これは、とある日のどうでも良い出来事。
「なあ、スイゴ」
今現在彼が住まわして貰っている家主の息子『榊 遊矢』がおれに尋ねる。
「時々、スイゴはシェレンさんのこと『王様』って言うことあるけど何か理由あるの」
「そんなこと言ってたか?」
記憶を探ってみるが思いだせない。どうやら無意識の内にいつの間にか言ってたみたいだ。
「理由か…………長い話になるんだが…。なあ遊矢。おれ達はこの町とは別の場所から来たって話したよな」
「うん、スイゴもシェレンさんもそこで学園に通ってたんだよな」
まあ、そもそも場所どころか次元が違う訳だが。その言葉をスイゴは飲み込む。
「まあな、そこで彼女は生徒会の会長をやってたんだよ」
「えっ、シェレンさんが!?」
驚く遊矢。その姿を見て、やはり彼女は別世界でもそういう見られ方をするのかと納得した。
「今は彼女の妹がその後を継いでいるんだけどな」
「あれ、そうなると高校一年生の時に生徒会長を務めたってこと」
「そうだ。本人は飽きたのか知らないが、二年の時に周りの反対を押しきって勝手に妹を生徒会長にしたんだ」
まあ、その理由をスイゴは知っている。
「……へえ、凄い人だね」
「我が儘だろ?」
幼馴染みながら彼の物言いには容赦がない。普段の彼がシェレンによってどれだけ苦労しているかを考えれば本人は自然だと思っているのだ。
「で、その生徒会の話なんだが。会長の座が四つ有るんだ」
「はい?」
《やはり部外者の感想はこんなもんだよな…》
スイゴ自身初めてこのことを知った時はひどく驚いた。当然、副会長などの座も四つある。
「ウチの学園人数がクソ多くて、もう一グループだけじゃ学年全体の方針を決定することが難しいんだよ」
思い出されるは幼馴染みの手伝いにかりだされ、目巣箱に投函された『生徒の学園に対する要望』をまとめた仕事の記憶。普通の学校で言われるような『数十・百』くらいの量ではなく、『一万』以上の数の要望をひたすらに読み込んで整理したのだ。これを悪夢と言わずになんという。
「…………本当に多かった」
シェレンやメイリン、リアンと共に数日徹夜でこれを終わらせたことは、紛れもないスイゴにとっての『心の勲章』だ。
「まあ、そんなわけで学生はその四つに分けた生徒会に自由に所属することになるんだ」
「へえ、面白そうだな」
遊矢は塾通いのため、この手の新しい話には興味があるのかもしれない。
「そんな良いもんじゃない。『自由』と言っても選ぶのだけで、必ずどれかには所属するんだ」
「何か問題あるのか?」
「…………学園では年間通して、色々なイベントが行われる」
「楽しそうだよな!」
「ざっと『デュエルバトル大会』、『デュエル運動会』、『デュエル文化祭』の様なものがあるんだが……これが『地獄』なんだよ」
「地獄?」
遊矢は頭を捻っているようだが、この話を聞けばその考えも変わるだろう。
「イベントには、それぞれ『賞品』と『罰ゲーム』があってな…」
ここで、スイゴは一呼吸置く。
「勝てば『カード交換商品券』や『旅行券』、『娯楽用品』を貰えるんだが。……負けた方は『日常的に10㎏の重りをつけてのデュエル』や『精神が崩壊寸前になるまでドロー練習』などのお仕置きを食らうはめになるんだ。連帯責任で」
その規模は何千人単位にも及ぶ。天国と地獄を賭けて争いあう姿はまさに地獄絵図だ。
「うわぁ……」
流石にこの常識はずれの内容には、遊矢もドン引きしているようだ。
「おれ達が一年の時は、とある一グループだけ所属人数が多くて他の三グループはそれほどは多くなかったから『同盟』も結ばれたりしたし」
「同盟って」
またもや出た新単語に頭を抱えている。本当に『聖フランチェスカ学園』の仕組みはややこしい。
「ウチの学園独自のシステムで、人数の少ないグループ同士は派閥を組むのが可能だったんだ」
「スイゴの生徒会は派閥を組んだのか」
「おれはシェレンの生徒会の所属で名前は『呉』。他に『魏』、『蜀』、『麗』の三つがある」
その中の呉と蜀が手を組んだと、コイツに話した。
「そんなわけで、地みどろの戦いが日夜行われるんだが……そのグループのリーダーが生徒会長達だ」
「さっき、聞いたね。どんな人達なの」
「…………四人とも間違いなく、『変人』だ」
「へんじん?」
「幼馴染みで自由奔放の『シェレン』、女好きの冷徹女の『カリン』、天然過ぎる性格の『トウカ』、傲慢高飛車な金持ちの『レイハ』先輩……と言えば分かるか」
「随分と濃い人達だね……」
シェレンの性格を知っている遊矢は、その破天荒で非常識な部分もよく知っている。そんな人達が後三人もいると考えると頭が痛いのかもしれない。
「まあ、トウカや……レイハ先輩も一応はマトモなんだが。カリンが厄介でな」
「……何かもう聞きたくなくなってきたよ…」
「その方がいい」
世の中には知らない方が良いこともある。あの人の性癖もおれ達には実害が無い以上、関係ないことだ。
「……さっき言ってた、シェレンさんの妹もそうなの?」
「姉に似ず、真面目で常識人そのものだ」
どちらかと言うと、シェレンの性格に似ているのは末妹の『シャオレン』の方。現生徒会長は次女の『レンファ』だ。
「話が脱線しまくったが、そんな生徒会長の別名が『王』なんだ」
「へー、カッコいいね」
ようやく調子を取り戻してきたのか、遊矢は明るい声で聞いてくる。
「実際に凄いらしい。生徒会長の中でも王を名乗って良いのは、歴代でも特別に優秀な人間ばかりなんだ」
カリスマ性、知識の深さ、財力、非凡の才能、デュエルの実力などの要素が幾つか噛み合う人物のみが名乗ることが出来る。これらを持つ人物はまさに傑物だ。
「王と呼ばれた生徒達は皆そろって、何らかの形で有力な人物になるらしい」
「本当に凄い人達なんだ……。ということは、シェレンさんも!」
「確かにそうだが……おれは、どの方向性でそうなるか不安だ」
おれの言葉をはっきりとは否定出来ないのか遊矢は苦笑いだ。
「なるほどね!だから、スイゴはシェレンさんのことを『王様』って言ってたんだ」
「ああ。…と言っても辞めたから、正確には『元』だけどな」
「いくら生徒会を辞めても人を面倒事に巻き込むその性格は変わらないから王様」
「まあ、シェレンが人に全く迷惑をかけない姿も全然想像出来ないがなッ!」
「生徒会を辞めてからはネトゲの為に学校休んだり、学園祭では予定にないデュエルメイド喫茶店やって怒られたり、他にも……!」
「…………へえー。随分と楽しそうね?スイゴ」
瞬間、背筋に凍るものを感じた。おれは背後を見ずに近くの窓から脱出を謀る。
…………が。
幼馴染みのシェレンによって羽交い締めにされて完全に逃げられなくなった。
「ひどいわースイゴ。幼馴染みがそんなこと思っていたなんて……悲しくなるわよ」
「……どうしてここに」
スイゴがいるのは遊矢の家だ。少なくともいつも遊勝塾で待ち合わせをしてる以上はここに来る必要がない。
「柚子ちゃんに伝言頼まれちゃって。あっそうだ、今遊矢くんには言っちゃうわよ」
そう言って遊矢に幾つかの話をするシェレン。遊矢の舞網チャンピオンシップ参加における内容のことで、彼も真面目に聞いている。
その話の間、ずっとスイゴを放さなかったのは流石と言える。
「それじゃあ内容は伝えたから♪」
「……ああそうね。遊矢くん、スイゴのこと少しだけ連れて行って良いかしら?」
その言葉にコイツは頷くことしか出来なかった。……仕方ない、背後の彼女を見たらきっとおれも同じことをするだろう。
「……良いです」
どこか震えるような声で話しているコイツを恨む気にはなれない。もしも恨むなら、おれの不注意と……。
「なんか勘でイヤな予感してたのよね~。まあ、スイゴの本音が知れただけでも良いかしらん」
身体にかかる圧力はますます強くなり、骨から『ミシミシ』と言う音が聞こえそうだ。
「………最後にだ。何時からだよ?」
「最初よ」
本当にタチが悪い。そんな陰湿な性格じゃ無いだろお前。
「さ、ちょっとだけ『デート』に行きましょ♪」
茫然とする遊矢を置いて、おれは遊矢邸を後にした。恐らく人がいない所で何かするつもりだろう。きっと、艶やかな事で無いことだけは確かだ。
《まあシェレンは容赦がないからな。……無事に帰る事だけ考えるか》
デッキが0枚の時にドローをしなければいけない状況のように、彼が無事なことだけは絶対にあり得る筈ない。
……翌日、シェレンがスッキリしたような良い笑顔を浮かべていた事は確かな真実だ。