「なんで大事な局面で内紛なんか起こすんだよ!?バカじゃねぇのかクソボンボンがぁ!!」
大きな声を出して怒鳴る。金属で密閉された空間、加えて宇宙での活動を目的としたノーマルスーツをフル着用しているので、自身の大声がヘルメットの内部で反響する。不愉快な耳鳴りがするが、こうでもしないと自分自身を抑えられそうにない。ヘルメットを脱ぎ捨て、シートの脇に仕舞っていたジェル状の飲料水を口に含む、そして深呼吸を三回…少しは気持ちが落ち着いて来たかもしれない。多少は気持ちが落ち着いたが状況は最悪、絶望的とも言ってもいい、だって俺はこれから死ぬし。
どうしてこんな状況に陥ったのか
何が原因でこうなってしまったのか
自己紹介でもするようにゆっくりと思い出しながら考える。
クルド・ナカザト、それが俺の名前だ。
所属は元ジオン軍だったり、デラーズ・フリートだっりする。現在の所属はネオ・ジオン軍かアクシズ軍もしくは俺の知らない名前だ。自身が所属する組織の名前も分からないのかと怒られそうだが勘弁して欲しい、知らないものは知らない。だって俺の上官の上官の上官が大事な局面で内紛起こしたんだもん。内紛を起こしやがったバカの名前はグレミー・トトだ。人物像は知らないが上官の上官が言うにはバカボンボンらしい、いやクソボンボンか?意味は一緒なのでどっちでもいいや。
どうしてグレミー・トトが大事な局面で内紛を起こしたのかは俺には分からない。そんな俺が反乱する側に付いていた理由は、単純に俺の上官の上官がそっち側であったという非常につまらない理由だ。いつの間にか反乱する側になり、命令で与えられたモビルスーツに乗り、またまた命令で与えられた任務に赴き、よく分からん兵器を扱うザクⅢに自機を撃破されて今に至る。運良くコックピットブロックが作動して脱出出来たが、宇宙空間では救助が来なければ死んだも当然だ。カメラは死んでいるので周囲の状況はレーダー頼り、機体に備え付けられたレーダーで自機の周辺を探るが反応はなし、ミノフスキー粒子が散布されているのが原因だろう、そもそもコックピットブロック単体のレーダーなんて無いも当然だ。最後の望みにと緊急通信を行うが反応はなし、宇宙漂流決定、ついでに俺の死因は餓死か窒息死のどちらかになった。
普通に考えてこういうのに備えて自機には数日分の食料と水を積んでおくのだが、俺は出撃の度に摘み食いをしているので俺の備蓄は現在飲んでいる飲料水入りのボトルのみだ、残り200ミリリットル、ペットボトル一本分にも満たない。温存するのも馬鹿らしいので一気に飲み干す、これで俺の備蓄はなくなった。食料と水は尽きたが、空気の残量はバッチリだ、コックピットブロックとノーマルスーツを合わせれば3日半はイケる。それまでに誰かに救助されれば死ななくて済むのだが、戦闘空域から流されてるっぽいので難しいだろう。そもそも救助された先が反乱軍以外だったら処刑コースなので無理ゲーだ。
宇宙にいれば嫌というぐらい窒息して死ぬ奴を見てきたが、どいつもこいつも苦しそうな顔をして死ぬのだ、それを自ら味わおうとは思えない。ならば空気がなくなる前に死のう、少し早い気もするがひもじい思いをするのも嫌なのでさっさと死のう、そんな事を考えながら懐に忍ばせている拳銃を手にしようとする。
「うおぉ!?」
突然コックピットブロック全体が揺れる。
何かに衝突した感じではなく、慣性を止められた、察するにどっかのモビルスーツがコックピットブロックを掴んだのだろう。絶望的な状況であったが、なんとか助かったみたいだ。一年戦争時代から最前線で戦い続けた俺だ、並の運の持ち主ではないのだろう。いや、待て待て、もしも俺を救助してくれた者の所属が連邦やネオ・ジオン軍だったら処刑される恐れがある、喜ぶのは所属を確認してからだ。所属の分からない者とコンタクトを取るためにコックピットブロックの無線をイジり周波数をオープンにしようしたが、それよりも先に相手側に外部スピーカーで話しかけられた。
『此方、シドニア所属のサマリだ。
そちらの機体から生体反応を確認、救助に来た
敵意がないのなら返事をしろ』
「シドニア…所属?」
女性から発せられる聞き慣れない所属名に思わず復唱をする。軍関係で聞いた事のない名前だ。アクシズの周辺に民間企業が寄る訳がないので、ジャンク屋かなにかだろう。だとしたら助かった、ジャンク屋なら処刑の心配はない。一年戦争時代から培った俺の操縦技術を売りにすれば、衣食住ぐらいは保証してくれるだろう。安心した気持ちでサマリと名乗った女性に感謝の言葉を述べる。
『此方、シドニア所属のサマリだ。
そちらの機体から生体反応を確認、救助に来た
敵意がないのなら返事をしろ !!』
外部スピーカー越しから先程と同じ台詞が流れる。苛ついているのか語気が荒いし早口だ。ちょっと待ってくれ、こっちはキチンとオープンチャンネルで返事をした、それにコックピットブロックを掴まれているのなら接触回線も通じる筈だ、それなのに何故…いや、相手は外部スピーカーで会話を始めたのだ、という事はどちらかの回線がイカれているという意味なのだろう。
回線が死んでいるので、直接コミュニケーションを取るしかない。慌ててノーマルスーツのヘルメットを被り、コックピットブロックのハッチを開ける。両手を上げて、ゆっくりと宇宙に身を投げ、自身の窮地を救ってくれた機体を確認する。
「ガンダム…ではないよな」
サマリと名乗った女性が乗っているであろう機体はモビルスーツであったが、見慣れぬモビルスーツに疑問の声が自然と口に出てしまった。薄い青色を基調とした機体カラー、バイバー型の頭部、これだけ見ると連邦系のモビルスーツに見えるが所々が今まで見た物と違う。新しいガンダムかと思いきや、周辺を見回すと同じ機体が他にも3機確認出来た。なら連邦の新型量産機か?だとしても連邦が今更ジム系列以外の機体を量産するとは思えない。そもそもジャンク屋が連邦の新型モビルスーツを持っている筈がない、って事はジャンク屋が独自制作したモビルスーツなのだろうか?って事は民間軍事会社だったとか?色々な疑問が降って湧いてでるが、お互いの意思疎通を取る方が先決だ。ノーマルスーツの無線を使って相手とコミュニケーションを取ろうとする。
「救助感謝する。
私は見た通りジオンの残党なのだが大丈夫か?」
『ッ!?』
ごくごく自然に相手とコミュニケーションをとった筈なのだが、外部スピーカー越しからサマリの驚いた声が微かに聞こえた。長年の戦闘経験から俺を取り囲んでいる4機のモビルスーツのパイロットが僅かながら動揺しているのを機体越しから感じ取った。生身相手になにを動揺しているんだ?俺の存在って世間にバレてたか?カッコイイ異名とかないぞ。
相手の動揺を解こうと、ノーマルスーツの無線を使って再度呼び掛けるが返事はない。どうやらノーマルスーツの無線も死んでいるみたいだ。仕方がない、直接話すしかないか…コックピットブロックのハッチを蹴り、サマリが乗っているであろう機体に向って飛ぶ。知らないモビルスーツだが、頭部の形状から見るに操縦室は機体の胸部だろう。胸部に取り付いて、装甲板を数回叩く。此方の意図が伝わったのか、コックピットハッチがゆっくりと開かれた。外部スピーカーから聞こえた声通りに操縦者は女性だった。
「此方の通信機器が壊れていて返事が出来なかった。救助に感謝する」
ダメ元で無線を使って会話をするが通じてないみたいだ。こうなったらノーマルスーツ同士の接触による会話、通称「お肌の触れ合い通信」に切り替えよう。これなら絶対に会話出来る。敵意が無い事を示す為に両手を上げて、ゆっくりとサマリの頭に向って近付く。お互いのヘルメットがぶつかり、小さな金属音が鳴った。
「聞こえるか?」
「あっ、あぁ、聞こえるぞ」
思わずため息が漏れる。
ようやく意思疎通が取れた。
「救助に感謝する」
「それだけなら通信を使え。
ガウナだと思って攻撃を仕掛けるところだった」
ガウナ?
聞き慣れない単語だが、後で聞けばいい。
俺の今後の為にも「シドニア」がなんの組織なのか確かめなくてはならない。
「私は見ての通りジオンの残党なのだが、そちらの…シドニアはなんの組織だ?何処に雇われた?連邦の雇われだとしたら非常に困る」
もしも連邦に雇われた民間軍事会社だとしたら必死に売り込まないといけない、そんな事を考えていたのだが、サマリが不思議そうな顔をする。
「一体何の話をしている?」
「後ろ盾の話をしているのだが
その様子だと単独で動いていたらしいな」
どうやらシドニアは連邦の後ろ盾なしに、単独でアクシズ中域まで来ていたらしい。民間軍事会社ではありえない行動だ、だとするとジャンク屋か、戦争真っ只中にサルベージ活動なんてイカれた集団だ。
「兎に角、シドニアが無所属で助かった。
連邦なら処刑されていたかも知れないからな」
「ちょっと待て、勝手に納得をするな。
じおん?れんぽう?何だそれは?私は聞いた事がないぞ」
サマリが声を荒げる。
どうやらジオンも連邦も知らないみたいだ。
アステロイドベルトに行った奴だってジオンと連邦ぐらい知っている、という事は…
「サマリは死ぬ程馬鹿って事だよな…」
独り言が漏れていたのか頭突きをされた。
お互いのヘルメット内部に金属音が鳴り、同時にしかめっ面をしてしまう。
「ノーマルスーツの空気残量が少ないからハッチを閉めてくれないか?それと味方が慌ただしいぞ」
コクピット内部に備え付けられた小型ディスプレイを指差す。サマリの同僚と思われる男性がサマリの安否を何度も確かめている。あっちのモニターには俺の後ろ姿しか見えてなさそうだしな。
「色々と聞きたい事があるが仕方ない…
一応言っておくが変な行動はするなよ?」
サマリがコックピットのハッチを閉める。
完全な密室、窮屈なヘルメット脱ぐ。
「流石の俺でも知らない機体を操って3機を相手取るのはキツいって」
あ、でも2機ならイケたかもな。
軽いジョーク、もしくは俺のセールスポイントを告げただけだったのだが真に受けたのかサマリが冷や汗を書いているのがヘルメット越しからでも確認出来た。ビビり過ぎだ。もしかして新兵だったか?だとしたら悪い事をしたな。
『サマリ、ヤバいんじゃないかそいつ…
俺か士浪の方に積んだ方が安全だと思うぞ』
俺の台詞が漏れていたのか別機の搭乗者が俺の移送を提言する。
「そうしたいのも山々だがもうすぐシドニアの帰還限界線から外れる」
『…分かったよ。そこのお前、サマリに傷一つ付けたら後が怖いからな!!』
どんな脅しだよ。下手なジョークは双方を険悪にするだけなので、「了解」とだけ伝えた。
「今言った通りに私達にはお前の身体検査をする余裕すらない。武器を所持しているのなら私の目の前に出せ」
「そんな危険な状況で助けてくれるなんて冥利に尽きるよ」
サマリに感謝の気持ちを述べながら、自身が所持しているのなら武器をサマリの前に流す。サマリは自身の機体を動かしているので操縦桿から手を離していない。不用心過ぎる。漂流者救助のマニュアルを読んでないのか?そんな事を考えていると不意にサマリと目線が合った。
「この大量の武器はなんだ?」
サマリの目の前に漂う多数の武器。
ジオン軍正式採用のナバン62式拳銃
連邦発足前から生産されているコルトガバメント
予備の予備として連邦製のリボルバー拳銃
内部に医療品を仕舞っているサバイバルナイフ
ジオン特殊部隊御用達の先端が飛び出すナイフ
工学カメラを一時的にダメに出来る閃光爆弾
対歩兵用の防御用手榴弾
常日頃から携帯しといて何だか過剰過ぎる。
「なんだって言われても…白兵戦用?」
答えに詰まったので適当に答える。
よく考えたら操縦の邪魔でしかないので、脇に備え付けられていた収納にぶち込む事にした。
「これって食料?食べていい?」
偶然開けた収納には戦闘糧食が詰まっていた。
「勝手にしろ。水はそこに有る」
サマリが指を刺した先にはポリタンクが有った。飲料水を機体そのものに収納するとは珍しいタイプだ。兎に角了承を得たので食べさせて貰おう。
「凄まじい食欲だな…」
備え付けられていた食料を全て食べ尽くした頃にサマリに呆れた台詞を言われた。こちとら強化人間、燃費の悪さは勘弁して欲しい、そうサマリに告げると不思議そうな顔をされた。
「わざわざ燃費を悪くするなんて理解が出来ないな。光合成は…出来ないのか?」
光合成。言葉通りの意味なら人間に出来る訳がない。質問返しをすると面倒臭い事が発覚しそうなので「無理だ」と簡潔に答えた。ふと、サマリが操縦している機械に視線を動かす、連邦でもジオンでもない操縦系統だ。
死ぬ恐れがなく、空腹が満たされた。
こういう状況は思考をクリアにさせて、半ば強制的に自身に陥った状況を分析してしまう。
シドニアという聞き慣れぬ組織名。
見慣れぬ量産型モビルスーツ。
ジオンでも連邦でもない操縦系統。
ジオンも連邦も知らない女兵士。
オープンチャンネルでさえ通じない相手。
ガウナ、光合成といった意味不明な単語。
これだけ要素が揃えば流石の俺でも分かる。
どうやら違う意味で遠い所に流れ着いた様だ。
宇宙って空気がないんでしょ?
っていうぐらい浅はかな知識の元で書いた。
宇宙でスピーカーが使えるのは謎だけどヘイブス粒子ならやってくれると信じている。
ちなみに主人公は強化人間ですが、
人工的に造られたニュータイプではなく
身体能力の強化を目的としています。
「ジョニーライデンの帰還」で登場しているタイプです