臨海咲SS置き場   作:タコピー

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中学編二話

 

 

部長「今日からインターミドルの予選が始まる。全力でぶつかっていけ。抑えるべきところは指示を出す」

 

部長「気合いを入れていくぞ!」

 

 

 

 

クラスメイト「二回戦が終わって全試合ほぼ完封。咲ちゃんもいつも通りプラマイゼロにできてるし完勝って感じだね!」

 

咲「うちの先輩たちほど強くないからそんなに難しくなかったよ」

 

クラスメイト「さすがー。咲ちゃんがいると安心して大将に回せるって先輩たちも話してたよ」

 

クラスメイト「わたしたちの分まで頼んだ!」

 

咲「あはは……」

 

(出られなかった人たちの思いも背負ってるんだよね)

 

(あんまり期待されちゃうと怖いな……)

 

 三回戦、準決勝と順当に勝ち上がり、決勝戦に駒が進む。

 咲の所属する中学はベスト4に残る事もめずらしくないらしく、試合の行方を見守る観客の反応はそこまで大きくなかったが、優勝に足をかけているだけあり部員たちの意気は軒昂していた。

 

部員「ここまで来たね」

 

部員「うん」

 

部員「優勝に王手、といいたいところだけど次が鬼門」

 

部員「強豪が集うここで競り負けてってことが多いけど……今年こそ!」

 

部員「全国、行きたいね」

 

部員「明日は勝つ!」

 

 

 

クラスメイト「咲ちゃん、緊張してる?」

 

咲「し、してる」

 

クラスメイト「……しないわけないよね。ただでさえ初大会なんだもん」

 

咲「……」

 

クラスメイト「咲ちゃん、ちょっといい? 話があるんだ」

 

 

 

 

クラスメイト「わたしね、本当は咲ちゃんに嫉妬してた」

 

クラスメイト「同じ一年生なのに、わたしとはどう比べたらいいかわからないくらい凄くて、あっさりレギュラーにも選ばれちゃった」

 

クラスメイト「少しずつ、少しずつ上手くなっていって、視界が広がっていくうちに、咲ちゃんのやってる事が途方もない積み重ねで成り立ってる事がわかってくる……」

 

クラスメイト「ショックだった。幾ら頑張っても咲ちゃんには永遠に追いつけないんじゃないかと思えて、やめちゃえば辛い練習もしなくて済むんじゃないかって」

 

 咲ちゃんに追いつく事だけが麻雀の全てじゃないのにね、と自嘲気味に笑う。

 咲は、胸が張り裂けそうだった。

 不快にさせるのみならず、自分の麻雀が友達から麻雀を奪おうとしていた現実に何よりも恐怖した。

 

クラスメイト「一方的に話しちゃってごめんね」

 

 これ以上咲には本心を隠したくなかった、と打ち明ける彼女。

 そんな告白を咲は上のそらで聞いていた。

 

『咲っ! どうしてわざと負けたの!?』

 

『咲、あなた達姉妹の才能は凄まじいものよ。だから小さいうちから真剣な勝負をして勘を磨かなければいけないの』

 

『……家族麻雀は辛いか? 咲がやめたいと言うんなら俺から……』

 

 色んな光景が脳裏を駆け巡って咲の心を締めつける。

 目も耳も、働く事を拒む様に機能を停止する中、恐怖と後悔だけで意識が塗りつぶされていく。

 

 やっぱり私は麻雀を打つべきじゃなかったんだ。

 力になりたい、支えたいなんて思っておきながら、やったのは自分だけレギュラーに選ばれ、プラマイゼロで力の差を見せつけただけ。

 あまつさえ、離れていた麻雀に触れる機会を得た事に懐かしんで、自分だけ楽しんで。

 

クラスメイト『咲ちゃん、昔はよく打ってたんだよね』

 

咲『うん。家族の中だけの麻雀だけど』

 

咲『嫌な事があって、やめちゃったんだ』

 

クラスメイト『麻雀が好きだったんだね』

 

クラスメイト『いや、きっと今でも』

 

咲『え?』

 

クラスメイト『牌に触れてる咲ちゃん、時々うっすら笑ってるよ』

 

クラスメイト『そんなときの咲ちゃんって凄く綺麗に見える』

 

クラスメイト『わたし、思うんだ』

 

クラスメイト『もし麻雀の神様がいるとしたらきっと、好きになるのは咲ちゃんみたいなーー』

 

 気づけば二人で話していた学校の裏手にある河原を抜けて、校門近くの道に出ていた。

 舗装された地面を踏みしめ、しょう然と立ち尽くしていると、校門の方から聞こえてきた声を耳が拾った。

 

部員「いよいよ明日だね」

 

部員「うん」

 

部員「明日は勝たないと……知ってる? 来年からうちの部の予算や待遇が見直されるかもしれないって話」

 

部員「上級生なら皆聞いてると思うよ。……麻雀部の実績が疑問視されてるんでしょ」

 

部員「長野の中学県大会はそこまで激戦区って訳じゃない。ベスト4には残っても、中々優勝にこぎ着けられないし、ここ最近はベスト8止まりの年も出てきた」

 

部員「私らが不甲斐ないのが原因だけどさ……そのツケを、これから入ってくる後輩に背負わせちゃいけないよね」

 

部員「かつては全国に出場して華々しい成績を残した部の栄誉に泥は塗れない」

 

部長「お前たち。気持ちはわかるが、あまり意識しすぎるな。誰もがそのプレッシャーを共有してバネにできる訳じゃないんだ」

 

部員「でも部長! あの一年の子を抜擢したのだってそこを考慮しての事でしょう?」

 

部員「学年のくびきに囚われてちゃ実績はおぼつかない……あんなふざけた打ち方をされても、あの子を認めたのは実績を示す一助になる。そう思っているからこそですよ」

 

部員「最後の大会出場をふいにした子もいる。あの子には役に立ってもらわないと……」

 

部長「……今のは、絶対に宮永に言うんじゃないぞ。宮永も我々の後輩だ。ツケを背負わせてはいけない相手には、あの子だって含まれてる」

 

部員「そ、それはそうですけど……」

 

 

 

 

咲「そっか……そうだったんだ」

 

 咲は、余す事なくその会話を耳にしていた。

 自分の知らないところでかけられていた期待、奇異な打ち方をする自分がすんなり受け入れられた理由。

 私には望まれた役割があるんだ。

 誰にも嫌な思いをさせて、傷つけてばかりの自分の麻雀にも、誰かのためにできる事がある。それは、咲にはとても素晴らしい事に思えた。

 

咲「私がしたい事も、皆に望まれている事も……同じだったんだ」

 

 ようやく気づけた。

 

『ーー咲。お前もその花のように、強くーー』

 

 強く、誰よりも、強く。

 私はそのために麻雀をする。

 長いあいだ思い悩んできた問いの答えが、咲の心を沸き立たせていた。

 

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