそのどれにも当てはまっており、同時に、やや違った事情を持っていた。
「「「「「「ホンゴウくぅぅぅぅ~~~ん!!!」」」」」」
今度は少年でなく、女子の集団だ。彼女達もまた、少年のことを追いかけていた。ただ男と女のグループの間で違うことと言えば、女達はその顔の頬が桜色で染まった者ばかりだ、ということだ。
この違いは、露骨な変化を生む。つまり、男は『嫉妬』であり、女は『恋慕』の感情を抱いていることだけだ。そのために、彼らは毎日毎日、追いかけっこを繰り返すのだ。たった一人の少年のためにだ。本当に、くだらない。
スイゴは、その日、ほんの少しだけ気分が良かった。連敗していた『デュエルモンスターズ』の戦いで、久々の勝利を収めたためだ。校内でも、『カード』の腕が上位にあたる少年の幼馴染みは少年自身の憧れであり、越えるべき目標でもあった。そのために、気が緩んでいたことは確かだった。
「随分、機嫌が良さそうだな。スイゴ」
「別にそんなことはない」
学園の広い庭の中を歩く二人、片方は少年の『スイゴ』。そして、もう片方は幼馴染みの『メイリン』と言った。
この二人は、普段、他の二人の女子共に幼馴染みだが。今日は偶々、時間が噛み合い登校を共にしているのだ。あくまで、偶然である。
「『シェレン』は、今朝機嫌が悪かったぞ。9連勝で途切れたとかな」
「なら良かった。今度はきっちり借りを返してやる」
二人の話の話題にある少女『シェレン』こそ、四人の幼馴染みの一人のその人であった。
「にしても、今日は数学でソリティア部門の授業か。あの授業、訳がわからないし、嫌いなんだよな」
スイゴは、愚痴るようにぶつぶつ、と呟く。
「おいおい、いくら難しいとは言え、新しく考え出されたばかりの部門だ。あくまで、今のは基礎でしかないだろう」
メイリンはそう返事をした。緑色の髪を持ち、長いそれをリボンでまとめている少女。メガネをかけているおかげで、生来の知的な雰囲気も含め、より一層頭がよく見える。
「まあ、スイゴは複数のモンスターを並べるよりも一体を強化するほうが好きみたいだからな」
「ああ、そうだな。エースが何体もいて、たまるかよ」
「お前は、いつ、そのエースモンスターを見せてくれるのかな」
「ちょうどいいカード、を見つけたらだ」
毎回、メイリンのこのからかいにはうんざりする。おれは、学園で一般的に行われるデュエルモンスターズの召喚の基礎手段の内、通常召喚と生け贄召喚しか覚えていない。他の生徒は、大概、儀式召喚という、特殊召喚法を覚えているのにだ。
「向いてない訳じゃないが、合ってない気もする」
「どっちなんだ」
曖昧な返答にメイリンの鋭いツッコミが入った。
「この前の『カオス・ソルジャー』だったか。あれは、使いづらい」
「いや、それはおかしい。伝説の『ムトウ ユウギ』も愛用したカードだ。あれは、一番初めのものだろう」
「なんか、手札で事故る」
「『高等儀式術』でも、いれとけ」
「シェレンにやったよ」
「そんなんだから、お前は敗けるんだよ」
手厳しいご指摘です。しかし、事実だから言い返せない。
「……そう言えばさ、今朝、『エクストラデッキ』に変なカードがあったんだよ」
「はあっ?エクストラからか。あそこは、ほとんど、から箱だろう」
「なんか、儀式モンスターカードが入ってた」
「スイゴ……、うそなら、もっと上手くつけ」
「エイプリルフールは、数ヵ月も前だろうがっ。ウソじゃないから」
おれはそう言って、例のカードを取りだしメイリンに見せる。
「『無名の剣将』?よかったじゃないか、お前は確か、『無名』シリーズのモンスターを使うだろ」
「そうだけど、流石に、不思議でな」
「大方、シェレン辺りがプレゼントしたんだろ。母親の押し入れを勝手に漁ったりして」
「いや、しないだろアイツなら」
「そうだな」
二人は、同時に頷く。シェレンの母親は、自分の娘に厳しいことで有名だ。幼馴染みのおれ達も、またその巻き添えを食って、酷いことに会ったのは両手では数えきれない。下手したら、デッキの限界投入枚数を越える。
「で、儀式魔法はどれなんだ」
「ない」
「はぁ!?儀式魔法なしで、どうやって、召喚するんだッ!」
「そう言われても、ないものはないからな。高等儀式術、やるべきじゃなかったかな」
「当たり前だろう。あのカードが、どれだけ希少価値があるのか本当に分かって無かったんだな」
呆れたように、彼女はため息をついた。
「まあ、そう言うわけだから。おれはまた、見つかるカードを待つしかないな」
「笑わせるなよ、スイゴ。それは、出来ない者の常套句だ」
「…今度は、お前を倒したくなったよ」
「…勝負なら、いつでも相手してやる」
少年と少女の間で、火花がぶつかりあった。
「はあ、メイリンには口じゃ勝てないしな」
「不毛な会話だな、大人しく学校に行き勉学に励むとするか」
「…ソリティア理論のことは、学校でまた説明して欲しい」
「気が向いたらな」
周りの空気が密度を増したような気持ち悪い気分だ。二人は、気まずくなり、別々に別れる。彼らがいたのは、既に、教室のドア前だった。
今日、俺こと『ホンゴウ カズト』は一大決心をして、学校に望んだ。もっとも、善き相談相手に悩みを解決してもらうためだ。
「スイゴっ、頼む!追いかけてくる、生徒達を何とかしてくれ」
「無理だな」
「おいいぃぃぃ、他人事ォ!?」
カズトは、クラスメイトの薄情さに絶望した。
「人の幼馴染みの妹に手を出したり、母親がわりの女性を口説くお前にはうんざりだよ」
「誤解を招くこと、言うな!トウカはお弁当を作ってくれるだけだし、サイさんは玉に御飯をご馳走してくれるだけだろっ!!」
「最低だな、お前」
《何なの、コイツ。俺のこと嫌いなの?》
「ああ、嫌いだな」
「そんなとこばっか、シェレンに似るなよっ!?」
「止めろ、おれはアイツの十倍は常識的だ」
「それでも、人一倍はおかしいけどな」
「お前には、言われたくない」
流れるような貶し合いに、俺は陰鬱な気分になる。目の前の男は、本当におれにだけは優しくない。なんか、ツンデレからデレを除外したような。おれだけ、『死者蘇生は使わせませんよ』、とかそんな感じだ。
「…なあ、彼女つくれば解決するだろ」
「お前な、そう簡単に決められないから困っているんだろ」
すると、スイゴには微妙なとしか表現できない顔をされた。
「そんなんだから、『種馬』だか、『洗脳ブレインコントロール』だとか言われるんだよ」
「誰だよっ、そんなこといったヤツ!?」
「お前から、彼女をーーーされたやつ全員だろ」
「間の文字は何だよ」
遊戯王の新しい単語か、とスイゴには聞いたが。アイツからは、『そんなんもわからないから、問題が解決しないんだ』、とか言われた。コイツはいいよな、他人事で。シェレンさんやメイリンさんに嫌われて、仕舞えばいい。
スイゴは放課後になって、結局、家に帰ってしまった。幼馴染みの母親の修行という名の拷問を受けに行く、とか言ってたな。俺は解決しなかった問題をまた翌日に、持ち越しすることにした。
《まだだっ!俺は今度こそっ、明日という名のドローをして、逆転をして見せる!》
……どこからか、『先にデッキが無くなるだろ』って、言われた気がするけど、気のせいだよな。
「うーん、…身体中痛いわ」
「頑張って、シェレンちゃん!」
シェレンは、自身のことを放っておいて私のことを気遣う幼馴染みの『リアン』の言葉に嬉しくなった。
「大丈夫よー、お母様が厳しいのは何時ものことじゃない♪」
「まあそうだけど……心配だし」
「リアンだって、一緒に受けてるじゃない」
私達は、本日は、私のお母様こと『ソン イェンレン』に身体鍛えるための修行『気合いの!五万回ドロー素振り』を受けさせて頂いたのだけれど。……正直、これが中々ハードで身体が休まることがなかった。
「そんな疲れているのも、スイゴのせいだよ。……まったく、足を引っ張りやがってぇ」
「そんなことないわよん。普通の学生のだったら、私達についてくることすら不可能よ。第一、アイツを巻き込んだのさ私よ~」
「シェレンちゃんはいいの!可愛いから!」
リアンは、どこかスイゴのことを目の敵にしているのよね。まあ、アイツも確かにメンドクサイもの抱えてはいるけどね。そのせいで、今一歩、信用しきれないかのかもしれない。
「シェレンちゃんは、お人好しだね~。スイゴ何かほっとけばいいんだよぉ」
本当に幼い、幼稚園の頃から一緒のメイリンと違い、リアンとスイゴは小学生くらいに親友になった間柄。その頃は、口数が少なく、クラスの人達とは馴染めていないようだった。その時に私とメイリンが話かけたことが今の明るい性格のリアンに繋がっているのかもしれないわ。……けど、やはりか女子はともかく、男子には苦手意識があるようなのよね。
「…でね、シェレンちゃん!どっちが言いと思う?」
リアンは両手に持つカードを私に見せてくれた。
《『女神の宝札』と『馬の骨の宝札』って、何かいやに比較的ね》
「あらら、どっちも強いわよん。…でも、少しだけ『女神の宝札』のほうが好きかしら」
「えー、本当に!?……そんな、嬉しいこと言うなよぉ」
《ま、ちょっとだけよ》
私にとって、リアンもスイゴもメイリンも三人共大切な親友だ。三人共、好きな所だって違うし、比べるものじゃない。例え一人でも欠けることを選ぶことになるくらいなら、私は全員を助ける選択肢を探したいわ。
「だって、親友じゃない♪」
私は心の底から、そう笑顔で答えた。