臨海咲SS置き場   作:タコピー

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高校編十話

咲「今日向かってるところって……長野なんですか?」

 

「そうだよ。先方のお屋敷があるからね」

 

咲「そうですか……」

 

「咲ちゃんの古巣……だったよね。実家の方に挨拶していく?」

 

咲「いえ、お気になさらず。父も仕事だと思いますし」

 

「休日出勤かあー……その単語聞くだけで憂鬱になっちゃうな」

 

咲「ふふ、父の場合はむしろ喜んで出勤してますね」

 

「ええ!? ……仕事人間なの?」

 

咲「そこまで極端な人ではないんですけど、今の仕事が好きなみたいです」

 

「そっかー。その気持ちはわかるなあ☆」

 

咲「お仕事、やっぱり好きなんですね」

 

「うん。この仕事に憧れて……ずっと目指してきたからね」

 

咲「そうなんですか……」

 

咲「羨ましいです。……私には、好きなものってまだわからなくて」

 

「まだまだこれからだよ……っていうのも無責任かな」

 

「ゆっくり見つけていけばいいんだよ。咲ちゃんは今青春の真っ盛りなんだから☆」

 

「好きな人、なんかでもいいんだよ。恋するパワーは人でもモノでも関係ないんだから☆」

 

「仕事でも、ね……☆」

 

咲「すごく……ためになります。やっぱりはやりさんって素敵な人です」

 

はやり「はややっ☆」

 

はやり「咲ちゃんはほんといい子に育ってるね……お姉さん感動しちゃった☆」

 

はやり「ところで学校の方はよかったの? 七月の三連休といえば集中して練習があるだろうけど」

 

咲「構いません。きっとこちらの方が実りがありますから」

 

はやり「ふんふん……そう言い切られちゃ期待に応えずにはいられないね☆」

 

はやり「っていっても、今日のメインははやりじゃないからあっち次第だけど」

 

咲「……」

 

咲「龍門渕の天江衣さん……強いんですか?」

 

はやり(お、咲ちゃんのスイッチが入ったね☆)

 

はやり(……麻雀しようとするときはがらりと変わるんだよね。まるですこやんみたーーやめておこうこれ以上は)

 

はやり「強いよ。今の咲ちゃんじゃちょっと厳しいかも」

 

咲「そうですか……」

 

はやり「恐くなった?」

 

咲「いいえ」

 

咲「そんな人を叩きのめしてこそ……意味があります」

 

はやり「ーーーーーー」ゾクッ

 

はやり(正直なところ……咲ちゃんと天江さんの実力差は未知数)

 

はやり(ある条件を満たさなければ……たぶん、咲ちゃんが勝つ)

 

はやり(でも今夜は……わからない)

 

咲「龍門渕は……決勝で負けたんでしたっけ」

 

はやり「そうだね。清澄ってところが勝ったよ」

 

はやり「でも、あくまで搦め手で天江さんを避けた上での勝利……実質、長野で一番強い個人は天江さんといってもいいと思う」

 

咲「清澄は……初出場でしたね」

 

はやり「はやっ? そっちに興味おありだったか☆」

 

はやり「うーん、といっても……咲ちゃんが満足するほどの選手は……」

 

はやり「一年生でレギュラーに抜擢された有望株が三人いるのは脅威的だけど、現時点では……って評価かな☆」

 

はやり(あれ、そういえば決勝戦の映像みたときに咲ちゃんに呼びかけてた選手はたしか清澄の……)

 

はやり「清澄の原村和ちゃんって咲ちゃんの知り合い? 去年のインターミドル個人戦のチャンプだったけど」

 

咲「原村和……さん」

 

咲「いえ知らない人です。個人戦には出なかったので」

 

はやり(向こうはめちゃくちゃ知ってるぽかったけどねえ……あちゃあ☆)

 

はやり「ま、そんな事もあるかな☆」

 

はやり「何はとまれ、龍門渕邸へとレッツゴー☆」

 

 

 

ネリー「夏だっ! 合宿だっ! お泊まりだーっ!」

 

明華「ーーーー」

 

ネリー「日本の夏ってこんなにむし暑いんだね。ほら、もう汗ばんできた」

 

ハオ「ーーーー」

 

ネリー「これは合宿所にあるっていう温泉で洗い流さないとね! あっ、せっかくだから洗いっこしてみたいな!」

 

ダヴァン「ーーーー」

 

ネリー「咲ってば照れ屋だからお風呂いっしょしたことなかったんだよね。今日は本当に楽しみだなあ」

 

明華「……ネリー、現実を見ましょう」

 

ネリー「え、なに? ミョンファもいっしょに入りたいのーしかたないなー」

 

ハオ「だめだこりゃ……」

 

ダヴァン「……アワれすぎてカップラーメンを食べる気にもなれまセン」

 

ネリー「もうーみんなテンション低いよ! お泊まりあり温泉あり旅館宿での合宿なんだからノってこうよ!」

 

ネリー「ネリーしってるよ、ツアーバスの中では歌うものだって」

 

ネリー「~~~~♪」

 

智葉「さっきからうるせェぞネリー!!」

 

ネリー「ぴいっ!?」

 

智葉「子どもみたいに駄々をこねるな。ツアーバスのスタッフさんに迷惑だろうが」

 

ネリー「で、でもサトハ……お泊まりにサキがいないんだよ? ネリーたちは何をしにいくの?」

 

智葉「部活の合宿」

 

ネリー「そんなのわかってるよ! でもサキがいないとはじまらないでしょ!?」

 

智葉「そりゃお前だけだ。この機に咲離れするんだな」

 

ネリー「やだーやだーサキがいないお泊まりなんてやーだー!」じたばた

 

智葉「……重症だな。おい明華、そいつ脇に除けとけ」

 

明華「ネリー、少し休みましょう。

 ーーハアッ!」

 

ネリー「うぐっ」

 

明華「サトハ、寝かせておきました」

 

智葉「ご苦労。相変わらず良い技の冴えだ」

 

ダヴァン「((((;゜Д゜)))」

 

ハオ「どうなってんだ……今のなんだよ……」

 

智葉「ま、咲がサボるのは意外だったな」

 

明華「咲さんは練習に皆勤でしたからね。私も欠席するとは思いませんでした」

 

智葉「ふん……体調を崩したわけじゃあるまい。この時期に体調管理を怠る奴じゃない」

 

明華「信用してるんですね、咲さんの事」

 

智葉「……まあな」

 

智葉「先鋒を任せられるのはあいつしかいないよ」

 

明華「智葉……」

 

智葉「同情するなよ? そんな言葉が欲しい訳じゃない」

 

智葉「今年に懸けてたのはあいつも私も一緒。つまらん横槍は入ったが……まあ、思ったほどショックじゃない」

 

明華「私たちは優勝しますよ」

 

智葉「期待してる」

 

ネリー「うわあーーんっ! サキがいないよーーーーっ!!」

 

智葉「ちっ」

 

明華「おや。もう意識を取り戻しましたか」

 

ネリー「ううっううう……ばん"べサ"キ"い"な"い"の"お"おおお」

 

明華「寝かせますか?」

 

智葉「……」

 

ネリー「う"っ……ううぅぅぅ……」

 

智葉「放っとけ。スタッフさんには迷惑だろうが、後でお詫びしておく」

 

明華「智葉もなんだかんだネリーに甘いですね」

 

智葉「ふん……私だって多少残念には思ってるんだ。気持ちは分からなくもない」

 

明華「ふふっ……同感です」

 

 

 

衣「トーカ、今日はやけに騒がしいな」

 

透華「大切なお客様が来るのですわ。食事などの準備をさせているのです」

 

衣「ほう、客人か。何処の者を迎えるか露と知らぬが、ハギヨシをあれほど駆け回らすのだ。余程大事な客人なのだろう」

 

透華「ふふ、もう言ってもいいかしら。実は衣を訪ねてくるお客様なのですわ」

 

衣「真か? 衣にはとんと見当がつかない」

 

透華「訪ねてくるのは宮永咲という私達の一つ下の娘です」

 

衣「っ!」

 

衣「そうか……トーカでかした。今衣が希求する最も魅力的な相手だ」

 

衣「しかし彼の者はトウキョウにいると聞いた。どのようにして招いたのだ?」

 

透華「さるプロ雀士から打診があったのですわ。衣の胸を借りたい、と」

 

衣「成程な……願ってもない申し出だ」

 

 口角をつり上げて衣が不敵な笑みを浮かべたとき、入り口の扉が遠慮がちに叩かれる。

 

透華「どなたですの?」

 

ハギヨシ「私でございます、お嬢様」

 

透華「入りなさい」

 

 流れるような動作で年若い黒髪の男が入ってくる。

 優雅な佇まいで透華と衣の前に傅くと、用件を口頭で話す。

 

ハギヨシ「瑞原様がお見えになりました」

 

透華「案内なさい」

 

ハギヨシ「はっ」

 

衣「ついに見えるかミヤナガサキ……」

 

透華「……」

 

衣「金剛不壊にできているといいのだけど」

 

衣「あまりに期待外れなようなら壊してしまうかもしれない」

 

衣「ノノカ達の手前、それは避けたいが……」

 

衣「そこまでの凡愚であれば致し方なし。拉ぎ折るのみ」

 

衣「自ら挑みにきたのだ、闕望させてくれるなよ」

 

 

 

 屋敷の敷地に踏み入った瞬間、咲は感覚で理解していた。

 

咲(とんでもない人がいる……まるで昔のお姉ちゃんみたい……)

 

 びりびりと感じる。強者だけが発する威圧。咲が咲であるために必要なもの。

 

咲(しかも底がみえない……ゾクゾクするよ……)

 

 咲も先ほどから無理に抑えるのをやめて身から威圧的な雰囲気を醸している。

 完全に解き放ったわけではないが、十分に真剣といえるレヴェルだ。そもそも本当の意味で力を出し切るのはまだ先で、今はそのときではない。

 顔を上げる。見上げた屋敷の佇まいはそうそうたるもので、麻雀とは別の意味で世界が違うなと冷や汗を垂らした。

 

はやり「はやや……ヤル気十分だね」

 

はやり「今日は観戦に徹するから目一杯楽しんで☆」

 

 頷く。話していると黒い髪をした執事のような出で立ちの男が音もなくこちらに歩いてくる。

 

ハギヨシ「お待ちしておりました、瑞原様、宮永様。ご案内致します」

 

 先導する彼の後を歩いて屋敷の中へと入っていく。

 外も見事な造りだったが、中も輪をかけて豪奢だ。調度品など幾らかかっているか想像もつかない。

 ハギヨシと名乗る男性に案内されたのは、屋敷の一室である重厚な扉の前だった。

 

ハギヨシ「お入りください。透華様と衣様がお待ちになっています」

 

 勧めに応じて扉の取っ手に手をかけ、押して開いていく。

 重厚な扉に見合う音を立て開いていく扉の先に、彼女たちはいた。

 

透華「お待ちしていましたわ。龍門渕透華です。どうぞこちらに」

 

 いかにもお嬢様然とした少女だ。アホ毛が特徴的な彼女に勧められるまま席につきながら、咲は、彼女の隣で視線を送ってくる小さな女の子に意識を鷲掴みにされていた。

 

衣「天江衣だ。本日は遠路はるばるよく来てくれた」

 

衣「ミヤナガサキ……噂はかねがね。心待ちにしていたぞ」

 

衣「莫逆の友になるか贄か供御となるか……しっかり見極めさせてもらおう」

 

 清純そうな見かけに反して不遜な物言いをする子だ。

 しかしその言動に見合った力を、彼女は確かに持っている。

 ひしひしと感じる威圧的な空気から咲は自ずと理解していた。

 

咲「お招きいただき感謝します天江さん。今日は一緒に楽しみましょう」

 

衣「衣でいい。少なくともノノカ達の認める打ち手ではありそうだ。楽にしてほしい」

 

咲「衣ちゃん、よろしくね」

 

衣「ちゃん!?」

 

 変な声を上げて固まる衣。

 表情にはありありと戸惑いの色が現れていた。

 

衣「いや待て。どうして天江さんから衣ちゃんになる。砕けすぎではないか」

 

咲「衣さんというのはなんだか違和感があって……あの、失礼ですけど本当に歳上なんですか?」

 

衣「衣はれっきとした高校二年生だ! 日本には制度がないから飛び級でもない!」

 

咲「……うーん。すみません……」

 

衣「そ、そう謝られると衣が悪い気がしてくるではないか」

 

衣「なあトーカ、衣は悪くないよね?」

 

透華「宮永さん、あまり衣をからかわないでくださいまし」

 

咲「うぅ……ごめんなさい……」

 

透華「あら……わざとではないんですのね」

 

透華「衣、宮永さんの反応も致し方のないものかもしれません。許してやりなさいな」

 

衣「いやおかしくないか!? 衣はそんな反応をされて当然の存在なのか!?」

 

透華「多少自覚があった方がよいですわ。正しい自己評価はあった方がよいに決まってるのですわー!」

 

 「おーっほっほっほっ!」と高笑いする透華はどこまでもステレオタイプなお嬢様だった。

 

衣「衣……何か悪いことしたかな……」

 

咲「あ、あのごめんなさい! でもとても可愛らしいと思います」

 

 「可愛らしい……子ども扱いではないか。ぐすん」と肩を落としてしまう。

 どうすればいいんだろう。咲にはフォローの仕方が思い浮かばなかった。

 

はやり「はや~☆」

 

はやり「まあまあ二人とも、今日は麻雀をしにきたんだよ」

 

透華「そ、そうですわ衣! 今日は麻雀を楽しみなさいっ」

 

 保護者二人に勧められて麻雀をするための部屋へと移動する。

 

純「おっ、やっときたぜ」

 

一「ずいぶん遅かったね。話が弾んでた?」

 

透華「そ、そんなところですわ! おっほっほ!」

 

 雀卓が中央に置かれた部屋には三人の先客がおり、咲たちを待っていたようだった。

 

透華「智紀、牌譜をお願いします」

 

 眼鏡をかけた少女がこくんと頷く。

 

透華「ささ、おかけになってください」

 

 席につく。

 

透華「面子は……純と私からいきましょう」

 

純「げっ、俺からかよ」

 

 軽い愚痴を挟みながらも席に座っていった。

 

透華「さあ始めますわよ。衣、機嫌を直しなさい」

 

衣「うう……ぐすん」

 

 若干ぐだりつつも龍門渕邸での麻雀が始まった。

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