臨海咲SS置き場   作:たこっぴ

4 / 36
今決めてる原作との大まかな変更点

・咲さん臨海女子に
・インターハイのトーナメント表で臨海女子と白糸台の位置入れ替え

(以上までがコピー元サイトでの補足)

※原作設定と食い違う部分が多々出てくると思います。補足が遅れてすみません。(12/7)


高校編 咲「誰よりも強く。それが、私が麻雀をする理由だよ」
高校編一話 ※12/7、補足追加しました


 朝。夜明けと共に寝床を抜け出し、咲は雀卓に向かい合って正座する。

 瞑目した目蓋の裏に焼きついた勝利のイメージ。

 様々な思いが去来する咲の脳裏をよぎるのは、想像できる最大の強敵の姿。宮永照。

 咲は確かな手応えを感じていた。牌譜を取り寄せ、生の映像をその目に焼きつけた姉のイメージに狂いはない。

 たとえ力を隠し持っていたとしても、咲には対処できる自信があった。

 

「うわあーっ! しまったーーっ!!」

 

 しかし、完璧に思われたイメージは、薄い壁越しに漏れ聞こえてくる大声で瞬く間に雲散霧消した。

 

咲「……はあ」

 

 脱力する。越して間もない新居、それも軽い欠陥住宅の疑いがある場所で、やるべきではなかったか。

 でもピンポイントに邪魔されるとは思わなかった。

 やるせなさを盛大なしかめっ面に変えて、咲はスリッパを履き隣部屋に駆け足で向かった。

 

咲「朝からなんて声出してるんですか。近所迷惑です!」

 

 一喝する咲の声に「うわーうわー」と延々叫んでいた声がぴたりと止む。

 一拍おいて、部屋の主が扉からぴょこんと顔をだした。

 

「ご、ごめんなさい。あんまりにもあんまりだったものだから」

 

咲「あ……」

 

 思わず息を呑んだのは、その住人が明らかに異邦の空気を纏っていたから。

 小柄な体躯。青みがかった瞳。民族衣装を彷彿とさせる独特な衣服。

 控えめにこちらを窺う姿に毒気を抜かれてしまう。

 

「というか隣に人住んでたんだね。いや最近引っ越してきたの? まあいいや」

 

「ネリー・ヴィルサラーゼ。サカルトヴェロの留学生だよ」

 

 サカルトヴェロ。聞き慣れない名前に首を傾げそうになるのを堪えて、名乗り返す。

 

咲「宮永咲です。えーと、よろしくお願いします」

 

ネリー「よろしくー」

 

 砕けた物言いに緊張を弱めて咲はうっすらと笑みを浮かべる。

 

ネリー「あ、さっき騒いでたのはね、お金の勘定を間違えてたから」

 

ネリー「知り合いが途方に暮れてたから即席ラーメンを売ってあげたんだけど」

 

ネリー「値上げする前の価格しか受け取ってなかったんだよね」

 

咲「はあ」

 

ネリー「まあそれはきっちり差額を徴収するからいいんだよ」

 

ネリー「それより!」

 

ネリー「サキの名前どこかで聞いた気がするなー。いつだっけ?」

 

咲「サキ……」

 

ネリー「あ、名前で呼んじゃダメだった?」

 

咲「い、いえ。外国の人なら名前で呼ぶのが自然ですし。たぶん」

 

咲「さ、咲でよろしくお願いします」

 

 何故だかわからないうちにお辞儀していた咲は奇妙な感覚に包まれていた。

 なんで私、こんなあたふたしてるんだろう。

 

ネリー「お、おおー……おおう」

 

ネリー「今のヨメイリってやつだよね。はじめてみたよ」

 

咲「なんでですか! って、調子が狂うなぁもう」

 

咲「とにかく、これからよろしくお願いしますね。お隣同士仲良くしましょう」

 

ネリー「うん! 仲良くやろう!」

 

 差し出されたネリーの手に一呼吸遅れて反応する。

 本当に、ぐいぐい来る子だなぁ……。

 握りしめた手のひらに返ってくる柔らかな感触に、咲の胸はひとつ脈を打った。

 

 

 

咲「よし、っと。準備できた」

 

 ネリーとの会話から暫くして。登校の準備を終えると、咲は忘れものがないか入念に確認した。

 そして。

 

咲「強い私。何にも屈せず負ける事のない私」

 

 鏡台と向かい合って、決まりきった文言を唱える。

 イメージする。

 強く、何者にも負けない自分の姿を。

 毎日こうするだけで、驚くほど効果を実感する自分がいた。

 

咲「いってきます」

 

 誰にともなくつぶやいて部屋を後にする。

 神棚の上には、幼い姉妹と両親が映る写真が額縁に入れて飾られていた。

 

 

 

 臨海女子の学舎へと電車で向かう傍ら、咲は車内に立って雑誌を広げる。

 ウィークリー麻雀トゥデイ。数多くの打ち手について情報を教えてくれるが、咲の興味はただ一点、インターハイチャンピオンに関する記事だ。

 

咲「やっぱり麻雀をやってた……お姉ちゃん……」

 

 懐かしげに目を細めたそのとき、不意に車体が揺れ、がくんとした衝撃が咲を襲う。

 

咲「う、わわっ……」

 

 危うく転びかけ、体勢を大きく崩しながらも何とか立て直す。

 しかし思いの外慣性の力がしぶとい。いつの間にか、目の前にいた人物に抱きつくような形でその胴に腕を回してしまう。

 

 肩甲骨に届く長さの髪が、度重なる荒々しい挙動にぱさりと揺れる。

 

咲「あ、ああうあえあっ」

 

「ング? オオーウ」

 

「ニホンの電車にハ可愛い女の子が抱きついてくれるサービスまであるんデスね。ワンダホー」

 

 少女に抱きつかれるのを喜ぶ発言にまさか男性かと顔を青くする咲だったが、声の質と抱きついた腕に伝わる感触が女性的な柔らかさを帯びていた事で安堵した。

 胴に回していた腕を離し、自分より頭一つ分は高い位置にある相手の顔を見やる。

 朝にひと悶着あったネリー同様、彼女もまた日本人離れした外見をしていた。

 

 ま、また外人さん。

 重なる異国の人間との遭遇に東京が世界で有数の国際都市である事を意識させられる。

 せめてもの救いは、今のところ日本語を話せる人種に限られていた事か。

 お世辞にも英語が堪能といえない咲にとって、ぎょう幸だった。

 そして今目の前にいる彼女は、海外のトップモデルさながらのスレンダーな美人。

 咲が憧れる女性の姿のひとつだ。

 

「ハフッ、ハフッハフッ」

 

 電車の車内でカップ麺片手に奮闘していなければ。

 

咲「あ、あの私が言うのもなんですが……危なくないんですか?」

 

 ネリーほどのとっつきやすさはないが、それでも圧迫されるような印象でない事も手伝い、比較的咲は物怖じせず話しかけられた。

 

「イエス。モーマンタイ。アメリカの人間嘘つきマセン」

 

 国籍が不安になる発言だったが、どうしてか周りには彼女と自分しかいないし、そう目も当てられない事態にはならない気がした。

 もっといえば、麻雀にも発揮される第六感が咎めたところで無駄と半ば悟ってしまっている。

 

「ここはいい場所デス。ニホンの列車は朝になるとオニのように混みマスが、ここなら安心してムゲンを堪能できマス」

 

咲「はあ」

 

「ところでお嬢サン、貴女もお一ついかがデスカ?」

 

咲「いいんですか?」

 

「ロンオブモチ。ラーメンのムゲンの前に、ヒトは等しく平等デス」

 

 鞄からカップ麺をとりだし、事もなげに勧めてくる彼女に面食らうも、咲にはどうしてかそれが自然な流れに感じた。

 この人の不思議な雰囲気のせいかなぁ……。

 これも一種の人徳かと感心していた咲だったが、生憎朝は食べない性癖だ。固辞する。

 

咲「お気持ちは嬉しいんですが、朝は食べないのが習慣になっていて食欲が湧かないんです」

 

「オオーウ。このメガン・ダヴァン、ラーメンの布教に失敗するとは一生の不覚……」

 

 身ぶりを交え大仰に嘆く彼女の姿にふふっ、と笑いが漏れる。面白い人だと思った。

 

咲「ところで臨海女子の制服を着ているってことは、同じ学校の方なんですね」

 

「そういうお嬢サンは麻雀の雑誌など手に持って、私と同じく麻雀に携わる者ではないデスか?」

 

咲「はい。新入生なんですけど、麻雀部でお世話になろうと思ってます」

 

「グレイト!」

 

 長身の彼女が上げた喝采に咲はあっけにとられる。

 言葉を声にして返す間もなく、反応する間もなく、咲のものより少し大きな手が咲のそれを包み込んだ。

 

「私はメガン・ダヴァン。臨海女子の留学生で三年デス」

 

咲「み、宮永咲です……どうもご丁寧に」

 

ダヴァン「ミヤナガ、サキ……知っていまス……ニホンのジュニア大会で勇名を馳せタ」

 

咲「中学生大会ですけどね。でも知っていてもらえて光栄です」

 

ダヴァン「そうとわかれば早速いきマショウ、我が麻雀部に!」

 

咲「まず授業がありますよ」

 

 

 

 電車が臨海女子の学舎付近までダヴァンと咲を滞りなく運んでくれ、学年の違うダヴァンとは校舎で分かれる。

 

咲「ふう、朝から大変だよ」

 

 真新しく見える教室に到着し一息つく。迷子癖が発揮されず助かった。仮にしていたら初日から遅刻だ。

 それにしても、早朝のひと悶着に始まり、朝から濃密な時間を過ごしている気がしてならない。

 

担任「みんなー席につけ。出席をとるぞ」

 

 一日は、まだまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 昼過ぎ。

 初登校とあって早めに切り上がった就業はいまや放課後。

 校舎の至るところから生徒を吐き出して活気に包まれている。

 元来人ごみが苦手な咲だが、今日は日が日だけに足早に麻雀部へと向かっていた。

 

 道中、マントマ○オよろしく、日傘を差した女の子がぷかぷかと空に浮かんで麻雀部に向かうのを目撃したが、咲は無視した。

 疲れで幻覚をみているのだと言い聞かせる。

 

 そんなものはどうでもよかった。

 

 咲は一度目を閉じ、深く息を吸う。

 朝から続くごたごたで生じた雑念がすうっと消えていく。

 東京での新生活、学校生活、エトセトラ。

 全ては枝葉末節。咲にとって重要なものは、そんな座興の中にない。

 麻雀。それだけが目的であり、望みであり、かけがえのないもの。

 それ以外のものなんて幾らでも代えが効く。

 麻雀以外いらない。

 それが、偽りのない咲の本心だった。

 

 小動物然とした普段の雰囲気が消え去る。

 鳴動。

 瞳の中に灯る冷やかな火が、臨海女子麻雀部の部室棟を稲光のごとく打ち据えた。

 

 

 

 麻雀部の扉をくぐり抜ける。

 その瞬間、既に世界は変わっていた。

 

 大勢の部員、その中で異色を放つ四人の留学生らしき生徒の姿。

 麻雀部監督アレクサンドラ。

 そして。

 

智葉「待ちかねたぞ宮永咲」

 

 昨年インターハイ個人戦三位。臨海女子三年、辻垣内智葉。

 

咲「約束をした覚えはありませんけど」

 

智葉「当然だ。お前のような奴がうちに来ているなど、ついさっきまで知りもしなかったからな」

 

咲「なら、その高圧的なしゃべり方やめてくれませんか。不愉快です」

 

 智葉と咲の間に火花が散る。

 一触即発で爆発しかねない雰囲気に、しかし水を差したのは、のんきな声だった。

 

ネリー「あっ、サキー!」

 

 それに面食らったのは智葉だ。

 まるで出鼻を挫かれたかと言わんばかりに舌を打つと、般若の形相でネリーをねめつけた。

 

智葉「ネリー。今私は大事な話をしてたんだ。お前はそれを邪魔した。分かるな?」

 

 こくこくと声もなく首を頷かせるネリー。

 

咲「別にいいじゃないですか。私、ちょうど今朝彼女と知り合ったばかりなんです」

 

ダヴァン「オオーウ! 知り合ったといえば、誰かを忘れていマセンカ?」

 

智葉「ダヴァン。二度目はない」

 

ダヴァン「はい」

 

智葉「さて、用件を聞こうか」

 

 一瞬で置物となったダヴァンを一瞥し、智葉は咲に向き直る。

 

咲「あれ? クラスから届いていませんか。入部届けを提出したはずなんですけど」

 

智葉「生憎、意思は直に聞くタチだ」

 

咲「でしたら」

 

 咲はにっこりと笑った。

 怖気すら与える温度のない笑みだった。

 

咲「臨海女子一年、宮永咲。入部を希望すると同時に、団体戦先鋒のレギュラーオーダーを希望します」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。