「ドロー、無名の剣帝でモンスターを攻撃」
モンスターによる一撃が迫っても、彼女はもう微動だに動かない。
セットされていた『雄炎星-スネイリン』は破壊された。同時に、無名の剣帝の攻撃力も6300に上昇する。
「……デュエルする気がないなら、さっさと降参しろ。ただし、……」
「塾の名に泥を塗ったままでいいならな」
「…………!」
女はその言葉にピクリと肩が動いた。
「『梁山泊塾』のデュエルはこの程度のレベルだった」
「少なくとも、観ている皆はそう感じるだろうな」
スイゴの発する一言一言が、相手の意識を逆撫でてゆく。
「ユースクラスで残っているのはお前一人か?」
挑発することを休めはしない。
「はっ、お前らのデュエルなんか全く通用していないくせに」
「他の弟子たちの実力もどうせ……」
「黙れえぇぇぇぇっ!!」
顔を上げ、こちらを睨み付ける。そこに、先ほどまでの怯えた姿はなかった。
「仲間への侮辱は許さないっ!」
「私は!いや、他の弟子たちも!皆過酷な修業を乗り越えてきたっ!!」
「他の人たちがデュエルで楽しむ時間も全てを犠牲にしたっ!」
瞳には闘志が宿り、これ以上ない程気迫が充実している。
「両親や友人と離れ、辛くて逃げ出す者もいる中でずっと己を磨き続けたっ!」
「それを否定することは誰にもさせないっ!」
彼女にとって塾で過ごした日々、その全ては紛れもない誇りなのだから。
「…………なら、証明して見せろッ!!」
スイゴも引く気はない。この程度で、相手のことを認めはしない。
「人を傷つけるだけの姑息なデュエルじゃない、とッ!」
「その実力で、己の『アクションデュエル』が正しいことを示してみろッ!!」
それこそが彼女にとって、唯一の勝機。
「おれは手札からカードを一枚セット。これで、ターンエンドだッ!」
彼にこれ以上ターンを待つつもりはなかった。故に、次こそが彼女の逆転する最後の機会。
「私の、タァァァーーンッ!」
シズルは自らの手に想いを込め、渾身のドローをする。彼女も既に敗けることなど、全く考えていない。
「……!」
デッキから引き当て、その手にある希望。それはシズルが本来持たないカード。起きる筈のない奇跡の結晶。
「……だが、それでも私は…っ!」
「手札から『チューナーモンスター』、『炎星師-チョウテン』を召喚!」
「チューナーだとッ!?」
その言葉には、流石のスイゴも度肝を抜かれた。
「このモンスターの効果で、墓地の『立炎星-トウケイ』をフィールドに特殊召喚する!」
「そして、トウケイが特殊召喚されたことでデッキから『炎星』と名のつく永続魔法一枚をフィールドにセット出来る!」
シズルの場に再び二体のモンスターが出現する。そして、これは……。
「私は………………えと」
梁山泊塾ではシンクロ召喚を扱わない。
「……はー」
スイゴは思わず溜め息をついた。当の対戦相手は何を言っていいか困惑している様子。
「…レベル3……に……を…グ」
小さな声で口上を呟く。もちろん彼女には聞こえるように。
「…!」
「私は、レベル3の『立炎星-トウケイ』にレベル3の『炎星師-チョウテン』を『チューニング』」
『暗闇より深遠なるその奥、百八の希望は見出だされた!その男より全ては始まりを告げる!!』
『シンクロ召喚』
「輝け気鋭なる武人、レベル6『炎星侯-ホウシン』」
燃え盛る黒炎をかき分け、男はフィールドに出現する。俊足の獣の力を持つ開拓者は、今ここに『絆』を象徴する新たな力を得た。
「だが、そんなモンスターでは」
少なくとも、それだけではこの形勢がひっくり返る訳がない。
「ホウシンがシンクロ召喚に成功した時、デッキからレベル3以下の炎属性モンスター一体を特殊召喚する」
「私はデッキから『炎星師-カンテン』を特殊召喚っ!」
炎星師-カンテン
レベル3
獣戦士族/チューナー/効果
このカードをシンクロ素材とする場合、 獣戦士族モンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。このカードを素材としてシンクロ召喚されたモンスターは、召喚されたターンから数えて二回目のエンドフェイズまで相手の魔法・罠効果を受けない。このターン『炎星師-カンテン』の効果は1ターンに1度しか使用できない。
AT1000/DF400
「チューナー……そうか!」
「私は、レベル6の『炎星侯-ホウシン』にレベル3の『炎星師-カンテン』を『チューニング』」
『叡知は風に舞うツバメのごとし斬れ!なれども余生を埋没に徹す!!今こそ、彼の才気を我がために生かせ!!!』
『シンクロ召喚』
「吟え忠義なる武人、レベル9『巧炎星-エンセイ』」
巧炎星-エンセイ
レベル9
獣戦士族/シンクロ/効果
一ターンに一度、このモンスターは戦闘では破壊されない。戦闘でこのモンスターが相手モンスターよりも元々の攻撃力が低いときに発動出来る。自分がその戦闘で受けるダメージを0にして、その数値差分相手にダメージを与える。
一ターンに一度、自分フィールド上表側表示の『炎舞』と名のつくカード一枚を墓地に送ることで、相手フィールド上のモンスター効果の発動を無効にし破壊出来る。
AT2800/DF2000
力と軍略に秀でた生まれながらの麒麟児。しかし、その才覚を仲間のために惜しみ無くふるう姿は、まさに、情に厚きツバメのごとし。炎を使役し、魔笛を手に、男はフィールドに出現した。
「まだだ!私はさきほど伏せた永続魔法『 炎舞-「玉衝」』を発動!!」
「……しまった!」
スイゴ場に伏せてあるカードは一枚。よって、この効果により発動は封じられた。
「バトル!私はエンセイで無名の剣帝に攻撃っ!!」
「なっ…………自滅する気かッ!?」
スイゴは敵の無謀と思える行動に混乱する。モンスター同士の攻撃力の数値差は4100。戦っても、こちらが勝てる。
「そんな無いだろう!」
「エンセイは、一ターンに一度、戦闘で破壊されない」
「そして、その数値差分のダメージを相手に与える!」
「させてたまるかッ!おれはアクションマジック『回避』発動」
スイゴもまた即座にそれに対応する。
「まだだっ!!」
叫ぶと同時に、彼女の身体が宙に浮く。竹を踏み、しならせた反動でさらに上を目指し続ける。
「アクションカードかッ!!」
頂上にあるとおぼしき、小さな四角いシルエット。既に、バトルは始まっているのだ。この状況を覆すためにはソレをとるしかない。
「だが、取れるのか。お前にッ!」
「……絶対にやってやる!!」
彼女は強い決意を込め、宣言した。貪欲に勝利を求め、ギリギリの状況でもデュエルをあきらめない姿勢。
「……ったく」
見ると、その手は今にもアクションカードへと届きつつあった。
「本当に!めんどくせぇッ!!」
言葉とは裏腹に口角がつりあがる。内から湧いてくる感情が、興奮が隠しきれない。
「………とった!」
「くらえっ、アクションマジック『破竹』!!」
破竹
自分フィールド上のモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊できなかった時、その相手モンスター一体を破壊する。
「この効果で、オマエのモンスターは消滅!消えされェーッ!!」
覇者の剣が地に落ちる。かわしたはずだった攻撃の残り火が戦士を焼き尽くした。
「これで、私はターンエンドだ!」
空となった相手フィールドを見下ろしつつ、彼女は強くそう宣言した。