GATE×オリ主&オリ国家   作:オシドリ

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第15話

 銀座事件が起きた日を境に、日本政府は変わったとする意見が多い。

 だがそれは表の事で、裏では余り変わっていないという考えが主流だった。

 

 しかし、扶桑国使節団がやって来てからは一変する。裏もガチガチに防備が強化され、諸外国は動きづらくなっていた。

 そんな中、某国の工作員が業を煮やして扶桑国の劔冑や生物を手に入れようと先走った結果、待ち受けていた公安や特戦群、そして扶桑国の隠密らによって返り討ちに遭い、文字通りの全滅。一夜の内にその国の現地拠点まで壊滅させられてしまったのである。

 表沙汰にはならなかったが、こういった情報は直ぐに出回る。そして、日本政府もやる時はやるという姿勢を見せつけられた各国は考え方を改め、慎重に為らざるを得なかった。

 

 また、今までは特地の情報開示は殆ど行われなかったが、順次公開されるようになった。

 その一環として、また友好国であるアメリカからのお願いもあり、この日、劔冑同士の戦い方を撮影する事になった。

 

 

   ***

 

 

 日本国 静岡県御殿場市 東富士演習場 上空

 

 

 日本の誇る霊峰、富士山を望むこの場所。

 澄み渡る青空を、二騎の武者が騎航して(かけて)いた。

 

 二騎の武者は互いに太刀を構えて闘牛形(ツキウシ)と呼ばれる正面激突を行い、互いの背後に抜ける。そして旋回し、再び交差する。合当理――劔冑が背負う、空を飛ぶ為の機巧――から吐き出される噴煙が(ふたわ)の字を描くように騎航る(はしる)ため、双輪懸(ふたわがかり)と呼ばれるものだった。

 この双輪懸は、両者の技量が肉迫するほどに双輪は完璧で美しいものとなる。

 

 この日、平の<桜丸>と菊池の<小狐丸>の戦いは死合ではなく、仕合。もっと言えば、初心者である観客にも分かりやすく見せる為の戦いであったが、それでも見事な双輪を描いていた。

 

 両者が纏う劔冑はどちらも今から九百年程前、日本の平安末期頃に鍛造された名甲。その為かよく仕合を行う仲であり、互いの機微を熟知している。膠着状態に陥りながら幾度なく剣戟を繰り広げていた。

 

 平は「王城一の強弓精兵」と呼ばれた歴戦の武者であり、纏う劔冑<古備前友成桜丸>もその力量に見合う名物。

 対する菊池も武者の為の武術の一つ、吉野御流合戦礼法の宗主である。その技量は互角、いや端々の剣技の冴えは平を上回っていた。

 

「――ふむ。陰義(しのぎ)無しだと菊池が優勢か」

 

 地上にて、両者の対決を眺めていた守人は呟いた。傍らには何時もの様に不破が寝そべっており、近くには蜷局を巻いた太郎が戦況を見守っていた。

 

 徐々に美しかった双輪の形が崩れ始めている。平が押されているのだ。両者の劔冑自体の性能は似通っているため、均衡が崩れたのは仕手の技量差によるものだ。

 

「こりゃあ、すげぇな……」  

 

 呆然とした表情で嘉納は呟く。手には双眼鏡を持っていた。傍にいる背広組の参事官や制服組の幹部らも唖然とした表情であった。

 

 それも仕方ない事であった。

 特地から送られてきた映像には劔冑の訓練風景も入っていたが、映像と生では迫力が違う。

 それに、人間大の物体がお互いに亜音速で正面からぶつかり合い、その一瞬で互いの駆け引きを行い、そして敵の動きを予測して一撃を加えるなど、彼らの常識では信じられない事なのだ。

 

 異常。この言葉に尽きる。劔冑も、それを可能とする仕手の技能にも。

 

「お互いが高さを競い合っているように見えるが、あれは何故ですかい?」嘉納が訊ねた。

「大臣閣下、良い所に気付かれましたの」守人が答えた。

「武者同士の一騎打ちは、高位の奪い合いじゃな。これが絶対条件であり、基本となる」

 

 双輪懸における太刀打ちの作法。それは、敵騎に先んじて高度を確保する事である。

 武者同士の空中戦では、高度の優位が占める割合が非常に大きい。

 

 高さとは、即ち力量(エネルギー)

 

 敵よりも高位を占めた側は敵に向かって駆け下る事になる。

 この時、自騎の速力に重力が加わるため更に速度を増す事が出来る。そしてここに自騎の重量が加わる。速度が転化した威力と、質量が組み合わさることにより迅速かつ強力な一撃を放つ事が可能となる。また敵を補足しやすく、攻撃を当てる事も容易となる。

 

 対して、低位の者は重力に抗いながら駆け上がらなければならない。また一撃も高位の者と比べて軽く遅くなってしまう。

 

 必然的に、高度を取った者が圧倒的に有利となるのだ。

 

「じゃから、高度を取られたならば直ぐに状況を打破しなければならない。一合打ち合った後に素早く旋回して敵が態勢を整える前に突撃する。加速して一旦離脱し、仕切り直す。中には己の剣技や陰義で打開を図る者もおる」

「なーるほど……」なんとなく分かったような表情で嘉納が呟く。

「だが、それだったらフタワガカリを行わず戦えば良いのでは?」  

 

 それこそ、銃器で一方的に射撃を加えるなり、逃げ回りながらチマチマと攻撃を行うなりすれば良いのでは? と嘉納は考えた。

 

「そういう戦い方もある。が、無理じゃな」

「何故ですか?」 

「一騎打ちにおいて、闘牛形を行うのは武者の誉れ、というのもあるがの。一番の理由は甲鉄を穿つためじゃな」

「甲鉄を穿つ?」

「そう。武者の甲鉄はお主らで言うなれば戦車の装甲と同等。生半可な攻撃では破ることは不可能。じゃからこそ闘牛形を行うんじゃよ」

 

 要するに、劔冑を倒すには劔冑の剛力と速度、そして重力による加速を乗せた一撃でもって装甲を強引にぶち破るしかないのだ。

 鉄砲火器とは比べ物にならないほどの威力を持つ武者弓もあるが、昔はともかく、現在の短時間の内に終結する武者の戦いでは余り用いられない。外した場合、突撃してくる敵騎に対応しづらい為である。

 

「戦車並みの装甲を持った存在を撃破するには、戦闘機の様に飛び回ってガチンコ勝負するしかないのかよ……」

 

 嘉納が言った。呆れたような口調であった。周りの日本側の面々も同意だ、とばかりに激しく頷く。

 

「まあ、それしか方法が無いからの。さて」

 

 守人は苦笑し、そして再び空へ視線を向けた。

 

「そろそろ、お互い勝負を仕掛けてくる頃合いじゃな」

 

 二騎の武者は、動きを変え始めていた。

 

 

   ***

 

 

 もう何度目の激突となろうか。

 

 高度優勢を取った桜丸が右上段で突撃する。それに応ずるかのように小狐丸も太刀を構えて吶喊。互いに裂帛の気合を放つ。

 そして、桜丸が下方へ急加速する。小狐丸の下へ抜けて斬り落そうとしたのだ。

 

「どっせぇええー!」

「吉野御流〝霞返し〟」

 

 瞬間、小狐丸が上下反転し、桜丸を迎え撃った。互いに打ち下ろしの形で斬り結び、火花を散らした。

 結果は、相打ちだった。

 

<告げる。右肩部甲鉄に被撃。小破>

「ぬうぅ、流石にやりおる……」

 

 桜丸の報告に平は呻いた。一撃を貰った右肩が重い。僅かに動かすだけで鈍痛が走る。

 見れば桜丸には右肩だけでなく、全身に損傷があった。だがどれも傷は浅く、まだまだ自由に動かせられる。

 

「敵機の損傷は?」

<敵機、左腕部に軽度の損傷と見受けられる>

「ぬう……」

 

 また、お互いの甲鉄に幾らか損傷を与えただけか。

 

 桜丸は旋回し、再び高度を取る。しかし、小狐丸は背を向けたまま旋回しようとしない。戦域を離脱し、態勢を整えるようとしているのか。いや、それにしては加速し過ぎていた。あれでは曲がる事など出来ない。

 

<告げる。敵騎より膨大な熱量を感知。陰義の発動を確認>

「むゥ、来るかァ!」

 

 直進していた小狐丸の動きが変わる。まるで跳弾するかのように跳び、異常なまでに直角的、鋭角的な機動で騎航を始めたのだ。

 それはまるで稲妻の如く。ジクザクに空を駆けながら更に加速し、高度優勢を取った。

 

 これこそが小狐丸の陰義、<慣性制御>である。

 

 当然、生身より頑丈な武者とはいえ、このような騎航をすれば仕手に凄まじいまでの荷重がかかる。

 だが、菊池はこれを完全に制御しきった。加速ごとに軌道修正を行い、鋭角的な機動をしつつ桜丸の背面を捉えた。

 

「小狐丸!」菊池が叫ぶ。

<御意>

 

 ほぼ垂直に近い高度優勢と、合当理の最大噴出による突進。更に武者上段から打ち下ろし。これらが複合した強力無比な一撃が迫る。

 

「吉野御流〝雪颪(ナダレ)〟」

「うおおおぉぉ!」

 

 菊池が技を放つ。

 平も叫ぶ。合当理を吹かし、母衣――空を飛ぶための翼を動かしてその場で急旋回。致命傷を避けるべく太刀を構え、身体から嫌な音を軋ませながら強引に反転させる。

 

 両騎がぶつかり合う。

 

 打ち合いに勝ったのは当然、小狐丸であった。

 申し分ない一撃を貰った桜丸が弾かれ、そのまま地表へと墜落していく。 

 

「ぬ、ぐぁ……」

 

 凄まじい衝撃。甲鉄だけでなく、骨と内臓にまでくる一撃に目の前が赤く染まる。

 桜丸は失速し、墜落に移る。平は激痛と急速に身体から熱が消えていく寒さに悶えながら姿勢を立て直そうとする。

 急速に失われつつある熱量をかき集めて合当理に回し、吹かす。母衣を広げて安定させようとする。再び態勢を立て直せたのは、地表に激突寸前の時だった。

 桜丸は土煙を上げながら地表スレスレを疾駆する。先程までとは違い、遅く安定性に欠ける騎航だった。

 

<告げる。左肩部、及び胸部甲鉄に被撃。大破。内部骨格に深刻な損傷。全機能の低下を確認>

 

 続けて桜丸が無機質な声で言った。

 

<甲鉄の復元、及び治癒を開始する>

「いらんッ!」平が吼えた。「桜丸ッ! 治療なぞは後回しだ! 此方も陰義を使うッ!」

<――承る。呪句の詠唱を始めよ>

 

 桜丸の動きに、追尾していた菊池も気付いた。

 

「む……、小狐丸」 

<報告。敵騎の熱量増大。陰義を発動させるものと推定>

 

 桜丸が腰袋から種をばら撒く。

 平が丹田より力を引き出し、肉体と甲鉄を合一。

 呪句を詠唱する。

 

彼地(かのち)から

 句句廼馳(くくのち)神座(さくら)

 契り裂き

 此地神座(このちさくら)

 句句廼馳括乱(くくのちくくらん)

 

 ――実行。力を開放する。

 

小桜縅(こざくらおどし)!」

 

 桜丸の陰義<植物操作>が発動。急成長した木や蔦が槍となり縄となり、追従してきた小狐丸へと襲い掛かる。

 

「――くうッ!」

 

 躱し、逸らし、斬り払う。が、余りにも数が多すぎる。周囲には木や蔦が踊っており、囲まれてしまった。陰義を使い、一気に上方へと逃れようとする。

 

「逃がさぬわぁ!」

 

 桜丸が吶喊する。

 

「フンっ! フンっ! フンっ! フンっ!」

 

 自身が操る植物を足場にして方向転換を行いながら跳び、縦横無尽に駆け抜ける。

 八艘跳、そう呼ばれる技である。

 通常では騎航すら危うい閉鎖空間の中であっても、桜丸はその高い旋回性能で騎航術(はやがけ)を可能にしていた。

 桜丸が一気に下から小狐丸へ迫る。

 

「せえりゃああぁぁ!!」

 

 小狐丸から放たれた苦し紛れの一撃を避け、右下段からの斬り上げを脇腹へ叩き込む。 

 

「ぐッ……!」

<報告。腰部甲鉄に中度の損傷。これ以上の被撃は騎航に深刻な影響を及ぼす>

「あと一撃で全て決まるか……」

 

 互いに旋回。桜丸、高度優勢。そして最後の一撃を加えようとし――

 

『――両者、そこまで』

 

 太郎が静かな声で告げた。両騎の間には、水の膜が張られていた。

 

『これは仕合です。水を差すようですが、二人とも戦闘を終えて下さい』

 

 しばし呆然としていた両騎であったが、本来の目的を思い出したのだろう。

 すぐさま降下し、着地。自衛隊からの要請で頭部に付けていたカメラを外し、装甲を解く。

 

「おいおい……」

 

 両者の怪我を見た嘉納が呻いた。

 日本の常識で言えば、両者共に重傷。出血も多い。直ぐに緊急搬送を行い、治療しなければ命に関わると判断される。

 控えていた救急救命士が医療器具を携えてすっ飛んできた。

 

「問題無い」守人が言った。「こ奴らは武者じゃからな。一日食って寝ておけばこの程度の傷ならば治るじゃろ」

「この程度って……」

 

 思いっきり重傷じゃないですか! 救命士はそう叫ぼうとした。

 

「うむ。治療より、我に水と何か食べ物を」

「はい。私にもお願いします」

 

 平と菊池のあっけからんとした物言いに日本側は沈黙する。

 

「と、ともかく。怪我の治療をさせてください……」

 

 茫然自失の中から再起動を果たした救急救命士が再び言い寄り、二人とも苦笑しながら血塗れの軍装を脱いだ。

 そして再び動きが止まった。身体には刻まれていた裂傷が、既に塞がり始まっていたのだ。

 

 劔冑には再生能力がある。損傷を受けても時間が経てば元通りに復元してしまう。

 これは結縁した仕手にも及ぶ。

 例え骨にまで達する金創を受けても一日安静にしていれば治るし、腕を斬り落とされたとしても切断面にくっ付けておけば治ってしまうのが武者なのだ。

 中には、文字通り頭から足まで身体を真っ二つにされたとしても再生してしまう劔冑もあるが、これは特殊な例であった。

 

 念のため、という事で傷口を消毒した後にガーゼと包帯を巻きつけ、新しい服へと着替える。

 

 その間、二人はカメラを自衛隊員に引き渡し、貰ったペットボトルの水を飲み、カロリーメイトをまじまじと眺めていた。それから一口齧ってみて、ほど良い甘味が気に入ったらしい。しっかりと平らげていた。

 

 

 この後、日本政府はこの日に行われた仕合の映像を守人の解説付きでネット上に公開。

 自衛隊が地上から撮影した映像と、劔冑の頭部から取られた映像は世界中で連日再生される事になった。

 次いでとばかりに「龍神vs炎龍」と名付けられた動画も公開。

 

 どちらもマスコミにも取り上げられ、お祭り騒ぎになった。

 

 そして一部の国では、映像にある性能の高さからどうにかして手に入れられないか画策し、そして自分達の方が技術力があるという自負の元、断片的に手に入れた情報を基に自国で劔冑の開発を進める動きを見せる事となった。

 


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