ベッドの上では一人の少年が眠っていた。その顔は普段の装いからは想像できないほどに幼く見える。いや、年相応と言える。病室の外では、そんな彼を心配する遊矢達の姿があった。
「『黒咲 隼』!」
遊矢の目が鋭くなる。先日の試合で遊勝塾の仲間である『紫雲院 素良』を黒咲によって傷つけられた。そのことにひどく腹を立てていたのだ。
「どうするのお父さん?病室にはもう入れないみたいだけど……」
柚子が不安気な口調で父親の修造に尋ねる。子供たちや権現坂、洋子たちも皆同じように落ち込んでいる様子だ。
「そうだな……。どの道これ以上はここにいても出来ることはない。塾に帰ろう」
普段の暑苦しい元気さはなりを潜め、修造は静かにそう皆に告げる。塾長という立場にある以上、彼はいち早く生徒たちを立ち直らせる義務があった。
「おれとシェレンはもう少しここにいる」
突如、スイゴが口を挟む。遊勝塾の人たちからは一歩距離を置いて彼はそう言った。
「君たちは二日後試合があるんだ。休んだ方がいい」
「おれ達は大丈夫です。それに……心配ですから」
そう話すスイゴの姿は冷静そのもの。横にいるシェレンもまた同様に落ち着いているように見えた。
「……しかしだな」
「おれは寧ろ塾長たちのほうが心配ですよ。素良だって頭と足に多少傷があるくらいだって……」
あくまでも平行線な会話が続く二人に、周囲は不審な様子を示す。
「スイゴはっ!どうして、そんなに平然としていられるんだよ」
遊矢が責めるような口調で言った。
「落ち着けよ。それにおれだって平気なわけじゃないさ」
「嘘だろッ!?さっきから、ずっと同じまんまじゃないかっ!」
「遊矢くん、自分が見ていることしか出来ないからって彼にあたるのは違うわよ」
「……っ!!」
シェレンの言葉に黙りこむ。遊矢自身、塾の仲間の為に何も出来ないことを気にしていたからだ。
「塾長…………どの道おれらが病院に居られる時間もそう有りません。終わったら、すぐに二人で遊勝塾に帰ります」
「……分かった。ただし、あまり遅くなるなよ!」
修造はそう告げて塾の皆を連れ帰った。皆こちらに何か思うような視線を向けてくるが二人は黙ってそこに立つ。
……やがて、スイゴとシェレン以外がいなくなると漸く気が抜けたように肩の力をゆるめた。
「イヤになるな……あんな気分にさせちまうと」
「あれは貴方が悪いわよ。もう少し言い方ってものがあるわ」
「ウソはつきたくない、遊矢達にはな」
「気持ちはわかるけどね」
おれ達はそう言って病室の扉を見る。その先にいる奴のことを考えていたからだ。
「素良は『融合次元』だ」
「まだハッキリとはしてないわ。あくまで仮にという話なだけ」
「だがッ、…………シェレンも見ただろうッ!アイツが喜んでフィールドを壊す姿をッ!!」
「スイゴ、落ち着きなさい。さっきの遊矢くんみたいになってる」
「…………悪い」
確かにさっきまでとは違い、今の自分は冷静とは程遠い。目前の少年が『オベリスクフォース』の仲間なら、遊勝塾の皆が危険に会う可能性があるからだ。
「彼はわたし達が来る前から遊勝塾に居たのよ。今すぐに危害を加えることは無いわ」
「どうだかな」
味方のフリをしてずっとこの世界のことを探っていたとも考えられる。何しろ、遊勝塾には『ペンデュラム召喚』の使い手の榊 遊矢もいるのだ。
「……赤馬なら、何か知ってるのかな」
「わたしもそう思っていた所よ。これから一緒にLDS本社に向かいましょう」
「もう出なくちゃいけない時間だしな。分かった、行こうッ!」
それを最後におれ達は病室の前を離れる。建物を出る斉、入口の前には遊矢たちがいたがおれ達はあえて話しかけることはしなかった。
「会えないッ!?それはどうしてですかッ!!」
LDSの本社に着いたおれ達は真っ直ぐに受付に行き、赤馬に取り次いで貰うように頼んだ。
「赤馬社長は緊急の要件があると仰っています。そのため、面会に来る者はお断りしています」
「おれ達だって、緊急の話で……ッ!」
「例外はありません」
「くっ……要件の内容って何ですか」
「それは私には知らされていません」
しかし、赤馬には何か用事があるとかで面会謝絶をくらってしまった。この会話をするのも数回目になる。思い通りにいかないイライラで拳にも力が入る。
「止めなさい。……すいません、わたし達はもう帰ります」
シェレンは受付にそう話して、納得していないスイゴを無理矢理外に連れ出す。建物の外に出ると既に日は落ち辺りは暗くなっていた。
「くっそッ、赤馬の奴肝心な時に…」
アイツならばもしや素良について何か知っているかもしれない。その考えで来たのにこんな形であしらわれるとは思ってもいなかった。
「受付の人が言ってた『緊急の要件』て何かしら」
「知らないさ、そんなもん。適当な口実だろッ!」
「それにしては……」
ふと、シェレンのデュエルディスクから電子音が聴こえた。ディスクを見るとそこには『柊塾長』と表示されていた。彼女はすぐに通話機能を起動させる。
「はい、シェレンです」
電話に出た彼女は黙々と会話を続ける。
「………………ウソっ!?」
「どうした」
目を見開き驚く様子におれはただならぬモノを感じとった。
「…………素良が医務室から居なくなったらしいわ」
「何だとッ、アイツがッ!?」
スイゴはその事実に焦りを感じる。相手が怪我をしていた為に二人は油断していた。まさか、こんなに早く紫雲院 素良が逃亡を謀るなんて思いもよらなかった。
「どうするのスイゴ?」
「捜すに決まってるッ!もし、逃がしたらこの世界が大変なことになるぞ」
もし仮にそうなったら事は二人だけの問題で済まない。
「なら、決まりね!わたしについて来なさい」
「アイツの居場所が分かるのかッ!」
「おそらくね」
《勘かよ》
この非常時においてもどうやら彼女はブレないらしい。そのことを頼もしくとも不安にも感じる。
「他にアテもないしな……間違えるなよッ!」
「任せなさいっ!」
会話をそれで締めて二人はとある方向を目指して走り出す。彼らの向かう先『中央公園』には偶然か紫雲院 素良と榊 遊矢、そして『もう一人』の人影がいた……。
その頃、中央公園では元々争っていた二人の間に新たな乱入者が現れた事でより緊迫した雰囲気になっていた。
「フン、答えられるわけないじゃん」
この場にいる三人の内の一人、素良は二人にそう喋る。
「言えば、自分たちがいかに弱いかを語ることになるんだからさ」
愛用の棒つきキャンディーをポケットから取りだし舐めずに一気に噛み砕く。
「ソイツは負け犬の残党っ!!僕の仲間たちが制圧したエクシーズ次元から逃げてきたヤツらなんだよ」
自身の鬱憤をやつ当たるその行為を終えて満足したのか、彼はまだ半分以上残るソレを足元に投げすてた。
「黙れ!」
素良の物言いが勘に障ったのか、男は怒りを露にする。
「…エクシーズ次元とか融合次元とか…………いったい何なんだよっ!?」
先程言った乱入者こと『遊矢』は二人の話す内容に混乱を隠そうとせずに尋ねる。彼は塾仲間である素良が医療室から居なくなったことを知り、ここまで追いかけてきた。
しかし、着いた先では素良は見知らぬ男とデュエルの真っ最中で会話も意味不明なことばかりを言っている。彼自身デュエルを止めようにも彼らの言うことが理解仕切れていない。
「何より僕自身が許せない!」
遊矢が二の足を踏んでいる間も状況は動く。素良は二人に堂々告げるように自分の身の上を聞かせる。
「エクシーズの負け犬なんかにやられるなんて、……絶対にありえないっ!!」
「そうかよッ!」
「「「!?」」」
ふと、遊矢の後ろから声が聴こえた。突然の事態に三人とも声の方向へ向く。
「やっぱり…………お前は『アカデミア』だったのかッ!!」
遊矢の見た先には、現同居人であり同じ遊勝塾の出場選手である『ギユウ スイゴ』がいた。
「何でスイゴがここにっ!?」
「素良、答えろッ!お前らの目的は何だ」
「…………なるほどね。君たちも別の世界の人間だったのか」
「『オベリスクフォース』とはどんな関係なんだッ!!」
「……そんなことまで知ってるんだ」
遊矢の疑問を無視して、スイゴと素良の会話は続く。
「お前らは何で他の次元の人達を襲うんだッ!もしも、言わないなら…………」
スイゴはそう言ってデュエルディスクを構えた。
《バトルロイヤルモード》
《ジョイニング》
「その理由、無理矢理にでも吐いてもらうぞッ!!」
ユートvs素良vs遊矢vsスイゴ
LP3000/LP1300/LP4000/ LP4000
「おれのターンッ、ドローーーッ!」
その指に気迫を篭めて彼はデュエルに望む。
「効果により、おれは手札から『無名の傭兵長』を攻撃表示で特殊召喚ッ!さらに、手札から『無名の傭兵』を召喚」
場に二体の名もなき剣士たちが出現した。
「バトルだッ、無名の傭兵長で素良にダイレクトアタックッ!」
「くっ、僕はフィールドに伏せていた『デストーイ・カスタム』を発動!」
「この効果で墓地の『エッジインプ・トマホーク』を守備表示で特殊召喚する」
無数のカミソリに斧がついたようなモンスターが素良のフィールドに出現した。
「だがッ、攻撃力はこっちが上だ」
しかし、スイゴのモンスターは魔の宿りし道具形のモンスターを躊躇なく切り裂く。
「そしてッ、無名の傭兵で素良にダイレクトアタックッ!」
「やめろォッ!スイゴーーーッ!!」
遊矢の静止も聞かず、名もなき戦士は己の敵へと迫っていく。
「くそっ、この僕がこんな……!」
そして、素朴なる剣がついに振り下ろされた…………。
筆が重い