二回戦を終えたスイゴは、既に試合を終え観客席にいたシェレンと話をしていた。
「遊矢が起きた…それは本当か!? シェレン!」
「ええ。柚子ちゃんが教えてくれたわ」
彼女が言うには、遊矢の体調も問題ないらしく今は他の塾生と次の対戦相手の試合を観戦しに行ってるようだ。
「そうか……」
その事実に安堵すると同時に口をつぐむ。あの日、遊矢は自分たちのことを知ってしまった。アイツが素羅のことを友達だと思っていたことも知っている。正直、顔を会わせるのが非常に気まずい。
「行かないって言うのはだな」
「ダメよ」
「だよな」
はあとため息混じりに首肯する。真実を知る遊矢が優勝塾の面々にこのことを話さない保証はない。口止めのためにも出来るだけ早く会って話したほうがいい。
「柚子や塾長はこのことを?」
「まだ知らないみたいよ。『今はね』」
「…よし、行くか」
憂鬱ぎみな自分に渇を入れ、二人は優勝塾の面々がいる場所に向かうことにした。
彼らの目にまず初めに飛び込んできたのは宙を舞うその身体。続いて荒々しくフィールド内を動き回るデュエリストの姿。
「勝鬨……か」
「酷いわね…」
前者はLDSの刀堂刃。そして、後者は梁山泊塾の勝鬨勇。それはデュエルではなく一方的な暴力、蹂躙。
シズルの戦い方を既に見知っている二人もこれには不快感を強めた。
「優勝塾は…」
視線を向けると、スイゴたちがいる観客席の前方の列に彼らは座っていた。
「声をかけないのかしら?」
「いや……今はいい」
皆が固唾を飲んで見守る中、遊矢もまたこのデュエルを真剣な表情で観戦している。そこから察してしまったのだ。彼の信念や怒りがどれほど強いものかを。
「シェレンも分かっているんじゃないか?」
「ふふ、邪魔はしないわよ」
今、スイゴたちが話しかければ少なからず明日の試合に支障が出てしまう。それでは遊矢の覚悟を見ることはできない。
「見せてもらう、遊矢。 お前のエンタメデュエルを」
塾に帰った二人は、何かを訴えるかのような視線を向ける遊矢をあえてスルーした。結局、スイゴたちへの疑問をはぐらかしたまま彼らは翌日を迎えた。
だが、これが間違いであったことを直ぐに知ることになる。
彼らは全く解っていなかった、とそのことを理解した。二人のデュエルがどのような結末を迎えるか。予想することは出来た筈だった。
「これが…」
試合は序盤、対戦相手有利に運ぶ。スイゴの時と同じく暴力行為ギリギリのデュエルを仕掛けた勝鬨。迎え撃つ遊矢は得意のアクションデュエルをさせてもらえない。
「これが……ッ」
中盤に入って試合はさらに白熱した。勝鬨は自身の切り札を召喚し、さらに追い詰めにかかる。そこには勝利への唯ならぬ執念、いや、それ以上のモノがあった。
「お前のやりたかったことか…ッ」
遊矢のエースであるオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンは封じられ、誰もが彼の敗北を疑わない状況。
しかし、そこから異変が起きる。突如豹変した遊矢は未知なるペンデュラムカード二枚を用いて、あのユートのカードである『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を呼び出したのだ。
「遊矢ァァァッ!」
まるで逆鱗に触れたがごとく荒れ狂う彼のモンスターは、敵を瞬く間に殲滅する。デュエルの明暗と観客の笑顔も何もかもを犠牲にして。
「…ごめんなさい、スイゴ」
シェレンは薄々この事態になることを勘づいていた。だが、信じてみたかったのだ遊矢ならそのエンタメデュエルを貫き通せることを。
「いや、いい。おれのほうこそ謝るべきだ」
止めるべきだった、と思う。今となっては遅いがそれでもそう後悔せずにはいられない。握りこむ拳に食い込んだ爪の先から流れる血にも気づかず、ただ苛立ちを積み上げた。砕かんばかりに歯を噛み締める。
「シェレン、一つだけ頼みがある」
今の自身には出来ないこと。おそらく、今顔を会わせれば所在ないその拳は遊矢へと向くだろう。
「アイツを……今日の夜、遊矢とデュエルがしたい」
「…わかったわよ。 普段付き合ってもらってるからね~」
「…うん、ありがとな」
「貸し一つよ?」
嫌な役回りをさせられたことを気にした様子もなく、彼女は役割を引き受けた。お互いに小さく頷き合うとそのまま詳細に話を煮詰める。やがて、結論が出るとそれぞれ目的の場所へと別れていった。
PM:23:00
遊矢は一人最寄りの公園へと向かっていた。まだ中学生の彼は、本来ならこの時間に出歩くことはない。保護者である母さんも普段そんなことをしようものなら激怒するに違いない。が、今日に限っては事情が別。
「シェレンさんに呼び出されたのはいいけど……」
アカデミアについて話したいことがあると塾でこっそり聞かされ、夜中に家を抜け出してきた。公園に着くも、真夜中で園内は真っ暗。とても人を見つけ出せそうにない。僅かに灯る照明が手がかりだ。
「どこだ……どこにいるんだ」
暗闇の中を歩く遊矢が徐々に焦る。探し人が見つからないこととこの辺りの闇が不安にさせるためだ。園内の中心部に来た辺りでようやく人陰らしきものを見つけた。
「! 遊矢……か」
「スイゴ! どうしてこんな時間に俺をこんな場所に!?」
見つかったことに安堵したのとそれまでの疑念が噴出し、矢継ぎ早に質問をスイゴへと投げつける。
「アカデミアについて話したいことって? スイゴたちは本当に別次元から来たのか!? 黒咲とどんな関係なんだっ!」
「うるさいッ!!」
一喝で遊矢を黙らせ青年は、デュエルディスクを構える。
「……デュエルだ、遊矢。 お前の知りたいことはその後に答えてやる」
「ふざけるなっ! ずっと俺と柚子、塾長たちを騙してたのか! スイゴは……」
「素羅と同じように……か?」
「!?」
図星を指されたのか思わず遊矢も口をつぐんでしまう。
「おまえがアイツのことをまだ友達だと信じたいってことは分かる。 だが、生憎おれが知ってるのはヤスハと同じおれたちの敵の融合次元の一人だと言うことだけだ」
「……違う。素羅は…」
突きつけられる真実に心が揺らいでいる。あの日、彼が経験したことが夢でないと思い知らされた。スイゴもまた苛立った様子であり、それがまた遊矢の動揺を助長していた。
「何が違うってんだ……チッ。 けどな、今はそんなことどうでも良い」
停滞した場の流れを動かすべく、スイゴは胸のうちにまざまざと浮かんでくる感情を飲み込んだ。このままでは本来の主旨を見失いかねない。
「おれは……今はお前自身に用がある」
「俺に……?」
「ああ、今日のデュエルは何だッ! 遊矢!」
一瞬苦虫を噛み潰したかのような表情をした彼をスイゴは見逃さなかった。
「…あんな無様なデュエルしといて何がエンタメだ! さっさとデュエルディスクを構えろ!」
「……スイゴに……何が分かるって言うんだよ!!」
叫びつつ遊矢もまた同様にディスクを展開する。
「分からないならかかってこい! デュエリストなら言葉じゃなくてコイツで話し合える筈だろッ!」
双方共にストレスや鬱憤が溜まりにたまりきった状態だ。そのやり場のない感情をどこにぶつけていいか矛先を探している。
「ああ! 俺が勝ったら全部答えてもらう、スイゴ!」
故にこの二人の対決を妨げるものは何もない。
「「いくぞ、デュエル!!」」
皆が寝静まった真夜中の公園で熱い戦いの火蓋は今、切って落とされた。
申し訳ありません。
ストックがないのでここでうちどめです。
ここからは不定期投稿とさせて頂きます。