「オマエ……っ!」
険悪さを含んだ声がした。スイゴには見なくてもわかる。その女がどんな表情を浮かべているかを。
「どうした、お前のターンだ。早く引けよ」
「ふざけるなぁぁぁっ!!」
振り向くことはしない。黙って彼女の叫びを聴くのみ。ついでに、足下に落ちていたソレも拾う。
「何故っ!さっき効果を使った!答えろおぉーーッ!」
「……はははっ」
「何が可笑しいっ!」
これを笑わずにはいられない。対戦相手に危険なデュエルを仕掛けた女。『勝利』だけを望んだアイツが誇りを傷つけられて怒っている事実。
「…………『テメエ』こそ、ふざけるなッ!!」
女に視線を向け、強く睨み付ける。コイツの自分勝手なルールをどこまでも通させる気はない。自分の行いを省みずに誇りを口にしたこの女を絶対に許さない。
「確か『勝利が全て』って言ったよな」
「なら、おれがソレを奪い取る」
「その思い上がったプライドをへし折ってやるッ!!」
「なめるなっ!!」
二人の感情が衝突しあう。お互いに譲れないモノを持つゆえに。
「私のターン、ドロォォォーーっ!!」
これより先はデュエルではなく、ただの意地の張り合い。
「モンスターを一枚セットっ!ターンエンド」
「おれのターン、ドロー。無名の剣帝でモンスターを攻撃ッ!!」
戦場の英雄がシズルへと襲いかかる。しかし、彼女は乱れる様子を見せない。
「私はアクションマジック『回避』を発動」
「アクションマジック『薮蛇』、この効果で発動は無効!」
「何っ!?…………くっ」
二人は一斉にフィールドを走り出した。目的は言わずともわかる。
「させないっ!!」
「それはおれのセリフだッ!!」
目前にある無数の竹。そこに落ちているアクションカードだ。
「何が闇の底だッ、笑わせるな!」
足は男のほうが速く、アクションカードまでは既に目と鼻の距離。
「だから、取らせないと言っているっ!」
全身の体重を乗せて女はそのまま男に蹴りかかった。
「カードはおれがもらうッ!!」
「ほざけっ!!」
その手がソレにかかり…………。
スイゴは再度地面を転がり竹へとぶつかった。
「ぐッ…………取った」
しかし、先程とは違いその手にはアクションカードが握られている。
「これで攻撃は継続ッ!切り裂け、無名の剣帝」
阻むものが無くなり、裏表示のモンスターは容赦なくその身を貫かれた。
「…………『捷炎星-セイヴン』は墓地にいく時デッキから『炎舞』魔法カード一枚をセット出来る」
「おれは、これでターンエンドだッ!」
その手にあるアクションカードを見ながら、スイゴは自分の番を終わらせる。
「私のターン!ドロォーー!」
「伏せていた『炎舞-「天璣」』を発動。この効果で『傷炎星-ウルブショウ』を手札に加える」
おれは『何度も見た光景だがこの展開力は改めて凄い』、と感じる。あのカードを残している限り彼女のフィールドにモンスターが尽きることはない。
「私はモンスターをセット。これで、ターンエンド」
感心するスイゴを置き去りに、シズルは竹林の奥深くへ走り出していった。
「おれのターン、ドロォォォーーッ!」
引いたカード手札に加える。女の方を見ると、アクションカードをまだ見つけられていない様子だ。
「バトルだッ、無名の剣帝で伏せカードを攻撃っ!!」
「ちぃっ!」
「……だが、『傷炎星-ウルブショウ』はリバースしたときにデッキから罠カード一枚をセットすることが出来る!」
これで、彼女のフィールドにはカードが二枚。
「無駄だな……無名の剣帝の効果発動」
スイゴの墓地から、三枚の『無名』モンスターカードが除外される。そして、再度全ての魔法・罠カードが砕け散った。
「これで、おれはターンエンドだ」
同時に、彼のモンスターの攻撃力も6000にダウンした。
「私のタァァーーンっ!」
圧倒的に不利な状況においても、彼女の闘志が消えることはない。
「手札からっ!『炎舞-「揺光」』を発動!!」
「この効果で手札の『空炎星-サイチョウ』を墓地へ送り、オマエのモンスターを破壊する!」
女の持つ執念が、スイゴを闇へと引きずり込むべく追い詰めにかかる。しかし、……。
「おれはアクションマジック『ミラー・バリア』を発動」
「…何っ!?」
透明なバリアーが彼のモンスターを覆った。鏡が光を吸い込み跳ね返すように、敵のカードもまたその効力を失う。
「これで、お前に手札はない」
「………………ギリッ!」
敵は悔しげに歯軋りをしていた。
「結局、お前の抱える『闇』なんてこの程度だ」
おれが言葉口にするたび、女の怒気が強くなる。
「『梁山泊塾』のデュエルこそ、本当はお遊びなんじゃないのか」
「っ……黙れっ!」
スイゴに侮辱されたことで、シズルの顔が憤怒に歪む。
「まあ、どうでもいい。さっさと、ターンエンドしろ」
「………………私は……ターン…エンドっ」
「ドロー」
デッキからカードを引く。もう、彼女になす術はない。後は、ただダイレクトアタックを宣言すればいいだけだ。
「……おれはこれで、ターンエンド」
「…………どこまでも」
「どこまでもバカにする気かっ!!」
屈辱で腕を震わせている。スイゴはその姿をみて、嘲笑するような笑みを浮かべた。
「……チャンスをやるよ」
「ふざけるなっ!」
ここに来て、二人の立場が完全に入れ替わった。
「おれはこれからアクションカードを取りに行く。お前がそれを一回でも奪えたら……」
「おれはサレンダーする」
「私のタァァァァァァァンッ!!」
彼女はその言葉で完全にキレてしまった。
「私はっ!モンスターを一枚セットッ!!」
「……じゃあ、行くか」
喋ると同時に足を動かす。細い道を黙々と走り続ける。
「まずはッ!!アレだ!」
行く先の竹林。高い位置にあるアクションカードを見つけた。
「このおぉぉぉっ!!」
怒声と共に、シズルが竹を投げつけて来た。しかし、……。
「だから、無駄だって言っている」
速度は緩めずに、上体だけでかわす。そんな男は当然のようにソレの前にたどり着く。
「一枚目だ」
そう言って、アクションカードを空中へ投げ捨てる。
「次はあちらのだ」
宙に浮く岩の上にのっかるソレ。指差したそれへと手を伸ばす。
「あぁぁぁぁっ!!」
迫り来る脚が見えた。勢いよく放たれた蹴りも……。
「はいはい、そうだな」
「!」
片腕で女による一撃を防ぎ、もう片手でアクションカードを取った。
「二枚目」
再度、アクションカードを投げ捨てる。
「三枚目だ……」
地面に落ちていたソレを奪い取り。
「四枚目ッ!」
女の体当たりも逆に押し返した。
「そらッ!五枚目!」
最早、乱暴な手段など彼には全く意味をなさなかった。そのやりとりが何度も繰り返され……。
「これで、十一枚目だ」
足元にへばりついている敵を見下ろす。
「どうした。もう、立たないのか」
「いや、違うな。……立てないんだろ?」
対戦相手は腹を抑えたまま動けない。
「流石に少しは効いたみたいだな」
彼女がこちらへ攻撃をしかける度、スイゴは僅かに反撃をしていた。客からは見えない位置で肘鉄をいれ、蹴りを加えた。
「不思議か?なぜ、最初から反撃しなかったって」
別に自分自身はやろうと思えばいくらでも出来る。ただ、したくなかっただけだ。
「…………オマエ…はァっ」
「おれはただ、お前らのやり方にのっかただけだが」
シズルはその言葉に口を閉じることしか出来ない。否定するのは自らの非を認めるということ。
「自分たちが特別だとでも思ったか」
彼は相手が持つ自信を打ち砕いた。
「お前が『梁山泊塾』で今まで習ってきたことは、『全て無意味』だったけどなァッ!」
「…………っ!?」
その心を完全にへし折った。
「さて、一分は経ったが……」
「ほら、立てよ。さっさと続けろ」
しかし、彼女は起き上がれない。
「わた……しは、これで……ターンエンド」
悔しげに涙を流す姿。それを見下ろすスイゴ。格付けはすみ、最早戦うまでもなくこの試合は終わっていた……。