「…チッ、なれないことはするもんじゃないな」
思わず愚痴がこぼれる。シズルの戦い方が嫌で発破をかけはしたが、そもそも、こんなのは自分のしょうに合わない。
「『アイツ』のクセが移ったか?」
人をよく面倒ごとに巻きこむ幼馴染み。いつの間にか、自分も影響をうけていたということか。
「早く、ドローしろ!」
「わかってるよッ、おれのターン!」
シズルに急かされ、意識を試合へと戻した。渾身の力を込めてデッキよりカードを引く。
「…………」
カードを手札に加え一瞬だけ目を通す。
「…よしッ!」
「!?」
それを見て、スイゴは勝利を確信した。自分の不敵な様子に相手も警戒心を増す。
「このまま敗けたらダッせえしなッ!おれは手札から『無名の剣客』を召喚」
「さらに!その効果で、お前のエンセイを裏守備表示にする」
「……させない!私はエンセイの効果発動!『 炎舞-「玉衝」』を墓地に送る」
「それにより、無名の剣客の効果を無効にし破壊!」
その能力を使わせる間もなく、彼のモンスターは砕け散る。
…………が
「それを待っていたッ!」
しかし、スイゴの表情には微塵の動揺もない。
「おれはこの瞬間、伏せてあった『途切れなき戦闘維持』発動!」
途切れなき戦闘維持
カウンター罠
自分フィールド上の『無名』と名のつくモンスターが相手のカード効果により破壊された場合に発動出来る。自分の墓地にある『無名』と名のつくレベル8以下のモンスター一体を特殊召喚できる。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効にされる。
「この効果により、おれは墓地からレベル8以下の『無名』モンスター一体を特殊召喚出来るッ!」
「何……まさか!」
「そう、おれが呼び出すのは『無名の剣将』だ」
その名が示す通り彼の戦士に名はない。
己と同じ無銘の剣を片手に、エースモンスターがフィールドへと姿を現す。
「っ……!だが、そのモンスターでは私のモンスターは倒せん!!」
しかし、シズルは怯まない。彼女もまた己のエースモンスターを信じるからこそ。
「…ああ、そうだッ!」
「!?」
「だから、手札からコイツを発動する!」
その言葉と共に逆転への一札をかざした。
「『断念なき宝札』!!」
「この効果により、自分の手札、除外されたカード全てを墓地に送りデッキから……」
「カードを二枚ドローだッ!」
二枚のカードと引きかえに再度の手札増強を行った。
「墓地の『無名の医師』の効果!『無名の軍師』を手札に戻し、デッキから『無名の盗賊』を手札に加える」
「そして、『無名の盗賊』自身の効果により、このカードを特殊召喚!」
貧しき者のために略奪を行う偽善者。
己が信念に命すらかけた名もなき戦士が仲間を救うため参上する。
「おれは、レベル8『無名の剣将』とレベル4『無名の盗賊』を生け贄に捧げる」
「これにより、『無名の剣聖』の儀式償還を執り行う!」
『その真実は己すら気づけず、彼の才気は誰にも知られざる筈だった!』
『しかし、その勇気のみで男は英雄へと上り詰める!!』
『友の叫びに応えよ!!!』
『--儀式召喚』
「仲間を救い、運命を乗り越えよ『無名の剣聖』」
今ここに、スイゴの切り札が姿を現した。
「おれは『無名の剣聖』の効果を発動し、墓地にある『無名の隊長』をこのカードに装備!」
攻撃力は3500に上昇する。
「バトルだッ、『無名の剣聖』で『巧炎星-エンセイ』を攻撃ッ!」
「…だが『巧炎星-エンセイ』は自身の効果により破壊されない!敗けるのはオマエの方だっ!!」
「おれは敗けないッ!そうシェレンと約束したんだ!!」
彼のモンスターが作り出す真っ直ぐな太刀筋のようにスイゴの瞳に揺らぎはない。
「『無名の隊長』を装備したこのカードは一ターンに一度、相手効果の発動を無効に出来る」
「なに!?くっ……!」
モンスターの直撃を避けるべく、彼女は反射的に振り返り逃亡をはかる。
「お互いの攻撃力の差は700。この一撃を食らえば、シズルのライフは0だッ!」
だが……
「……敗けられない!」
周囲に数多に生える竹林をかきわけ、走り続る。
「私は、梁山泊塾の代表としてここに立っている!」
「私の敗北は同門皆の敗北!だからこそ……」
「このデュエル……絶対に勝つ!」
希望をその手に掴み、奇跡を手繰り寄せた。
「アクションマジック、『回避』発動!」
「これで、エンセイへの攻撃は無効!…次のターンでオマエを倒す!」
紙一重で剣聖の攻撃を避けたかに見えた…………
「アクションマジック……」
「なっ!?」
「『薮蛇』発動!!」
……が。それは幻覚。
刹那の攻防が見せた幻。
「いつの間に……!」
「忘れたのか?お前がさっきアクションカードを探すため目をそらしたことを!」
剣聖はその柄を翻し、追撃の一振りを以て…
「……くそ、私の負けか」
この闘いに終止符を打った。
シズル
LP0
ソリッドビジョンによる架空のフィールドが消え去ったのを見届けると、おれは足を進めた。
「ほら、立てるか…」
目の前につくと、尻餅をついたままのシズルに手を貸す。
「……」
しかし、おれが声をかけるも彼女はただそっぱを向くばかりだ。
僅かな時間、二人の間を沈黙が支配する。
「……悪かったな」
先に口をスイゴ。その言葉の意味はもちろん、試合中のことについてだ。
「 正直、強かった。梁山泊塾……お前のデュエル」
「すまなかった!おれはお前たちを馬鹿に……」
「…もういい」
そう言うとシズルは自力で起きあがる。背後の観客席にいる梁山泊塾の皆に礼をすると、おれの方へとを視線を向けた。
「私は……梁山泊塾のデュエルが間違っていたとは思わない」
「……ッ!なん…」
「だが!」
一息置くと、彼女はこう告げた。
「勝ったのはお前だ。ならば、私はお前の強さもまた認めなければいけないだろう」
「良いデュエルだった。……勝つことだけがデュエルではないのだな」
どこか憑き物が落ちたような顔をした。さっぱりとした表情をしている。
「…そうだ」
「…ただ勝っただけのデュエルに本当の価値がある、とおれは思いたくない。だから……」
おれは手を出してシズルに握手を求める。
「勘違いするな。私はこれからもこのデュエルを貫く」
「……それに、私にその権利はないさ。」
彼女が伸ばされたソレに触れることはない。フィールド上から徐々に離れて行くその背中を、スイゴはただ黙って見ていることしかできない。
すると、一瞬だけ彼女はこちらの方を見て
「今度は負けないからな」
「!」
既にその姿は見えなくなり、ここには今、無数の観客に囲まれる自分しかいない。
「…………負けず嫌いめ」
苦笑いするように顔をしかめつつ、スイゴもまたこの場を去る。アカデミアのこと……、遊矢の状態のこと……考えることは山ほどあり、立ち止まる暇はないから。
観客席から盛大な拍手が送られる中、彼はただ一人最後に見たその笑顔が目に焼きついて離れなかった。