舞網チャンピオンシップユース部門の第二回戦初日。シェレンは既に第三会場内にあるデュエルフィールドにいた。
「う~ん、昨日はよく寝たわ」
身体を伸ばしながらそう口にする。朝風呂で身体の汚れは落とした。寝不足による疲労も取れシェレンの今の状態は絶好調といえた。
「やっぱりスイゴが横にいると安心するもの。安眠枕、みたいな♪」
「おい、なにやってんだよ。早くデュエルしろよ」
彼女の前にいた男がそう文句を言う。さっきから、男は五分近く待たされていることにイライラしていたのだ。
「ふふふっ、慌てるのは損気よ?ちょっとくらい待ってもいいじゃない」
「ふん、それも作戦だろ!こっちが乗ってやる義理はない」
シェレンの対戦相手の男は既にデュエルディスクを構え準備完了している。観客席の人たちも始めないことへの文句の声が聴こえる。
「しょうがないわね~。…じゃ、やりましょ」
「僕はLDS所属の『森山 ジュウ』」
「わたしは遊勝塾の『ソン シェレン』。よろしくね」
そう言って対戦相手の容姿を見るとまずは赤っぽい髪が目についた。次に、前髪が目を覆うくらいまでかかっているのが特徴的。体系は推測するに中肉中背だろうか。
「まっ、余計なことを考えるのは後ね」
わたしは腕にデュエルディスクを装着させる。
《《アクションフィールドオン、『ネオサバンナ・ジャングル』》》
瞬間、辺り一面が森林へと変わる。ついさっきまで目前にいた対戦相手の姿も木々や草が邪魔をして殆ど見えないくらいだ。この視界が悪い場所で二人はデュエルをする。
『さっさと始めよう。戦いの殿堂に……』
「『その前にっ!』ちょーと、待ってくれないかしらん」
「なんだよいったいっ!」
シェレンはジュウのセリフを中断させて観客席の方へ振り向いた。
「『私一人じゃ足りないわっ!皆で盛り上げましょう!!』」
沢山の人々を眺めつつ、わたしはハッキリと聴こえるように大声で急き立てる。
その言葉に戸惑ったのか観客たちも隣の人と会話する姿が見えた。
《……なあどうする…》
《…うーん、けどなー》
《……私、知ってるよ!あの人!…》
《…一回戦のデュエルは中々良かった気がするな……》
《……俺は応援するぞっ!可愛くて強いなら言うことなしだ!…》
《…よし、やろうぜっ!!……》
「決まったみたいね?それじゃあっ!『行くわよぉーーー!』」
『《戦いの殿堂に集いしデュエリスト達がっ!》』
『《モンスターと共にっ!!》』
『《地を蹴りッ!》』
『《宙を舞いっ!》』
『『《フィールド内を駆け巡るッ!!!》』』
『《見よォーッ!!これぞデュエルの最強進化形ッ!!》』
『『《アクショォォォォーーンッ!!!》』』
『『デュエルッ!!』』
ジュウvsシェレン
LP4000/LP4000
「ちっ、やりにくいな!僕のターン、モンスターカードを一枚セット」
正体不明を表す球状のソリットビジョンが出現する。
「僕はこれで、ターンエンドだ」
ジュウはフィールドを歩きつつ、小さな声でそう告げた。
わたしはそんな相手の様子を観察している。あの伏せてあるカードには絶対に何かある気がした。
「……でも、乗っかってみるのも悪くないじゃない。わたしのターン、ドローー」
引いたカードを手札に加える。
「よしっ!まずはこっちの番。わたしは手札から『無名の橋越馬』を召喚」
無名の橋越馬
レベル2
獣族/効果
このカードはゲーム上『呉』と名のつくカードとしても扱う。一ターンに一度、自分フィールド上に『呉王』と名のつくモンスターが存在する時に発動出来る。デッキから、このモンスターを攻撃力を0にして特殊召喚できる。この効果で召喚したこのモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。
AT1000/DF500
それは歴史に名を残す王が用いた名馬。無名なれど、その活躍は後世にも伝えられている。斑の紋様を持つモンスターが彼女のフィールドに出現した。
「もっちろん、行くわよ」
シェレンはそう言ってそれに跨がる。アクションデュエルにおいては、このデュエルスタイルが完全に定着してしまった。
「バトル、無名の橋越馬で伏せカードを攻撃よ」
「ふん、伏せカードは『ナチュル・クリフ』だ」
同等の1000の能力を持つモンスター同士ゆえこのままでは相殺するだけで終わるが……。
「さあ、それはどうかしら」
揺れ動く視界の端に目的のモノを見つける。彼女は枝に引っ掛かっているソレに手を伸ばした。
《よしっ!》
「アクションマジック『ワイルドパワー』発動!」
ワイルドパワー
このターン、モンスター一体の攻撃力を500ポイントアップする。
シェレンのモンスターは躊躇わずに敵に突撃する。力を上昇させたことで均衡を保てず石壁に似たモンスターが砕け散った。
「ちっ、僕は『ナチュル・クリフ』の効果でデッキから『ナチュル・クリフ』を守備表示で特殊召喚する」
「わたしはカードを二枚伏せて、ターンエンドよ」
周囲を見渡す。アクションカードらしき影は見当たらないから今のうちに探しておこうと思った。
「いくよ、僕のターン。ドロー」
足場が草だらけの為か彼は非常に歩きづらそうだ。
「ちっ、僕はフィールドのナチュル・クリフをリリース。手札から『ナチュル・バンブーシュート』をアドバンス召喚」
それは攻撃力、守備力共に2000を誇るモンスター。ジュウのフィールドにタケノコの形をした植物の精霊が出現する。
「このカードのモンスター効果で、オマエは魔法・罠カードを発動できないっ」
「あらら、それは困るわん」
「はっ、くらいな!バトル、ナチュル・バンブーシュートで無名の橋越馬を攻撃」
全力で走り続けるシェレンのモンスターに森の精霊が迫っていく。そうしている間に彼女は頭を働かせていた。
《あー、あまり長くは逃げられないのよね》
アクションデュエルにおいて、カードのプレイングを一分以上放棄すれば即座に失格になる。進行を乱す行為も同様だ。故に、その時間ギリギリまでにアクションカードを見つけるなり対処する必要がある。
《……あった!なら、もういいわ♪》
手に掴んだアクションカード。もちろん、この場面で使うことはできない。
《お楽しみは取っとかないと……ね》
そう思った瞬間、彼女のモンスターがスピードを緩める。それによりタケノコの攻撃がヒットし、それはアッサリと破壊された。
シェレン
LP3000
「逃げるなよ、面倒くさい。僕はこれでターンエンドだ」
無事にモンスターの直撃を避けたシェレン。それに追いついたジュウは自分の番を終了させる。
「さーてと、じゃあ次はわたしのターンよ。ドロォーーー!」
「まだ、出てくるには時期が早いわよ?手札から『呉国の暗躍兵』を召喚。そして、効果を発動」
シェレンの兵士がタケノコを地面に埋めにかかる。完全にその姿が見えなくなるとモンスターはセットされた状態に変わった。
「僕のモンスターが!」
バンブーシュートの効果は表側表示でしか発動しない。よって、この展開は彼女の予想通りになった。
「さあ、これで発動できるわよ。わたしは伏せカード『呉の増員要請』を発動」
「この効果でデッキから、『呉国の追撃兵』を特殊召喚」
弓を背負い、その手には剣が握られている。シェレンの場に新たなモンスターが登場した。
「さらに、わたしは『戦場の旗印 呉』発動。このカードを呉国の追撃兵に装備よ」
人の身体よりも一回り大きな布を揺らして兵は己の主を仰ぐ。ついでに、その攻撃力も2300に上げた。
「バトル、呉国の追撃兵で伏せカードを攻撃!」
目前に迫り来る攻撃を見て、男はとっさに足下のカードを使う。
「させるわけないだろっ!アクションマジック『奇跡』発動」
不可思議な力がモンスターを破壊から守りその姿を露にさせた。
「あらら、表になっちゃた。やるわね!」
「当たり前だっ!」
しかし、攻撃が不発に終わっても彼女の余裕は崩れない。
「…………でも、ダメージは受けてもらうわ」
「何っ!?」
ジュウ
LP3700
「わたしはこれでターンエンドよ」
飄々とした様子で兵の馬に乗った。今日の自分はいつも以上に気分がハイになっている。鼻唄を歌いつつ、その移動の足を急がせた。
「ふん……僕のターンだ。ドロー」
「僕は手札から『ナチュル・パンプキン』を召喚。効果で手札の『ナチュル・バタフライ』を特殊召喚」
「さらに、レベル4『ナチュル・パンプキン』にレベル3『ナチュル・バタフライ』を『チューニング』」
「…来るわね!」
『森を支えし大地の長、数多の野生を司りしパワー!今こそ震わせよ』
『シンクロ召喚』
「大自然の力、レベル7『ナチュル・ランドオルス』」
その背中には大地を背負っている。調和を望む森の賢しき大亀がジュウのフィールドに出現した。
「ナチュル・バンブーシュートを攻撃表示に変更っ!」
「バトルだっ、ナチュル・ランドオルスで呉国の追撃兵を攻撃!!」
シェレン
LP2950
攻撃がモンスターに直撃しシェレンは空中に投げ出される。
「まだだ!ナチュル・バンブーシュートでダイレクトアタック」
「いったーい」
シェレン
LP1050
暗躍する兵士もまた消滅しその衝撃が相手を襲った。
「はっ、僕はこれでターンエンドだ」
痛そうに尻餅をついているシェレンを見て、ジュウは気分よさげにそう告げる。
「いったた……」
今度は飛び降りるのが間に合わなくて、身体をおもいっきり地面に叩きつけてしまった。
「少しラフじゃないかしら?まあいいけどね、ドロー」
わたしは手札に目を向ける。そして、チラリとアクションカードも見た。
「わたしは自身の効果により『呉国の騎馬兵』を特殊召喚するわ」
「残念だが発動させないぜっ!」
「ナチュル・ランドオルスの効果発動。手札の魔法カードを一枚捨てて、効果の発動を無効にする」
ジュウは『ナチュルの森』を墓地に送る。
……その姿を見て思わず口に出してしまった。
「………ふふ」
「っ!?……なにが可笑しいっ!!」
「そう簡単にはいかないってコトよ。わたしは手札から『呉国の憲兵』を墓地に送る」
呉国の憲兵
レベル3
戦士族/効果
一ターンに一度、手札からこのモンスターを墓地に送り発動する。相手のモンスターカード一体の効果の発動を無効にする。
AT1500 /DF1000
「なに!?そんなカードはっ!」
「ムツミとの試合では苦戦したからね。対策は当然よ?」
これにより大亀による抑止の効果も無力化される。
「バトルよ!呉国の騎馬兵でナチュル・バンブーシュートに攻撃」
「ちっ!」
剣の一撃を受け、タケノコの姿をしたモンスターは漸く破壊された。
ジュウ
LP3500
「さあ、お次はこれよ!アクションマジック『マッドエリア』発動」
マッドエリア
相手フィールドのモンスターカード一体を裏守備表示にする。
「だがっ!オマエの攻撃はもう終わってる」
「次の俺のターンで」
「……甘いわね♪」
そう言って、デュエルディスクに手を当てた。
「わたしは、罠カード『好機連戦』を発動!」
好機連戦
通常罠
このターン、相手のモンスターカードの表示形式が変更にされた場合に発動できる。自分フィールド上の攻撃宣言を行った戦士族モンスター一体を選択してそのモンスターはこのターン一度のバトルフェイズ中に二回攻撃できるようにする。
「よって、呉国の騎馬兵でもう一度バトルできる」
ジュウは周囲のアクションカードを探すが無数の草に邪魔され見つけることができない。
「ナチュル・ランドオルスに攻撃!」
想定外の事態のため避ける暇は間に合わない。二度目の騎馬兵による一撃がセットされたカードを容赦なく貫いた。
「これで、ターンエンドよ!」
モンスターと共にフィールドを走り続ける。何度阻まれようともこの信念は変わらないからだ。
「ちっ、おれの……」
「貴方……そんな風にデュエルしていて楽しい?」
「……っ!」
対戦相手から突然そのようなことを言われジュウは戸惑ってしまう。
「オマエには関係ないだろっ!」
「ないわよ」
シェレンはキッパリと言い切った。
「……でも、観客たちはどうかしら?」
「…………」
「デュエルで勝つために効率よくプレイングするのは当たり前」
「でも、毎回同じようなことを見せられて飽きないとは考えない?」
「うるさいっ!」
説教くさいセリフを聴かされイライラしたのか声を荒げる。
「わたしはアクションデュエルが好きよ」
「だから、貴方たちとはもっともっと『スリリング』な試合がしたいのよ♪」
「ふんっ!僕のターン、ドローーーっ!」
彼は話を無理矢理中断させる。しかし、その態度は明らかに先程よりもイラついていた。
「手札から『ナチュル・ドラゴンフライ』を召喚!」
「このモンスターは墓地の『ナチュル』モンスター一体につき、攻撃力を200ポイントアップする」
墓地に存在するのは『ナチュル・クリフ』二枚、『ナチュル・ランドオルス』、『ナチュル・バンブーシュート』、『ナチュル・バタフライ』、『ナチュル・パンプキン』の六体。
「よって、攻撃力は2400!バトルだ、ナチュル・ドラゴンフライで呉国の騎馬兵を攻撃っ」
そう言うと、二人は同時に動き出す。
「ふふっ、ならコレはどうかしらー?アクションマジック『回避』」
草の上に落ちているカードを拾い上げ、シェレンは発動させた。
「しつこいんだよっ!」
ジュウもまた木に挟まっているソレを見つけた。
「うぉぉぉーーー!」
助走をつける。そして、全身のバネを使ってその身体を一気に跳び上がらせた。
「……よっし!アクションマジック『薮蛇』!!」
薮蛇
相手のアクションカードの発動を無効にする。
「これで、戦闘は続行っ」
トンボを模したモンスターの体当たりを食らって、騎馬兵は吹っ飛ばされる。
シェレン
LP850
「やるじゃない!」
「…………ちっ!僕はこれでターンエンドだ」
シェレンの言葉を聞くと彼はどこかに走っていった。視線をウロウロさせているのを見ると……。