「……じゃねぇよッ!お前は誰だッ!!」
青い髪の中に特徴的な金色の前髪がはねている。このバナナヘアーだけでも十分に気になるがそれ以上に気になるのはソイツが『遊矢』と同じ顔をしていることだ。
「あん?オメェこそ誰だよ…」
「おれはスイゴだッ!さっさと、答えろッ」
「うるせぇなっ!…………俺は『ユーゴ』だ」
「融合?………………いや、ユーゴか」
一瞬、聞きなれた単語が耳に聞こえた気がしたが聞き間違えだと気づく。
「融合じゃねぇっ!!ユーゴだ…………んっ?」
「ん?」
二人は同時に首を傾げる。
「俺の名前を間違えないヤツがいるなんて……」
目の前の男『ユーゴ』はどこか感動したように目尻に涙を浮かべている。おれに見られているのに気づくとソイツは慌てて腕でそれを拭いた。
「俺にソックリな奴が二人!?」
遊矢の驚いている声が聞こえた。
「お前は……!」
ユートの方も同様の反応。彼はユーゴについて何かを確信している様子だ。
「ん?…………テメエはっ!」
どうやらお互いに面識があったようだ。ただし、会話を聞いていると穏やかなコトではなかったらしい。二人の間では既にデュエルをする空気が出来上がってしまっている。
「今度こそ、ぜってぇテメエをぶっ倒してやるぜっ」
「いいだろう。相手になってやる…………この融合の手先めっ!」
「融合次元の!?」
ユートの口から聴き逃せないセリフが出た。つまり、彼が言うにはコイツはアカデミアの奴らの仲間……ということになる。
《……ん?でも、なんか違和感が……》
このアホみたいな奴がそんなクソッタレな連中の一員だろうか。悪いのは頭の中だけな気がした。
「んー、あの二人何か勘違いしてないかしら」
「シェレンもそう思うか」
目前で着々とデュエルが進められる中、おれ達は会話を続ける。
「例えば、ユートくんがユーゴくんの名前を聞いて勘違いしちゃった……とか」
「いや…………それは流石に」
あのマントの少年は割と冷静な性格に見える。アイツが『そんな短絡的な間違いをするだろうか』、とは疑問が残る。
「つーか、何だあのユートって奴。バイクに乗りながらデュエルしてるぞッ!?」
「『メイリン』や『マオウ』たちも似たような構想していたけど……実物は初めて見たわ」
「初耳なんだがッ!?」
唐突なタイミングで同級生の衝撃の事実をカミングアウトされた。そして、それを実現させるのだけは絶対に諦めさせようと決心する。
《いや…………危ねぇだろ、アレ》
スイゴには走りながらデュエルする必要性を見つけられなかった。ユーゴのは自動操縦みたいだが、それでも危険な事実は変わらない。
「ムリよ、実物が目の前にあるじゃない。それに……」
『ウズウズ』という音が聞こえそうな仕草をする彼女。その姿を見て、おれは一つの不安の種を覚える。
「まさか…………シェレン」
「そろそろデュエルを止めた方が良いわね!危ないわ、うん」
「誤魔化すなッ」
スイゴが問い詰める間もデュエルはさらに進行する。ユーゴが『シンクロ召喚』を決め、けん玉に似たモンスターを召喚したのだ。
「シンクロ召喚ッ!まさか、アイツは」
「シンクロ次元の人間……?」
「という事は……シンクロ次元は融合次元の仲間かッ!」
「…とは限らないわ。さっき、ユートくんが言ってたじゃない」
それを聞いて、アイツが融合次元の手先と言われていたことを思い出す。確かにもし次元自体が敵ならばシンクロ次元のデュエリストと言った筈だ。
「……まあいいや、取り合えずデュエルを止めに行くぞッ!」
「恐らくは勘違い……ね!」
ユートがユーゴのモンスターによるダメージを受けたのを見て、これ以上は危険だと察する。二人は彼らの所へ向かって走り出した。
「ユート!」
遊矢がデュエル中の二人を止めようと割って入ろうとした。…しかし、ユートがそれを手で静止させる。
「ユーゴ、お前何やってるんだッ!わざわざお前らが戦う理由がないだろうがッ」
「スイゴには関係ねぇよっ!コイツは……俺から大事なモノを奪いやがった!」
「大事なモノって何だよ!カードか何かかッ!?」
「ぜんっぜん、違げえよバカ!いいから引っ込んでろっ!」
「……このッ…」
良く分からない説明をされたあげく、この仕打ちだ。いい加減にしろと言いたい。おれは内心の怒りをひたすら抑えるべく努力する。
「しかも、コイツ俺の名前を何度も間違えやがってっ!!」
「お前がいい加減にしろよッ!!」
ユーゴの一方的な語りにツッコミをいれた。もし仮に、コイツがキレている理由がそんなしょうもない事なら本当に許せない。
「……奪い取ったのはお前らだ」
「うるせぇ!話はテメエをぶっ倒してからだ」
ユートとユーゴの間に一種即発の空気が流れる。おれ達がブレーキをかけさせようとしてもコイツらは平気でアクセルを踏みやがる。
「俺のターン!」
ユーゴがデュエルを再開させ、フィールドに二体のモンスターを並べた。
《…………ッ……何だッ!!》
一瞬、身体を貫くような衝撃がはしる。それは感覚的なモノだったが確かにおれの中の『ナニカ』と反応していた気がした。
「……何……かしら、今の?」
「シェレンもかッ!」
見れば、遊矢やユートも顔が険しい。この場にいる全員が『ソイツ』を感じ取っていた。
「俺はレベル4の『SR ダブルヨーヨー』にレベル3の『SR 三ツ目のダイス』を『チューニング』ッ!!」
『その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討てっ!!』
『シンクロ召喚』
「現れろ、レベル7『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』ッ!」
その竜の翼は大空の色のように透明で透き通っている。頭部や身体は青と白の色で塗り分けられているかのようだ。瞳に宿る強い意志は翼が発する輝きとどこか似ている。
「バトルだっ!!…………旋風のヘルダイブスラッシャァーーーッ!!!」
荒々しく大気を巻き込んで身体の周囲に風を纏ったその竜は、剣士の形をとったユートのモンスターを容赦なき打ち砕いた。
「…………さあ、来いよ」
ユーゴがユートを睨み付ける。
「待ってんだよ、俺のクリアウィング・シンクロ・ドラゴンが!」
彼は何かを期待するかのようにその名を口に出す。
「さぁ、呼ぶがいい!お前の『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を!!」
ユートもその声に応えるように召喚の構えをとった。遊矢やスイゴ、シェレンが話に置いていかれる中で舞台は最高潮を迎えようとしていた。
「俺は、レベル4の『幻影騎士団 ラギッドグローブ』とレベル4の『幻影騎士団 サイレントブーツ』で『オーバーレイ』っ!!」
『漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!!』
『エクシーズ召喚』
『現れよ、ランク4『ダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!』
その全身は文字通り漆黒。剣を思わせる腕と翼は鋭く尖っており、それぞれに発光する宝珠が身体の表面に見えている。何よりも長すぎるアギトが特徴的で、その姿全体からは天に抗おうとせん不屈の意志を感じた。
《…………ッ……またかッ!?》
先程のように、また竜が自分の中のナニカと反応している気がした。横を見ると、遊矢はおれ以上に苦しんでいるようだ。
「……コイツか?」
おれはそう言って『無名の剣将』と『無名の剣聖』のモンスターカードを取り出す。見れば、二枚のカードは薄く発光しているようだ。
「何かしら…………」
シェレンのモンスター『恋姫-呉王・孫策』もまた反応している。スイゴは、これらのカードがおれ達に何か警告をしているような気がした。
「うぅ…………」
苦しそうな様子をするユート。遊矢が何か様子が変だと駆け寄ろうとするが……。
「…………よかろう!決着をつけてやる」
突如ユートの様子が豹変した。まるで、
ナニカに乗っ取られたかのように攻撃性を顕にしている。
「キサマを……全てを…破壊するっ!!」
そして、ユーゴもまた同様にナニカが乗り移ったように禍々しい気配を出している。白き竜と黒き竜は互いにその効果を使って相手を蹴落とさんとする。まるで、似て非なる存在を否定するように……その力を奪わんとするかのように対立した。
「滅ぼす……キサマを……すべてを!」
「すべてを破壊し、すべてを焼き尽くし……!」
「「すべてを消滅させる!!」」
……そして、二人の声が重なった。
《…………ッ……!?》
その次の瞬間、スイゴの目には目前の彼らではない『別の竜』が写った。
……深い森林を思わせる緑色の身体。翼は所々抜け落ちたかのようにボロボロになってしまっている。頭部には無数の細い傷跡があった。その竜の口には歯と呼べるモノは存在しないかのようだった。
……しかし、その瞳は確かにこちらを視ている。
《怒り……いや、もっと他の感情か……?》
何かを伝えようとしている気がした。だが、彼にはその意味が解らない。唯一解ることは…………。
「『ネームレス・リチュアル・ドラゴン』……」
「…………スイゴっ!!」
肩を叩かれる感触があった。視界が安定するとそこには動揺した様子のシェレンがいた。
「ッ!シェレン、ユーゴたちは……」
周囲を見渡し彼らを目で探す。あの二人が争っているのにも関わらず、一瞬、意識を失った自分を恥じた。
「バトルだ、クリアウィング・シンクロ・ドラゴン!ダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴンを攻撃っ!!」
彼のドラゴンは既にユートに向かい狙いを定めていた。横にいる遊矢もろともだ。
《ふざけるなッ……やめろッ……》
「旋風の……」
《やめろ……》
「ヘルダイブスラッシャァァァァッ!!」
「やめろォ、ユーゴォォォォッ!!」
スイゴの心からの絶叫が辺りに木霊す。彼を止めようと足を全力で働かせた。息つぐ暇もなくただ走り抜けた。
「遊矢っ!」
ユートが横に少年を突き飛ばす。巻き込みたくないという彼の優しさ故に。だが……。
残酷な輝きを放つ翼竜はそんな彼を容赦なく…………打ち砕いた。
ユート
LP0
スイゴは彼らの対決を止めることが出来なかったのだ。
「ユートっ!おいっ、大丈夫かっ!?」
背後から遊矢の声が聞こえた。しかし、おれはそれをあえて無視する。足を動かし続ける。
「ざけんなッ…………このバカヤロウがァァァッ!!!」
目前のバイクに乗る男。ユートと争い、彼を傷つけ、今も正気を失っている人物に一発くれてやる為に。
「あれ、俺は…………ぐうっ!?」
ユーゴの顔面に拳が炸裂する。そのままアイツはバランスを崩し地面に倒れた。もう一発おれがくれてやろうかとした時だ。
「痛ってえっ、何だよいったい!」
「チッ……眩しいッ!」
次の瞬間、辺り一面を真昼の如き眩い光が包んだ。遊矢のいた方向から射してきた気がしたがおれは目の前の男が消える光景を見ている。ユーゴが完全にその姿を消したのを確認すると自分の意識が遠くなることを感じた。
……そして今度こそ、スイゴは完全なる暗い眠りについた。
二人の口上は変えられなかった