わたしは観客席へゆっくりと向かう。ムツミとのアクションデュエルでは辛くも勝利を修めることが出来た。
「良いデュエルだったな、シェレン」
ふと横から声をかけられる。振り向くとスイゴ達がいた。
「途中見てて焦った所もあったけどな」
「あらら、信用してなかったのー?」
「…………少しは不安だったさ」
彼はわたしの言葉にどこかバツが悪そうな顔を浮かべている。自身の発言のことを気にしているのかもしれない。
「まあいいわ。わたし自身もギリギリのデュエルだったのは確かよ」
「……この大会は明らかにレベルが高いな」
「ええ。間違っても油断しちゃだめよ」
わたしはスイゴにクギを刺しておく。なぜなら、彼とは約束があるもの。
「ああ、お前と戦うんだもんなッ!」
「わかってるじゃない♪」
「シェレンさんっ」
柚子ちゃんが興奮した様子で話しかけて来た。
「試合、凄く良かったです。まさか、あんな風に勝っちゃうなんて!」
「俺も!シェレンさんのデュエル、すっごい『エンタメ』ってた!」
柚子ちゃんと遊矢くんも絶賛してくれている。彼らの嬉しそうな姿を見て、わたしは嬉しくなった。
《自分なりに上手にエンタメデュエルが出来ていたみたいで良かったわ》
「ありがと、明日は遊矢くん達のデュエルよ?頑張りなさい」
「うん、俺も俺なりの『エンタメデュエル』で会場を沸かして見せるよっ!」
わたし達はお互いに握手をかわす。アクションデュエルでは、互いに似た信念を持つ同士でありライバルだからね。
「……バカ遊矢」
横では、柚子ちゃんが少し不満気な表情を浮かべている。遊矢くんがわたしと仲良さそうにしているのが気にくわないと見える。
《ふふっ、わかりやすいわね》
「柚子ちゃん、大丈夫よ。わたしは遊矢くんを取ったりしないわ♪」
「…なっ!?…………べっ、別に私はそんなつもりじゃ…」
「俺?柚子、何のことだよ」
「ゆっ、遊矢には関係ないからっ!」
柚子ちゃんは必死で誤魔化そうとしてるわね。……でもね、目の前で顔を赤くしながら言っても説得力ないわよん。ふふふっ、あたふたしてる姿が非常に可愛らしいわ。
「柚子お姉ちゃん…やっぱりそうなんだ」
「あっ、アユも何を言ってるのっ!私と遊矢はそんなんじゃないわ」
《…あらら、自爆しちゃったわね》
流石にこれ以上は可哀想かと思い二人を宥める。遊矢くんは終始首をひねっていて、会話の意味に気づいていないようだった。
そうこうしているとふと横の素良くんがこちらを見ているような気配がした。しかし、わたしが彼の方を向くと視線をそらされてしまう。
「ねえ、素良くんも楽しんでくれたかしら」
「…………べつに」
素良くんは素っ気ない態度をとるだけだ。シェレンは『何か嫌われるようなことをしたか』と疑問に思う。普段、遊矢達と仲が良い彼はスイゴとシェレンにだけ何故か一線を介したような態度をとる。
《………………まさかね……》
わたしは頭の中に浮かんだ考えを否定する。それは所詮根拠もなく妄想といっていい話だ。……それに、あまり『遊勝塾』の仲間を疑いたく無いのもある。
「わたしは素良くんの『アクションデュエル』も楽しみにしてるわ。明日は頑張ってねん♪」
「…………うん、分かってる」
一先ず、会話はこれで終わらせる。わたしが何かに悩むこの子の姿が気になるのは確か。でも、これ以上は踏み込まない方が良いと察したためだ。
「じゃあ、帰りましょ」
シェレンのその言葉を最後にその場にいた皆はそれぞれの場所へと帰って行く。明日の試合の準備や英気を養うためだ。
今日は大会初日、まだ『舞網チャンピオンシップ』は始まったばかりなのだから。