無名の傭兵が素良を襲いその手に持つ剣で彼を切り裂く
……筈だった。
「ワタシは手札から、『電霊 メキラ』の効果を発動!この効果で無名の傭兵の攻撃を無効にする」
電霊 メキラ
レベル3
雷族/効果
手札のこのカードを墓地に送ることで、相手モンスター一体の攻撃を無効にする。このモンスターが相手モンスターに攻撃する時そのモンスターを守備表示にする。
AT1000/DF0
剣士の攻撃は見えない力に阻まれ、素良のライフを削ることは出来なかった。
「やれやれ…………世話の焼ける」
「ッ……誰だッ!」
突如現れた乱入者によりアイツのトドメを差しきれなかった。おれは声のした方向を向く。そこには、緑色の髪を持つ女性がその手にデュエルディスクをつけている。
「……お前はあの時の……!」
「ふぅ、ばれてしまったか。仕方ない」
おれが橋の上で出会った女。その後、試合を観たいと言っていたその人物だった。
「何だ!?また知らない人が……」
「まさか、キミもアカデミアかっ!」
遊矢と黒いマントの男が口々に彼女に尋ねる。
「……ワタシの名は『慈春』。それ以上答える気はない」
ヤスハはそう言って口をつぐんだ。目の鋭さや発する空気はおれ達の追求を拒むような雰囲気を出している。
「恩知らずめッ!」
「………あれを恩というのか?」
スイゴが文句を垂れると向こうからは呆れたような声で返された。それから、彼女は視線を素良へと向ける。
「素良、独断行動が過ぎるぞ!」
「ジャマするなよっ!!オマエには関係ない!」
「ワタシが防がなければ今頃ソイツにやられていた。身勝手もいい加減にしろ!!」
「うるさいっ!!」
おれ達の前で勝手に言い争う二人。これを見て、融合次元の連中は必ずしも一枚岩では無いんじゃないかという気がした。
「チッ、カードを二枚伏せてターンエンドだ」
スイゴはそのままヤスハを睨み付けた。一挙一足ともに見逃さないようする為。この女もアカデミアの一員ならば、警戒するに越したことはないと考えたからだ。
ユートvs素良vs遊矢vsスイゴvsヤスハ
LP3000/LP1300/LP4000/ LP4000/LP4000
「ふぅ、気は進まないが。ワタシのターン、ドロー」
「ワタシは手札から『冥霊 インダラ』を召喚」
冥霊 インダラ
レベル3
アンデット族/効果
手札のこのカードを墓地に送ることで、墓地のレベル3以下のモンスター一体を手札に加える。このモンスターと戦闘したモンスターは破壊される。
AT1000/DF0
「さらに、手札から『聖霊 クビラ』を特殊召喚」
聖霊 クビラ
レベル3
天使族/効果
手札のこのカードは、自分のターンに自分フィールド上にレベル3のモンスターが召喚された時に自分フィールド上に特殊召喚する。このモンスターが戦闘または相手のカード効果で破壊された時にデッキから『霊』と名のつくレベル3モンスター一体を手札に加える。
AT1000/DF0
「バトル、インダラで無名の傭兵長に攻撃!」
「おい、攻撃力はこっちが上だ」
「解ってるさ!」
傭兵長の剣に突き刺されウマに似た姿のモンスターは消滅した。
ヤスハ
LP2500
「インダラの効果発動!これにより、無名の傭兵長は破壊される」
「何ッ!?」
砕け散った筈のモンスターの粒子が剣士の回りを囲う。そして、一気に押し潰し破壊した。
「これで終わらないぞ、速攻魔法『融合死霊』発動」
融合死霊
速攻魔法
自分の墓地にある『霊』と名のつくレベル3以下のモンスターで融合召喚する。
「ワタシは墓地の『電霊 メキラ』と『冥霊 インダラ』で融合召喚っ!!」
『恐災はね除けし雷の従者よ、冥府の僕は安楽へと導け!二つは混じり合い、新たな世界へと誘う!姿を変え現れよ!』
『融合召喚』
「暗雲を轟かせ、敵に刹那の死を『獣尓真将 メヒラ』」
獣尓真将 メヒラ
レベル6
雷族/融合/効果
『電霊 メキラ』+『冥霊 インダラ』
このカードが相手モンスターに攻撃宣言した時に発動し、このモンスターの攻撃力を600ポイントアップする。
AT2400/DF2000
虎に似た体躯を持ちその肌は黒と黄が混じりあったような色をしている。その身は粒子出来ており、同時に触れたモノ全てを破壊させる程の魔力を秘めていた。
「バトル、メヒラで無名の傭兵を攻撃!この瞬間、このモンスターの攻撃力は600ポイントアップだ」
雷を纏った猛獣の一撃を受ける。牙を傭兵の身体に突き刺し、高熱が一気にその身を焼いて消滅させた。
スイゴ
LP2800
「さらに、クビラでダイレクトアタックだ」
「クソッ」
小規模の雷弾が放たれスイゴに直撃する。
スイゴ
LP1800
「ワタシはカードを二枚伏せて、ターンエンドだ」
「…………いつも」
「どいつもこいつも…どいつもこいつもっ!僕のことをバカにして!!」
周囲に怒りをぶちまけるように、素良は文句を露にする。
「エクシーズの負け犬も!遊矢も!儀式次元も!アカデミアの奴でさえっ!」
「絶対に許さないっ!!」
「……素良」
遊矢には彼のそんな姿がひどく痛々しく見えた。傷を負いながらもアカデミアの為と己に言い聞かせ、その身を痛めつけようとする行為。それをまだ幼い少年が実行できる事実が。
「僕は手札から『簡易融合』を発動。この効果でエクストラデッキから『デストーイ・チェーン・シープ』を特殊召喚する」
羊に鎖が突き刺さったような不気味な姿のモンスター。悪魔の魂を宿す非情の玩具が姿を現した。
「さらに、『魔玩具融合』を発動!」
「フィールドの『デストーイ・チェーン・シープ』と墓地の『エッジインプ・DTモドキ』、『デストーイ・シザー・ベアー』を素材にして融合召喚するっ!」
「っ!?止めろ素良!!それは……!」
ヤスハが静止させようと声を荒げるが、激昂する素良はまともに話を聞ける状態ではない。
「うるさいっ!…僕の力をお前らに思い知らせて上げるよ。アカデミアで培った本当、本物の融合召喚で!!」
「最強のモンスターを呼び出してね」
三体の凶悪な玩具が混じり合う。彼のフィールドに遊矢達を驚愕させるモンスターが出現した……。
《ピーーーーーー》
……否、することはなかった。
デュエルディスクがエラーを示す警告音を出す。表面では機械での処理が追いつかなくなったのか、画面に表示されているポリゴンが崩れてしまっている。そして、……。
《DUEL CLOSE》
終了を報せるメッセージが、彼のデュエルディスクに現れた。
「あっ……止めろっ…」
ふいに素良が動揺したような声を上げた。
「あのバカ者が!命令違反だ!!」
「素良っ!」
ヤスハと遊矢が交互に彼のことを呼ぶ。
「何だ……?」
スイゴは動揺したように疑問を口にした。紫の髪を持った少年はただ素良のことを睨みつけている。
「…………まではっ!僕はアカデミアに戻るわけには…行かないんだァァァァ!!!」
それは彼の心からの叫び。他の何にも勝るアカデミアの戦士としての願い。しかし、……。
『紫雲院 素良』という存在は、皆の見ている前でその姿を一瞬で消し去った。
「…素良!?素良っ!!」
遊矢が困惑したような声を上げる。
「…………ふぅ、ワタシも戻るしかあるまい」
「…ッ!待てよッ!」
自身のデュエルディスクに手をかけるヤスハ。そして、スイゴはそれを止めようと彼女に向かって走る。
「お前とは、いつかまた決着をつける時が来るだろうな……」
「ふざけるなッ、今ここで全て話せッ!おれとデュエルしろォッ!!」
「残念だが…………」
スイゴの返事を待たずに彼女の姿も素良同様一瞬でかき消えた。
「くっそッ、何がどうなってんのかワケ分かんねぇッ!!」
ついさっきまでデュエルしていた相手が突然いなくなってしまった。二人がいなくなったことで、アカデミアへの手がかりも消滅してしまった。
「シェレンは止められなかったのかよッ!」
おれは後ろの森に潜んでいた筈の彼女に叫びかける。すると、後ろからガサゴソと木をかき分けて姿を現した。
「無理言わないで!わたしだってそう簡単に出られる状況じゃなかったもの」
それに、と言葉を続けた。
「恐らく、あのヤスハって人。わたしに気づいていたわよ!」
「……!ウソだろッ!?」
先程まで戦っていたその女性と彼女の距離は100メートル以上はあった。物陰にも隠れていた。なのに、ヤスハはシェレンのことを知覚できたということになる。
「……あれが、本物の『デュエル戦士』か…」
「少なくとも、わたし達とは生きてきた『世界』が全然違いそうね」
自分たちは元の世界では一般人…………より遥かに上なくらいは身体を鍛えていた。しかし、そんな二人を嘲笑うように彼らは目前から姿を消した。
「素良くんの場合は…………勝手に送り返されたという感じね」
「……まさか、デュエルディスクにそういう設定が組み込まれていたのか」
彼女はその言葉にわずかに頷く。未だ、自分の考えにハッキリとした自信を持てていないのかもしれない。
「ふざけるなっ!」
スイゴの後ろから苛立ったような声が聞こえた。そちらを向くと、遊矢が黒いマントをつけた男と話している姿があった。
「……ん?というか、アイツの顔……」
「……遊矢くんソックリね」
茫然としたように口に出す。目の前の少年たちはそれだけ似た顔をしていた。そんなおれ達を放って二人の会話は進んでいく。
「さっさと、素良を返せっ!」
遊矢は焦ったようにマントの男に問い詰めている。先程の会話を聴いて、未だ彼はあの少年のことを仲間と信じているらしい。……いや。
「遊矢くんは一般人みたいね」
「ああ、アイツだけ何も事情を知らないようだ」
デュエルはまだ進行しているのかマントの男は魔法カードを発動させていた。しかし、話していた遊矢は何を思ったのかデュエルを強制終了させる。
「……おれも止めるか」
どの道、目下の敵である融合次元の人間はいなくなった様子だ。これ以上ムキになってデュエルする必要もない。腕に装着しているそれに手をかけデッキを抜きとる
「とりあえず、あの男に話を聞きましょ」
「だな」
二人はそう決め遊矢たちの近くへ歩いていく。彼らの会話は進行しているようで、少しずつ耳に聞こえてくる。
「ヤツラは……アカデミアの連中は侵略者だ」
遊矢ソックリの男は語る。融合次元の者達が彼の世界『エクシーズ次元』を襲ったこと。そして、親友の妹を敵により連れ去られたことも……。
「『妹』……」
その言葉に思わず顔をしかめる。男の話に同情したこともある。……が、それ以上に自分の古傷を抉られた気分になったためだ。
「スイゴ。『ユウハ』のことは今考えるべきことじゃないわ」
「…………分かってる」
腕を押さえて怒りに震える自分を無理矢理止める。彼の話を聴き、さらに融合の奴らのことを許せなくなった。
「…………俺たちのデュエルはみんなが笑顔で楽しむもの」
「 そうあの日、アカデミアが襲いかかってきたその日までは……」
男は彼自身の体験したエクシーズ世界の人々がカードにされていく様子を語る。その内容は痛ましい悲惨なモノで、遊矢やおれとシェレンも胸を痛めるような話だった。
「……そんなこと、やっぱり信じられないっ!デュエルを使って世界を侵略だなんて!」
遊矢は動揺したように問い詰める。この世界の一般人である彼にとって異世界の男が語る内容はにわかには信じ難い。
《おれもオベリスクフォースのことが無かったら……》
恐らくは今頃学園で普通に生活していたかもしれない。しかし、自分ではない他の人々が犠牲になっていた可能性もあった。
《……だが、おれは……!》
あのヤスハという女は再び戦うことになると言った。カードにされた学園の人も戻さなければいけない。もう、知らないでは済まされないのだ。
「おれ達の知らない世界……本当にあるのか」
遊矢は自らの疑問を口にした。既に、おれは彼らのすぐそばまで来ている。
「『融合次元』や『エクシーズ次元』が……」
「それだけではない…」
マントの男はスイゴとシェレンの方へと向く。素良の言った事は聴き逃していなかったみたいだ。
「キミたちは、『儀式次元』だな」
「……ああ」
目の前の男にそう答える。今さら、誤魔化す必要性は感じなかったからだ。
「スイゴたちも……『ユート』と同じ。別次元の…」
おれ達を見て茫然と呟く遊矢。
「ええ、そうよ。わたしとスイゴは別の世界から来たの」
シェレンは視線を男の方向に向けた。
「ユートくんと同じようにね」
「キミたちはどうやって、この世界に来た?融合次元とはどんな関係だ」
敵意とはいかないまでも、男は警戒するような目でこちらを見ている。
「わたし達も良く分からないわ。『黒咲』て男のことを追いかけてたら、ここに着いちゃったワケだし」
「そうか……『隼』が」
「あら、やっぱり知り合い?」
どうやら、おれ達は思わぬ形で彼らの争いに巻き込まれてしまったらしい。そのことに文句を言う気はないが。
「おれの世界にやって来た『オベリスクフォース』てヤツが学園の人たちをカードにしたんだッ!!」
「!……そうか、キミたちの世界も…」
「いや、まだ侵略はされていない筈だッ!おれ達とお前の仲間が追い返したからな」
「それは良かった……」
ユートは複雑に顔をしかめているが声音では安心したように聞こえる。
「つまり、『融合』、『エクシーズ』、『儀式』……」
遊矢が何かを呟いている。見ると、ユートやシェレンも同様に何かを考えているみたいだ。
「それじゃ、もしかしたら!?」
「ああ、確実に存在する……」
「「「『シンクロ次元』も……!」」」
遊矢とユートは互いに頷きあい、おれを除く三人が一斉に呟いた。
「なぜ、世界がデュエルの召喚法によって分かれているのかは謎だ……」
「それじゃ、ここは?俺たちがいる世界は何て呼ばれているんだっ!?」
ユートの語りに遊矢が言及を重ねる。スイゴも同じ考えのため黙秘をつらぬく。
「……『スタンダード』。アカデミアのヤツらはそう呼んでいた」
《スタンダード……》
「全ての基礎となる中心の世界ということだろう」
ユートの言葉におれは何か違和感を覚える。彼に対してではなく、その内容についてだ。
《何だ?……何か大切なことを見落としている気が……》
しかし、おれの頭はそれほどよく無いようだ。いくら考えても全く答えが出てこない。シェレンを見ても首を横に振るばかりだ。
「次元がどうのなんて俺にはさっぱりわからない。……でも、これだけはわかる」
「デュエルは争いの道具なんかじゃないっ!!」
突然、遊矢はそのようなことを言い出した。
「…………俺の信じるデュエルは人を笑顔にするための…』
「人を幸せにするためのエンタメだっ!」
その言葉には頷く。アイツの言うことが解ったから。おれは『沢渡』との試合で見せたアクションデュエルが観客たちを笑顔にしたことを知っている。
「お前……」
見ると、ユートも遊矢の話に共感するような顔をしていた。
「そうだッ、遊矢!お前はそれで……」
そんな信念を持ったアイツがカッコいいと感じた。おれは、そのことを遊矢に伝えようと……。
「何だ?」
……することは出来ず。突然、ある一方向から強烈な光が差し込む。そして、次にはけたたましい何かが衝突したような音が聞こえた。
「何なんだよッ!」
思わず口にしてしまう。次から次に訪れる予想外の展開にフラストレーションが溜まっていた。それがたった今爆発したのだ。
「イッチッチ…………それはコッチが知りたいぜ」
衝突の余波で辺りには煙が飛んでいる。その向こうから声が聞こえた。それも……。
「誰だよ……お前」
煙が晴れると、目の前に男がいるのが見えた。だが、そんなことよりも疑問なのはソイツが……バイクに乗っていること。
《おれよりも年下か……何でそんなヤツが》
バイクならば音がもう少し早く聞こえていた筈だ。しかし、コイツが現れたのは音に気づく直前。
《ワケ分かんねぇ……》
ひょっとしたら、また別世界の人間かもしれない。おれはそう考えるが内心の疑問を口には出さない。
「……ったくよ!」
バイクの男は自分のつけていたヘルメットを脱ぐ。だが、その下の顔は……。
危機は去ってなおも状況は混沌としていく。運命が動く速さを加速させるのはまだまだこれから……。
タイトルをARC-VSに変えようか…