シンデレラの日常   作:笠原さん

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あると思うんだ


創生は刻の壁を越えて

 

 

何もない世界が、視界いっぱいに広がっている。

#FFFFFFで表される空虚な色調は全てに染まれる可能性を持ち。

しかし未だ、そのコードは変わっていない。

単純に、純粋なままだ。

 

 

まるで、今のアタシみたいっスねー

 

 

渇いた笑みを浮かべてみるも、反応が返ってくる事はない。

当たり前だ、ここは自分一人の世界なのだから。

むしろ反応があったとしたらすぐさま通報すべきなのだろう。

無かったのだから全く問題ないが。

 

 

ブレた思考を一旦方向修正すべく、手元から少し離れたペットボトルのキャップを開ける。

甘ったるい、まるでジュースの様なコーヒー。

けれど既に、その容器は殆ど空となっていて。

自分が思っている以上に時間が経過していた事を叩きつけてくれた。

 

 

思考が全く安定しない。

コレでは思いつくものも思い付けない。

非常によろしくない状況に陥っている。

こんな時は、一度近くのコンビニにでも…

 

 

…先ほども、全く同じ事を考えていた様な気がする。

そうだ、数時間前に自分はコンビニへ行った。

そこでこの甘ったるいコーヒーを買ったのだから。

その時点で陽は完全に沈んでいたけれど、だとしたらもうすぐ日が変わってしまうだろう。

 

 

そして、その結果はどうだ?

果たして自分は、前へと進めただろうか?

真っ白な世界に、自分だけの色を塗る事は出来たか?

 

 

この時間の為に、どれだけ犠牲を払ったことか。

必死に動き漸く手にした僅かな日を、無駄にする訳にはいかない。

なんとしても、私は…

 

 

いけないいけない、こんなネガティヴになってしまっては。

これは、自分で選んだ道。

本来楽しく、やりたいからやる事。

まるで誰かに強制されているかの様に考えるのは全くもってナンセンスだ。

 

 

インスピレーションが欠如し始めた思考をなんとかリセットしないと。

ミューズの授けに、刹那の閃きに気付けない。

刻一刻と迫る刻限を脳内から消し去り、自分の世界を展開する。

まだ誰も到達した事の無い、新天地に。

私は、挑まなければならない。

 

 

けれど、磨耗仕切った思考回路は。

自身が思っている以上に、責務を果たしてくれなかった。

少しずつ、少しずつ。

現代人がふとした拍子にスマートフォンで通知を確認してしまう様に。

アタシの意識は、彼方と此方の反復横とびを始めた。

 

 

…あぁ…このまま、この時がずっと続けばいいんスけど…

 

 

朦朧とした世界から、完全なる夢の世界へ。

意識を手放そうとした。

その、一歩手前で。

 

 

ぶーん、ぶーん。

スマートフォンが震え、何かを伝えようとしていた。

 

 

トリップしていた思考をなんとか引きずり戻し、飛びつく様にホームボタンを押し指紋認証を終える。

赤い数字が浮かび上がっていたのは、水色の地に白い鳥が羽ばたくコミュニケーションアプリ。

人々が自由を謳歌する、現実とはかけ離れた世界。

ゆっくりと、その窓を開けた。

 

 

なんとか、仕上がりまし!

 

 

自分宛てのメッセージに、知り合いは歓喜の叫びを綴っていた。

余程興奮、又は疲弊していたのだろう。

誤字に気付かず送信してしまうとは。

 

 

送り主は、私と目的を共に歩んでいた仲間。

かつて、必ず成し遂げると約束し。

半年後にまた逢おうと契りを交わした。

そんな、戦友。

 

 

フッ…どうやらアタシは、見失ってたみたいっスね

 

 

自分の愚かさに気付き、再び剣を取り直した。

自分が行き詰り、進めないでいる最中。

仲間は必死に突き進んでいたと言うのに。

 

 

やるべき事は、もうはっきりしている。

視界、思考もオールクリアー。

今なら一瞬の天啓を余す事なく、自分のモノに出来る気がする。

 

 

その前に、一旦情報を集める。

自分とその仲間以外の者達が、どの様なアートを創生しているのか。

幸い、今開いているアプリケーションを駆使すれば容易い事だ。

 

 

おー…わぁお、すごいっスね…

あっ!この人今回新作出すんスか。

あっはっは、面白いSS発見っスよ!

 

 

精神的にはとても有意義に時間を浪費し。

気が付けば、太陽が再び地を照らす時刻となっていた。

 

 

けれど、慌てない。

もう恐れはないから。

多分疲れ切って正常な思考が出来ていないからだけれど。

 

 

『今日の午前レッスン、体調不良で休むっス』

 

 

その文章を、果たして発信できていただろうか?

曖昧なまま自分の記憶はワープしていて。

だから。

 

 

恐らく発信源はプロデューサーであろうスマートフォンの振動に、けれど反応する事なく。

前日の自分を恨みながら、ひたすらにペンを動かした。

 

 

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