シンデレラの日常   作:笠原さん

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世にも奇妙なあれ


地球に優しく人に厳しく

 

 

杏「テレビにDVD、パソコン、スマホ、ゲーム」

 

杏「杏達が便利でらくーな生活を送れるのって、電気のおかげだよね」

 

杏「だから人間は地球の色んな資源を利用して、電気を作ってるんだし」

 

杏「電気の無い生活なんて考えられないからね」

 

杏「でもさー、石炭とか石油とか、そーゆー資源って」

 

杏「いつか必ず、無くなるときがくるんだよね」

 

杏「そんな時、一番身近で数が多くて、これからも増やし続けられる、資源になりそうなものって」

 

杏「ねぇ、なんだと思う?」

 

「地球に優しく人に厳しく」

 

 

 

 

 

ある日突然、電気が消えた。

最初はブレーカーが落ちたのかな?って思ったよね。

だって部屋の電気が消えた時、一番最初に思い浮かぶのってブレーカーだし。

 

とことこ歩いてブレーカーを見たけど、ちゃんとオンになってる。

じゃあ停電かな?なんてツイッターを開いたら、TLは停電の会話で持ちきりだった。

あー、どっかにおっきな雷でもおちたのかな。

いやいやいや、全員が同じ地域に住んでる訳じゃないんだしありえないでしょ。

 

テレビをつけてニュースを見ようにも、電気が切れててつかない。

ニュースサイトはまだ更新してないし、しばらくはツイッターで情報を集めようかな。

停電の影響で、各地で交通事故が起きてるっぽい。

電車も止まっちゃってるみたいだし、今から帰宅しようとしてた人は大変だね。

杏は家で良かったよ。

 

暗い部屋の窓を開けて外を眺めても、町中が真っ暗だった。

月の光が不気味に明るく街を照らす。

まぁ1、2時間もすれば元に戻るでしょ。

そしたらまたいつも通りの日常だよ。

 

そう、この時は思っていた。

翌日、テレビを付ける時までは。

 

 

 

 

 

翌朝起きて冷蔵庫を開ければ、内側から冷たい空気が溢れ出した。

おー、やっぱり電気復旧したんだね。

なんてお茶を飲みながら、テレビを付ける。

ニュースを見て、昨日の停電の原因を知りたいから。

 

『地球の資源は、もう底を尽きかけている。それによって昨晩、日本中で大規模な停電がーー』

 

難しい話はおいておいて、電気の供給が追いつかず、なおかつもうエネルギー資源がなくなりかけているらしい。

なんで今までそんな重要な事を言ってこなかったのか文句の一つも言いたくなるけど、だからって何が出来る訳でもないね。

まぁこれからは計画停電とかでなんとかやりくりしてくのかな。

 

『よって、我々人類は新たな資源の確保と活用の為ーー』

 

なんて能天気にチャンネルを変えようとした瞬間。

とんでもない言葉が飛び出した。

 

『人類の存続を図る為、安定した生活を継続する為。新世代の燃料として、人間を活用してゆく』

 

 

 

 

事務所へ着くと、今朝のニュースの話題で皆混乱してた。

そりゃーそうだよね。

人間を資源として活用?は?意味わかんないし。

倫理的にどうなのさ、とかどうやって活用するのさ、とか色々あるけど。

まぁきっとそれに関しては、公表されてないブラックな技術があるんだろうね。

 

いやいやいや、だって人間だよ?

資源として活用って、完全に死ぬか眠り続けるやつじゃん。

普通はみんなそんなの御免だし、杏だって嫌だからね。

 

「杏ちゃん…あの、朝のニュース見た…?」

 

「見た見た、なんなんだろうねアレ。批判ばっかりだったし」

 

「お菓子じゃダメなのかな?」

 

「無理があると思うよ」

 

不安に飲まれそうなユニットの二人と話しながら、のんびり着替えてレッスンを受けた。

まだこの時は現実味がなさ過ぎたんだよね。

ありえなさ過ぎて、ついていけてなかった。

考えたくなかったからってのもあるけどね。

 

レッスンを終えて部屋に戻り、テレビをつけてニュースのチャンネルに合わせようとする。

そんな事しなくても、どのチャンネルもニュースしかやってなかった。

 

『まず資源として、犯罪者と高齢者からーー』

 

真面目にありえない話をされると、ほんとに頭に入ってこないね。

淡々とし過ぎてて、坦々と話されててむしろ怖いよ。

ニュースキャスターも、これほんとに読んでいいの?みたいな表情してるし。

まとめると、これからは人間を資源として発電等のエネルギーにしていく。

まずは、犯罪者と高齢者とホームレス、尽きたら次はニート等の働いていない人達。

 

もちろん、各地で批判やデモ活動はあったらしい。

けれどそれに参加していた人達は全員、行方不明になっているとか。

それはニュースからじゃなく、ツイッターで入手した情報だから正確性は確かじゃないし。

そして、そのツイートはもう消されているけど。

 

不穏な空気の中、落ち着かない雰囲気の中。

それでも、生活はいつも通りに続いていった。

 

 

 

 

 

それから2ヶ月。

街を歩いていても、全くお年寄りの人を見なくなった。

世界中で犯罪率は劇的に下がったらしい。

前は橋の下によくダンボールが敷いてあったりしたのに、それももうめっきり見なくなった。

公園のベンチでずっと寝ていた人達も見なくなった。

もちろん、いい意味ではなく。

 

帰ってゲームしよっかなーなんて思っていたあの頃が懐かしい。

今では、電気を使うのが怖くなってきた。

だって、この電気の燃料になってるのは…

頭を振って、嫌な事を思考の外に追い出す。

 

もう誰も、あの件についての報道はなくなっていた。

TLにも、その関連の呟きはあがらない。

暗黙の了解ってわけじゃなく、口に出して自分がそうなってしまうのが怖いから。

中世の魔女狩りじゃないけど、誰が何処で何を聞いてるかわからないからね。

 

なーんて家に帰って電気をつけようとして。

かち、かち。

…あれ?つかない。

 

ブレーカーが落ちたかな?停電かな?

そう思って、また。

2ヶ月前の夜の事を思い出した。

 

…まさか!

 

嫌な考えが頭をよぎった。

前回の停電の理由は、一瞬とはいえ資源が完全に尽きかけたから。

…今回も、同じ理由かもしれない。

だとしたら、次は。

 

どんな人が、資源にされちゃうんだろう。

 

 

 

 

翌日起きても、まだ電気は復旧してなかった。

仕方がないからのんびり歩いて事務所を目指す。

行き交う人々の顔には不安が溢れていて。

街全体が、恐怖に埋まっていた。

 

「おはよー、かな子ちゃん」

 

「あ…おはよう、杏ちゃん…」

 

「あれ?智絵里ちゃんは?」

 

「まだ来てないの…何時もだったら、もう来てておかしくないのに…」

 

昨日の停電のせいで、また怖くなっちゃったのかな。

直ぐに立ち直ってくれるといいんだけど…

なんて考えていると、事務所に電気が灯った。

 

「お、復旧したみたいだね。ニュース見よっか」

 

「そうだね、今は色々と情報を集めないと…」

 

ぴっ、と電源を入れる。

チャンネルを変えるまでもなくニュースをやっていた。

多分また、全番組ニュースなんじゃないかな。

 

『昨晩の時点で、犯罪者・ホームレス・高齢者のストックが尽きました』

 

「す、ストックなんて…みんな人間なのに」

 

「変な事は言わない方がいいよ。今は杏しかいないから大丈夫だけど、外だと誰が聞いて何言われるかわからないし」

 

なんて落ち着いた感じを装っているけれど。

内心、ものすごく不安になってた。

だって、一回尽きたのにまた電気がついたって事は…

 

『よって次は、ニート・無職者・そして労働意識の低い者となります』

 

…まずい!

智絵里ちゃんがこのニュースを見て早く事務所に来てくれるといいんだけど。

もし引きこもって外からの情報を遮断してしまっていた場合。

最悪の事態になりかねない。

 

智絵里ちゃんにラインや電話を飛ばすけど、既読はつかないし繋がらない。

プロデューサーに相談しておこう。

親御さんの方に連絡して貰って…親御さんがもう説得しようとしてる筈だよね。

杏達が今できるのは、いつも通りに働いて智絵里が戻ってきやすい環境を維持する事かな。

 

なんて考えていると、プロデューサーが現れた。

少し肩で息をしているところを見ると、走って探してたっぽい。

どうしたんだろ?

 

「杏…言いづらいんだけど、今後あんずのうたを歌うのは禁止だ」

 

「え?いやいやいや、なんで?持ち歌だよ?」

 

「あんずのうたの内容を思い出してみろ。今この状況で、働かないなんて歌を歌うのは自殺行為だ。下手したら観客ごと…」

 

…そうだ、あんずのうたは働きたくない人の歌。

そんなのをみんなの前で歌うなんて、不労働を促していると受け取られてもおかしくない。

そんな歌にコールなんていれられてしまうと、ファンの人達まで…

 

「…分かったよ、うん」

 

「悪いが、杏の為なんだ…」

 

 

 

 

 

結局それから、智絵里ちゃんが事務所に来る事はなかった。

なんど電話を掛けても、この電話番号は現在使われておりませんの通知しかない。

変なことを考えついちゃうのも嫌だから、もう考えるのはやめた。

きっといつか戻ってきてくれるよ、うん。

 

全国の色々なお店に、アルバイトの面接を求める電話が殺到したらしい。

各地では、自主的に節電をしている人や企業もあるとか。

おっきなビルの液晶パネルは、長らくついているのを見ていない。

電車の本数も、以前の半分以下になっていた。

 

自分が資源にされてしまうのを恐れ、自分が選定されてしまうのを少しでも伸ばすために、密告紛いの行為も横行している。

少しでも疲れたと言おうものなら、瞬時に通報されてしまう。

そのあと通報した人の姿を見た者もいないらしいけど。

 

駅前では宗教紛いの演説をしている人もいた。

何処からともなく現れた沢山のバスに乗せられ、直ぐさまいなくなってしまったけれど。

寒いのに暖房をつけているのを見られるとアウトな世界にまでなっちゃうなんて思わなかった。

おちおち外でスマホなんて使えない。

 

ライブは、一応開催しても大丈夫なものらしい。

疲弊した人達の心の癒しになるからーとかなんとか。

嬉しい事である筈なのに、全く楽しくない。

そりゃもう、持ち歌を歌うなだなんて、ね。

 

布団に包まって、TLを覗く。

呟くことはしないよ、何言われるかわからないからね。

TLを埋めるツイートは、以前の1割にも満たなくなっていて。

ほんとうに、つまらない世界になったなぁ。

 

 

 

 

翌日事務所に行くと、プロデューサーがソファに沈み込んでいた。

何か嫌な予感がする。

最近の雰囲気のせいですり減り切ってる心に、これ以上ダメージを受けたくないんだけどなぁ。

かと言って、聞かない訳にもいかないし。

 

「…どうしたの?プロデューサー」

 

「…かな子の親御さんから連絡があってな。夜中にひっそりとスイーツを作っていたら、隣の家の人に通報されたらしい」

 

「…ウソでしょ?」

 

「こんな事でウソをつける訳ないだろ…」

 

お互い、かなり疲れきってるみたいだね。

本来なら杏はもっと取り乱してただろーし、プロデューサーは怒鳴っててもおかしくなかった。

それよりも脳内には、今週末のライブどうしようなんて考えしかなくて。

それに気付いてしまった時、尚更悲しくなった。

 

 

 

 

 

トボトボ歩いて家に帰る。

なんだかもー、色々とどうでもよくなってきちゃったな。

何をしようにもしちゃダメ、したら通報みたいな世界で。

これからの人生、きっと楽しい事なんて残されてないだろうしね。

 

家のベッドでゴロンと転がり、スマホの写真フォルダを開く。

ユニットを組んだ頃の写真。

初めてのライブの写真。

アニバーサリーライブの写真。

 

どれもこれも、みんな笑顔で。

泣きそうだけど、とっても楽しそうで。

もう戻れないあの頃を思い浮かべていると、涙腺は仕事を放棄した。

 

…もう、いいよね。

だって、何もないんだし。

 

暖房をつけてテレビをつけて。

ゲームをセットしてコップにコーラと氷を入れて。

夜通し、ひたすら涙を流しながら遊んだ。

 

 

 

 

 

「…いいのか?杏」

 

「お願い、プロデューサー」

 

週末のライブ直前。

私はプロデューサーに、一つお願いをした。

正直断られると思ってたけど、プロデューサーは力強く頷いてくれて。

 

「杏はやるよ。杏は、歌うんだ。本当にごめんね、プロデューサー」

 

 

 

 

 

ステージが始まる。

会場には、サイリウムを両手に握りしめたファンのみんな。

持って来てくれる人は少ないだろうなって思って、事務所が用意したものだ。

 

照明の強さを、最大限まで上げて貰って。

泣きそうな気持ちを押し殺して、杏は叫んだ。

私達の、正義の為に。

全力で、ダッシュ。

 

「い、いやだっ!私は働かないぞっ!」

 

ザワザワと会場がざわめく。

一部の人から、怒号が飛ぶ。

でも、そんなの関係ない。

この歌は、自由の歌なんだから。

 

スタッフの人達がざわめく中、プロデューサーだけは多分笑ってくれている筈。

ひたすら叫ぶ。

涙を流しならが、それでも届ける。

やりたい事が出来ないなんで、やりたくない事しか出来ないなんて。

そんな人生、こっちが願い下げだ。

 

少しずつ、サイリウムが振られだす。

最初はなかったコールが、少しずつ入りだす。

途中で音楽が止まったが、そんなの関係ない。

 

「我々は絶対働かないぞー!」

 

「「「働かないぞー!!!」」」

 

会場と一体になって、声を上げる。

言いたい事を言って何が悪い。

願いを叫んで何が悪い。

ずっと心の底から求めてきたこの歌なんだ。

曲が流れない程度で、涙が流れてる程度で、私を止められる筈がない。

 

「働いたら、やっぱ負けだよねーー!!!!!」

 

うぉー!と言う歓声とともに、バタンと音を立てて会場のドアが開かれた。

黒い服を着た集団が、杏に向かって走ってくる。

でも、もう遅いよ。

杏は、歌いきったんだから。

 

「…とゆー夢を見たんだ」

 

あぁ、どうせなら。

本当に夢なら良かったのに。

 

 

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