臨海咲SS置き場   作:タコピー

19 / 36
高校編十六話

 

智葉「調子が悪い?」

 

 抽選会に残った智葉たちと明華、咲が合流し、開会式に向かう途中。体調不良を訴えた咲に智葉が聞き返す。

 

咲「はい……お手洗いにいったんですけど……よくならなくて」

 

智葉「そうだったのか」

 

 申し訳なさげな咲の話に相づちを打つ智葉。その表情に心配する色が宿る。

 

智葉「しかし……困ったな。大会の期間中逗留する宿に戻るにも、誰かつかなければならないか」

 

 咲の迷子体質は厄介だ。知らない場所では必ずと言っていいほど迷うし、心がけてどうにかできるのは予防策くらい。

 

 ほとほと手を焼く智葉の引率者としての苦労は想像に難くなかった。自然と咲の身も縮こまる。

 

ダヴァン「道理で朝から辛そうな顔してたんデスカ。サキ、ダイジョウブ?」

 

咲「あ……、はい、その……休めば……大丈夫だと思います」

 

智葉「とりあえず大事にならないならよかった。実際に打つのもまだ先の話だしな」

 

智葉「体調を崩した理由に心当りはあるか?」

 

 体調管理は徹底しなければならない。特にこの時期となればもってのほかだ。

 

 智葉の問いに答えあぐねた咲が視線を落とす。

 

咲「それなんですけど……」

 

 咲は智葉に近づいていくと耳打ちした。二人以外に聞き取れない小さな声。納得したように智葉は何度か首を浅く振り、不安そうな咲を見返す。

 

智葉「……なるほどな。それなら……まあ仕方ない、か」

 

 智葉の流し目が皆をざっと見渡していく。そんな視線がふとネリーで止まると、牽制するように険しさを帯びた。

 

智葉「例によって誰かについてもらわないといけないな」

 

智葉「開会式の後、記者の取材もある。留学生は……まずいか」

 

 開会式の後には、各校に取材する時間が設けられている。留学生にとって取材の持つ意味は他校とまた毛色が変わってくる。迂闊に外させる訳にもいかなかった。

 

智葉「仕方ない。私がいこう」

 

咲「えっ……あの、それって大丈夫なんですか?」

 

 咲は目をしばたたかせ、恐々と智葉を見つめた。

 

智葉「大丈夫じゃないがこうなるといけるのは私になる。引率はメグと明華でやってもらう」

 

 「いいな?」と確認する智葉にダヴァンと明華がうなずく。

 

智葉「ハオもサポートしてやってくれ。……一人、手を焼きそうなのがいるからな」

 

 苦笑を零しながらハオもうなずいた。

 

ネリー「サ、サトハ……」

 

智葉「あの話の返事は後にしてくれ。悪いが出かける」

 

智葉「さあいくか」

 

咲「え……本当に先輩が……?」

 

 心中の狼狽を示すように咲の視線がさ迷い、揺れる。時折ネリーの方にも視線は流れ、目が合ったそばから逃れていた。

 

智葉「そんな冗談わざわざ口にしない。留学生にいかせる訳にもいかないしな」

 

咲「……えっと……、だったら私一人で……」

 

智葉「いかせる訳ないだろ。もういい、強制だ」

 

 痺れを切らした智葉が逃げ腰な咲の手を掴み、すかさず会場の外へ引っ張っていく。開会式に向かう道半ばの廊下。残る留学生たちの間には、喉につっかえた小骨を気にするような空気が漂っていた。

 

 

 

 

咲「せ、先輩っ、待って」

 

智葉「ああ悪い。さすがに早すぎたか。すまん」

 

咲「いえ、急がなきゃならないのはわかってるので…すみませんいきましょう」

 

智葉「ああ。そう言ってくれると助かる」

 

智葉「とはいえ咲の運動神経がぷっつり切れてるのも考慮して…こんなとこか」

 

咲「そ、それくらいならなんとかついてけそうです」

 

スタスタ

 

智葉「会場は何事もなく出られそうだ…というのも大げさか」

 

咲「迷惑のかけ通しで面目ないです…」

 

智葉「気にするな。といっても難しいだろうが、あまり気負う必要はないぞ」

 

智葉「さて会場も出られた事だし、ここからはタクシーで…ん?」

 

咲「あ…」

 

部下「ご無沙汰しておりますお嬢様」ペコ

 

智葉「黒スーツ…知り合いか?」ヒソ

 

咲「その…母の部下の方…みたいです」

 

部下「みたいとは寂しいですね」

 

咲「す、すみませんっ、長く勤めてる方だとは…わかってるんですけど」

 

部下「……」

 

咲「あ、あとお嬢様って呼ぶのは…」

 

部下「承知しました咲様」

 

咲「う…」

 

智葉「それで…どういう用件かお聞きしても?」

 

部下「はい、お忙しいところ失礼しました。咲様をお迎えに上がりました」

咲「…え?」

 

智葉「お迎え?」

 

部下「咲様のお母様はこうなる事を見越していましたので」

 

部下「部の方の手を煩わせないようにと私を遣わしたのです」

 

智葉「…なるほど」

 

部下「それでは後はお任せ下さい。責任を持って送り届けます」

 

智葉「送り届ける先はわかっているんですか?」

 

部下「宿泊先は把握しております。文京区の旅館ですね」

 

部下「ですが…此方が把握しているという事はご存じなのでは?」

 

智葉「……」

 

咲「…あの…」

 

部下「失礼しました。それではご一緒させて下さい」

 

咲「……」チラ

 

智葉「あ、ああ。咲がよければこの人に任せよう」

 

智葉「咲の反応からすると身分は確かなようだしな」

 

咲「…はい。それじゃあの…ここまですみませんでした」ペコリ

 

智葉「何かあれば連絡してくれ」

 

智葉「では…ここからお願いします」

 

スタスタ…

 

部下「出発しましょうか。彼方に車を停めてあります」

 

咲「…はい」

 

 

 

運転中の車内

 

部下「暫く見ないうちに随分と大きくなられましたね」

 

部下「何年ぶりでしょうか。お綺麗になりました」

 

咲「……」

 

部下「社交辞令ではございませんよ?髪も照様に似てたおやかな…」

 

ピクッ

 

咲「お姉ちゃんとは…よく会うんですか?」

 

部下「顔を合わせる機会はあまりございません。普段の送迎などは断られていますので」

 

咲「そうですか…」

 

 

部下「それでは私はこれで」

 

咲「はい。ありがとうございました」

 

部下「…本当であれば部屋の前までお供させて頂きたいのですが」

 

咲「あ、あの、本当に大丈夫なので。ここまでくれば」

 

部下「承知しました。一応、私の連絡先を渡しておきます。何かあれば」

 

咲「わかりました。えっと、それじゃ」ペコッ

 

タッタッタッタッ

 

部下「…奥様の仰る通りか」

 

 

 

咲「ふう…」パタン

 

咲「……」

 

咲「びっくりした…なんで…」

 

prrrrrr…

 

咲「わっ、…電話?お父さんからだ」

 

…………………………ピッ

 

咲「もしもし」

 

界『もしもし。今大丈夫だったか?』

 

咲「うん」

 

界『知ってると思うが、仕事で今東京に出てるからメシでもどうかと思ってな』

 

咲「私は大丈夫だけど…仕事の方は大丈夫なの?」

 

界『ああ。じゃなきゃ誘いなんてかけるかよ』

 

咲「そ、そうだね」

 

咲「……」アセアセ

 

界『はあ。まあーた気遣ってんのか。大丈夫だっての』

 

咲「…だけど…」

 

界『ふう、誰に似ちまったんだろうなあまったく』

 

界『細かいところは違っても、あの子にそっくりだよ…お前は』

 

咲「あ…」

 

界『うん?どうした?』

 

咲「な、なんでもない」

 

界『…なあ咲、この機会に言っとくがあれはもう気に病むな』

 

咲「…うん」

 

界『お前のせいじゃないんだ』

 

咲「……」

 

界『…また電話する。勿論かけてきてもいいからな』

 

プツッ…ツーツー

 

咲「……」

 

布団バタン

 

咲「…私のせいじゃないなんて…思えないよ」

 

咲「……ごめん…なさい…」

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。