シドニアの艦長である小林と話し合い、取り敢えずの方針として俺のやるべき事が2つ決まった。
まずは俺の衛人訓練学校行きが決定した。
シドニアでの常識と衛人の操縦を学ぶ為だ。つまりこれから高校生ぐらいの年の子と勉学を共にならなくちゃ駄目なのだ。こんなんでも一般的な大学を卒業しているし、モビルスーツの腕前は一級クラスだ…それなのにこの扱いはあんまりだ。辱めを受けているに近い。勿論この方針は理解している、理解しているが納得出来ねぇ。同級生からのイジメとか怖いんだけど。
二つ目は東亜重工への技術支援だ。
東亜重工とはジオンで例えるとジオニック社みたいな存在らしい。その東亜重工へ行き、別世界で培った知識と経験を使って現在開発中の新型衛人の開発支援しろと言われた。ついでに常識内の予算と資源であれば好きに使っても良いとも言われた。東亜重工の他にも岐神開発という会社があるのだがそちらには行くなと言われた。何らかの確執があるのだろう、流石にその部分は聞かなかった。派閥争いとか一番興味ないし。
3時間ぐらい話し合って、やる事が2つ決まった。
もっと話す事はあるのだろうが、今生の別れではあるまいし、頻繁に連絡を取り合う事を約束に今日の所はお開きとなった。権力者アレルギーの俺としては、組織のトップと頻繁に会うのは嫌なのだが、相手が小林なら悪くもない。
小林との話し合いがお開きになり、当分の住処に向かう事になった。因みに訓練学校の宿舎だ。小林は俺関係で書類を作る必要があるらしく宿舎までは付いていけないとの事、代わりの道案内として今年の訓練生の一人を呼んでくれているらしい。色々と気を使ってくれて感謝だ。外へと繋がるドアを開け、外に出ると見知らぬ少女が直立不動で敬礼をしていた。
「第628期訓練生副代表の星白閑
小林艦長の命により参りました 」
星白閑、小林が言っていた道案内役だ。軍人としての言葉遣いは俺よりもしっかりとしているが、少女の見た目では些か頼りない、そんなアンバランスな姿にジオンの学徒兵を思い出す。勿論ろくな思い出ではない。シドニアのやり方にケチを付けられる立場ではないが、この年の女の子が軍人として扱われるのに嫌悪感を抱いてしまう。唯一の救いは現在のシドニアが平和という点だろう。タダ飯を貪るつもりはないが、永遠にガウナが来ない事を願う。感傷深く星白の事を見詰めていると目が合った。此方も自己紹介をしようと思ったのだが、ある事に気が付いて自己紹介を止めた。聞きたい事があるので小林の方を向く。
「小林、聞きたい事がある」
「なんだ?」
「星白への接し方が分からない」
俺の質問を受けて小林が固まる。なんでだ?
「………もしかしてシャイか?」
「違ぇよ!」
随分な間を開けて失礼な事を言われた。
シャイって…どんな奴だと思われてたんだよ。
俺が言いたい事は「俺の立場について」だ。
「星白、ちょっと後ろを向いてくれ」
「…えっ?は、はい」
俺の考えなんて理解してる筈ないのに、律儀に後ろを向いてくれた。真面目な娘だ。心配になる。
「どういうつもりだ?」
「一般人の俺に対する認識ってどうなっているんだ?」
「クルド・ナカザトは別世界から現れた」この事を知っているのは今のところ艦長だけだ。意図的に余計な情報を与えていないので、サマリ達は俺の事を只(?)の漂流者として認識しているだろう。これからシドニアの船員として生きて行くに当たって、俺という異質な存在は一般人に対してどう説明付けされていくのか全く分からないので、星白にどう接していいのかも分からないのだ。因みに俺の現在の服装はジオン公国軍時代のノーマルスーツ(強化人間用に多少改造されている)だ、シドニアの統一されている服装とは違い過ぎて部外者だと丸分かりだ。しかもここまで来る道中で多数の船員にバッチリと見られているので、元々居る人間だと嘘をつくのは難しい。ってかバラしてどうするよ?隠そうと思えば隠せただろ。最高責任者である小林に非難の目を向ける。
「今日は大衆向けの公開訓練日だったんだ…」
小林がぼそぼそとした声で告げる。
仮面を被っているが遠い目をしている気がした。
そんな状況では隠匿もクソもない。
さぞ混乱したのだろう。…なんかごめんなさい。
「…それでどうする?
流石に別世界から来ましたとか駄目だよな?」
一般人(星白)が近くに居るのにも関わらず内緒話をする。後ろを向かせているが目と鼻の先の距離なので間違いなく聞かれている。個人的にどうでも良い話とはいえ組織のトップと正体不明な男との密談を聞かされるので内心穏やかではないだろう。
「好きにしろ」
面倒臭いからお前が考えろという意味だ。
シドニア中にバレているので凄く投げやりだ。
俺としても「別世界」という部分だけ隠せればいいので…
「じゃあ一般人には記憶喪失という事にして、東亜重工の人達には衛人関係で付き合いがあるから全部ぶっちゃける」
記憶喪失、素晴らしく便利な言葉だ。
一般人にはこれで押し切ろう。嘘がバレても「話したくないオーラ」を出せば誰も聞いてこない。まるで他の星からやって来ましたとか自称している不思議系のアイドルみたいだ。嘘だと分かっているが、気不味いので誰も真実に触れてこない的な。
聞きたい事が聞けたので内緒話終了。
後ろを向かせていた星白を俺達の方に向かせる。
ヤバい話を聞いたと思ったのか若干伏せ目だ。
「クルド・ナカザトだ。
今後とも宜しく頼むぞ、星白先輩」
「先輩」という部分に引っ掛かりを感じた様子だ。説明が足りなかった。実は衛人操縦士になる為に今日から訓練生になる事が決まったのだ、そう星白に伝えると素っ頓狂な声を上げられた。
「お腹空いた」
小林と別れ、星白に訓練生宿舎まで案内をして貰っている。歩き始めて十数分でエマージェンシーコールが鳴ったので星白に助けを求める。
「えっ、噂で衛人に積まれている戦闘糧食を食べ尽くしたって聞いていたんですけど…」
真面目そうな星白がドン引きしている。それもその筈、シドニアに住む人の2ヶ月分の食料を平らげて「お腹を空いた」だ。我ながら異常だ。引かれても仕方がない。それにしても尋常じゃない速度で俺の情報が行き交っている。
「戦闘向けに強化されている副作用だな。詳しく聞きたい?」
「…結構です。それよりもナカザトさんは好き嫌いとかはありますか?」
星白が誘いを断り、露骨に話題を逸らされた。
そりゃあんな密談を聞かされればなぁ…
「基本的に何でも食える。質より量派。
あんまり悠長に食べるのも悪いから手軽に食べられる物で良いよ。自動販売機とかある?」
「それじゃあ近くに有ります」
「じゃあ頼む」
星白に案内された自動販売機は焼きおにぎり専用だった。マニアックだ。お金は小林から貰っている。取り敢えず3個購入。紙容器に包まれた焼きおにぎりは出来立てみたいに熱かった。焼きおにぎりを頬張りながら目的地を目指す。
「星白は食べないのか?」
2個目を食べ終わり、その事に気が付く。空腹時は無意識に他者への配慮に欠けてしまうのだ。この欠点は強化人間の副作用ではなく、単純に性格が原因と医者に言われた。腹が減ると性格が悪くなるとか客観的見たら野生動物か何かだ。
「私達は光合成をするので、1週間に一度の食事でも大丈夫なんです。ナカザトさんは…凄く食べる人なんですね」
そう言えばそうだった。
サマリも似たような事を言っていた。
便利だけど楽しくはないな。
「って事は今も光合成をしてるのか?」
「普通の光では無理です。光合成をする際は光合成室と呼ばれる専用の部屋で行います」
「ふ〜ん、どうやって光合成するの?」
頭空っぽ状態の何気ない質問だったのだが、星白が言い淀む。目も合わしてくれない。どうやら地雷を踏んだっぽい。裸でやるんだ、光合成。