臨海咲SS置き場   作:タコピー

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高校編六話

 

 

 宴もたけなわ。盛り上がる皆をぼうっと眺めながら、咲はカラオケボックスで用意された唐揚げをつまむ。

 

ネリー「サキどうかした?」

 

咲「ううん。何もないよ」

 

 予選は優勝。次鋒のハオであっさりトビ終了し、あっけない幕切れとなった。

 予選は通過点でしかなく、もはやそれは咲の眼中になかった。咲の心中を占めるのは、個人戦、そして個人戦で当たるだろう先輩の事だけ。

 

ネリー「うーんそう? あ、次ネリーの番だって。いってくるね!」

 

 順番だと伝えられマイクを手に駆けていくネリー。

 

ダヴァン「サトハはどんな歌が好きなんデスか?」

 

智葉「歌か。演歌をよく聴くな」

 

 気にしている人物の声が聞こえて、咲は耳をそばだてる。

 演歌が好きなんだ。

 容易に想像できる趣味に咲が微笑を零していると、

 

ネリー「どれが理想ってやつなんだ♪ 彼が理想ってやつなんか? 答えてよデジタ~ルモグラ~♪」

 

智葉「あれはサカルトヴェロの歌か?」

 

ダヴァン「どうみてもJ-POPデスよ……」

 

 そんな話があって込み上げる笑いを思わずこらえた。

 

ネリー「あれ元気になった?」

 

咲「う、うん。ちょっと気が紛れたかも」

 

 その後、智葉が天城越えを歌ったりして盛り上がり、咲は悩み事を少し忘れる事ができた。

 

明華「歌といえば私。私といえば歌。私の出番が来たようですね」

 

智葉「座ってろ」

 

ハオ「私が歌いますね」

 

 そんな一幕もあったが。予選を勝ち抜いた打ち上げは盛況の内に終わった。

 

咲「終わったね」

 

ネリー「帰ろっか」

 

智葉「ああ。さっさと帰るぞ」

 

ネリー「えっ、サトハ!?」

 

咲「先輩?」

 

 いざ解散の段になりネリーと帰ろうとすれば、なぜか智葉がいて咲のみならずネリーも驚いた顔をした。

 

智葉「この前の事もあるからな……時間も遅いし送っていく」

 

咲「え、でも……」

 

智葉「前はネリーと帰らず家とも別の方向にいくからどうしたかと思ったぞ。危なっかしい。自覚しろ」

 

咲「は、はあ……」

 

 生返事をする咲。

 

ネリー「ぷんぷん。今日はネリーいるもん!」

 

 置いてかれ気味のネリーが気色ばむ。

 

智葉「ぶっちゃけこいつは足しにならん」

 

ネリー「ひどいよサトハ!」

 

 ひどいよひどいよ、と文句を言うネリーをあやして、咲は思った。

 この前のとき……そんなところから気づいてたんだ。それに今日も。

 人を率いるのはやっぱりこういう人なのかな。

 心配をかけてばかりの自分との違いを痛感した。

 

咲「じゃあお断りするのもなんですし……お願いします」

 

智葉「任せろ」

 

 鷹揚に頷く智葉。

 

智葉「どこか寄るところがあるなら遠慮するなよ」

 

咲「あ……はい大丈夫です……」

 

智葉「本当に?」

 

咲「え?」

 

 なんで、と不思議に思った咲は聞き返す。

 

ネリー「ペロッ! これは嘘をついてる味だよガイトさん!」

 

智葉「誰がガイトさんだ。……用事があるのか」

 

咲「えっ、と……しいていえば、本屋に……でも」

 

智葉「本屋だ。いくぞ」

 

ネリー「しゅっぱーつ!」

 

 迷惑ですよね、という言葉を遮って智葉とネリーが歩き出す。咲は泡を食った。

 

咲「ちょ、ちょっと……!」

 

智葉「チームメイトに遠慮するな」

 

智葉「それがレギュラーを争う仲でもな」

 

咲「え……」

 

 どんどん進んでいく智葉とネリー。

 咲は言い返せず、戸惑いながらあとを追った。

 

 

 

智葉「ここでいいか」

 

咲「はい。すぐに済みますから」

 

 本屋。本に興味を示さないネリーを漫画コーナーに置いて、文庫本のコーナーに向かう。

 目的の品は平積みされていてすぐに見つかった。

 

智葉「やはり本が好きなのか」

 

咲「えっ、先輩」

 

智葉「ついていっても問題なさそうだったからついでにな」

 

 隣の棚の本を手にとりながら智葉が言う。

 

咲「そうですね。中学では元々文芸部に入ってましたし」

 

智葉「文芸部か。確かにそんな感じだ」

 

 少しだけ会話に間が空く。咲は中学時代を思い出していた。

 あのとき入る決意をしなかったら、ずっと麻雀をしないで過ごしてたんだろうな……。

 それがいい事かはわからない。しかし姉との距離を縮めるきっかけは得られなかったろう。

 

智葉「お前の姉も……そういうのが好きそうだった」

 

咲「しってるんですか?」

 

智葉「ああ。去年インターハイで打ったからな」

 

咲「あ……そうでしたね」

 

 個人戦全国三位。それは決勝で姉と卓を囲んだという意味だ。

 咲はまだ見ぬ姉の姿を想像する。

 

智葉「やはり姉が気になるか」

 

咲「そう……ですね。私が怒らせちゃったんですけど、前は仲よしだと思ってましたから」

 

智葉「そうか」

 

 また間が空く。記憶に残った最後の姉は、プラマイゼロに憤慨する姿だった。

 

智葉「だから……先鋒にこだわるのか」

 

咲「それもあります」

 

咲「お姉ちゃんに……勝たないといけませんから」

 

智葉「勝たないといけない?」

 

咲「約束してるんです。姉に勝てたら仲をとりもってくれるって、母と」

 

 咲の話に智葉は眉をひそめた。

 

智葉「おかしな条件だな。そんなの無条件にするもんだと思うが」

 

咲「よくわかりません……ただ、私から何かする勇気もないんです」

 

智葉「……」

 

 口をつぐむ智葉。

 沈黙の時間。

 店内に流れる音楽とざわざわとした客の声だけが耳に入る。

 

ネリー「サキー!」

 

 そこに、ネリーが前触れなく背後から姿をあらわした。

 

咲「わっ」

 

ネリー「これみてこれみて! ズギャーン!」

 

 ネリーの持つ開きかけの漫画。

 それは、独特な立ち姿が特徴的な少年漫画だった。

 

咲「ネ、ネリーちゃん……」

 

智葉「後ろから驚かすな。子どもかお前は」

 

 智葉にたしなめられ、ぷっくり頬を膨らましたネリーが子どもじゃない、とぴょんぴょん跳ねる。

 その姿はまさしく子どもだった。

 

咲「あはは……ネリーちゃんそれ買うの?」

 

ネリー「うん! メチャカッコイイよ~コレ!」

 

智葉「何の真似かよくわからん」

 

 揃って会計を済まし、店を出る。

 

 明日はついに個人戦だった。

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