聖フランチェスカ学園から
『聖フランチェスカ学園』
ドミノ町の隣町『サンゴク都市』内にあり、 幼稚園から大学までの機能を備えた国内有数の有名学校。『デュエリスト育成』を目的としたこの学園は、都市の領域の半分以上を占める大規模な教育機関である。
現在、この学園では全学生合同のデュエル大会が開かれていた。
「ワタクシは、トリシェーラの影霊衣でトドメです」
白き鎧に身を包んだ剣士が、此方へ向かって来る。場にカードはなく、もう防ぐ手段がない。その氷の剣の一撃を受け、おれはアッサリと宙に吹き飛ばされた。意識を失う最後の一瞬見えたものは、『0』という数字だった。
「あーあ、くそっ」
画面を見ていたおれは思わず口から、愚痴が出た。
「なーに。もしかして、まださっきの敗けを気にしてるの」
可笑しそうな様子で話しかけられた。隣では、クスクスと笑いを堪えるようにしている幼馴染みがいた。
「……別に。気にしてないさ、シェレン」
聞かれていた恥ずかしさからか、少しふて腐れた声で女に返事をした。
「あらら、わかりやすいウソね。スイゴ」
女はピシャリと音がなるように、直ぐ答えた。
「スイゴとは幼馴染みだからねん。もうバレバレよ」
確かに、それはウソだ。先日開かれたデュエル大会の三回戦で、おれはデュエルに敗けた。今はその録画ビデオを見ている最中だったが、ひどい敗け方をしたためにずっとそのことを気にしていたのだ。
「そんなに影霊衣の万華鏡引かれたのが悔しいのかしら」
「当たり前だろ。あれがなければ俺の場がカラになんてならなかった」
「いやいや、運も実力の内よ。大人しく諦めなさい」
彼女にそう諭され、まだ納得出来ないものの何とか気を落ちつかせた。
「まあ、頑張ったじゃない。いくら相手が最高学年の先輩だったとは言え、後一歩のところまで追い詰めたわけだし」
「…そうだな。よし、次のデュエル大会は今度こそリベンジで優勝をしてやる」
「再来年だけどね」
その言葉に思わず、ガックリしてしまう。
聖フランチェスカ学園で開かれるこの大会は、規模の大きさのために二年に一度しか行われない。つまり、現在高校二年生のおれは大学一年になるまで待たなければならない。
「くっ。……いいよな、お前はまだ勝ってるし」
「当たり前よ。母様の面目もあるし、そう簡単に敗けられないわ」
「シェレンのお母さんはプロデュエリストだもんな。シェレンだけじゃなく、妹達も苦労してるんじゃないか」
「母様の口癖よ。『我がイェンレンの娘たるもの一番をとって当然』ってね」
「どこの覇王だ」
互いにため息をつく、娘のシェレン以外におれもまたあの人には散々な目にあわされた。デュエル修行のために、虎とリアルファイトを繰り広げたりこともあったか。どこがデュエルに関係あるのかなんて疑問は、もはやツッコム気すら起きない。本人が非の打ち所のない完璧超人のためか、周りにいる者にまで高いレベルを要求してくるのだ。
「うん……。正直、今回勝たないとヤバイかも」
普段どこか余裕のある態度のシェレンも、今回はさすがに本気になっているようだ。
「それに、今年も大会に彼が出るしね」
「ああ、カズトか。確か二年前はアイツに敗けたんだったか」
当時15歳にして、彼女は優勝候補の一角だった。しかし、無名だったカズトにギリギリのところで敗けたことによりベスト8という悔しい結果に終わる。そしてカズトはなんと優勝をした。これにより、一躍学園内最強デュエリストという名声を得ることになった。今ではその実力とプレイスタイルから畏怖を込めて「天の御使い」と、呼ばれている。
「というわけで、私のデュエルの練習相手になってくれない。大会中だし、デッキの調整に困ってたのよ」
彼女の親友達は、みなまだ勝ち残ったままだ。
「メイリン達も残ってるしな。わかった、トコトンつきあおう」
仮にシェレン達全員が敗けでもしたら、100%おれもお仕置きに付き合わされそうだからな。決して、イェンレンさんのお仕置きが恐い訳じゃないからな。
「ねー、そういえばさ」
「なんだ」
「スイゴはまだ儀式召喚使いこなせてないんだっけ」
おれとデュエルしている最中のシェレンは、突然、そんなことを聞いてきた。
儀式召喚とは、手札から通称『儀式魔法』と呼ばれる魔法カードを使って手札・場から指定のレベル以上のモンスターを墓地に送ることで『儀式モンスター』を手札から場に出す召喚法のことだ。
「…ああ。中々、手札にカードが揃わないことが多いし使いづらい」
「確かにスイゴの場合、入ってない方がデッキも回ってるわね」
でも、と付け加える。
「やっぱり、儀式召喚がないと話にならないわよ。わざわざ生け贄を使って召喚する生贄召喚より、儀式召喚のほうが強いモンスターを早く呼べるし」
「とはいっても、おれはシェレン達みたいに強い儀式モンスター持ってないし」
「私達の家に受け継がれる家宝だからね。さすがに普通のカードとは、少し違うわ」
「かの有名なペガサスがデザインした世界に一枚しかないカードらと聞くな」
「そう、なぜか私達の一族しか扱えないらしい。でも、強いカードなら他にもあるわ。スイゴの場合は、単に使い下手なだけよ」
「むいてないだけさ」
そう言って、場にモンスターを召喚する。
「言い訳はいい。出来るようにならないと、次の大会で優勝なんか夢のまた夢よ」
シェレンはデュエルディスクに魔法カードを置く。
「発動。『恋姫の君臨』」
「手札から、レベル8のモンスターを生け贄に現れなさい『恋姫-呉王・孫策』」
一陣の風を吹かせ、おれの目の前に悠然と姿を表した。
「来たか」
彼女のエースモンスターにして、世界に一枚の超レアカード。桃色の髪を持ち、その手には黄金の剣が握られている。
恋姫-呉王・孫策
レベル8
戦士族/儀式/効果
このモンスターは儀式召喚された場合、このカードのコントロールは召喚された元々の場から、別のプレイヤーにコントロールが移る効果を無効に出来る。
このモンスターは一度のバトルフェイズ中に、二回攻撃することができる。
AT2800/DF2000
「バトルよ。『呉王・孫策』で裏守備モンスターを攻撃」
無慈悲な剣が降り下ろされ、おれのモンスターは真っ二つになった。
「続いて、二回目の攻撃」
ヤバい、おれのライフはあと2000しかない。この攻撃を食らったら、また敗けだ。とはいえ、他に手段があるわけでもなくその攻撃を止めることはできない。
キャアァァァァァァァッ
「!?」
「何なのっ、今の声は」
突如聞こえた声に、スイゴとシェレンは動揺した。
彼女の動きに合わせるように、モンスターの動きも止まる。おれ達は慌てて、デッキをしまい。悲鳴が聞こえた方へ、走る。
「さっきのは、確かに人の声だったわ」
「ああ。しかも、おそらく女の声だった」
スイゴ達は学園内の森を走り続け、声のした場所に着く。
「なんだ…………これはっ!?」
それはあまりにも異常な光景だった。
そこには、無数のカードが地面にちらばっていた。カードらは取り囲むようにあり、その中心にただ一人男が立っている。男は落ちているカードに動じた様子もなく、むしろその口には笑みすら浮かべていた。口の端がひきつるほどに歪められたその顔は、狂気すら滲んでいるように思えた。あいにく顔はつけている仮面のせいでよくわからないが、普通でないことだけはわかった。男はスイゴ達の方を見て、口を開いた。
「誰だ、貴様らは」
男はおれたちと同年代に見える。そんなやつが、この場で何をしていた。ただ、カードを散らかしていただけだったのか。いや、そんなはずない。
「そちらこそどなたかしら、そんな変な格好して。この学園の生徒なの」
「ああ、もしや此所にいた奴等の仲間か」
おれとシェレンに寒気が走った。今、目の前の男はなんて言った。
「ここにいた。…それはどういう意味かしら」
「お前らに答える義理は無い」
「答えるなさいっ。学園の人にあなたは何をしたの」
相手を威圧するように、彼女は声を荒くする。しかし、目の前の男はニヤニヤしたまま何も話さない。不敵さを感じさせるその様子に、おれも苛立たしさを隠せない。
「ならっ、私とデュエルしなさい。私が勝ったら、洗いざらい此所であったことを話してもらうわ」
「いいだろう。ただし、貴様が敗けたらここにいた奴等と同じ目にあってもらうがな」
両者は、互いにデュエルディスクを構える。一種即発とした空気だ。
「シェレン。……おれもやる」
だが、こちらとしても止める気は全くない。おれ自身ハラワタが煮えくり返っているんだよ。
「やれるの。スイゴ」
「当然だ」
「いいだろう。ついでだ、纏めて貴様らを片付けてやろう」
おれとシェレンは目前の相手に打ち勝つべく、心をひとつにする。
「「いくぞ」」
「「「デュエル」」」
決戦の舞台が幕を開けた。