シンデレラの日常   作:笠原さん

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白いパックマンをつけるお話


千川ちひろの角隠し

 

「似合ってますか?」

 

「とても似合ってますよ。俺じゃなければ騙されてるくらい綺麗です」

 

「お小遣い一ヶ月千円生活してみますか?」

 

「今日日小学生でももう少し貰ってますって…」

 

 待ち焦がれた、恋い焦がれたその日は、心配も杞憂に雲一つない快晴の空で迎えられました。

 着付けを終えてまず最初に披露したかった貴方からの言葉は、相も変わらず愛の感じられないもので。

 恥ずかしさを誤魔化しているって事くらい、分かってますからね?

 

「冗談ですって。ちひろさんみたいな綺麗な人が綺麗な白無垢を着るなんて、鬼に金棒ですね」

 

「褒めてますか?それ」

 

「そう言えば、その白いパックマンみたいな頭のやつって角隠しって言うらしいですよ」

 

「角隠し切れてないぞ?とでも言いたいんですか?」

 

 けれど、こんな軽口を叩き会える関係が、私にとってはとても心地よいものでした。

 私が大好きなこんな時間を、これからもずっと続けていけるのだと思うと。

 とても、嬉しくて。

 

「貴方もとても似合ってると思いますよ。着慣れないなぁっていうそんな表情も含めて」

 

「そりゃ人生で初めてですから…黒五つ紋付き袴なんて早口言葉みたいですよね」

 

「おやおや、緊張してますか?そんな貴方にはじゃん!お買得エナドリセット!」

 

「どう見ても一本なんですけど何がセットなんですか…それと、なんでエナドリ持ち歩いてるんですか」

 

「なんと今なら先着一名様に千川ちひろの人生プロデュース権を…すみません、ちょっと恥ずかしいので今のは無かった事に…」

 

「その…恥ずかしいこと言って自爆するのやめません?」

 

 ついついテンションが上がりすぎちゃいました…

 でもその代わりに、貴方の照れた顔が見れたのでオッケーです!

 部屋の隅で着付けを手伝ってくれた茄子さんが、とてもとても笑顔でこっちを見ているのが少し怖いですけど。

 

 エナドリを持ち歩いている理由ですか?

 だって、その…もしかしたら、この後貴方が必要になるかもしれないじゃないですか…

 詳細は言いませんよ?言いませんからね?

 だからその、ニヤけるのやめて貰っていいですか?

 

「それにしても、晴れて良かったですね」

 

「裏方の俺たちからしたら、人生で一度の晴れ舞台ですからね」

 

「人生で一度にさせて下さいね?」

 

「そこは信頼して下さいって。俺はちひろさん以外に靡いたりしませんから」

 

 …ニヤけてませんからね?

 さらっとそういう事が言えてしまうのは、貴方の良い所なのか悪い所なのか。

 勿論、信頼はしていますけれど、不安になってしまうのが女という面倒な生き物で。

 ついでに貴方にもっとそう言う言葉を言って貰いたいとか、そう言う理由じゃありませんから。

 

「…そうですか…どうですかね。若くて可愛い女の子に囲まれてますから、つい…なんて事に絶対やめて下さいよ?」

 

「プロデューサーとしての俺の熱意、ちひろさんなら分かってるでしょう?」

 

「それもそうでしたね。貴方はアイドルバカですから」

 

「アルパカ?」

 

「言ってません。唾をつけるなら私だけにして下さい」

 

 部屋を覗きに来たアイドルや関係者の方々が、私達の会話を見てため息をつきながら帰って行きました。

 すみません、私の花婿相手がこんな馬鹿で。

 

「あー…これから一生俺の収入が完全に把握されるんですね…」

 

「ふふっ、一生最大限まで搾り取らせて貰います」

 

 言ってから、何かのダブルミーニングに気付いて。

 お互い顔を赤らめて、目を逸らしました。

 学生ですか貴方たちは!…自分達の事ですけど。

 

「そう言えば、どうして和装なんですか?何か思い入れがあったりしたんですか?」

 

「いえ、以前貴方と初詣に行った時、浴衣姿が綺麗だって…その、言ってくれたじゃないですか…」

 

「あー…似合ってますよ、とっても」

 

「…遅いです、まったく…」

 

 はぁ…これだから朴念仁は。

 私が貴方からプロポーズの言葉を引き出すまでにどれだけ陰ながら、時には明らさまなアプローチをしたと思ってるんですか。

 最終的には貴方からの言葉でこの日を迎えられたから良いですけど。

 

「…それで、本当に私で良かったんですか?」

 

「当たり前じゃないですか。俺はちひろさんの事が大好きですし、こうなりたいって望んだんですから」

 

「あんなに他の子達からアプローチされていたのに?」

 

「…え、そうなんですか?でもまぁ仮にそうだとしても、俺は彼女達アイドルのプロデューサーでいたいですから」

 

 本当、けんもほろろの朴念仁ですね。

 でもそれだけ悪く言えば紋切り型の、良く言えば真摯な態度だからこそ皆が貴方に憧れたんだと思いますけれど。

 勿論、私もです。

 

「さて、そろそろ行きますか。貴方は何か言い残したい言葉はありますか?」

 

「そんな、俺が死ぬわけじゃないんですから…ん、でも結婚は人生の墓場って言うし…」

 

「冠婚葬祭の婚と葬を同時に行えるなんてお得ですよね」

 

「そう言うちひろさんの前向きで貪欲な考え方、俺は好きですよ」

 

 ふふっ、それに。

 それ以上に、お得どころか。

 人生で一番良い買い物をした、って思わせてみせますから。

 

「そう言えば、もう千川さんって呼ぶ事も無くなるんですね。初対面の時や喧嘩した時は呼んでましたけど」

 

「貴方の苗字はそのままなんですよね。まったく、一人で抱え込むなんて贅沢でズルいですよ。ですから…」

 

 その苗字を。

 

 私が、貰ってあげます。

 

 

 

 

 

 

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