GATE×オリ主&オリ国家   作:オシドリ

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第25話

 ガツガツ、バクバク、ムシャムシャ。

 

 アルヌス駐屯地の一角にある、病院の一室。

 その部屋の主である伊丹は、猛烈な勢いで出された飯をかっ食らっていた。

 

 伊丹が食べているのは扶桑国の筑紫名物、竜肉料理である。 

 本来、竜種は鱗や皮は重宝されるものの、肉を食べることは殆ど無い。全身が強靭な筋肉で出来ており、そのまま食べるには非常に臭みが強いうえに筋張っていて硬く、人が食べられるようなものでは無いのだ。その為、剣歯虎の餌(彼らにとっても竜の肉は不味いようで、餌として与えると嫌な顔をされる)や海獣や海竜を釣る際の餌にしかならなかった。

 

 だが、ある筑紫の侍が竜の肉を食べられる方法を考案した事により評価は一変する。筑紫のみに自生する十数種類の香草に数時間漬け込む事で柔らかくて臭みの無い、素晴らしい肉へと変化する。

 口に入れれば心地よく歯を押し返す様な弾力があり、暫くその感触を楽しむ。そして噛み切ればそこから全く臭みの無い肉汁が口の中に溢れ出し、ほんのりと脂の甘みの混じった力強い肉の旨味が口の中一杯に広がる。

 その状態で、白く艶々の炊き立てご飯を掻っ込むと、もう最高である。

 

「美味いなぁ」

 

 伊丹の顔は実に幸せそうであった。

 

 あの後、アルヌス駐屯地に帰還したのだが、着地して直ぐに伊丹は倒れてしまったのだ。

 理由は過労。帝都でドンパチやって今度は竜種の襲撃。連戦が続き、更に装甲して守人に熱量を吸い上げられた結果であった。

 直ぐに病院に搬送されたが、休んでいれば問題無いと分かった。ただ、ずっと戦っていた所為なのか、守人と契約した所為なのか、とにかく腹が減ってしょうがないのだ。

 

「御堂。追加の料理じゃよ」

 

 ノックと共に、袖を捲り、前掛け(エプロン)を着用した守人がサービスワゴンを押して入室してきた。乗っているのは大鍋。シチューのようだ。守人が鍋の蓋を開けると湯気と共に肉と香辛料の濃いなんとも美味そうな匂いが鼻をくすぐる。

 

「んぐ、有難うございます」

「ん? 口元が汚れておるぞ。ほれ、拭いてやるからじっとしておれ」

「ちょ、自分でできますって……」

 

 微妙に顔を赤らめ、恥ずかしそうにしている伊丹を守人は甲斐甲斐しく世話をしていた。

 

「ウギギ……」

「………(ジト目)」

「ふ、二人とも。ここは病院だしね? ほら、このシチューも美味しいよ?」

 

 その様子に嫉妬の表情で睨みつける二人がいるが、テュカかどうにか取り成していた。ちなみに三人にも量は少なめだが伊丹と同じものが出されており、出されたものはしっかり完食していた。

 

「……そうよねぇ。いくら何でも、ヨウジは男色じゃないしぃ」

 

 そう言い聞かせ、出されたシチューを食べようとしたのだが。

 

「うん? 違うのか?」

 

 守人の言葉に、部屋の中の空気が凍る。

 

「や、日本には衆道は無いのか? 御堂の奥方――元だったか――が衆道の絵草子を描いておるから、てっきり御堂も衆道趣味かと」

 

 ちなみに、扶桑国では神隠しにあった者達から衆道文化が伝わっており、今でも色街に行けば陰間茶屋(いわゆる美少年専門店)などが存在している。

 だから別に伊丹がアルヌスに滞在している薔薇騎士団に大量のBL本を運んでいても、ネット上で掛け算の対象になったりイラストが描かれていても特に何も思わなかったのだ。

 

「……色々と言いたいことはありますが、まず今の日本では男色は一般的ではありません」

 

 絞り出す様に、伊丹が言った。

 

「ほーん、そうか。まあ確かに、奥方がそこのエルフの嬢ちゃんのような、適度に女性らしい人が好みと言っていたしの」

 

 以前、守人が梨紗と会った際に対価(扶桑国の美少年らの写真)を払って色々と聞き出していたのである。

 

「へぇ、ソウナノー」と、眼を輝かせて何故かハルバートを構えるロゥリィ。

「……まさかの裏切り?」と、口を三角にして、ジト目で杖を構えるレレイ。

「え、ちょ、私ぃ!?」と、予想外の事に慌てふためくテュカ。

「ちょ、梨紗ー! なんでバラしてんのさぁ!?」

 

 

 閑話休題。

 

 

「さて、何の話をしていたんだっけな」

 

 痛そうに頭を擦りながら守人は言った。

 あの後、ちょっとした騒ぎになったのだが、やって来た美人な看護士から「五月蠅い」と全員物理的に黙らされ、ようやく落ち着いた頃である。

 

「少し、聞きたいことがある」レレイが訊ねる。

「なんじゃ?」

「本来、ツルギの持つ陰義は一つだけと聞いた。だけど、話に聞く限りモリトは二つ以上の発動させていた。なぜ?」

「ああ、あれは陰義じゃないく、ただの機巧じゃからな」守人が答える。

「儂は特殊での。そうじゃな。御堂に分かりやすく簡単に言うと、儂は「ぼくのかんがえたさいきょうのつるぎ」という奴じゃな」

 

 当時の扶桑国は人外魔境というしかない世界であり、何も持たない生身の人間が生きていける様な環境では無かった。

 外を歩けば地上には剣歯虎(サーベルタイガー)や肉食の走竜種が群れで動いており、海には白鯨や海竜(シーサーペント)などの大海獣。空には翼竜飛竜は可愛いもので、炎龍クラスのドラゴンが飛び交っているような状況だった。

 

 もし仮に、この島へ人がやってきたら、そういった存在に対抗するには普通の劔冑では無理だ。

 

 ではどうするか。

 悩んだ末に、一つの結論に達した。

 

 それは全局面に対応でき、全てが最高で最強の劒冑を鍛造すればよい、と。

 

 だが問題があった。

 劒冑というのは一方を最大まで上げれば、何かを削らなければならないのだ。

 

 例えば騎航性能。

 装甲を厚く重くすれば、騎航速度が落ちる。

 母衣、つまり背中の翼を厚く強固にして速力を上げれば、上昇性能が落ちる。

 翼を大きくして旋回性能を上げれば、加速性は失われる。

 

 ただ普通に、どれも良くしようとして出来るのは全てが平均値で突出した性能の無い、凡庸な劒冑しかできない。

 ならば、どうすれば良いか。 

 考えうる限りの最高の素材を使うのは当然として、陰儀と同等の能力を発揮する機巧を装備すればよい、そう考えたのだ。

 

 まず守人は翼甲を大きく頑丈に造り上げ、速力と旋回性能を保持。そこに各所に小型高出力の合当理を内蔵することで上昇性能と加速性を強引に持たせたのだ。

 装甲もまた神鉄に天龍の鱗など希少な材料を使用。

 これらを加工するためだけに質の良い骸炭(コークス)を世界中探しまわったり、炎龍や水龍など古代龍から極稀に獲れる素材を求めて、物欲センサーと戦いながら狩り続けた。これにより、必要な設備も最高のものが用意できた。

 

 これらを湯水の如く使い、持てる技術を全てをつぎ込んだ結果。

 武装には斬鉄剣と命名された古代龍をも斬る居合刀を。装甲は例え天龍の攻撃を受けても損傷せず、それでいて各所の合当理によって瞬時に間合いに踏み込められる瞬間加速性を保持。

 

 「ぼくのかんがえたさいきょうのつるぎ」こと、劔冑「守人」が鍛造されたのである。

 

「儂の性能は今でも最も高いと自負しておるが、致命的な欠点があってな」

「欠点?」伊丹が言った。

「うむ」守人は小さく頷く。

「物凄ぉく、燃費が悪いんじゃよ。そうじゃな、例えると一般の劒冑をスクーター並みの燃費とするなら、儂は自衛隊が使っている戦車並みじゃの」

 

 ちなみに、ホンダ・スーパーカブ50の燃費のカタログ値は110㎞/Lで、74式戦車は400m/Lである。

 

「じゃから、常人が纏うだけで熱量欠乏を起こし、そのまま枯死してしまうんじゃよ」

 

 それこそ、亜神の様な強靭な生命力を持っているか、人外の存在でなければ装甲する事もできない。本末転倒だが、そういう劔冑になってしまったのである。

 

「いや、それ燃費が悪いってもんじゃないでしょ」と、伊丹は青ざめた表情で突っ込む。同時に、疑問が出てくる。「なら、なんで俺は無事なんですか?」

「御堂の場合、あの時、飲ませたものがあるじゃろ。あれは秘薬の一種でな。だからこの程度で済んだのじゃよ」

「へえ……」

「これで質問は良いかの? 他にはあるかの?」

 

「はぁい」と、ロゥリィが手を上げる。

「リサから聞いた、ヨウジィの好みについて詳しく教えてくれるぅ?」

「ちょ、なんでさ!?」

「良いではないか、御堂。減るもんではないじゃろ」

「俺の精神が減るんですけどねぇ!?」

 

 そんな事で、暫く他愛の無い雑談が続いた。

 ロゥリィとレレイが入院中の伊丹の世話を誰がするかで駆け引きが始まったり、富田や栗林、倉田など、第三偵察隊の面々がお見舞いに来たところで、守人は使った調理器具や食器を片すべく一旦部屋から退出する。すると、ロゥリィまで付いてきた。

 

「なんじゃロゥリィ、御堂の世話をしなくて良いのか?」

「別に、ヨウジィの魂は私が貰うものぉ。焦らなくていいわぁ。それに、今はこっちが重要だもの」

 

 言うや、ひゅんと風切り音を立ててロゥリィはハルバードの穂先を守人に突きつけた。

 

「ヨウジィに飲ませたの、いったい何?」 

「いきなり剣呑じゃの」

 

 それには答えず、「死神」となったロゥリィはただ睨みつけるだけだった。眼は爛々と輝き、唇は赤から紫色へと変化していた。

 「ここでは拙いの」と守人は人気の無い廊下の角に行き、懐から数枚の紙切れを取り出すと小さく何か呟き、壁に貼り付ける。簡単な人除けと遮音の魔法が込められた御札であった。

 

「さて、これでいいじゃろ」守人が言った。

「御堂に飲ませたのは、儂らの呼び方は金神片。他には哲学者の石、賢者の石、エリクサー。ま、様々な呼び名があるが、こちらでは神の血肉(ラピス・ザキー)と呼ばれる代物じゃな」

 

 やっぱり、とロゥリィが呟く。

 

「あれは、危険よぉ。ヒトをヒトでなくしてしまう最悪のものよぉ」

「ああ、それはよぅく知っとるよ」

「じゃあ、どうして」

「言ったじゃろ。儂は燃費が悪いと。そもそも人が儂を装甲するには金神片の服用が絶対。それに御堂に飲ませた欠片は余り大きくは無いし、あと二回ほど装甲すれば影響は抜けるの」

 

 あの時、守人が伊丹に飲ませた金神片は水龍の額に生えていたものだ。黙らせて脱出する際、一部を切り取り、脱出するのに必要な熱量を満たすために使用した残りである。

 

 恐らく、ハーディは水龍の強化の為に金神片を使用したのだろうが、上手く制御できなかったのだろう。ただでさえ災害と同等の存在だとされる古代龍が、金神片によって亜神の様にほぼ不老不死となったのだ。流石に危険と判断して、あのような空間に封印しているのだろう。

 

「それなら、貴方がそれを使って空間跳躍をやって脱出すれば良かったじゃないのぉ?」

「分かってないのぉ、ロゥリィ。それではつまらないじゃないか」

 

 そう告げた守人の表情は、何時もと変わない柔和な笑みだった。

 その顔を見て、ロゥリィははたと気が付く。そうだ。守人もまた、ハーディと同じ永い時を過ごした存在なのだ。

 

「別に、儂はハーディの様な事はせんよ。だが御堂という存在は面白いからの」守人は続けて言った。「確かに、儂から見ても普段の御堂は怠け者。だが、咄嗟の行動を見れば義理と人情に厚く、自らを犠牲にすることを厭わない。随分と矛盾しているものよ」

 

 だから、ちょいと試してみたのよ。そう守人は告げた。

 

 今まで伊丹は、帝国が日本へ侵攻した際、独断で警官と共に二条橋にて防衛線を張り、多くの民間人を救い。

 災害とされる炎龍相手に僅かな兵で避難民から注意を逸らすべく奮戦し。

 アルヌスへやって来た避難民の自立支援に必要な事を全てやり遂げ。

 帝都では拉致被害者を救出するべく、銃を取り。

 竜種の襲撃の際にはロゥリィを助けようとし、自らも巻き込まれたが無事に脱出した。

 

 どれも、嫌なら逃げても良かった。だが、そうしなかった。

 

 ある酒の席で、守人は柳田から愚痴交じりに聞いていた。

 伊丹は命令違反を何度も起しており、それと相殺するだけの功績も上げている。非常に扱いづらい人材。本来なら降格減給して左遷されてもおかしくは無い、と。

 伊丹には、人を惹きつける何かがあるのかもしれない。でなければ、ここまでやって来れないだろう。

 

「それに、今のうちにああいうのは慣れておいた方が良いの」

「……どういう事ぉ?」

 

 怪訝な表情を浮かべるにロゥリィに、「お主、本当に分からんのか?」と守人は訊ね返す。

 ロゥリィが小さく頷くと、守人は呆れたような表情でため息をついた。どうして自分の事なのにこうも鈍感なんだろうか。まるで子供に言い聞かせる様にはっきりとした口調で守人は言う。

 

「良いか? あの死神ロゥリィが、陞神間近になって、初めて眷属を持ったのじゃぞ? しかも異世界から来た男。異性として見ているときた。暇している連中(正神)が興味を覚えん筈が無いじゃろ」

「嘘でしょぉ……」

 

 ロゥリィは疎まし気に嘆息する。自分がそこまで正神らに注目されているのかと思わなかったのだ。 

 

「あと、お主もそこまで余裕ぶっている暇はないぞ?」

「へっ?」

 

 守人がニヤリと笑う。

 

「御堂を狙っているのはお主に、魔術師の娘、元奥方、あとは扶桑国(うち)の巫女らに<帝国>の騎士団か? いやはいや、御堂はモテモテじゃなぁ」

「……ちょっと、私やレレイ、リサ以外にもどうして出てくるのよぉ」

「なんじゃ、これも気付いていないのか?」

「(……そう言えば、ヨウジィは騎士団や巫女たちと妙に親しげに会話をしていたような……)」

 

「いやしかし」「だけど」と、ロゥリィは悶々とした表情で頭を抱え始めた。

 嘘は言っていない。

 何人かは本当に伊丹を狙っているかもしれないが、実際には梨紗が選び、伊丹が運んでいるBL同人誌が目的な者が殆どではあるが。

 まあ、扶桑国でも腐敗する女性方が増えたお陰で、一部男性から衆道についてとやかく言われることも少なくなったとか、なんとか。

 

「ロゥリィ」止めを刺すべく、守人は言った。

「それでもなお、お主は御堂を捕まえられる余裕があると思っているのか?」

 

 ――なんなら、儂が貰っていくぞ?

 

 瞬間、ロゥリィは脱兎の如く走り出した。

 その様子を見て小さく笑いながら、守人は御札を剥がしていく。 

  

「くかか、こんだけ煽っておけば、ロゥリィも本気になるかの?」

 

 亜神となり直ぐに「死神」と呼ばれるようになったロゥリィは、意外にも乙女なのだ。雰囲気を大事にし、相手が積極的に動いてくれる事を望む。だから最初までは自分から積極的に誘うが、後は受け身になってしまう。

 それ以上自分から積極的に言って、もし嫌われたらどうしよう、とかそんな風に考えているのだろう。エムロイ信者であっても近付けば恐れられ、敬遠されてしまいがちであるから、その所為なのかもしれない。

 

「お節介ではあるが、愛の神になりたいのなら、一度は本気で恋をしてみるのが良いぞ」

 

 守人は酷く楽し気な表情で「ゴンドラの唄」を口ずさみながらワゴンを押していき、洗い物を始めた。

 

 遠くの病室から、情けない男の悲鳴が聞こえた、ような気がする。

 


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