臨海咲SS置き場   作:タコピー

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高校編十九話※加筆あり、ラストの切り方修正しました

 

旅館 講習室

 

ネリー「あーっ!めんどくさい!」

 

智葉「あと一息だ。頑張れ」

 

ネリー「スポンサーをもてなすための企画作りとか…そんなのネリーの仕事じゃないよー」

 

智葉「だから雑用と言ったろう。嫌なら出なきゃいい」

 

ネリー「出たいからこうしてあくせく働いてるんだよ!ぷんぷん」

 

智葉「怒るな怒るな。あとで飴ちゃんやるから」

 

ネリー「いらないよっ!」

 

 

ネリー「おわったー」

 

智葉「やればできるな。いい仕事じゃないか」

 

ネリー「ふふーん、こういうのは経験上得意だからね」

 

ネリー「相手をいい気にさせるくらいわけないよ。ふんす」

 

智葉「…コメントに困るな」

 

智葉「とまれかくまれ、これで明日の座談会は準備万端だ」

 

智葉「知りたいこと、うまく引き出してこいよ」

 

ネリー「もちろん!」

 

ネリー「そのためにこんな雑用したんだしね」

 

ネリー「元はとらせてもらうよ!」

 

智葉「当日は私もいく。出来る限りのフォローはするよ」

 

ネリー「サトハ…ありがとね!」

 

智葉「ふん…一回戦を踏まえた分析もある。私はここらで失礼する」

 

智葉「ちゃんと寝ておけよ。おやすみ」

 

ガラッ…パタン

 

ネリー「明日…座談会の当日か」

 

ネリー「ミヤナガって人は…本当にサキのお母さん…なのかな」

 

ネリー「……」

 

ネリー「まあどうするかは、明日会ってみて決めよう!」

 

ネリー(サキのこと…ちょっとでも知りたい)

 

 

 

 

 

 

 インターハイ本選。各校が団体戦の一回戦を終え、二回戦を明日に控えた夜。

 

 ネリーたち臨海の選手が宿泊する旅館とは別のところで座談会が催されようとしていた。

 

 都心にほど近い立地。風情ある佇まいを現代に残す旅館。

 

 枯淡の趣。その表現が正鵠を射る雅な建築物だった。

 

ネリー「わー、すごいとこだね」

 

智葉「ああ……私たちが泊まる旅館も相当なものだが、ここはそれを凌ぐな」

 

 玄関を通り、石畳の玄関口で靴を脱いでロビーに抜ける。大きなガラス窓の向こう、中庭に広がる美しい枯山水に感嘆の息を漏らしながら、智葉とネリーは旅館の廊下を進んでいく。数名の日本人部員を伴いつつ。

 

 枯山水にある赤砂との調和は、素人目にも玄妙な味わいを理解させた。ネリーらの聞いた話が正しければ、日本でも指折りの老舗旅館だそうだ。

 

智葉「有形文化財にもなっているそうだ」

 

ネリー「ほえー。すごすぎてもうよくわかんないよ」

 

 座談会を開く講習室への道すがら、軽く会話を交えつつ歩いていく。ほどなくして講習室の前に一行が並ぶ。

 

智葉「さてネリー。入る前に一つ言っておく事がある」

 

ネリー「え?」

 

智葉「何があっても激昂はするな。相手にしているのが誰かよく考えろ」

 

 困惑するネリーをよそに講習室の戸が開いていく。

 

 その向こうから、形容し難い緊張が伝わってくるのをネリーは感じた。

 

スポンサーA「やあ。来たかね」

 

智葉「この度は我々に心を砕いて下さり感謝いたします。割いて頂いた時間を無駄にしないよう努めて参ります」

 

スポンサーB「うむ。あまり気負わずとも大丈夫だ。楽にしなさい」

 

スポンサーC「立ち話もなんだ。君たちも座りたまえ」

 

智葉「はい、失礼いたします」

 

 きびきびと振る舞う智葉が他のメンバーを誘導し、席につかせていく。引き締まった空気。ネリーはまだしも、日本人部員は智葉を除き皆呑まれてしまっていた。

 

 ネリーとて平静という訳ではなく、緊張に身を固くする。

 

スポンサーA「さて、早速本題に入りたいのだが」

 

スポンサーC「うむ……」

 

 上座に座す出資者たちの視線がネリーに集まる。明らかに疑念や困惑を含んだ目つき。

 

スポンサーB「彼女は留学生ではなかったか?」

 

スポンサーA「ああ、確かサカルトヴェロの……どうしてここにいるんだね」

 

智葉「私が連れて参りました。当人が是非出席したいと希望しましたので」

 

スポンサーC「ふうむ、本人が望むのなら構わないのだがね……恐らく」

 

 その時、出資者たちの視線が一方に集中する。その先に座す赤い髪の女性、セミロングほどの独特な癖のついた髪の彼女が鋭い眼光を飛ばし、周囲を睥睨した。

 

「私も構いません。留学生の意見を聞けるのなら、寧ろ歓迎すべき事柄でしょう」

 

スポンサーB「おお。それなら問題ありませんな」

 

スポンサーA「時間をとらせて悪かったね。是非参加していってほしい」

 

智葉「ありがとうございます」

 

 淀みなく返答する智葉に脇を小突かれ、ネリーも応える。

 

ネリー「あっ、ありがとう、ございます!」

 

 怪しい敬語にじろりと智葉に睨まれたが、幸い出資者たちの機嫌は損ねなかったようだ。にこにことした笑みを浮かべている。

 

スポンサーC「それでは本題に入ろうか。まずーーーー」

 

智葉「はい。ーーーー」

 

スポンサーA「ふうむ。ーーーー」

 

スポンサーB「ーーーー」

 

 座談会は円滑に進み、スポンサーへのもてなしもまずまずの成果を出した頃、赤い髪の女性が纏めに入る。

 

「そうね。基本的には今回の運用モデルをベースに、状況に応じて対応していく形でいきましょう」

 

「団体における日本人の選手枠は一名。個人では留学生を使えない以上、この形で問題ないでしょう」

 

 出資者たちがいち早くその考えに頷く。赤い髪の女性が主導権を握る事に些かの不満もないかのような追従。とはいえ、ネリーの目にも問題らしい問題は見つからない。これは合理的な結論なのだろうとネリーは思った。

 

 しかし智葉はどこか悔しそうな顔をしている。どうしたのだろうか。不思議に思っていると、智葉は不承不承な色を僅かに醸しつつも承諾の意を伝えた。

 

スポンサーB「さて……長い時間付き合わせて悪かったね」

 

スポンサーC「明日から君たちの出番もある。早めに帰って休みなさい」

 

スポンサーA「それでは失礼するよ。……宮永さん、お先に失礼します」

 

 次々と部屋をあとにしていく出資者たち。それを終始緊張した面持ちで見つめる付き添いの日本人部員。智葉の指示で日本人部員たちも帰されていくと。

 

 講習室には、智葉とネリー、そして赤い髪の女性が残った。

 

「あら……貴女たちは帰らないの?」

 

智葉「野暮用が残っていまして……ネリー」

 

ネリー「うえっ?」

 

 また脇を小突かれて、ネリーは変な声を出してしまう。

 

 しかしすぐに目的を思いだし、質問を投げかけた。

 

ネリー「あの、あなたはサキ……じゃなかった、宮永咲のお母さんですか?」

 

 あまり使う機会のない敬語におかしな訛りを含みながら尋ねる。

 

 果たして返答はすんなり返ってきた。

 

「咲は私の娘だけど……それが訊きたかったのかしら?」

 

ネリー「あ、う……いや、その」

 

 しまった。ネリーは焦る。

 

 母親なのか娘なのかばかり気になって、そこからどう質問を繋げるか失念していた。

 

 隣にいる智葉も憮然としている。ネリーは焦った。

 

「そうね。貴女たちが聞きたいのはこんなとこじゃないかしら」

 

「私が咲に娘としての愛情を注いでいるかどうか」

 

「少なくとも辻垣内さん、貴女はそうでしょう?」

 

智葉「……ええ、そんなところです」

 

 憮然とした智葉が一転、厳しい面持ちで冷や汗を垂らす。

 

 ネリーはいまいち話が飲み込めなかった。

 

「なら問題はない。私は咲に愛情を注いでいる。この世の誰よりもね」

 

智葉「ならどうして……一緒に暮らさないのはどうしてですか?」

 

「照が嫌がるのよ。知っているでしょう? あの子の姉」

 

智葉「……」

 

 あの子の姉? 照? それって……。

 

 ネリーは困惑する。宮永……照。それは日本のインハイチャンプの名前だ。それが咲の姉? ネリーの知らない話だった。

 

「あと夫もね……咲の教育に関して意見が衝突している。力ずくで咲を手元に置く事も出来るけど、それは最後の手段。今はその時ではない、という事」

 

 ネリーの遠く及ばないところで話が飛び交っている。さながら空中戦を地上から眺めている心地。ネリーは話を半分も理解出来ていない自信があった。

 

智葉「……」

 

「私が気になるのはどちらかというとそちらの……ネリーという子なのだけど」

 

ネリー「え? ネリー?」

 

「咲とは随分親密な付き合いをしているそうね。登下校から教室と部室の送り迎え、部活の時間、臨海から斡旋されたアパートでも隣部屋……男女なら懇ろと言われても違和感がないくらい」

 

ネリー「……え、えーっと」

 

「咲の事は好いている? 友人として貴女が無二の存在となるのであれば、私としても否やはないのだけど」

 

ネリー「え? うん??」

 

「少し迂遠だったかしら……親友となってくれる事を期待しているの」

 

 親友。雑多な言葉に混乱する頭でもその意味は即座に理解できた。咲の親友! ネリーとて望むところだ。

 

ネリー「うん! じゃなかった、はい! ネリーもサキの親友になりたい、です!」

 

 あまりに拙すぎる敬語に智葉が憮然を通り越して刺すように睨んできていたが、ネリーには目の前の女性とのやり取りに夢中で意識を素通りしていた。

 

 赤い髪の女性、咲の母はそんなネリーに微笑を浮かべ眺めていたが、眼差しを鋭くすると苦言を呈した。

 

「でもね、今のままじゃそれは不可能」

 

ネリー「……え?」

 

 ネリーは瞠目し、自失した。

 

 ネリーとサキが親友になるのは不可能? どうして?

 

「あの子は貴女に心を開いていない。理由は三つある」

 

 愕然とするネリーを尻目に赤い髪の女性は滔々と語り出す。

 

「第一に、あの子は貴女に過去、特に家族について語らない。中学時代のちょっとした思い出程度なら話しただろうけど」

 

 その時、ネリーの脳裏に浮かんだのは、母親と電話していた咲の姿。

 

 あの時、ネリーは咲の事を何にも知らないと自覚した。以前中学時代の話を電車で耳にして。あれから家族について話す機会は何度かあった。

 

 けれど、咲は家族の事については一貫してはぐらかした。その事が、ネリーの中で徐々に大きな凝りとなりつつあった事を、薄々自覚していた。

 

 その事実を改めて意識すると、ネリーの心に不安がにじみ出す。

 

「そして、あの子は貴女に対して遠慮している。嫌だと思った事を口にしない。自分の気持ちに蓋をし、後ろめたい心を隠しながら……貴女と付き合い続けようとしている。これからも、ずっと」

 

 「そんな関係から親友と呼べる信頼は生まれない」そう言い切る赤い髪の女性。

 

 ネリーは困惑した。どうして断言できるのか。自分と咲の関係を逐一観察しているかのような言い草。もしそうだとしても、そこまで言われる筋合いはないし、そこに蓋然性もないはずだ。

 

 しかし、不吉な言葉がもたらす不安を抱えながらも、紡ぎ出される言葉には到底無視できない、不可解な引力があった。

 

「嫌な事も……全く話さないという訳ではない。多少は話すでしょう。でもそこが限界。家族の事、語られるべき本心、貴女に打ち明けられた事は何一つない」

 

ネリー「そ、そんなことない! 確かに……サキは家族のこと何にも教えてくれなかったけど、嫌なことはちゃんと嫌っていってくれるよ!」

 

 反論するネリーの姿を赤い髪の女性が冷ややかに見つめる。無知な子供を憐れむような瞳。矢のごとく鋭いそれに射抜かれ、思わずネリーはたじろぐ。

 

「敬語。忘れてるけどいいわ、そのままで。それより……知っていた?」

 

 一拍置いて、続ける。

 

「咲はね、魚にトラウマがあるの。口にするものくらいなら大した抵抗はないけど」

 

「身につけるようなものは別。辛い思い出が蘇って相当なストレスを与える」

 

 そこまで聞いて既にネリーの頭には痛烈な閃きが到来していた。魚。身につけるようなもの。顔色が崩れ、真っ青になっていくのがわかる。

 

「もうわかったかしら? 貴女が咲にプレゼントした魚を模したキーホルダー。あれは最悪のチョイスだった」

 

 半ば悟っていた事実を容赦なく突きつけられたネリーは、慄然とその場に居竦んだ。

 




修正前:座談会→ネリーがその場で回想場面を思い返す→座談会の続き

修正後:座談会シーン終了→回想場面→インハイ二回戦当日

説明わかりにくいかもしれませんがこんな感じに流れを変えました。混乱させてしまったらすみません…。
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