OF THE XILLIA (仮)   作:koopa

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4話:「キジル海瀑」

 次の日の朝、私たちはイラート海停から予定通りに出立することに。

 前日の夜中にしたミラとの会話で聞いたが、今朝集まってからも改めて説明を受けた。目的地がニ・アケリアだと聞いたことはいいものの、存在自体を知らない人間が多く、それに物知りジュードも流石に外国の地理――それも現地民すら把握しきれていないような場所はお手上げだった。

 アルヴィンもあちこちを渡る傭兵稼業をやっているが、そのような村名は聞いたこともない様子だった。

 ミラたち三人が最後の頼みと私の方を揃って振り向いてきた。

 私は知っている、と応えた。

 実はニ・アケリア。土壌がいいのか、良質の樹木が沢山ある。さすが精霊を祀る村。樹木にまで加護が働いているのか! と、樹木を発見した当時は大はしゃぎで伐採していたものだ。もちろん、村の方々には一定の樹木の伐採を許可してもらっての行動である。

 そういうわけで、度々ニ・アケリアにお邪魔させてもらっていた身ではあったのだが、ミラを一度も見かけたことがなかった。

 どうやらミラはある程度成長してから一歩も祀られているらしい祠から出たことがないらしく、なるほど、どうりで見かけないはずだ。

 祠はニ・アケリア霊山という山の麓付近に有る。しかし、私が樹木を伐採していたのは麓と村の間の道のみだった。もうちょっと登っていれば出会えたのだろうが、とある御子がうるさく、祠に近づくことを許してくれなかったのだ。

 樹木の伐採を、道の邪魔になるもののみを限定にという条件で渋々呑んでくれたあの少年。当時も相当やかましかったが、元気かなあ。

 

 

 

 北へと続く街道を進み、私たちは次にハ・ミルという村を目指している。

 それほど離れた距離はないので、昼時には到着するだろうと説明した。推測は間違っておらず、太陽が頭上に昇った辺りで小さな村へとたどり着いた。

 ハ・ミルは、私の大好きな村だ。なにせここには――私の好物のパレンジがある!

 私は到着する直前からそわそわしており、村へと足を踏み入れた途端に三人の連れを宿へと放り込んでから速攻でパレンジの果樹園へとやって来ていた。

 並木のようにしてそびえ立つ細長い幹は、天を突こうかというほど。あちこちに梯子があり、上の方には足場まで組まれているが、それらを活用せねば実を取ることすらままならないのだ。

「おやおや、エイダちゃんじゃないの。久しぶりだわねえ」

「ご無沙汰しております。変わらずお元気そうでなによりですわ」

「エイダちゃんこそ。うらやましいくらい綺麗なお肌よ~。こりゃあ、街の男もほうっておかないね」

「ハッハッハ。こ冗談を」

 このご婦人。この巨大な果樹園を管理している、私にとって偉大な方の一人。ご高齢の身であるご婦人は、主人とその息子さんと三人でやっている。驚くべきは、もう結構なお歳であるというのにその体力が衰えを見せていないことか。人の良い笑顔も健在であった。

「ここに来てくれたってことは、アレでしょう? 待っていて、すぐ準備してあげるから」

「恐縮ですわ。よろしくお願いします」

 名産も、名産品。その名も――パレンジ酒だ!

 

 

 

翌日、二日酔いでアタマグラングランする私ことエイダは、ジュードとアルヴィンの二人に叱られた。ジュードには、優等生らしく酒はほどほどにと。アルヴィンには自分ひとりに食料調達を押し付けるなと。ついでに夜中遅くに帰ってきたことも言及されてしまった。

頭痛により半分以上聞き流していた私は、その後、気分転換に宿の外へ出た。と言っても、数歩歩いただけでギブアップしていたが。

現在私は、家の前に置かれている木製のベンチに背中を預けるようにして腰掛けていた。目も瞑り、傍目には眠っているようにも見えるかもしれん。

短く切りそろえた髪が静かに揺れる程度のそよ風が心地良い。段々と頭痛も収まってきたところで、慌ただしく何者かがこちらへと駆けてくる音が聞こえる。

「・・・・アルヴィン?」

ふと目を開けてみれば、いつも飄々とした態度を崩さない彼である。結構急いでいて、慌てている様子だった。

「どうした?」

「どうした、じゃあねえ! 入口の方見ろ」

 何事があったようである。ただ事ではない気配をアルヴィンが放っていたので急ぎ確認してみれば――

「ラ・シュガル兵、だと?」

 ラ・シュガルの軍服を着た兵士とハ・ミルの村民の何名かが、その場で何やら言い争っている。

 連中に見つかれば村の方にも迷惑が及ぶ可能性があるかもしれない。即刻この場を離れたほうがよさそうだ。

「ジュードたちには先に西側にあるもう一つの出口に言って待機してもらっている。そっちから出て、キジル海瀑に向かうぞ」

 道はあっているよな? と言う彼に、私は是と頷いた。

「これは、どういう?」

 村の中を走って抜けるようにして西側の出口へとたどり着いてみれば、ラ・シュガル兵が二人、その場に倒れ伏していた。それを見た私とアルヴィンがどういうことかと困惑していると、ジュードたちが物陰から走り寄って来た。

 ジュードとミラがやったのか。証拠を隠すことはいただけないが、けっこう思い切ったことをするなと感じていると、ふとジュードの脇から視線を感じる。見れば、そこにはジュードに隠れるようにしてこちらを覗く小さな少女の姿があった。

 聞けば、彼女が持っていたぬいぐるみが勝手に喋って動き出し、宙を飛んで兵士に向かって攻撃して倒したらしい。俄然、興味湧いてきた。

「私はエイダ。君は、名前はなんという?」

「・・・・エリーゼ、です・・・・」

「僕はティポっていうんだー」

 少女と自己紹介を交わした私は、本当に自立して動き喋るぬいぐるみを凝視した。精霊術とかで動いているのかな? 少なくとも、私の知らない技術だ。

 ちょっとそれ、見させて(バラさせて)くれ――と頼もうとしたその時、

「これ、娘っこ。小屋から外へ出てはいかんと言ったであろう」

 195cmは――余裕で越すんじゃないかと感じる程の、それこそエッグベアみたいな背格好の屈強な男性が、どすどすと足音を鳴らしてやって来た。

 保護者か、と思い内心舌打ちをした私だったが、少女の方は少し身をこわばらせて、更にジュードの後ろへと隠れてしまった。

「むむ? ラ・シュガルもん奴、こんなところにまでやってきおったのか! ――何をやっておるのだ、お主?」

 なんだ、私か。

「見ればわかるだろう。戦利品だ」

 ジャラ、と音を鳴らせて見せるようにして兵士の懐から拝借したガルドの入った袋を掲げる。それで私たちが兵士を倒したと勘違いしたのか、男は礼を言ってきた。

 そうしていると、少女が隙をついて逃げ出した。村の中央へ向かって、一目散に駆けて行く。

 すると少女を追って、男も同じ方向へと走り出していった。慌ただしく駆けていくその様子から、もはや私たちのことは眼中に無いと分かった。よほど、あの少女が大切なのか。

「親御さん、だったのかな?」

 ジュードが疑問を口にすると、

「分からんが、今はとにかくここを離れるぞ。いつラ・シュガルの兵士がこちらへやってくるか分からないのだからな」

「俺も、賛成だな。さっさと行こう」

 ミラとアルヴィンの言うことはもっともだ。私たち四人は向き合い頷くと、出来うる限り静かに、そして迅速にその場から離れていった。

 

 

 

 

 途中にある巨大な岩や、轟轟と水しぶきを上げながら流れ落ちる滝が絶景のキジル海瀑。

 たどり着いてからも黙々と岩場を歩いて進んでいた私たちであったが、アルヴィンがジュードとミラがやや疲労を感じていると察知。休憩を提案した。

 長いあいだ戦闘行動をしていなかった私も例外ではなかった。さすがに疲れ果てて、その提案を呑んだ。

 私はジュードに足でももんでもらおうかと考えていたが、景色が良いという場所へとアルヴィンとジュードの二人が行ってしまったので潰えてしまった。ミラと休憩しようと誘おうにも、素直に応じてくれるはずもなく・・・・仕方なく私は、近場の木陰でのんびりと涼んでいることにした。

 未だに二日酔いの頭痛が収まりきらないのである。困ったものだ。

 うーあー、と唸りながら精霊術で生成した氷の塊を麻袋に包んで額に当てて、寝袋を展開して寝転んでいた。

 しばらくそうしていると、突然悲鳴が聞こえた。そしてほぼ同時にミラの名を叫ぶジュードと思しき声が聞こえる。

物陰からひょいと顔を覗かせて周囲を伺ってみれば、キャバレーにでも居そうなド派手な、際どい衣装を身に包んだ女性が滝近くの岩の上に立っており、なんとミラを精霊術らしき術で拘束して、あまつさえその体をまさぐっていた。

思わず二回くらい両の目をこすったものである。寝起きには正直冷水と同じくらい衝撃的なきつけだった。御陰で頭の覚醒も、思ったよりも早かった。

女性はジュードとアルヴィンの方を睨んでおり、私には気づいていない様子である。長剣をはじめとした小物を次々と奪っては確認し、適当に放り投げて地面に落としている限り、なにかを探しているみたいだ。

精霊術をぶっぱなして助けてやりたいが、あいにく現在頭痛で使えないアタマでは術式構成もできない。そんな情けない理由で切り札を切るのもどうかと思うので、注意をそらそうと試みた。

「――ッ! 誰かいるの!?」

 えい、と小石を掴んで放り投げ、ジュードたちとも私の方とも違う全く別の木陰へぶつけて音を鳴らし、女性はそれに気づいてさっと振り向く。

 隙を見たアルヴィンが動いた。瞬時に構えた銃から発射された弾丸で足元を撃ち、女性の注意力をさらに削ぐ。すると、ミラを拘束していた術が若干緩んだ。

「む、おおッ!」

 それを無理やり引きちぎるようにして脱出することに成功したミラが、お返しとばかりに女性の頬を振りかぶった拳で強く打ち付けた。

「う、あ――!」

 女性は顔面を庇うように両手を動かしたが間に合わず、殴られた衝撃でバランスを崩し、そのまま滝壺へと落下していった。

「なんとか、助かったよ。ありがとう、三人共」

 拘束のダメージからかその場にへたり込んでいたミラをアルヴィンに救出させ、私たちはまた追っ手が来るかもしれないという理由から、ゆっくりでも移動しようという結論に至った。

「あの時いっしょにエイダが捕まっていたらって思うと、危なかったな」

「そうだね。滝の方にいた蛸も、あの大きさじゃあとても・・・・」

「気づいていたのか?」

「うん。さっき、崖の縁でアルヴィンから話してくれたあの陸生の蛸の話を聞いて思い出したんだ。けど、」

「たしかに、あの大きさじゃあ銃で脅かそうにも、びびって逃げちまいそうだしな」

 なにやら、男二人で盛り上がっている。何事かと思えば、私が現れた瞬間のことを言っているらしい。

「にしても、あの大きさにしては隠れていた窪みがやけにでかかった気が・・・・」

 ああ、そのことか。

「それなら心当たりがある。以前、数年前までなら確かにあの場には巨大な蛸が存在していたよ」

「なんで、エイダさんが知っているの?」

 ジュードが疑問を抱いて言う。対し私はすっぱりと言った。

「無論、私がぶち殺したからだ。当時、ステッキの材料を求めてニ・アケリアへと向かっていた最中に襲われたのだが、撃退した」

 見上げるようなあの巨体。正直一人で相手取るような存在ではなかったが、後顧の憂いを断つという意味合いで戦闘を開始。賞金も出ていた為、もはや意地の領域で討ち倒すことはできたが、その分こちらが負ってしまったダメージもそうとうなもので、泣く泣くハ・ミルへと引き返して数週間ほど療養する羽目になってしまった。

 パレンジに染まったのは、ちなみにその時である。

「にしても、あの状況でよく分かったよな」

「そうかな?」

 蛸のことだな。同感だ。

「いつも冷静に周囲を見て状況を把握して戦略を立ててみせる君の判断力は、とても常人に真似できるものではない。君だけの能力だ」

「うむ、大したものだ。実際、魔物との戦いでも助かっているしな」

「さすがジュードくん。よっ、優等生」

「いやあ・・・・」

 立て続けに褒められたからか、ジュードは照れくさそうに頭をかいていた。

 

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