シンデレラの日常   作:笠原さん

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ふーん…ふーん…フフーン!
何かの前日譚的なお話




最後で最初のデートごっこ

 

 

 

 

「ふんふんふふーん、ふんふふーん」

 

 

 とある土曜、とある駅前にて。

 一人の男が気持ち悪くも鼻歌を歌いながらチラチラと時計を確認していた。

 まぁ、自分の事なのだけれど。

 

 

 たまの休日を時計観察なんかに費やすなんて間抜けな事だ。

 そう、はたから見れば思われるかもしれないけれど、今の自分にはそんな事よりも重要な事があった。

 そもそも時計観察なんて趣味の人がいるなら折角の休日は世界の時計美術館にでも行っているだろう。

 時計が嫌いなわけではないけど、それ自体を目的に時間を潰すなんて俺がする日はきっと来ない。

 

 

 詰まる所、俺は人と待ち合わせをしていたのだ。

 

 

 さて、先ほどからずっと語られている時計の表示は大体十時。

 アナログな針は左上と真上を指している。

 その針二本の中心には十一の文字。

 長い針によって隠されていた姿を完全に現した時、俺達が集合する時間となっていた。

 

 

 では何故それ以前から自分がここで時計とにらめっこしていたかと言えば、王道テンプレなとある会話をしてみたかったから。

 待ち合わせの相手がそんなテンプレを実行してくれるとも思えないが、一縷の望みに賭けて頭の中でトーク欄に文字を並べて立っていた。

 残念ながらその相手の姿は未だに見当たらないけれど。

 

 

 もしかしたら、俺がウォッチウォッチングしているのを邪魔しては悪いと気を配ってどこかで待ってくれているのかもしれない。

 なら話し掛けてくれればよかったのに。

 それとも昔の小説の様に、柱を挟んで反対側で待っている可能性もある。

 そんなドラマチックな展開を期待して背にしていた柱をグルリと五周ほどするも、姿も影も形も種も仕掛けも見当たらなかった。

 

 

 待ち人は来ず、俺は一人ただの不審者。

 流石に柱愛好家の人には見えないだろう。

 取り敢えず、咳をしておこうか。

 自由律俳句的なノリで周りを誤魔化す。

 

 

 もしかして迷子だろうか?

 変な人に着いてったりしてないだろうか?

 道に落ちてるものを食べたり着たりしてないだろうか?

 

 

 彼女が本当はしっかりしてる人だと理解していながらも不安になってくる。

 やはり家まで迎えに行くべきだったかもしれない。

 立場上難しい事ではあるけれど、背に腹は変えられないのだ。

 

 

「…警察に連絡するか」

 

 

「ポンジュ〜ス、誰かお探しかなー?」

 

 

 真後ろから掛けられた声に、俺は心を舞わせる。

 なんだ、心配して損したじゃないか。

 杞憂で済んでよかったけれど。

 

 

 視線と紫外線を同時に遮断出来る優秀な変装道具、通称帽子を被って背後に立つ彼女。

 透き通る様な金の髪を風に靡かせ、此方へ笑顔を向けている。

 その笑顔の理由の一割ぐらいは俺なら良いな等と考えながら、返事の代わりに此方も笑顔を返した。

 

 

 だから、一瞬。

 心が重くなる。

 綺麗で、強くて、優しくて。

 けれど…

 

 

 さて、言いたい事は色々あるけれど。

 取り敢えず先ずは彼女の危機管理能力と対応力をチェックしておかなければ。

 

 

「おっ、可愛いねお嬢ちゃん。ラインやってる?」

 

 

「わぁお、フレちゃんが超絶美少女だってー?ライブならやってるから来てねー」

 

 

 大丈夫そうだ。

 こんな返しが出来るなら、偽物という可能性も無い。

 フレデリカの真似なんて出来る人はそうそういると思えないけれど。

 

 

「よし、言い訳を聞こうか」

 

 

「ごめーん待ったー?今来たとこ」

 

 

 一人で完結させるな。

 折角俺も参加したかったのに。

 

 

 まぁ此処は寛大な心で許してやるとしよう。

 無駄に追求して攻め立てる時間があるなら、その分フレデリカと無駄話した方が有意義だ。

 …無の中に有を見つけ出す、か。

 なかなか哲学じみて面白い。

 

 

「さて、じゃあ行くか」

 

 

「それにしても人多いねー。あ、霊長類ヒト科だね!」

 

 

 確かに人は多い。

 休日にこう言った場所は、家族連もカップルも訪れる。

 そしてそんな場所で逸れてしまっては、再び落ち合うのに少なくない時間を浪費してしまうだろう。

 避けるべき事態に対し、今のうちから手を打っておくのが得策だ。

 

 

 だからこれは仕方がない事。

 そう自分に言い聞かせ、フレデリカに向かって腕を伸ばした。

 

 

「…空中腕相撲?フレちゃんけっこーパワフルだよ?パワフレデリカだよ?」

 

 

「そんな訳ないだろ。はぐれると面倒だからな」

 

 

「それじゃー遠慮なく」

 

 

 …若干心臓に悪い。

 相変わらず唐突に距離を詰めてくる女の子だ。

 

 

 隣に寄って腕を組んでくるフレデリカ。

 そこまでするつもりはなかったけれど、そのくらい思い切っていた方が周りの人にもバレないだろう。

 俺の心拍数が一瞬跳ね上がりそうになるが、それがバレると暫く笑い話にされるから何とか平常心を保つ。

 

 

「じゃ、エスコートよろしくー」

 

 

「任せろ、どっちが先に疲れるか勝負だ」

 

 

 勝てる気はしないけれど、それくらいの意気込みで。

 目的の場所まで数十メートル、カボチャの馬車に成り切ってやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁーお、すごーい!水槽きれーだねー」

 

 

「分厚いなコレ。シャチが体当たりしても問題なさそうだ」

 

 

 壁一面に埋め込まれたアクリルガラスの向こうには、水の世界が広がっていた。

 人類では呼吸すらままならない空間に、色とりどりの魚が泳いでいる。

 群れて、散って、また集まって。

 まるでその集団が一つの生き物かの様に、大量の魚が水槽いっぱいを飛び交う。

 まるで自由電子の様に動きの予想出来ないウチの一匹が、ガラス越しに目の前を通り過ぎていった。

 

 

「ねーねー、ガラスに美少女が写ってるよー」

 

 

「ほんとだ、見慣れすぎてて気付かなかった」

 

 

「バージェス生物群は何処かなー?」

 

 

「見た事ないから分からないけど、多分此処には居ないんじゃないかな」

 

 

 このフリーダムガールのよく分からない知識は一体何処から湧いてくるのだろう。

 次々と矢継早に継ぎ足されるトークに、それっぽい返しをするので精一杯。

 フンフンフフーンと鼻歌交じりに上機嫌なフレデリカお嬢様の付き人をキチンと務めるべく、考える事を諦めた。

 何も考えずインスピレーションで思い浮かべた単語を言っていれば何とかなる、筈。

 

 

「水族館なんて久し振りだな…」

 

 

「昔は住んでたのー?」

 

 

「以前来たのは高校の時って意味だよ」

 

 

 残念ながら俺は両生類でもなければ水族館でのバイト経験もない。

 と言うよりも何故そんな疑問に至ったのかが分からない。

 まぁ、自由気ままに泳ぐ魚に憧れた事が無いこともないけれど。

 どうせなら鳥になって空に行きたい。

 

 

「この歳でも案外楽しめるもんなんだな、水族館って」

 

 

「アタシと一緒だからねー」

 

 

「否定はしないよ。確かにそのお陰でもある」

 

 

 入り口で受け取ったパンフレットを捲りながら、オススメの順路をのんびり歩く。

 今更ながらだけど、腕組みながら歩くのは割と難しい。

 俺が慣れてないからだろうか。

 恋愛経験豊富なアドバイザーがいたら聞いてみたいとろこだ。

 

 

 そんな素振りを一片たりとも見せない隣のフレデリカは、そういった事に慣れているのだろうか。

 もしも現在進行形で大学にそんな相手がいるのだとしたら、申し訳ないけれどその相手に社会の恐ろしさを知って貰わなければならない。

 そんな架空上の生物に一人相撲を挑む情け無い面に気付かれない様に、テンションをフレデリ化して会話を弾ませる。

 

 

「生まれ変わったらホンソメワケベラになりたいなぁ」

 

 

「じゃーフレちゃんコンソメ木ベラがいいなー」

 

 

「じゃあ俺はカンヅメキメラだ」

 

 

 意味が無いどころか分からない会話と言うのは、やってみると案外面白いものだ。

 先日こんなノリでフレデリカと一時間潰した時は流石に焦ったけれど。

 

 

 大体半分程まわったところで、一つ大切な事を思い出した。

 フレデリカに伝えなければならない事がある、と言う事を。

 どのタイミングで切り出すかはまだ決まってないけれど、流れで何とかなると思っていた。

 案外ならなかったけれど。

 

 

 …今は、思いっきり楽しもう。

 夏休みの宿題は八月三十二日に終わらせればいい理論だ。

 面倒な事は後回し、難し事を考えていては楽しい事も楽しめない。

 

 

「浸透圧ってなーに?」

 

 

「分からない訳じゃないけどクラゲの説明文読んでくればいいんじゃないか?俺の説明より分かりやすいと思うし」

 

 

 分からない訳ではないが、楽しまなきゃ損だ。

 難しい事は全部水族館の設備に負担して貰おう。

 分からない訳ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は大体午後一時。

 

 

 水族館も現在見れる水槽は大方周り終え、少し足が疲れてきた。

 まだまだ若いと思いたかったけれど、普段からダンスをやっている十九歳について周るのは流石にしんどい。

 コレがもしショッピングだったら両手にさらなる負荷が掛かっていたと思うと冷や汗ものだ。

 水族館…素晴らしいスポットじゃないか。

 

 

「さて、と。そろそろお昼にするか」

 

 

「わぁお、プロデューサーって時間を操れたのー?」

 

 

「俺が操るまでもなく今は昼だよ。近くに良さげなレストランがあったから行ってみようかなって」

 

 

 一旦水族館を出て駅の方向へと向かう。

 目的地は待ち合わせ場所から直ぐ近くのレストラン。

 柱の周りをグルグル歩いている時に見付けたのだから、人生何が為になるか分からないものだ。

 もしかしたら、時計観察によってまた新たな発見があったかもしれないのだから。

 

 

「涼しくてよかったねー」

 

 

「むしろ、陽が出てないと寒くなってきたからなぁ」

 

 

 あっという間に到着。

 お昼時なだけあって少し混み合っていたが、待つ必要は無さそうだ。

 店員に何名様か聞かれた瞬間、もう直ぐ3人になりますなんて下らない冗談を言おうとしたけれど、世の中には許される冗談と許されない冗談があると思い留まった。

 流石にそれはフレデリカに対して失礼過ぎる。

 

 

 素直に二名様ですと伝え席に案内されれば、見晴らしの良い窓際のテーブルだった。

 目の前に広がる綺麗な海…真昼間からビールを頼みたくなる欲望を全力で抑え、取り敢えずでオレンジジュースを二つ頼む。

 メニューを置いて別のテーブルへと向かって行くウェイトレスさん、なかなか綺麗な女性だったなぁ。

 

 

 二十歳ぐらいだろうか、後で名刺でも…仕事…

 

 

「今日は超プライベートで楽しいなぁ!」

 

 

「フレちゃん時々プロデューサーのテンションが分からないなー」

 

 

 なんと、まるでフレデリカに対する俺の認識じゃないか。

 類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。

 姿形名前性別等は違えど、魂は同じ色をしてるのかもしれない。

 ところで魂に色なんてあるのだろうか?

 

 

「思い出したくない事が頭の片隅に浮かんできた時は、反対の事を叫んで誤魔化すもんなんだよ」

 

 

「プロデューサーってプロデュース業嫌いなの?」

 

 

「朝起きるのしんどい」

 

 

 社会人の素直な意見。

 仕事自体は嫌いどころか大好きだ。

 その点に関しては問題イナフ。

 問題イナフの無さそうでありそう感は凄い。

 

 

 ただやはり、最近涼しくなってきて布団を引っ張り出してから抜け出すのに時間が掛かるようになった。

 夏の冷房、秋の布団、冬のコタツ、春は曙。

 なんやかんやどの時期でも朝と言うのは辛いモノではあるが。

 恐らくその後に待ち受ける通勤ラッシュも、心の重さに一役買っていると思う。

 

 

「まぁそれはさておき、折角の休みだから一旦思考から追い出そうとな」

 

 

「…フーン…フーン…」

 

 

「なんだ、何かあったか?」

 

 

「フフーン!」

 

 

 なんだ、何時ものか。

 勘のいいフレデリカの事だから、もしかしたら何か感付いているかもしれないけれど。

 実は気の回る大人なフレデリカだからそこ、そこに突っ込んでは来ないだろう。

 

 

 それか…

 

 

「仕事で何かあったのー?」

 

 

「…ありがとう。言いやすくなったよ」

 

 

 ほんと、よく気の回る女の子だ。

 こうやって、気を使ってくれて。

 ちょっとでもそんな素振りを見せたら、どんなに話を逸らしても無駄だったか。

 

 

「…取り敢えず、何か頼もうか。ついでにビール飲みたい」

 

 

「だーめ、フレちゃんミルクオレがいいなー」

 

 

「じゃあ俺麦ジュースアルコール入りで」

 

 

「進まないし料理から決めよっかー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 料理はとても美味しかった。

 きっとアタシと食事してるからだよーなんてフザケデリカは笑っていたが、実際その通りだろう。

 緊張で喉を通らないなんて事もなく、楽しく美味しくご馳走になれた。

 窓際の席と言うのも相俟って、視覚聴覚味覚嗅覚の四つで贅沢な時を過ごせた気がする。

 

 

 結局ビールは頼ませて貰えなかった。

 元より本気で飲むつもりなんて微塵も素粒子程もなかったけれど。

 俺が注文する前にホットミルクにされたからなんて理由では無い。

 

 

 ある程度時間が経ったからか、店は入った時よりも静かになっていた。

 食後のコーヒーを片手に、二人でのんびり窓の外を眺める。

 とっても幸せな時間じゃないか、有給取って良かった。

 

 

「それでねー、文香ちゃんももっとグルメリポーターしてみたいんだってさー」

 

 

「鷺沢さんが、か…人間ってほんと見た目じゃ分からないな…」

 

 

 それに関しては、俺は多分誰よりもよく分かっている。

 いや、分からされたの方が正しいかもしれない。

 もっと正確には気付かされた、だけれども。

 

 

「来週は、一緒にパフェ食べにいこーねー?」

 

 

 他愛の無い会話。

 それがとても居心地良くて。

 ついついまた、フレデリカに甘えそうになってしまって。

 

 

 そんな自分を叩きつける様に。

 今度は自分から、切り出した。

 

 

「…少し、仕事の話をしていいか?」

 

 

「どーせなら日付が変わってからの方がいいかなー」

 

 

 フレデリカも夏休みの宿題は八月三十二日に片付けるタイプだったのだろうか。

 流石にそこまでは把握していなかった。

 そして、俺としてもこのまま一緒に駄弁っている方が魅力的ではあるけれど。

 

 

 …よし。

 

 

「まず、最初に…」

 

 

 大きく息を吸い込み、吐き出した。

 

 

「俺は、フレデリカのプロデューサーじゃいられなくなった」

 

 

「…海辺、歩きながらでいーい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に十月に差し掛かっているからか、太陽は既に水平線に吸い込まれ始めている。

 ざざん、ざざんと紅い波が足元まで詰め寄っては引いて。

 カモメの鳴き声は大きく、けれどきちんと伝わるように。

 改めて、言い直した。

 

 

「…そっかー」

 

 

 一呼吸おいてから、静かに。

 そう、フレデリカは返した。

 

 

「本当にすまない…二人三脚で、って約束。守れなくて…」

 

 

「カッコいいセリフだねー、そんな事今初めて言われたよ」

 

 

「…多分言ってなかった気がする」

 

 

 言ってなかったなら言わなければ良かった。

いや、人生で一度は言ってみたかった台詞だったからいいけれど。

 恥ずかしいったらありゃしないが、大体夕陽が誤魔化してくれるだろう。

 店にいたら即死だったけれど、何とか致命傷で済んだ。

 

 

 けれど、何故か。

 フレデリカの方が、笑顔なのに哀しそうな表情を浮かべいて。

 場違いなのは分かっていても、とても綺麗だ、と。

 

 

 心から、そう思った。

 

 

「フレデリカの負担が増える事はそんなに無い筈だから、安心してくれ」

 

 

 淡々と、坦々と続ける。

 伝えなければならない事が、まだあと二つ残っているのだ。

 

 

「…そっかー、残念だねー。折角トップアイドルのプロデューサーに成れるチャンスだったのに」

 

 

「…ん?まぁいいか、次なんだが…」

 

 

 これは、何方かと言えば良い話。

 特に難なく続けられる。

 

 

「フレデリカには、今後あるユニットとしても活動して貰う。メンバーは…後で、書類渡すから」

 

 

 絶対、上手くやっていける筈だ。

 ユニット名は、まだ決まっていないけれど。

 このユニットを提案したのは、他でも無い自分なんだから。

 上手くいかなかったら桜の木の下に埋めてくれても構わない。

 

 

「…プロデューサーが、企画したのー?じゃー頑張らないとねー」

 

 

「おう、頼りにしてるぞ」

 

 

「…あれー?」

 

 

 何だろう、微妙にだけれど会話が噛み合っていない気がする。

 人間は一人一人違うんだから完璧な意思の疎通は難しいだろうけれど、根本的なところで認識がズレてはいないだろうか?

 言葉が足りなかったとも思えないし…

 

 

 まぁ、置いておこう。

 そしてもう一つ、伝えなくてはならない事。

 今日一日、思い出す度に俺の心を締め付けた事。

 

 

 それは…

 

 

「来週のパフェ…結構前から行く予定だったよな、予約までしたし。申し訳ないけど、その日はユニットメンバーと俺で打ち合わせだから…」

 

 

「…プロデューサー、アタシのプロデューサーじゃなくなるって言ってなかったっけー?」

 

 

「あれ?もしかして専属って単語が抜けてたかな?」

 

 

「オッケーオッケー、フレちゃんちょっと走ってくるからプロデューサー先に泳いでてー」

 

 

 流石に今の時期この時間帯に海に入るのは…

 

 

 色々と言い返そうとしたけれど、理解の追い付いた俺は謝罪の言葉を叫びながら着の身着のまま海面へと飛び込んだ。

 願わくばクラゲに刺されない事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…申し訳ありませんでした」

 

 

 社会人最強の物理技、詰まる所の土下座を綺麗な夕陽バックに極めるプロデューサー。

 そんな情け無い姿を前に、フレデリカは笑っていた。

 

 

「別に大丈夫だって〜、それとも罵られて喜ぶタイプ?」

 

 

 ふざけて茶化すフレデリカ。

 けれど、俺は土下座を辞めない。

 冗談抜きで、冗談では済まない事をしてしまったと言う自覚がある。

 下手したら信頼関係が吹き飛んでいただろう。

 

 

 それにしても、哀しそうな表情のフレデリカも…

 あ、誰か俺を殴ってくれないだろうか。

 フレデリカには笑っていて貰いたい。

 それが一番似合うし、求めているモノだ。

 

 

「っくしょん!」

 

 

 流石に濡れた服で秋の海風は堪える。

 既に太陽は殆ど沈み、あたりに人は誰もいない。

 そもそもこの辺一帯は遊泳禁止だった。

 帰ったら風邪薬飲んでおこう。

 

 

「しょーがないなぁー…プロデューサーこのままじゃ風邪ひいちゃうねー」

 

 

「安心してくれ、事務所のドリンク飲めば治るから」

 

 

「濡れた服のまま電車なんてダメだよー?」

 

 

 ぐうの音も無い正論。

取り敢えずチョキと言っておこう。

 ところで実際、ロックとシザーとペーパーだったらペーパーがぶっちぎりで弱い気もする。

 いや、紙も束ねれば弾丸すら防げるし一概にそうとは言い切れないか。

 

 

 脱線した思考を元に戻すが、確かに勢いで服のまま飛び込んだはいいけどこれでは電車に乗れない。

 夏も終わり太陽も沈んだこの時間、終電までに自然乾燥する可能性はとても低そうだ。

 はぁ…手痛い出費だけどビジネスホテルにでも泊まるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねープロデューサー?アタシも服濡れちゃって困ってるんだー」

 

 

「…二部屋予約させて頂きます」

 

 

「一部屋でだいじょーぶ!」

 

 

「俺は野宿か…流石にしんどいぞ…」

 

 

「…プロデューサー?」

 

 

「…誰にも言うなよ?あと絶対なにもしないからするなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

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