一方でシェレンがデュエルをしている最中、彼は『とある人物』との再会を果たしていた。
「……おれに何か用か?」
目の前にいる男へそう尋ねる。おれの発言が気に入らなかったのか男は鋭い目でこちらを睨み付けてきた。
「キサマはあの夜に『ユート』と一緒にいたっ……!」
その言葉にあの時のことを見られていたのかと動揺した。
《しかし、ならどうして……》
もし仮に知っていたなら何故この男はその場に居合わせなかったのか。仲間を助けようとはしなかったのか。
「……答えろォッ!!」
彼は怒気をより強くしスイゴを問い詰る。その様子にますます疑念が強くなった。
「おれこそ聞く、『黒咲 隼』!……お前はあの日どこにいた」
「ユートがいなくなる時まで……テメエは何をしていたッ!!」
「キサマがユートのことを語るかっ!!」
二人の間に険悪な空気が流れる。しかし、おれもこの状況で引くことはできない。
「見捨てたのか!?仲間をッ!」
「違うッ!俺はあの日駆けつけようとした!」
「『あの男』が止めなければっ!おれはユートを助けられたッ!!キサマらがアイツを…!」
黒咲の言葉に新たな疑問が生まれた。
《コイツを止められるような人間?》
素良とのデュエルで、彼を終止追い詰め続けたデュエリスト黒咲。それに対抗できる力を持つとすれば……。
「あの男…………まさか!『赤馬』のことか」
「そうだッ!あの日、ヤツと共におれはユートのことをモニターでみていた。……しかし」
「突然明かりは消えた。モニターが再開した時には既にユートの姿は写っていなかったッ!!」
一旦そこで言葉をきる。
「そこには『榊 遊矢』、『ソン シェレン』。…そして、『ギユウ スイゴ』オマエらだけがいたっ!!」
「答えろォッ!ユートをどうした!あの時に何をしたァッ!!」
深い事情は知らない。……ただひとつだけこの男のことが解った。故に、おれは彼に正直に答える必要がある。
「…………あの日、おれ逹はアカデミアのデュエリストと戦っていた」
「それは知っているっ!」
「アイツらは逃げた。……その後、もう一人デュエリストが現れた」
「…なんだと?何者だソイツはッ!」
「『ユーゴ』」
「ユートはソイツのことを融合の手先と呼んでいた」
おれの言葉に何か思い当たるフシがあるのか彼は黙って聞いてくれている。
「ソイツはバイクに乗っていて、シンクロ召喚を操っていた」
「……まさか、アイツがっ!!」
やはり、黒咲はユーゴのことも知っていたようだ。この男もアイツのことを融合の手先だと思っているに違いない。
「その後、二人の召喚したドラゴン同士が共鳴し出して…」
「……何を言っている」
苛立つような呆れたような視線を向けられた。そんなこと言われても当事者なのに理解できていないおれは困ってしまう。
「…さらに、ユートとユーゴもナニカに取りつかれるかのようにデュエルをし出した」
「キサマッ、適当なコトをッ!」
「ウソじゃないッ!」
確かに、あの瞬間のアイツらはおかしかった。その場面を体感したスイゴだからこそそう口に出来る。
「ユートは正気を取り戻していたようだった。……けど、ユーゴはそのままで……」
「そして、ユーゴのドラゴンがユートたちを襲った」
「…………」
あの日のことは記憶に焼き付いてしまっている。
「ユートは遊矢を庇ってその攻撃をまともに喰らった」
「おれはユーゴを止めようとしたッ!…………けど」
腕が震える。あの時、自分は二人を止められた筈なのだ。妙な光景さえ見せられなければその可能性はあった。
「……悪い…………アイツを止められなかった。あの日、おれはッ!!」
「キサマのコトなどどうでもいい。……それで、ユートはどうしたッ!」
「…………分からない。何か強い光を視た時におれは意識を失って…」
スイゴはそれっきり丸一日ずっと寝込んでいた。
「……そうか」
「ユートくんは遊矢くんの目の前で消えたわ」
ふと、黒咲の後方から声が聞こえる。いつの間に試合を終えたのかシェレンがそこにいた。
「何が起こったのかはわたしにも解らない。……でも、彼は遊矢くんに託していたように見えたわ」
「託す……だと?」
「彼は言ってた。『デュエルで笑顔を……』って」
「笑顔……」
その言葉に黒咲は茫然とするような顔をした。多分、おれも似たような状態なのだろう。
「『キミの力で世界に……。みんなの未来に……笑顔を』」
「……そう言って彼はカードを託していたわ」
複雑そうな表情をしている。あの日、消えていくユートを直接見たシェレンは何を思っているのか。
《平気…………な訳ないよな……》
少なくとも彼女はそんなことを許せる人間ではない。おれにはそう確信できる。
「……分かった。後は榊 遊矢に直接聞きに行く」
黒咲はそう言って、おれ逹から去ろうとする。落ち着いている様子を見るとまるっきり話を信じていないわけでは無さそうだ。
「黒咲、一つだけ聞く。お前のデュエルディスクでおれたちは元の世界に戻れるのか」
「……無理だな」
そう言って、彼は自身のデュエルディスクを見つめる。
「………………そうか」
薄々、予想はしていたが。やはり、黒咲もまた自ら自由には次元を移動できないらしい。
「用は済んだか。ならば、俺はもう行かせてもらう」
「……黒咲!」
自然に声が出た。止めるつもりなどない。ただ、言いたいことがあった。
「ユートは言っていたよ。親友の妹の瑠璃が連れ去られたって」
「………………」
アイツはその背中にどれくらいのモノを背負っているのか。世界、身内、親友…………それらを失っても一人で融合次元に戦いを挑む。それがどれだけ過酷な事か想像もできない。だが……。
「…………妹を失う気持ちは解る」
「必ずアカデミアから、『一緒』に瑠璃を取り戻そうッ!」
何を思ったのか、黒咲は一瞬だけコチラを見る。
「……………………そうか」
そのまま足を止めずにアイツは去っていった。
残されたのはシェレンとスイゴの二人。あの日お互いに失ったものは大きい。
……でも、今のおれは不思議と気分が軽くなった気がした。